チートじゃ済まないin月世界   作:雨期

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EXTRAの序盤の説明の多さは半端ねぇ。でもFate知らない人のために頑張る。


1回戦 その2

 保健室で目覚めた後、様々な事を知った。聖杯戦争の事。サーヴァントの事。そして何より自分の記憶が思い出せない事。どうしていいのかも分からないため、まずは学園内の探索を行った。

 ここで分かったのは生徒の大半は聖杯戦争参加者。黒い服を着た生徒会役員はAI。稀に売店では聖杯戦争で役立つアイテムを買える。意外と充実した食堂がある。というところだ。何故食堂が上げられたかと言うとノービスが

 

「キツい戦場では何であれリラックス出来るものがあるといい」

 

 と言ったので食堂を心の拠り所にしておこうと思ったのだ。あと調べていないのは屋上だ。生徒会長の柳洞一成にも景色がいいから一度は行くべきと勧められたので早速行ってみよう。

 

『マスター、先客が居るみたいだ。あんまりはしゃがないようにな』

 

 私はそんな子供ではない。生憎と浮かれた気持ちを持つ余裕はないのだ。

 おや、ノービスの言った先客というのはあそこの壁や床をぺたぺた触っている美少女の事だろうか。彼女は…………直接面識はないが、遠坂凛だろう。

 容姿端麗、成績優秀な月海原学園のアイドル。噂はよく耳に入ってきたし、何よりシンジの愚痴を吹き込まれたので忘れようがない。ただそれは予選の話。今はとてもアイドルとは思えない戦いの空気を纏っている。

 

「おおまかな作りは予選と大して変わらずか。まあ戦場はここではないから当然よね。あら? ちょっとそこの貴女」

 

 彼女と目があった瞬間、彼女の空気が一気に和らいだ。

 

「そうそう、貴女よ。キャラのチェックはまだだったわね。ちょっと動かないでね」

 

 近付いてきた彼女の指先が頬に触れる。えっ、何故? いくら女性同士とはいえ、これだけ顔が近いと恥ずかしいのだけれど。

 

「ふーん、暖かいんだ。生意気にも。っておかしいわね。顔が赤くなったように見えたけど…………」

 

 彼女の顔が更に近くなり、頬だけでなく身体中を無遠慮に触られてしまう。あっ、そんなところまで。

 

『プークスクス、キマシタワー』

 

 ノービス、笑ってないで助けてよ~。

 

「成る程ね。思ったより作りがいいじゃない。見かけだけでなく感触もしっかりしているなんて、人間以上と褒めるべきかしら。ん? ちょっと何笑っているのよ。NPCだってデータを調べておいた方が、今後の役に…………」

 

 今度は何も居ない方を向いて文句を言い始めた。行動だけ見ると奇人だが、恐らくそこには彼女のサーヴァントが居るのだろう。そして私のノービスのように笑っていたと。

 

「…………えっ、彼女もマスター? う、嘘…………マスターならもっと…………じゃ、じゃあ今まで調査でベタベタ触っていた私って!!?」

 

『どう見ても痴女です。ご馳走様』

 

 先程までの行動を思い出したのか彼女の顔が真っ赤に染まる。私も改めて赤くなってしまう。そしてノービスは黙って。

 

「は、恥ずかしい…………うるさい! 私だってミスくらいするわよ! だから痴女って言うな!!」

 

 ああ、あちらのサーヴァントにも痴女と言われてしまったのか。でも確かに今までの行動は十分に痴女だ。

 

「大体この子だって紛らわしいのよ! マスターのくせに一般生徒(モブ)みたいな影の薄さしてるんじゃないわよ!! まさかまだ予選の学生気分で記憶が戻っていないんじゃないでしょうね?」

 

 これは困った。彼女は冗談半分のつもりで言ったんだろうが、紛れもない事実なのだから。

 

『真実を伝えちまいな。こっちは彼女が痴女っていう取引カードがあるんだ。優秀な魔術師みたいだから相談に乗ってくれるかもしれないぞ』

 

 ここはノービスの提案に賛成しておこう。私だけではこの問題の解決は難しい。そういう事で記憶が戻っていない事を彼女に伝えてみた。

 

「嘘、それ本当に言っているの? それかなりマズイわよ。記憶に不備があるという事は今までの戦闘経験が持ち越せないという事なんだから…………あ、でも聖杯戦争の勝者は1人だしライバルが減ったと考えれば私の得ね」

 

 随分とドライな考えで文句の1つでも言いたくなったが、彼女にとっては私も聖杯を奪い合う敵なのだ。何も言えない。

 

『遠回しに勝てないって言われちまったぞ。どうする?』

 

 どうするも何も。その事実は私が一番感じているのだ。

 

「…………でもご愁傷様とだけ言っておくわ。こればっかりは貴女ではなくセラフの問題だし。どこかでロストしたにしても、リロード不明になったとしても、後で調べてみるのをオススメするわ。ただ貴女ふわふわし過ぎなのよ。記憶があるにせよ無いにせよ気分を改めなさい。そんな状態で勝てるほど甘い戦いじゃないわよ」

 

「…………ありがとう」

 

「ハァッ!? べ、別に礼を言われるような事なんてしてないわよ! まだ調査したいんだからさっさと記憶でも探しに行きなさい!!」

 

 彼女はいい人だ。こんな私に忠告をしてくれた。些細な事かもしれないけれど、本当に有り難い。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 日が傾いて教室の外がオレンジそ染まる。そんな中、参加者がそわそわしている。話を聞いてみると対戦相手が決まったとか。そんな情報私には届いていない。他の参加者に相談してみたところ、言峰神父というNPCならば何か分かるかもしれないという事で探してみる事にした。

 しかし学園内を捜してみてもなかなか見当たらない。屋上に向かってみるとまだ遠坂凛が居た。

 

「あら、記憶喪失マスターさん。何か用かしら? 今は戦争中よ。あまり私と馴れ合ってほしくはないのだけど、まあ記憶がないのだから情報が欲しくて当然よね」

 

 そういうつもりで来たわけではないのだけれど、でも上手く交渉すれば何か教えてもらえそうだ。

 

「何よ。セラフにだって情報検索機能はあるんだから自分で…………」

 

「昼」

 

「…………」

 

「痴女」

 

「あー!! 分かったわよ!! 基本的な知識だけは教えるからそれ以上言うなー!!!」

 

 よし! 成功した!

 

『なかなかイヤらしいじゃないかマスター』

 

「それで何から知りたいのよ」

 

「さっきから何度も話に出たセラフって何?」

 

「そっか、そこからよね。霊子虚構世界(セラフ)は今私達が居るこの仮想世界の事よ。電脳世界とも言うわね。ただその性能はそこらのスパコンなんかとは比較にならないわ。1体でも再現不可能に近い英霊を100以上再現しているのだから。この学園やNPCの出来を見れば分かるわよね」

 

 彼女の言う通りだ。言われなければ、いや言われてもここが仮想世界とは思わない。それほどまでにここはリアリティある世界なのだ。

 

「それ故にここにアクセス出来るのは私達のような魂を霊子(データ)化して送り込めるウィザード級のハッカーのみなのよ」

 

 ウィザードは魔術師って意味だけじゃなくてハッカーのレベルも表していたんだ。

 

「次は何が知りたい?」

 

 折角言葉が出てきたのだからウィザードについて質問してみよう。

 

「ウィザードね。ここが仮想世界である以上私達に実体がないのは理解出来るでしょう。通常のハッカーは仮想世界に侵入する時には、プログラムを組んで間接介入をする。でも私達霊子ハッカーは違う。魂をプログラム化して仮想世界への直接介入が可能なの。あらゆる情報をダイレクトに出力可能だから、通常のハッカーとは比べ物にならない能力を持つわ」

 

 それは凄い。そこまでする事が出来るなんて凛は若くして努力を積み重ねたのだろう。

 

「そうね、確かに努力はしたけれど、これには生まれつきの才能が必要よ。生まれつき体に回路(サーキット)を持つ者がウィザードになれるの」

 

『オレの居たところでも魂をデータにする奴は居なかったな。感心するぜ』

 

 はっきり言って私も同じウィザードなのが信じられない。でもここに居るんだからウィザード以外は有り得ないのだけれど。次は…………凛について聞いてみようかな。

 

「私? ああ、もし私に当たった時に対策でも考えるつもりかしら。記憶がないのにそこら辺はしっかり考えているのね。でもそもそも貴女が次の相手に勝てるとは思わないわ。覚悟のない人間が勝てるような戦いじゃないもの。説明はこのくらいでいいわね。もう私にあれこれ聞きに来ないでよ。こんな所に来る暇があるなら残された時間を大切にしなさい

 

 そう言った彼女はもう関係ないと言わんばかりに背中を向けて外を眺め始めた。これ以上話しても何も教えてはもらえないだろう。大人しく退散しよう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 学園内を歩いていると見慣れない人物が居た。黒い神父服のガタイの良い男性。多分あの人が言峰神父だ。なんだか近寄りがたい雰囲気がする。

 

「あの、言峰神父ですか?」

 

「如何にも。私が監督役として機能しているNPCの言峰だ。君は予選を勝ち抜いたマスターだな。今日より君達魔術師はこの先にあるアリーナという戦場で戦う事を宿命付けられた。この戦いはトーナメント形式で1回戦から7回戦まで勝ち進み、勝ち残った者にのみ聖杯が与えられる」

 

 7回戦までという事は、128人ものマスターが殺し合わなくてはいけないという事になるの。

 

「その通り。どんな愚鈍な頭でも理解可能な実にシンプルなシステムだろう。戦いは1回戦毎に7日間で行われる。そのうち1日目から6日目までは戦いの準備をする猶予期間(モラトリアム)となる。そして7日目に相手マスターとの決戦が行われるという具合だ」

 

 聞いてはいない上にトゲのある言葉遣いだったけど、戦いまでの仕組み。そしてこの人が何となく苦手だというのはよく分かった。それよりも対戦相手が決まっていない事について聞かないと。

 

「何? 対戦相手が決まっていないだと? 少々待ちたまえ……………………妙な話だが、システムにエラーがあったようだ。君の対戦相手は明日までに手配しよう。ああ、伝え忘れていたが、本選へ進んだマスターには個室が与えられる。2-Bの教室がその入り口となっているのでこの認証コードを携帯端末に入力(インストール)してかざしてみるといい」

 

 128人ものマスターが居るのに見かけたのはそこまで多くないと思ったら、個室なんてあったんだ。作戦会議なんかはそこでするようにと運営側の配慮だろう。

 

「アリーナへの扉は開いておいた。空気に慣れるぐらいはしておきたまえ」

 

「あっ! 岸波さーん!! ちょっと先生のお願いを聞いてくれるかな?」

 

 突然割り込んできたのは予選では私の担任だった藤村大河だ。彼女もNPCみたいだ。

 

「いいですよ」

 

「ありがとー。実は先生愛用の竹刀が無くなっちゃったのよ。多分用具室からアリーナに紛れ込んじゃったと思うの。見つけたら1回戦の間に持ってきてね」

 

 言峰神父もアリーナを開放したと言ったし、少し顔を出してみてもいいな。時間もあるし個室に行ってからアリーナにも行ってみよう。

 

 個室はあの教室かな。認証コードを入力(インストール)した携帯端末を当てて、これで個室になったはず。

 

「うお、個室じゃなくて教室じゃねぇか。色々とアレンジ出来そうだな」

 

「自由にしていいよ」

 

「そりゃありがてぇ。ああ、どうせだ、今伝えておこう。どうもアリーナに入ると1日が終わっちまうみたいだ。その日やり終えた事がないか確認してから行こうな」

 

 それなら大丈夫だ。少なくとも今日はやり損ねた事なんて何もない。ここで休んだらアリーナへ出発だ。




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