無事(?)トリガーも入手出来た翌日、アリーナの第二階層が開放されたと携帯端末に連絡が入った。開放されたばかりのためか、まだ第二(セカンダリ)暗号鍵(トリガー)に関して報告はない。今日は第二階層のマッピングをメインに行動しよう。
「昨日は身内が迷惑掛けて悪かったな、マスター」
気にしなくていいよ。驚かされたけど、ノービスの事を知れたのは良かった。あっ、ノービスよりミコトの方がいいかな?
「そう呼びたいならマイルームだけで頼むぜ。オレの伝承が無いとはいえ、真名をペラペラ話すもんでもないからな」
そこは弁えている。外で何かあってもクラス名で呼べば済んでしまうのだから、真名を呼ぶ機会なんてないだろう。それを言ってしまうとマイルームでも真名を呼ぶ必要はないのだけれど、なるべく親しくなっておきたいから真名で呼ぼうかな。
それと昨日のノービスのおじさんとの会話やこれまでのノービスの発言で思ったのだけれど、ノービスって正規の英霊ではないよね? というより、死んでないんじゃない?
「大正解。それもあって存在としては英霊よりもマスターに近いな。だから他のサーヴァントに遅れをとるほど弱かねぇ。マスターだって理解しているはずだ」
そういう事ではなくて、英霊でないのならこの戦争で命を落とすかもしれない。迎えに来てくれる家族がいるというのにこんな場所に居てもいいのか。
「負けなきゃいい。簡単な話だ。今日の探索を始めっぞ」
それってこの聖杯戦争においては一番難しい事なんだけど…………
マイルームから移動して歩き回っていると、他のマスターとは違う強烈な存在感を感じる少年が居た。私達とは違う赤い制服を着た金髪の少年。予選でも印象深かった彼は、レオ、レオ…………レオだ!
『名前覚えてないのかよ』
「長いんだもん」
「おや貴女も本選に進出できたのですね。おめでとうございます」
シンジのような嫌みの無い素直な賛美だ。予選から彼はこんな性格だった気がする。しかし彼の後ろに立つ男性は? 白銀の鎧に帯刀をしたその姿はまさに騎士。余程ひねくれていない限りセイバーのサーヴァントに違いない。
「ん? ああガウェインが気になりますか? 僕とした事が失念していました。ガウェイン、挨拶を」
「分かりました我が王よ。初めまして、従者のガウェインと申します。以後お見知りおきを。貴女が我が王の良き好敵手であらん事を」
サーヴァントに自己紹介をさせる!? しかもガウェインと言えばあの円卓の騎士で有名な英雄だ。慢心などではない。これは自信だ。全てをさらけ出した上でも勝利が出来るという自信。ガウェインほどの英霊が王と呼ぶだけある。
「それでは僕はここで。また会える事を願っています。健闘を祈ります」
レオが立ち去った後に凛がやってきた。しかし私に気が付いている様子はない。
「あれがレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ…………まさかハーウェイの御曹司がでしゃばってくるなんて。西欧財閥が聖杯を警戒視していたって話は本当だったのね。難敵にもほどがあるわよ」
結局私に気が付く事もなく凛も立ち去ってしまった。他のマスターの間でも噂になっているほどの実力者である凛がこれほどまでに警戒するなんて、レオの力はどれほどなのだろう。
『今は目の前の敵に集中しろ。まあガウェインについて調べるくれぇなら問題ねぇけど、あの坊っちゃんに意識が行きすぎてワカメ君対策を怠るなよ』
うん、私はレオのような実力者じゃないからね。今出来る事を精一杯やるだけだ。その出来る事の一環としてガウェインについて図書館で調べてみよう。
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図書館に入ると、私と同じように調べものに来ていたと思われるシンジと目があった。
「あれ? こんなところで会うなんて奇遇だね。なんてね。嘘に決まっているだろ。情報収集といえば図書館で決まりだよ。僕も君の情報は集めているから、せいぜい注意する事だね」
いや、英霊にすらなっていない人間の情報を集めるのは流石に不可能だと思う。シンジなりの強がりと見ていいだろう。
「ところで、こんな場所に居ても情報は見付からないよ。あの海賊女に関する本は既に隠蔽済みさ! 少しでも君がゲームを楽しめるようにアリーナに隠しておいてあげたよ。最弱のマスターの君に見つけられるかな?」
シンジは本当に聖杯戦争をゲームとして楽しみたいみたいだ。そうでなくては隠し場所をわざわざ言う必要がない。
「せいぜい足掻くといいさ。あはははははっ! じゃあ頑張ってくれよ。次にアリーナに会った時に一太刀くらい浴びせてくれないと、僕も退屈だからね」
いつも思うけど、よくこれだけ挑発出来るものだ。感心してしまう。ある種の才能と言っても過言ではない。それよりガウェインの情報を調べないと。シンジのサーヴァントの情報がないならそれだけに集中出来る。
「あった」
有名な話の登場人物だけあり、本もすぐに見つかった。読んでみるとしよう。
ーーガウェインについて
「アーサー王伝説」に登場する円卓の騎士の1人。アーサー王の甥でもある。
アーサー王の片腕と称されたランスロット郷に並ぶ騎士だったが、兄弟をランスロットに殺された事がどうしても忘れられず、彼とは相容れなかった。
高潔な人格、理想の若武者であったが故に、肉親への情も人一倍だったのだろう。
しかし、その怨恨がガウェイン郷の騎士としての格を落とすばかりか、最後には王の没落にまで繋がってしまう。
ガウェイン郷は、アーサー王最後の戦いであるカムランの丘にて、ランスロット郷に受けた古傷を打たれ死亡したとされる。
ーー
この古傷が弱点なのかな。でもジークフリートの弱点のように体のどの部位と明記されていないからもっと詳しく調べる必要がありそうだ。でも今回はこれくらいでいいかな。
「ミス・岸波、調べものですか?」
「あっ、ラニさん。そんなところかな」
ここに来る理由なんて、シンジみたいな資料を隠そうとしない限りはみんな調べものだ。ラニさんもそうだろう。
「いえ私は占星術の本を読みに来たのです。ここにはそういった趣味の本などもありますので。そういえば教会でサーヴァントの強化が行える話は知っていますか?」
そんな話は初耳だ。サーヴァントの強化なんて簡単に出来るものなのだろうか。
「通常は不可能です。しかしながら実際にあるそうなのです。非公式なものらしく、私はやっていません。ただ知っておいて損はないかと」
「ありがとう。覗いてみるよ」
どういうところか確認しておくくらいはしておいてもいいだろう。ノービスの力を取り戻す切欠になったらそれはそれでラッキーだ。今から行ってみよう。
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重い扉を押し開き、教会に入る。とても静かで、まるでここだけ違う世界のようだ。一番奥には赤い髪の女性と青い髪の女性が座っている。彼女らはこちらを見て手招きをした。
「やっと来たのね。ようこそ教会へ」
「待っていたぞ、ミコト君とそのマスター。ここは楽園(エデン)の死角(ひがし)。ゆったりしていくといい」
……………………なんでノービスの真名を知っているの!? しかも待っていたって、この人達は何者?
「あっと、自己紹介をしないとね。私は蒼崎青子。こっちは姉貴の」
「橙子だ。我々が知っているのはミコト君だけで、マスターである君に関しては……………………ん、どこかで見たような…………思い出せん。私が物忘れとは珍しい」
「失礼。もしかして貴女達はオレの家族の知り合いですか?」
「ええ。要のおっちゃんには世話になったわ」
「…………交友関係広すぎだろおじいちゃん」
「今回は光君の依頼だがね。色々と言っていたが、要約すると君達の手助けをしてほしいとの事だ。では魂の改竄(かいざん)を行おうか。そのために来たのだろう?」
魂の改竄? 聞き慣れない言葉だ。ラニさんの言葉を信じるならそれがサーヴァントの強化なのだろうけど。
私が何とも煮え切らない表情をしていたら、分かっていない事を察してくれたのか橙子さんが説明を始めてくれた。
「いいか、魂の改竄とはマスターとサーヴァントの魂を連結(リンク)させ、サーヴァントの霊格、ミコト君の場合はムーンセルに規制された力を取り戻す事だ。この連結(リンク)が強ければ強いほど、サーヴァントも強くなる。ただしある程度経験を積んだマスターでなくては連結(リンク)は強くならないぞ。要するにマスターの成長がそのままサーヴァントの強さに反映されるという事だ」
「大体姉貴の言った通りね。ちなみにやるのは私よ。無茶な依頼はやめてね」
「なんか橙子さんの方が得意そうですよね」
「見る目があるじゃないかミコト君。君の言う通り私ならそこの破壊馬鹿の10倍は効率よく出来る」
「ぐぬぬ…………減らず口を」
「事実だ。違うというのなら腕で証明してみせるのだな」
でもそれだけ腕があるのなら橙子さんがやるべきではないのか。
「生憎こっちはこっちでやるべき事があってね。マスター達の世話をしている余裕はない。妹が迷惑を掛けないよう最低限監督係をやるのが限界だ」
マスターでもないのにやる事があるんだ。気になるけど追求する必要性は私達にはない。とりあえず魂の改竄をお願いしてみよう。
「はいはーい。じゃあミコト君は台座の上に立ってね」
ノービスが台座の上に立つと青子さんが何か操作をし始めた。するとノービスの体が浮き上がり、青い半透明の球体に包まれた。えっ、強化方針? 私が選べるの? えーとえーと…………お任せで。
「しっかりしてくれよマスター」
「こっちは楽で助かるわ。どれどれ…………うわぁ、酷いステータス。ちょちょいのちょい、っと」
「おっ、おぉっ! おおぉっ!!! こりゃいいぜ!!」
「はいおしまい。やっぱりおっちゃんの血を引いてるだけあって筋力と耐久がよく伸びるわ」
「ありがとう青子さん。スキルもいくつか戻ったし、早くアリーナで試そうぜ」
どうやら成功したみたいだ。この様子なら今後も利用して問題なさそうだ。ん、携帯端末に連絡が入った。第二(セカンダリ)暗号鍵(トリガー)が生成されたらしい。ちょうどいい。アリーナに向かおう。
教会から出ると何やら騒がしい。どうやらシンジと誰かが言い争っているみたいだ。よくもまあ誰彼構わず喧嘩できるものだ。相手は髭を蓄えた老紳士だ。聞こえてくる会話から察するに教会で女子生徒を連れて騒いでいたシンジがあの老紳士の怒りを買ったらしい。
「教会では静かにするものだ。君の神がどのようなものかは知らんが、神父からそう教わらなかったかね?」
「悪いね! 僕は無神論者なんだよ」
「ふむ、日本人は礼儀正しいと聞いていたが、それも人それぞれか。立ち去れ、小僧。主を信じぬ人間に、父の家の門は開かれん。兵士としての技術を学ぶ前に、礼儀作法からやり直すのだな」
そう言った老紳士は教会に入るためにこちらに歩いてきた。軽く会釈をすると会釈を返してくれた。シンジの方は、既に居ないみたいだ。
『今の老人、戦場の臭いがしたな。戦いを知っている老兵は強いぞ。しかも今回は本人が戦うわけじゃねぇから肉体の衰えも関係ないしな』
なるほど、そう考えると強敵だ。あれ、藤村先生がこっちに来る。
「なんだかこっちで喧嘩があったって聞いたんだけど、岸波さん知らない?」
「もう終わりました。それと、竹刀です」
「見つけてくれたんだ! ありがとー!! ついでに、もう1つお願いを聞いてもらえないかな?」
断る理由がない。受けるとしよう。
「助かるわぁ。先生どうしてもみかんが必要なの。第二階層にあるみたいだからお願いね」
海をイメージしたアリーナに何故みかんがあるのか。そして本当にどうしても必要なのかは考えないでおこう。強くなったノービスの実力の確認、トリガーの捜索、シンジの隠した情報の捜索、今日もやる事が一杯だ。
どうでもいい話
敢えて強化されたミコト君のステータスは次回に回して、今回はオリサバその2を出していきますよ。裏ボス的な何かとして考えていたものです。
クラス:キャスター/バーサーカー
真名:黄衣の王/ハスター
ステータス
筋力:B/EX
耐久:A/EX
敏捷:D/EX
魔力:EX/EX
幸運:A/EX
スキル
陣地作成:A+++
道具作成:B
狂化:A+++
精神汚染:EX・・・同等の精神汚染者としか意思の疎通が出来ず、自身の汚染度以下の精神干渉魔術を無効化する。というのが本来のスキルだが、この精神汚染は見た者の精神に異常を与える。
変化:EX・・・黄衣の王からハスターに変化する。この時バーサーカーにもなる。
眷属召喚:EX・・・ハスターの眷属を無尽蔵に召喚する。
宝具はない。存在が宝具みたいなもの。