泥濘の日常は燃え尽きた。
魔術師による生存競争。
運命の車輪は回る。
最も弱きものよ、剣を鍛えよ。
その命が育んだ、己の価値を示すために。
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ん…………ここは、どこだろう。感覚的にベッドの上に寝ていたようだ。そして清潔感のある白い天井が目に入る。ここは多分保健室だ。でもどうして…………そうだ! あのドールや私を守ってくれた青年は、居ない? 夢だった?
そんなはずはない。あんな強烈な印象を与えてくる夢があるものか。それにこの保健室にも何か違和感を感じるような
「目が覚めたか眠り姫。可愛い寝顔ご馳走さま」
ベッドの横に突如として現れた透き通った青い長髪の青年。やはり夢ではなかったんだ。でも彼は一体何者なのだろう。
「まだ寝起きでボーッとしているのか? 聖杯戦争も始まっちまったからシャキッとしてくれよ。そうだ、ちょうどいいし寝起きクイズ。聖杯戦争ってなーんだ?」
「?」
聖杯戦争? 彼が現れる前の探索でも聞いたけれど、どういう意味なのだろう?
「知らねぇのか。まあ呼び出されるまで知識がなかったオレが文句を言える事でもねぇな。そんじゃお勉強の時間だ。聖杯についての説明はいるか?」
「大丈夫」
それは流石に知っている。アーサー王伝説などの西欧の物語に登場する奇跡を起こすものだったはず。
「知っているなら結構。ここで言う聖杯は願いを叶えてくれる万能の願望機だ。そしてそれを求めて戦うルールある殺し合いが聖杯戦争だな。そこに参加する権利を持つのはマスターのような魔術師(ウィザード)だ」
私が魔術師(ウィザード)…………そういうものになった覚えはないけれど、ここではそういう認識をされているようだ。しかし殺し合いなんて…………
「戸惑う気持ちは分かるけど、一度参加しちまった以上途中下車は不可能だ。トーナメント形式で最後まで生き残れば勝ち。負けるか、令呪を全部無くせば死。それが聖杯戦争だ」
思わず左手の甲に浮かんだ紋章に目を向ける。これが無くなったら敗北。死んでしまう。実感は湧かないけれど、理解はした。自分の意思とは関係なくこの聖杯戦争とやらに参加してしまったという事に。
「次はそうだな…………魔術師(ウィザード)のパートナーとなるサーヴァントについての説明はいるか?」
「お願い」
「了解した。サーヴァントはマスターに勝利をもたらすために呼び出された兵みたいなもんだ。ただとんでもねぇのが全員生前何らかの偉業を成し遂げた英霊って事だな。まさに伝説の再現がサーヴァントだ」
「凄いんだね」
「ああ、すげぇよ。まあ反英霊って極悪人みたいのも居るみたいだけど。聖杯戦争において呼び出されたサーヴァントは7つのクラスってもんに分けられる。セイバー。ランサー。アーチャー。ライダー。キャスター。アサシン。バーサーカーだ。名前だけでもクラスがどんなもんか理解してもらえると思う」
確かに分かりやすい。ここで疑問が生まれた。彼は一体どんなクラスでどんな英雄なのか。これから共に戦っていくのだから知っておいて損はないはず。
「オレか。オレはちょっとイレギュラーで7つのクラスに収まっていないんだ。ノービス。それがオレのクラスだ。それと真名は知らなくてもいいよ。どうせ知っても文献も何もありゃしないんだから。オレの事はノービスと呼んでくれ」
ノービス? 初心者のサーヴァント? 他のクラスと違い、全く想像がつかない。何が出来るサーヴァントなのだろう。
「うーん、他のクラスと比べたら全てが劣るサーヴァントだな。利点があるとすれば何でも出来るってとこか。全てのクラスのクラススキルも最低限保持しているけど、あっても意味がないくらい最低限だ。ステータスも最低限だ」
…………なんだかとても前途多難な気がしてならない。とにかく目覚めたのだから行動を始めよう。
「オレはちょっと隠れておくな。っとと、その前にマスターの名前を教えてくれ」
「あ、うん。岸波白野だよ」
「サンキュー」
ノービスの姿が消えた。近くにしっかりと気配は感じる。これなら姿が見られず正体がバレるなんて事もなさそうだ。ただマスターである私も知らされていない正体が分かる人なんて居るのだろうか。
「起きたのですね岸波さん」
保健室に入ってきたのは足元まで届きそうな長い髪が特徴的な保険医の間桐桜だ。
「もう体の方は大丈夫ですから保健室を出てもいいですよ。それと予選でお預かりした記憶(メモリー)もお返ししましたから不備がないか確認して下さいね」
記憶? そういえば名前ははっきりと思い出せるというのに恐らく聖杯戦争予選である学園生活以前の記憶が思い出せない!
「記憶に不備があるのですか? それは私には何とも。私は運営用にに作られたAIですので」
不備がないか確認しろと言ったのは彼女なのに。どうも彼女は与えられた役割をこなすことしか出来ないらしい。
「それではこれを渡しておきますね」
何かの携帯端末を手渡された。連絡するための物のようだが、他の使い方もあるのかもしれない。後でよく調べてみよう。
「本選参加者は表示されるメッセージに注意するように、との事です。では頑張って下さいね」
それだけ言うと彼女は椅子に座ってしまった。どうしよう。一先ず行動、いや携帯端末を調べてからにしよう。あっ、自分のサーヴァントについての情報を見る事が出来るようだ。
クラス:ノービス
マスター:岸波白野
真名:-----
宝具:-----
キーワード:オリジン
筋力:D
耐久:E-
敏捷:E-
魔力:E-
幸運:E-
マルチスキル:E
ビギナーズラック:B
うん、低い。そして何故筋力だけDなのか。まだ開示されていない部分も多いけれど、色々と詳細も見れるみたいだし、少し見ておこう。
オリジン:E
地球とは違った科学の力で作られた武装。サーヴァントとして召喚された事により最低限の神秘を帯びた。
マルチスキル:E
各クラスのクラススキルである対魔力、単独行動、騎乗、陣地形成、道具作成、気配遮断、狂化を併せ持つスキル。しかしランクはEのため、持っているだけと言っても過言ではない。
ビギナーズラック:B
初めて行う事に対して幸運ブーストが掛かるスキル。Bランクならば幸運が3ランク上昇する。
まだ何とも言い難い。ビギナーズラックは強力そうだけど、使いどころを選べない。それよりオリジンの説明が気になった。地球とは違った科学。ノービスの真名を知るために重要なヒントになりそうだ。
これからどうしようか。携帯端末に指示があるまでは学園内の探索かな。予選とは何か違いがあるのかもしれない。
主人公のクラスは完全オリジナルクラスのノービスでした。全てのクラススキルを備えながらもどのクラスにも劣る低スペック。
初心者マスターと初心者サーヴァントは聖杯戦争を勝ち抜けるのでしょうか。
ちなみに筋力だけ高かったのは遺伝です。