ありふれた転生者は後ろにいる 作:新くさや
うう……だるい……
「御麗、大丈夫? 割と顔色悪いよ」
「だいじょぶ……たぶん」
「レイレイが寝坊するなんてめずらし~。昨日夜ふかししてたからかな?」
いや夜更かしくらい何度もしたことあるけど、こんな体調悪いの初めてだぞ……なんなのこれ。周期はまだだしそもそもこんな感じじゃない。
「あ゛ー…………――〝錬生〟……治った」
むくり。
そもそもこういう体調不良を整えるのも錬生の活用例の一つだけども……なんだろ、もしかして昨日分霊を使いすぎたせいで生体エネルギーが乱れてたのだろうか?
というかむしろ……肉体に生体が半分しか残ってない状態というのがそもそもよろしくないような気もする。うん、まあ落ち着いて考えると当然と言えば当然かもしれない。あるべきものが足りてないのだから貧血になるようなものだろう。
貧血に例えるとするなら、身体が血を作るように、生体エネルギーの補充はされるのだろうか?
「御麗? どうかしたの?」
仮に不足分を補った場合、分霊を戻した時に余分になってしまった生体は無駄になってしまうのだろうか……? 分霊を作った時にステータスも分割されるが、補充分が無駄にならないのなら分霊を戻した時その分ステータスが増える事になるのか?
「レイレーイ?」
生体の圧縮自体は正直錬生すればさほど難しくないと思うが……いや、この考えが正しければステータスが無限に高められる事になってしまう。さすがにありえないはず。だが……んー、ステータスと言う言葉に囚われているような気もするな。
「今なら何しても気付かれないのでは……!」
ゲームであればシステム上無限に上がってしまってはバランスが壊れるという理由があるが、この世界のステータスはあくまでアーティファクトが数値化したものに過ぎない。
「鈴、君ねえ……うーん。許可する」
あくまで肉体的強度は土台に過ぎず、要するに才能、あるいは資質という名の器の限界魔力値に対する現在の割合がレベルで、その配分比率がステータスとして表示されている……のだと思う。
「ハスハス。ハスハス」
このレベル100とされている限界魔力値のくびきから逃れられない以上は、仮に件の方法でステータスを伸ばせたとしても単純に成長が早くなるだけでいずれは頭打ちになるだけだが、限界を――
「御麗、本当に大丈夫かい?」
あ。
「治ったって言ったそばから何か考え込んでるし……駄目そうなら僕の方から言っておくけど」
「あ、いやちゃうねんごめん。ほんまに大丈夫やから。錬生で治ったんやけど、昨日分霊使ったばっかでいろいろしとったやろ? なんかそれでおかしなっとったみたいで、まあいろいろ考え込んどってん」
「ふーん? まあ大丈夫ならいいけど、いい加減支度しないと集合時間に遅れるよ?」
こりゃいかん。急いで支度せねば。
「ってこら、あんたはいつまでひっついとんねん」
ベッドでぼけーっとしてた私も悪かったのでしばらくは我慢していたが、サービス期間はこれにて終了! ぺいっ!
「あ~れ~!」
……ところでさっきまで考えていた事とは別に、何か忘れている気がする。んー……朝起きてから何かしようとしていたような。
あ、檜山の件だ。
集合前に伝えておこうかと思ってたんだけど、んー……まあいいか。男の一人部屋を訪ねるっていうのも改めて考えるとなー。私一応女だし、変な噂になるのもちょっとなあ。
まあ集合した時でも、訓練中手すきの時にでも伝えればいいだろう。さすがに人の目がある時は檜山も何もできないはずだし。
んんん、南雲と話してるとこ檜山に見られるのと白崎ちゃんに見られるの、どっちがましなんだろう……君ら南雲見すぎでは?
檜山に見られたとして……そのタイミングから南雲に警戒され始めたら逆恨みされそうだなあ……
白崎ちゃんに見られたとして……んー微妙だけど恋する? 乙女的には南雲を気にする頻度が増えそう。聞き出しにすら行くかも? 檜山の南雲憎しの火に油を注ぐようなもんだよなあ。
んー、よし。檜山が前に出てる間に鈴にでも白崎ちゃんの気を逸らしてもらって、その間にちゃちゃっと警告だけ済ませちゃおう。
「昨日の夜の逢引、檜山くんが見てましたよ」
「……っえ?」
ようやくの警告を告げた瞬間、寝耳に水とばかりにこちらを見る南雲。短い警句ではあったが、すぐにその危険性に気付いたのだろう。見る見るうちに顔が青くなってるな。
「そんな、まさか……」
「機会があれば魔が差す、という事も有り得ます。月夜ばかりと思うなよ。です。では」
うむ。とりあえず言うだけは言った。恵里くらいにしか見られてないはず。
一応私も気にしてはおくが、南雲自身も人から離れなければそう機会も無いはずだ。
しかし南雲の奴、
操作に使う生体は自前のものとして、動かし終わったら回収? いや、可能であれば、魔物の生体を奪ってストックしておけば消耗は最小限に出来るな。錬生は基本的に接触が必要だから、そう簡単ではないが。
「猛き烈風研ぎ澄まし、敵の命脈を断ち切らん――〝断風〟」
詠唱のコツは無心になる事である。嘘だが。
とにかく恥を忘れるまで繰り返すしかない。無心だとコントロール出来ないからね……仕方ないね。習熟すれば詠唱もある程度省いたり出来るらしいが、生憎と私はそこまで至っていないらしい。哀しい。
もうじき二十階層の最奥、今回の目標地点か。
正直道中は冷や冷やしっぱなしだった気がする。檜山が時たま南雲を見る目がなあ……あからさまには表情を変えてないんだけど、むしろ真顔なのよね。
あれは相当内にドロドロしたものを溜め込んでる感じだわ。事故装って大怪我させるくらいは普通にしそう。やらなかったらそれはそれでいいけど、やる人間はいるんだって事を
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
うるせえ。若干生体が乱されたか? これくらいなら自然と治るけど……前衛が影響をモロに受けたようだ。岩飛んできた……ああいや、生体を感じるから魔物だな。えんがちょ。
「――〝風撃〟」
とりあえず魔法で叩き落としたが、メルド団長が切り捨てた。まあ恵里達固まっちゃってたし、仕方ない。
警戒は残しつつ、恵里と鈴をなでりこなでりこ。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
ぬ? 何でそんな大技使う必要があるんですか?
……何でトラップ踏む必要があるんですか?
月夜ばかりと思うなよ、です