「君、目が合ったね」
気が付くと、白髪の目が赤い男の子が目の前にいる。
「おや、まだのようだ」
何か言っているのはわかるがまだ頭が働かない。
どうやら、私はまだ寝ぼけているらしい。
「もうちょっと時間がかかりそうだね」
どうやら相手は私の反応を待っているようだった。
案外、暇なんだろうか。
他愛ないことを考える元気しか私にはなかった。
「暇なんだろうかって失礼だな。まあ正しいんだけど」
―前言撤回。驚きで思考が呼び戻された。
どうやら彼奴は思考が読めるらしい。
「読めるも何も。君は僕をどこで認識しているか」
うん?うん
つまり、君は私が作り出した幻想だってことか?
「頭の回転はいいみたいだね。まあ違うけど」
どちらにしても異常だ。異様だとも言う。
存在してはいけないものを視認しているらしい。
「ひどいこというな、君は」
「まあ余興はおしまいだ」
「今度こそ、目が合ったね」
詰んでいる。
謎の白い密室。中にいる私と男。
こんなにも異常な状態なのに形容すべき言葉が見当たらない。
こんなにも目が覚めているのに、夢のような風貌。
完全に相手のテリトリー。
そのまま煮るなり焼くなりされるのを待つしかないらしい。
「そんなひどいことはしないんだけどな」
さて、どんな目に合うのか。
惨たらしく惨殺されるのか。
精神を破壊され衰弱死させられるのか。
痛くない死に方がいいのだが、生殺与奪は相手が握っているし、いい死に方はしないだろうな。
「殺さないよ」
さてそれは殺すよりひどい目に合わせるということだろうか。
「正解」
男の赤い目が鋭くなった。
急いであたりを見回す。
なんの手がかりも見つからない。
死ぬことは許容できる。
でもそれは許容できない。
ペットのように、非人間のように扱われるのは許容できない。
私には尊厳がある。プライドがある。
それを失った自分を直視なんてできない。
まだ諦めたくはない――
「逃げられないよ、ここに来たら」
「これは僕の”世界”だ」
いや、違う。思い返せ。
これは、私の夢だ。
目を覚ませ――
ジリジリジリとアラームが鳴る。
とんでもなく寝起きが悪い。
疲れが全然取れてないし二度寝でもしてしまおうか。
「起きろ。クソ姉貴」
クソ生意気な愚弟の声が聞こえた。
とりあえず、ボコそう。
ボコしたところで、ばっちり目が覚める。
1時間で支度して学校に出なければならない。
メイクは、なし。服は、制服。鞄の中身は、問題なし。
支度は済ませたが、どうにも引っかかる。
昨日、私は何をした?
通学路。そこらへんに生えてるイチョウを見ながら昨日の出来事を思い返す。
朝何食べたかはおろか、夜ご飯すらも思い出せない。
引っかかる思いはあるがイライラするのでやめよう。
そうこう思いを巡らせていると高校につく。
山の上にひょっこり立っている”それ”はみんなから嫌われている。
なぜ今どき、バスすら通らないのか。
なぜ今どき、電話も通じないのか。
時代錯誤も甚だしい。
苛立ちは重なるものだ、そう感じさせる朝だった。
「おはよう」
隣のクラスメートが挨拶してきた。
軽く会釈して机に向かう。
とりあえず眠りたい。
おやすみ。
それは、突然起こった。
銃声。
学校の校内放送から鳴り響いたのは銃声と思しきものだった。
「あ゛、あ゛」
「聞こえますかー、今からこの学校はあたしたちにジャックされました」
「校門もふさいでいまーす。よけいなことをしないでくださーい」
「あ、いちお。見せしめに殺しちゃおっか」
「こっち来いよ」
「自己紹介しろよ、あ゛声が出ない?」
「じゃあ死ね」
直後銃声。なにか机に打ったような鈍い音とともに放送が終わった。
静まり返る教室。教師を探しに行く生徒。
わめきたてる男子。理解の追い付いていない女子。
阿鼻叫喚とでもいえばいいのだろうか。
まさしく、混乱状態にあった。
だからこそ、変に落ち着いている男の子が妙に目立って見えた。
確か、相生といったか。
「何してるんだよ。はやく逃げるぞ」
佐藤か高橋かしらないが、そう口にして教室を出て行った。
普段はお調子者の近藤がそれに続く。
そうしたゴタゴタの末、この教室には三人が残された。
私、委員長、相生だった。
「お前たちは行かないのか」
相生は平然とそう告げた。
「わたしは、わたしは、どうすればいいかわかりません」
泣きながら委員長はそう告げた。
そりゃそうだろう。こんなことになるなんて誰も想定しなかった。
この男を除いて。
私はそれを指摘した。
「ハ。だからなんだ」
「どういうことなんですか」
この男は実行犯の協力者である可能性がある、そう声高に指摘する。
「アホなのか、おまえ」
「信用ならないならいい。説明なんてできないもんだからな」
なんかうだうだ言っているが反論の一つもないのだろうか。
何とか言ったらどうなんだ。
「どうもこうもないだろう」
「先に失礼するぞ」
ちょっとまて。おいそれと逃がすと思ってんのか、この盆暗。
「…7人の人間が、今日消える。姿、形も残さず、だ」
「それを解明しなくちゃいけない、わかったか」
「行っちゃった」
女の私の身には追いきれないぐらいの速さで廊下をかけていった。
とりあえず、まだ混乱中の委員長の面倒は私が見なければいけない。
思考を巡らせろ。
こんな学校を目の敵にするなら誰かの私怨でありその誰かが相生だと思った。
すなわち、相生による他のクラスメートへの復讐劇である、と。
でも予想以上になんか反応が違った。
いろいろ理解はできない。
だが、これが始まりであるとそう予感された。