ありふれた転生者は後ろにいる 作:新くさや
気が付いたら無くなってるかもしれない
拝啓、本体の私。
南雲に触手が生えました。うねうね。
……ヨシ!
うん、まあ説明するとすれば、南雲の無くなった左腕に生えた私の生体を、どうにかこうにか有効活用しようとした結果なのだ。断じて卑猥なものでは……ない! はず!
だって手首しか動かないんじゃどうしようもないし……南雲と意思の疎通がとれてれば話は別なんだけども、そうじゃないなら、じゃあ手ぇ伸ばすしかないやん! っていう。頑張ったら手って伸びるものなんだなあ。
で、実際にこの触手で何が出来るかって話だけど、まあ錬生しか出来ないんですよね。私の技能は。後は南雲から魔力ぶんどれば纏雷と魔力操作もイケそう。意思疎通出来てないのにそんな事したら混乱するだろうからやらないけど。
でもまあ、錬生だけでも十分役に立つ事は出来る。接触が必要だから戦闘に使い辛いという難点があったが、これなら中距離の相手にも直接錬生出来るはずだ。こんな風に。
――〝生体乱し〟
うむ。しかも魔物にも生体が見えている奴はそういないようで、一方的に弱体化させられるのは大変よろしい。まあ、無くても今の南雲ならなんとかなったようだが。
「今のウサギ、思ったより弱ってたな……纏雷がいい感じに効いてたって事か」
む、本当の威力を誤認するのはまずいな。紛らわしいタイミングでするべきでは無いか。それに、南雲が銃を使うのなら、弱った獲物ばかり撃たせていては南雲の腕が向上しないかもしれん。うーん……安全性を取るべきか、成長を取るべきか。
成長したからもういいだろうと弱体化させすぎれば慢心の元になるかもしれないし、逆境こそ成長の糧である。なんてほっといて本当に死んだ。なんて事になったら何の意味も無いし……子供の教育に悩むママじゃないんですが?
まああれだ、状況によって臨機応変に対応しよう(丸投げ
「むぐ……折角ウサギ肉だって期待してたのに……裏切られた……!」
ウサギとは呼んでいても外見がそれっぽいってだけだからね。
しかし、錬成で銃なんて精密機械を作れるとはなあ。
仮に本来の銃器の詳細なんて知っていなくても、理論立てて構造と現象を再現すれば不可能では無いだろうけど、その再現度をこの世界で実現させたってのがすごいと思う。まあこれも南雲の執念の成果かな。失敗作も山ほど作ってたし。
ん、どうやらまた新しい固有魔法を手に入れたのか。はいはい習熟訓練ね。お付き合いしましょうとも。
「アイツは……!」
おや、あれは懐かしのゴリ熊。遠見の感覚を同調させてるおかげでまだ向こうには気付かれていないようだな。せふせふ。
南雲も最近ではウサギにも狼にも苦戦しなくなっていたが……どうする?
「アイツは、強い……」
ふむ、一度退くか。倒すにしても別に正面からぶつかる必要も無いし、妥当な判断かな。
また壁の中に隠れたかと思えば――
――随分と深く考え込んでるな――
「アイツは僕を食べようとした。アイツは僕の左腕を奪った。でも、アイツは強い。アイツは速い。それにすごくタフそうだ」
――ふむ……怖いのかな?――
「どうなのかな……でも、アイツに挑むのが危険だっていうのは確かだ」
――確かになあ。でも、未だに上層への階段は見つかってない。下層への階段も見つかってないけど、見つけたってしょうがない――
「そうなんだよね。上にさえ戻れるのなら、わざわざ危険に飛び込む必要はあるのかな……」
――おや、聞こえていたか。久しぶりな気がするね――
「
――きっと南雲には必要無くなったから聞こえなくなったのだろう。内に籠ってばかりでは前へ進めないぞ?――
「じゃあ今は必要になったってわけだ。はは」
――いずれはこのようなやりとりがあった事も忘れるだろうよ。
「……いいじゃない。だって、一人じゃつまらない」
――まあそれもここから出るまでか。それで、どうする?――
「どうする……? ああ、アイツの事か」
――別に倒さなくても階段が見つかればいいが、今までに見つかったゴリ熊はあれ一頭だけだったからな、倒してしまえば探索が格段に楽になるやもしれん――
「ゴリ熊って……卯代さんネーミングセンス無いね」
――!? いや別に真剣に考えたわけじゃないしとりあえず見た目そのままつけただけだし私だってちゃんと考えればもっとちゃんとした名前だってつけれるし――
「くすくす……でも、そっか。アイツは、僕の"邪魔"をするんだね……」
いや別にあえて邪魔をしてるわけでは無いだろうけど……
「僕の"邪魔"をするなら……敵だ。敵は、排除する」
そうだな。南雲が生きる道に、奴は邪魔になる。
……おや、もう聞こえて無さそうだな。
しかし、以前ほどの極限状態では無かったのに
「狙い撃つ……!」
ふむ、初撃は遠距離狙撃か。これ一発で決まれば重畳だが、果たして――ヌッ! 避けられた! うわすごい勢いでこっち来てるのに追撃めっちゃ避けおる。
あ。
「敵は排除」
あー……見事に落とし穴にはまったうえ、水伝いの纏雷で動き止められて思いの外あっさり倒せたな。まあ危険だって分かってて罠仕掛けないわけないよねって話である。
「帰るんだ……僕は、あの平凡だった日常に。ただそれだけを叶えるためなら……誰にも、邪魔はさせない。もし、僕の邪魔をするって言うなら、僕の"敵"だ。それが誰であろうと、どんな存在だろうと……」
む?
「――全て、排除する」
……まあ、ほどほどにな。
帰りたいのは私も同じだし、出来る限りは手伝おう。死が二人を分かつまで、なんて事は言わんがね。
え?読みにくい?・・・私もすごく面倒でしたけど!?
次の裏面はちょっと飛ぶかもしれません