シンジを追ってアリーナに入るとノービスの足が止まった。何かを警戒しているのが伝わってくる。
「罠は無しか。あのワカメ君、このアリーナに居るみたいだが別にオレ達を警戒している様子はないな。やれやれ、これまでの挑発は素だったのか。警戒したオレが馬鹿みてぇ」
警戒していたノービスには悪いけど、シンジに限ってそれは無いと思う。彼は常に自信過剰だ。私みたいな格下の凡才に罠を仕掛けるなんて彼のプライドが許さないはずだ。やるなら罠なんて使わずに真正面から来る気がする。
「成る程な、気にする必要はないと。さてトリガーはどこかな。ついでにワカメ君のサーヴァントの情報も手に入るといいな」
まるで安心したような事を言ったけれど、先行していくノービスは明らかに周囲を警戒している。シンジが居るという事は彼のサーヴァントも当然このアリーナに居る。ノービスが今警戒しているのはそちらだろう。まだサーヴァント同士の戦いを見た事のない私でも今は争いは避けるべきなのは理解出来る。
「また肩慣らしにエネミーを潰しておくか?」
「そうだね」
昨日も何度も倒したエネミーを蹴散らしていく。昨日とは違い、無傷で全てのエネミーを倒しきった。少しは成長したのかな。昨日探索したエリアは見て回ったけど、トリガーはなかった。トリガーを求めて先に進んでいこう。
「やっと来たのかい岸波」
「シンジ…………!」
待ち伏せしているとは予想外だった。色々と思うところはあるが、それよりも彼の隣に立つ女性に意識がいってしまう。間違いなくサーヴァントだ。顔に斜めに入った大きな傷痕。赤い長髪。胸元の開いた赤いコート。女性らしさよりも男性のような強さを感じる。
「僕はもうトリガーを手にいれちゃったけどさ、岸波はどうなの? まあ無理だろうね。お前どんくさいし。あはははっ、そんな顔するなよ。才能の差ってやつだからね。気にしなくてもいいよ。ついでだからここで倒してあげるよ。トリガーが手に入らないなら、ゲームオーバーになるのも同じだろ?」
「うん、お喋りはもうおしまいかい? 勿体ないねぇ、なかなか聞き応えがあったのに。お嬢ちゃん、うちのマスターは人間付き合いがヘタクソなのは知っているだろ? お嬢ちゃんとな珍しく意気投合しているんで、平和的解決も有りかと思ってたんだがねぇ
「な、何勝手な事言ってるんだよお前! こいつとはただのライバル! いいからさっさと痛め付けちゃってよ!!」
「おやおや、素直じゃないねぇ。だがまあ、自称親友を叩きのめす性根の悪さはアタシ好みだ。いい悪党っぷりだよシンジ。報酬をたっぷり用意しときな!」
シンジのサーヴァントがこちらへ攻めようとした瞬間に辺りにけたたましい警報音が鳴り響く。これは?
「流石セラフ。不適切な決闘は認めませんだってよ。カッコいいお姉さん。ここは退きませんか? そのあとデートでも」
「カッコいいお姉さんたぁ、嬉しい事言ってくれるじゃないの優男。だけどここは手早く終わらせてもらうよ」
「参ったねこりゃ。マスター、時間を稼ぐぞ。そうすりゃセラフがここに介入して戦闘は強制終了させられる。守りを固めるだけだ。やれるな?」
それならいける気がする。まだシンジに勝てる気がしないけど、負けるつもりはない。
「いくよ!!」
シンジのサーヴァントは両手にクラシックな拳銃を持ちノービスの懐に飛び込んでくる。対してノービスはオリジンを盾にして攻撃に備えたけれど、盾は容易く撃ち砕かれた。
「あっぶね!?」
「時間稼ぎをするのは目に見えてるからね。最初から守りを崩す攻撃を叩き込むだけさ。とはいえ優男、よく避けたね」
「そっちがそう考えるように、こっちだって守りが崩された時の事くらい考えるさ」
「はははっ! そりゃそうだ!」
サーヴァント達は実に楽しげだが、私はハラハラものだ。心臓が飛び出してしまいそうなくらい緊張している。
銃弾が飛び交い、無数の武具がそれを凌ぐ。だけどもステータスが下がり、未熟な指示しか出せないマスターを持つノービスがいつまでも耐えられるわけではない。
「ぶちまけな!!」
ノービスの胸へと数発の銃弾が叩き込まれた。シンジのサーヴァントは更なる追撃として体勢の崩れたノービスの脇腹を、腰から抜いた曲刀で切り裂いた。曲刀は体の半分ほどまで入っている。
「やった! 勝ったぞ!!」
シンジが無邪気に喜んでいる姿が見える。この光景を見ればそうなるのも当然だ。私だって敗北を確信している。やはり私ではこの聖杯戦争を勝ち抜くなんて
「弱気になるなマスター。オレが勝たせてやる」
「! あんたまだ…………!?」
「どうしたお姉さん。剣が抜けないのか? 抜かせてやるよぉ!!!」
ノービスの拳がシンジのサーヴァントの顔面を捉えて吹き飛ばした。信じられない。あんな重傷を負ってなおここまで動けるなんて。サーヴァントを甘く見すぎていた
「くっ、やってくれるじゃないか。しかし一度は口説いた女の顔面を殴るなんてねぇ」
「オレのおじさんが言ってたんだ。『1分前に親友だった奴でも立ち塞がれば敵。んなド腐れは潰せ』ってな」
「…………はっ、ははははっ! なかなか面白いじゃないか!」
「オレはあんまり好きじゃないんだけどな」
どんなおじさんなんだろう。ってボーッとしている場合じゃない! いくら余裕そうに振る舞っていてもあんな傷を負って無事なわけがない。今出来る事は少ないけれど、このエーテルの粉末を渡すだけでも一時しのぎくらいにはなるはず。
「おっ、気が利くなマスター。さぁてお姉さん、戦いを続けるかい?」
「当然じゃないか。1回戦がこれだけ骨のある相手でアタシは嬉しいよ!」
「それはどうも。でも時間みたいだ」
突然見えない力によってノービスとシンジのサーヴァントの距離は離された。セラフが介入して戦闘の強制終了が行われたんだ。
「チッ、もうセラフが動いたか。まあいいさ、とどめを刺すまでもないからね。そうやってゴミのように這いつくばっていればいいさ! 泣いて頼めば、子分にしてやってもいいぜ? このゲームの賞金だって少しは恵んでやるよ! あははははははっ!!」
言うだけ言ってシンジとそのサーヴァントは姿を消した。転移したみたいだ。疲れた……けどまずはノービスの具合を確かめないと。
「なんだマスター、オレを心配してくれてんのか? 安心しろ。オレは生まれつき傷の治りが早くてな。ほれ、さっきの切り傷だってくっついてるぞ。まだ激しく動くと傷が開くけどな」
切り傷なんて生易しいものじゃなかったと思うけど、どんな回復力をしているんだろう。
「しかしいい収穫だったな。あのサーヴァントの武器が銃とカトラスって分かったのは、クラスを判断する材料になる。ぶっちゃけカトラスは力で振り回していた感じもするし、特別な力も感じなかった。使い方もサブウエポンぽかったから、剣がメインのセイバーは無さそうだな。どっちかっていうとメインは銃だったからアーチャーかもな。さて、探索を続行するか?」
ううん、今日は止めておこう。トリガーだって今日中に手に入れなきゃいけないわけでもないし、下手に動き回ってノービスの傷が開いたりしたら大変だ。大人しく帰って傷を癒そう。
「了解。その気遣いに感謝するぜ」
どうでもいい話。
要のステータスは聖杯戦争風に表すと
筋力:-
耐久:-
敏捷:EX
魔力:A++
幸運:C
宝具:EX
筋力と耐久の『-』はオーバーフローにより表示不可という意味。