ありふれた転生者は後ろにいる 作:新くさや
なるほど……実体無き、大いなる存在、ねえ。似たようなのが亜人族の中でおとぎ話として伝わっていたわけだ。
その精霊様というのも、恐らくは私のような魂魄魔法の使い手なのだろうな。
オスカー・オルクスが言っていた、各種族を戦い合わせていた神を称する者があるいはそうだったのかもしれん。それが世代を跨ぐことで精霊と名を変えた、とか?
まあ、今いなくなった者の事を考えても仕方ない。問題は……
「うおおぉぉぉぉぉ! ウシロ様に身命を捧げよ! 者共! かかれええぇぇい!」
「おおおおぉぉぉぉぉぉ!」
「な、なんだこいつら! ハウリア族じゃないのか!? っぐああ!」
「馬鹿なっ! 忌み子だけではなく、こいつらまで魔力を!? ぎぁああっ!」
攫われてた奴らと合流した後、ちょっと酷使しすぎたからそこから更に一日休ませて、ようやく樹海に来れたかと思えばこれだ。洗脳はしてないはずなんだけどなー。ちょっと無理矢理身体操作して魔物を狩り続けさせただけなのになー。
だってこいつら魔物の命を奪う事すらいちいち気合入れないと出来ないんだもん。平和な国出身の私達なら分かるけどさ、お前ら今までどうやって生きてきたんだよ……
まあでも、最終的にはなんとか慣れさせられたかなーって。操作しなくても戦えるようになってたし。若干狂戦士じみてきてるけど。
さて、完全に敵対する前に一応交渉を、という事で殺さないようには言っておいたが……ヨシ! 相手方に死人無し。
「あなたが、この集団の統率者か。僕は生命の大精霊〝卯代様〟の使い、南雲ハジメ。そしてこちらが卯代様の巫女である、ユエ様である!」
「……ひかえおろう……?」
南雲お前、まだ御使いムーブ続けるのか……ユエまで巻き込まれてるし。
「せ、精霊様……? 巫女だと? 何を言っている、そんなものはただのおとぎ話だぞ!? わけのわからん事を言って……おのれ人間族め! 今度はそれが侵略の口実というわけか! 貴様らハウリア族も、そのような戯言を真に受けて人間族を招き入れたとでも言うつもりか! このような蛮行、到底許されるものではないぞぶっぐあ!?」
「口の利き方には気を付けろ。ウシロ様は確かに存在しておられる……我らに力の祝福をお貸し与えくださり、繁栄への道をお示しになられたのだ……」
「貴様程度の弱者が存在を疑っていいようなお方では無い!」
「無知蒙昧の愚か者が! 恥を知れ!」
うわあ。族長のカムだけはあえて乗せられてる感じだけど、まるで狂信者……私が第二のエヒトみたいになってるんですけど?
まあ人を手駒扱いしてるって点では一緒かもしれんが。玩具にはしてないので多分せーふ。とりあえずやかましいので〝威圧〟どん!
「……卯代様は争いを望んで僕を遣わせたわけじゃない。と言うより、僕の目的に賛同して、協力してくれているんだけどね。亜人族には精霊様の話が伝わっているというから名前をお借りしたんだけど、どうやら失敗だったみたいだ……申し訳ない、卯代様」
――はいはいよきにはからえ――
「なにを、馬鹿な……だが、この圧倒的な存在感は……?」
「この際卯代様の話は置いておいていいよ。ただ、争いに来たわけじゃないって話は本当だ。ましてや君達亜人族を奴隷にしに来たわけでも無い」
「なんだと? ならば、一体何をしに来たと言うのだ……! このようにハウリア族を従えてまで! こいつらは罪人だぞ! ましてや人間族を樹海に招き入れるなど、明確な亜人族全てに対する裏切り! フェアベルゲンと敵対する事は避けられん!」
「敵対……そう、君達は僕の邪魔をするんだ……?」
「ッ……グ、ゥ! ――も、目的は!? 争いに来たわけでも、奴隷にしに来たわけでも無いと言うのなら、何を目的にここへ来たのだ!」
「……うん? ――ああ、目的。僕らの目的は、樹海の深部にある大樹の所に行く事だよ。正確に言うなら、本当の大迷宮の入口らしき場所に、かな。七大迷宮の攻略が出来れば、こちらから亜人族に干渉しようとも思ってないよ」
「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
まあ、神山の大迷宮も直接的な戦闘能力が必要では無かったからなあ。
こっちに関してもその可能性が無いとは言わないけど……亜人が神代魔法を手に入れられてないのは、魔力が無いからだとでも言うのだろうか?
「いや、それは違うと思うよ。七大迷宮は、そもそも造られた迷宮らしいしね」
「は……?」
オスカー・オルクスの残した情報が正しければの話だけどな。ラウス・バーンが残した情報も一致してるし、他の五つが全部別物って事は無いと思うが。
「もし亜人族にとってだけ攻略難易度が低いと言うのなら……〝神の遊戯〟〝解放者〟〝神代魔法〟どれか心当たりのある言葉はあるかな?」
「お前の言う事は、どれ一つとっても心当たりが無い……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけにはいかないからな――だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」
ほーん? まあどう見ても逆転の目は無いしな。感情で動かない奴で助かった。
「ん……いいよ。ただし、僕らの目的に関して、ちゃんと間違いなく伝えてね。無駄な争いはこちらも望んでない」
「無論だ……あいつの拘束を解いてくれるか? ――ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」
「了解……!」
「――ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という? ……それと、精霊様がいらっしゃると言う話だったが……?」
おー、エルフだ。こっちで言うなら森人族だったか? でもこういう場面で出てくるのはロリババアと言うのがお約束では無いだろうか? なんでおっさんなの?
「僕はハジメ。南雲ハジメだよ。卯代様は今もここにいる。あなたには感じ取れない?」
「……ぉお、おお! ……なんと! このとてつもない生命力の輝き! まさか本当に実在しておられるとは……!」
してませんが。
「えっと、伝令の人から話は聞いてるかな? 卯代様はあくまで協力してくれるだけで、僕らの目的のために同行してくれているだけなんだけど」
「あ、ああ……すまぬな。私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、確かにお前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」
「オルクス大迷宮の奈落の底にあった、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だよ」
あと神山の大迷宮にあったラウス・バーンの手記からもだな。こっちは教会に関連してると思われそうだから言わない方が良さそうだけど。
しかしこのエルフ、解放者について知ってる感じの様子だな。長老という立場にある事で知る情報でもあるという事だろうか? 少なくとも、樹海に解放者が関わっているという事は分かった。最悪、大迷宮を探すために敵対する事になるかもしれんな。
「――……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな――彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」
掟なあ……亜人族だけが迷わない森で、資格があれば客人、か。
解放者が亜人達に住処を提供する代わりに、案内人としての役目を負わせた、という事だろうか。
「それから、生命の大精霊……〝ウシロ様〟とおっしゃったか。ハウリアに祝福を与えたと聞いたのだが、よければ詳しい話を伺ってもいいだろうか? 精霊様が協力するというお前さんの目的というのも聞いておきたい」
――おいこら南雲。なんか話がややこしい事になってるんだが? どうしてくれるんだオラァ! このままだと亜人族に祀り上げられそうで怖いんですけど!?――
〝すみません。調子に乗ってました。でもほら、ハウリア族みたいに忠実な手足が増えると思えば……〟
――あれ狂信者やんけ! もう手に余っとるわ!――
「あー……いや、僕らはひとまず大樹に行ければいいので。それに人間族の僕らがあなた方の国に行っては、余計な騒動が起きるだけでは? 卯代様の事は道すがら話しても構わないので」
「いや、お前さん。それは無理だ」
「は? どういう意味ですか?」
んむ?
「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」
「あっ」
「カム?」
「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……――申し訳ありません! ウシロ様ぁ!!」
――ええ……いや私に謝られても。まあいわくつきの場所ではあっても、普段利用してないならそういう事もあるだろうけど。しかし十日後かあ……客人と認められたとはいえ、フェアベルゲンは圧倒的アウェーだし、あんまりいい予感はしないかな――
「はあ……そうだよね。一度樹海を出た方がいいのかな?」
「いや、滞在場所ならば私が用意しよう。他の者にも言って聞かせる。なので――」
「――アルフレリック! 何をしている! いつまで人間と忌み子にこの地を踏ませているつもりだ!」
なんか追加の亜人族が来たな。どうみても物々しい気配だが……
うーんちゃっちゃと話進めたい