元々、空に何かが、それも私たちのように文明が築かれていることを示唆するモノが無かったわけではない。
 空から降ってくるモノというのは、ほぼ全てが人工物だったからだ。
 特に、特定の向きを指し示す矢印。

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空の天井

♦︎♦︎♦︎

 蒼く私たちを照らす空が、奇怪な物体に覆われてしまった日のことだった。

 空から物が降るということ自体は何も珍しくない。だが、今回の場合その物体が物体なのだ。船が降ってくるとは、まさか誰が想像しただろうか。

 私たちは村の住民をかき集め、船の中を捜索することとなった。村はきっとUFOだとか(目撃情報は何回もあるらしい)、天国から落ちてきたなんていう話題で持ちきりだったが、その想像を遥かに上回るほど地味で、そして想像を遥かに上回るほどグロテスクであった。

 船の中にあったのは死体だった。

 それも、腐敗が強く進み、まず誰かを判別するなんてまず不可能だし、ましてや同じ生物とは考えられないほどにボロボロであった。

 宝なんてものは無く、帰ろうとしたときだった。

 

 「こいつ、何か持っていないか?」

 

 一つの屍が、大事そうに、胸中の中に抱え込んでいたモノを見つけた。

 そのモノこそ、『空』に何かがあることを証明する唯一無二の宝。

 

———『到底私たちには理解できない文字』だったのだ。

 

♦︎♦︎♦︎

 元々、空に何かが、それも私たちのように文明が築かれていることを示唆するモノが無かったわけではない。

 空から降ってくるモノというのは、ほぼ全てが人工物だったからだ。

 特に、特定の向きを指し示す矢印。

 こんなものが天然に出来るわけがない。

 

 そして、定期的に空へ私たちのうち誰かが打ち上げられてきた。

 だけれど、帰ってきた奴なんて1人もいない。

 だから、空から何かが落っこちる度に誰が生贄になるかなんていう疑心暗鬼が村の中を蔓延る。

 

 それも、今回の場合急務を要する。

 空に何か知的生物かいることがほぼ確定したのたから。これは、村の存続を脅かす事実であること他ならない。

 あぁ、神様。

 だけど、神様って空にいる人だから会いたくないというのはすごく失礼なことな気がする。

 えっと、じゃあ、とにかく、行きたくない。

 行きたくないけど、行くしかなかった。そういう風に決められてしまったのだから。

 私に残された選択肢なんて、何もない。

 

 「さあ、神はあなたの到着を心待ちにしている。」

 

 私は風船を体に括りつけられ、とうとう地面から足が離れてしまった。

 どんどんと村にいるみんなが小さくなっていく。

 同時に、私は怒りで胃袋がひっくり返りそうになっていた。だけれど、その対象は私を生贄に選んだことではない。

 帰ってくる前提で、私に皆んなは言葉を送るのだ。

 それが、憎くて憎くて仕方ない。

 皆んなは心の底で分かっているだろうに。

 

♦︎♦︎♦︎

 時間が経った。

 でも、何もない。本当に何もない。何もないものがあるのみ。

 とうとう私は自分がどこへ向かっているのかすら分からなくなってしまった。本当に空へ近づいているのだろうか?実は地面に真っ逆さまに落ちていないだろうか。

 平衡感覚が完全に狂ってしまった。

 そして、時間の感覚までもが狂ってしまっていた。

 何もないのだから。

 そのせいか、お腹か空いたという感覚さえ湧いてこない。あ、いや、普通に食欲がないと言えば良いのか。

 

 あまり恐怖は感じなかった。

 だが、時間が経つにつれて私は現実へと引き戻される。目を逸らし続けて気付きもしなかったが、死ぬとはなんだろうか。

 というか、どちらも神のいる領域に向かうという意味ではまず私は死んでいる真っ最中だ。二つの意味で。

 面白い!

 もし死ぬとしたら多分、空腹だと思う。

 やっぱり苦しいのだろうか。

 苦しいだろうな。

 きっと。

 

 だが、そんな恐怖は一瞬で打ち砕かれることとなる。私の心は、新たな恐怖と、好奇心で統治されることとなった。

 空は明るくなり、やがて『天井』へとたどり着いた。

 

 天井はとても綺麗であった。

 鏡でできているのだと思う。

 全てが反射している。

 いや、反射というより同じ世界がもう一つ、そこにあるのかもしれない。

 生贄に捧げられた皆んなはそこで暮らしているのかもしれない。

 

 10m...5m...1m...

 どんどん頭は天井に近づき、当たってしまうだろうと身構えた。

 

 だが、当たることはなかった。

 

 天井から頭を出すと、とてつもなく眩しく目が開けられなかった。

 ちょっとずつ恐ろしく強い光に目が慣れ、次に天井から出している体の一部がとてつもなく熱く火照っていることに気づいた。

 

 天井の境目を行ったり来たりと体を慣らしていると、大きな音が聞こえてきた。

 

 聞こえてきた方向へ体を傾けると、そこにあったのは意思を持った船ではないか!

 

 村のみんなとは対照的にどんどん船は近づいてくる。そして、その上に乗っかっていたのはなんと...絵本で見た『猿』そのものであった!

 

 まさか、実在したなんて。

 同時に混乱が私を襲う。

 あぁ、やめてくれ、私を上側に連れ出そうとしないでくれ!

 空の世界は私には熱すぎる!

 

 そんな叫びは猿たちに理解できるはずもなく、私は熱すぎる手に包まれ...


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