ありふれた転生者は後ろにいる 作:新くさや
――あー……なんか魔物に襲われてる奴らがいるなー……デジャヴかな?――
「うわ、あれ割とピンチなんじゃない? ユエ、ちょっと先に行ってくるよ、シアさん置いてくから、よろしくね」
「ん……すぐ追いつく」
「あ、あわわ……皆を助けないと! ハジメさん、お願いします! ってあれ? ハジメさん? ハジメさんはどこに!?」
君があわわしてる間に行ったぞ……銃を隠すのはいいが、この距離を一瞬で詰める異常性を隠すのと、どっちが良かったんかね。
あ、片付いた。
「シア! 無事だったのか!」
「父様!」
合流も完了、と。
いやしかし……おっさんにウサミミがついてるのは、こう……なんか、クルものがあるな。
「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」
「あ、はい。えっと、ひとまず感謝は受け取ります。助力に関しては、シアさんから詳しい説明は聞いていますか? 了承して頂けないなら、ここまでになりますが……」
「もちろんかまいませんとも。我らハウリア一同、ハジメ殿とユエ殿をお望みの場所へと確実に案内致しましょう」
「えっと……僕が言うのもなんですけど、いいんですか? 亜人は人間族にいい感情を持っていないと思ってたんですけど」
「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」
日本で会ったなら立派な人だなあと思えたんだがな……暴力の蔓延るこの世界で、弱者が語っていい思想とは思えない。まあいいけど。仮にこれで滅んだとしても、彼らは彼らの誇りを胸に抱いて死にゆくのだろう。羨ましい限りだ。
やっと峡谷を出られるのか。分霊が出せるようになったら、改めてハウリア達に憑依させていくかな。分霊ぎっちぎちの状態を維持するのもさすがに疲れてきた。
「帝国兵はまだいるでしょうか?」
「え? ああ、どうだろう? もう峡谷で全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いと思うけど……」
「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさん……どうするのですか?」
「? どうするって何が?」
「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。ハジメさんと同じ。……敵対できますか?」
――一緒にするな――
「卯代さん……えっと、シアさんは未来視で見てたんじゃないの?」
「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」
「だったら……何が疑問なのかな」
「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」
滑稽な質問だ。私達の世界では、今も人間同士で争っていると言うのに。
……はあ。こちらの事情を知らないのだから、こんな事を思っても仕方がないとは分かっているんだがなあ……よほどこの世界の"人間族"と同一視された事が腹に据えかねたのだろうか?
「僕らだって何の意味も無く敵対するのなら避けたいよ? 面倒なだけだし。でもね、別に君達の味方だから守りたくて敵対するんじゃない。僕らには目的のために、君達を守らなくちゃならない理由がある。それが果たされるまでは、たとえ魔物であろうと、人間族であろうと、邪魔をするなら――全て、敵だ。敵は全て、排除する……それだけの事だよ」
「な、なるほど……」
「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」
――あー……階段上り切った先に生体反応がたむろしてるが、やっぱり帝国兵かねえ?――
「かなあ……どうしよっか」
「……吹き飛ばす」
――まあ、それでもいいが、もう少し上れば、いい加減分解されなくなるだろう。一応分霊で確認してくるか、ら――!? がッ、ぐ……ぅ……すま、ん。しばらく……――
「卯代さん……? 卯代さん! どうしたの!?」
――ヌッ!? これは、神山の分霊の時と同じ……!?
「ぎっ、ぐ、うううぅぅぅぅぅ……!」
「御麗? どうしたの!? しっかりして! 御麗!」
「レイレイッ? え、えっ!? あ、う、ええと……待ってて! カオリン呼んでくる!」
これ、まず……! ――〝錬生〟っ――〝錬生〟! ぐぬぬ……! いたっ、あいたたたたた……! ――〝錬生〟! 鈴、はやくうううぅぅぅぅぅ!
「――卯代さん! 大変……! 光の恩寵よ、癒しをここに――〝焦天〟! ……うそっ、治ったのに、どうして!? ――〝周天〟! ――〝万天〟!」
「これ……状、態異常、じゃ、ない……! 〝錬生〟! ごめん、収ま、るまで、おねが、い……!」
神水無しで肉体改造とかほぼ自殺ううぅぅぅ! ぼすけて南雲! 声かける余裕も無いけど! あいだだだだ! 錬生で痛み抑えてるはずやのにめっちゃ痛い! びえん!
「ヴぁー……ごめん、ありがとね、白崎さん。あなたがいなかったら、多分死んでた。鈴も、白崎さん呼んできてくれてありがと」
「御麗、もう、大丈夫なの……?」
「レイレイ……!」
「ん。せやからそんな心配そうな顔せんでも大丈夫やで、恵里、鈴」
あーびっくりした。数か月分の意識を統合した上、南雲に憑いてた分霊を侵食してた魔力が、本体にまで浸食してくるとは。
南雲側の分霊、めっちゃ能天気だったもんなあ……私も魂魄魔法を手に入れるまでは、
「卯代さん、本当にもう大丈夫? その、髪が……」
ん……ああ、すごい白くなってる。南雲とお揃いじゃーん! ……染髪料ってどっか売ってたっけ? やだよ私こんなバカップルのペアルックみたいなの。するなら恵里としたいわ。
「んー……うん。イメチェンしました」
「え?」
「イメチェンしました」
「え、でも……」
「イ メ チ ェ ン し ま し た」
「えっと、はい……」
ヨシ! あー、でも白崎ちゃんかあ……今白崎ちゃんいなかったらほんとに死んでた可能性が高いんだよねえ。どうしようかな……あ、そうだ、本人に聞いてみよう。
「僕の邪魔を、するな――!」
あ、帝国兵らしき男が吹っ飛んだ。しばらく意識を外している間に、揉め事になってたみたいだな。
――すまん、少しROMってた――
「ろむ……? ミレイ、心配した……!」
――あー……ごめんなあ。峡谷を抜けた途端本体と同期が戻りおって、ちょっと本体がやばい事になって焦ってもうた――
「……大丈夫……?」
――うん、なんとかなあ――
「ミレイ……雰囲気変わった?」
――ん……数か月の間、全く別の生活しとった意識同士が統合されたからなあ……あと、なんとかやばいの切り抜けられて、ちょっと気が抜けとる……まあ、別人に変わったわけとちゃうから、気にせんでええで――
「……そう。わかった……」
――んンっ、んー……で、南雲は何してるんだ――
「っ卯代さん! 良かった、無事だったんだね!?」
――ああ。急に本体と同期が戻ってな、ちょっと混乱してたんだ――
「えっ? ああ、そういえば」
――んむ。それで、ちょっと南雲に聞きたい事が出来たんだが……後にした方がいいか?――
「え? ……ああ――〝纏雷〟……なにかな? 卯代さん」
――南雲ェ……いやまあいいけど。ちょっと同期が戻った時、本体にトラブルが起きてな、そこを白崎ちゃんに助けられたんだが――
「しらさき……? それより、トラブルってどういう事? 大丈夫だったの?」
――あー、うむ。それはこの通りだ。それでなあ、白崎ちゃんが南雲の事をずっと気にしていてな……お前の現状を教えていいか?――
南雲が以前のままなら、また周囲の悪意によって潰されていたかもしれないが……今の南雲なら、周囲がどうあっても歯牙にも掛からないだろうからな。
「? ……しらさき……白崎……ああ! 白崎さんか。えっと、どうして?」
忘れとったんかい。あれだけ熱烈なアプローチを受けてたのになあ……
――そのどうしてが何に掛かってるのかは知らんが、まあ、南雲の現状を教える事で白崎ちゃんが喜び、私は借りを返せる。という話なんだ。面倒なら断っていい。また別の事で借りは返す――
「うーん、よく分からないけど、それで卯代さんを助けてくれた借りが返せるんだよね? だったら別にいいよ」
んー……これは、本当にただ借りを返すだけになりそうだな。進展無さそう。今のところ合流まで手伝うつもりは無いし。
――いいのか? 正直助かるが……うん、まあいいと言うのなら伝えさせてもらおう。ありがとう、南雲――
「気にしないで。卯代さんにはずっと助けられてきたんだもの、これくらいなんでもないよ」
――あ、そうだ。神山で魂魄魔法とれたぞ――
「ふぁっ!?」