〜serial killer 氷結の殺人鬼〜 作:Mr.マスタード
日本に着いた男は、現地のヴィランと遭遇するために暗い路地裏を財布を手に歩き回っていた。
自分が以前にいた国と比べとても清潔な町だなと感じる。人の死体や餓死した動物の死骸、そしてそれを啄く烏の群れが居ないことから男にはまるで別世界にでも来たかのように感じられた。
「これが日本か...随分と平和な国みたいだね」
他の国なら数秒で絡まれるようなシチュエーションでも全くヴィランに遭遇しない。流石は平和の象徴がいる国なだけの事はある。犯罪発生率は諸外国よりもかなり低いという話をどこかで聞いた。
「こんな路地裏で何してんだあ?兄ちゃん」
やっと会えた。全くドラマティックな出会いでもなければ美女のヴィランでもないが、ようやくこの国のヴィランと出会えた。
「人探しをしていてね。ここらを取り仕切ってるブローカーを紹介して欲しい」
ブローカー。簡単に言えば仲介人。依頼者に労働者を斡旋する顔が広く信用のある人物にしか勤まらない仕事だ。一介のヴィランにそんなツテがあるとは思えないが。
「はあ?人探しだあ?こんな所に人がいるわけね...なるほどワケありってことか。へへへ。いいぜぇ、ここらを取仕切るどころかこの界隈では超大物と最近繋がってなあ。仕事を頼まれた仲だ。特別に紹介してやってもいいが、、、分かるよな?」
「それは幸先がいい。で、いくら欲しいんだい?」
「んなもん決まってるだろ、財布の中身全部だよ!!」
「構わないが、ひとつ聞かせてれないかい?」
「いいのかよ、変な奴だな。なんだ?」
「その大物ブローカーとは直接会って依頼されたのかい?」
「そんな訳ねぇだろ。電話越しで依頼を受けただけだっつーの。俺みたいなチンピラに会ってくれるわけねえだろ」
「確かにその通りだ。じゃあもう君には用はないね」
「あ?」
ダンっと1発だけ銃声が鳴り響く。辺にいた無視やネズミ達が一斉にその場から逃げ出す。
「な、なん..で」
心臓に一発的確に撃ち込まれたそれは哀れなヴィランを呆気なく終わらせてしまった。
死んだのを確認した男はヴィランの懐をまさぐりスマホを取り出す。パスコードの設定もしていないそれを開き、連絡先を確認する。
「ふむ。流石に大物ブローカーなどと言う名前では登録していないか」
チンピラからすればこんな大物ブローカーと関わりを持てるチャンスは二度とないだろう。そんな彼が、なんのアピールもせずにただ依頼の日を待つだけなんて事があるだろうか。
必ずブローカー側に何度もコンタクトを取ろうとするはずだ...そう考えたのだが、どうやらハズレだったようでこちらから連絡している履歴は無さそうだった。
困った。こんな事なら殺さずにもう少し話を聞いておくべきだったか。そう後悔していると、突然手にしたスマホに非通知から電話がかかってきた。
何も答えず、電話にだけ出ると向こうが一方的に話し出した。
『おいおい、今寝起きか?寝坊でもしてるのか?言ったはずだぞ、今回の仕事やりきってくれればほかの仕事も優先的に斡旋してやるって言っただろ?今すぐに例の港にこい。もう他のヴィランも集まってる。数が足りなきゃこっちの報酬も減るんだ。頼んだぞ』
電話の相手は言いたいことだけ言うと、電話を切ったようだ。ご丁寧にしっかりと非通知からかけてきている。今のが仲介人で間違いないだろう。他のヴィランも集まってるという事は何かしらおおきなイベントがあるようだ。
港に着くと、いくつかのグループにわかれてヴィランが集結していた。ここまでヴィランが集まっているところはあまり見た事がない。少数か単独でしか主に活動しないヴィラン達がここまで集まるとは相当の金とコネがないと出来ないだろう。
男は取り敢えず近くのグループに紛れ込んだ。
グループに別れてはいるが特段仲がいいと言うわけでもなさそうで、話し声はあまり聞こえない。仕事仲間なだけという印象を受ける。それにしても、このグループ分けは外見的特徴からの判断しか出来ないが恐らく状況に応じてグループ分けがされている。
近くにいるヴィランの男と話しながら情報を整理していると、黒いもやにつつまれ靄に包まれ顔どころか全身見ることが出来ない謎のヴィランが突如として現れた。というのも、何も無い空間に黒い渦ができたかと思うとそこからぬるりとこのヴィランがでてきたのだ。超貴重なワープの個性を持っているようだ。
「みなさん、お集まり頂きありがとうございます。私は黒霧と申します。あなた方を雇った敵連合の者です」
敵連合...ドライ6には聞いたことの無い組織だった。そもそもヴィランが組織だっていること自体が稀である故にそのような組織ができたというのなら耳にすることもあるのではないか。新興組織か何かか。協調性のないヴィランが組織に組み込まれて機能するとは思えないが。
「突入のタイミングで私の個性で皆様の前にワープホールを出現させます。それを潜り、雄英の生徒を襲ってください。1人でも多くの生徒を傷付け殺し、相手の面目を潰してやるのです。」
周りのヴィラン達が勢いづきはじめる。天下の雄英のヒーロー科の生徒をやれるのかと、プロヒーロー達の苦しむ姿が見られるのかと。プロヒーローには叶わなくとも、ヒーローの卵ならと侮っている者もいるようだ。
「以前にも申し上げましたが、あなた方に有利な地形へと転送しますので、有利に戦うことが出来るでしょう。ただし、」
ざわついていたヴィラン達が一瞬で静まり返る。
「相手は卵とはいえ金の卵。あの雄英の入試をくぐりぬけた才児達です。どうか油断なさらぬよう」
それだけ言うと、黒霧と名乗ったヴィランは文字通りどこかへと消えた。静まり返っていた港にも徐々に喧騒が戻り始める。
(おそらく、今個人的に話に行っても取り合って貰えないだろう。大物ブローカーを通せば或いは直ぐに目当ての人物と接触できそうではあるが、今回はこの祭りに参加して少し目立った働きをした方が手っ取り早いか)
ヒーローに目をつけられる事になると考えると思わずため息が出てしまうドライ6。もし、目当ての人物に、afoに会うことが出来なければただの徒労に終わるだけでは済まない。日本のトップヒーローと世界各地から自分をつけ狙う国際刑事達との死闘が始まってしまう。
(まあ、その時はその時だ。丁度今のオールマイトがどれほどの強さか見てみたいと言う思いもあったことだ。前向きに考えよう)
周りのヴィランを見渡す。異形型の個性持ちから、汎用性の高い電気の個性を持った者までいるようだ。自分の力をひけらかしたくてたまらないというヴィランも大勢いるようで、港のものを個性で壊して回りウォーミングアップしているヴィランもいる。
そんな馬鹿でも数が集まれば脅威である。数は力を素で行く戦法に改めて思う。敵連合などという聞いたことも無い組織なのに自分が引き寄せられる感覚。間違いなくこの連合の裏には大物がいる。直感が告げているのだ。
普段ならこんな事に参加する訳もない自分がここにいるのがその証拠である。周りのヴィランも勘のいいものは既に気づいているはずだ。裏社会を支配する何者かの息がかかっていることに。
考え事をしている間に、いつの間にか目の前にワープホールが広がっていた。ドライ6が殺した男の個性は何か知らないが至近距離で喧嘩を吹っ掛けてきたことから直接戦闘タイプのはずだ。
となると、正面戦闘を行う戦場に送られるはずだ。
黒い靄を潜るとそこには、ヴィランの姿に怯む生徒達の姿と二人の教師の姿。しかしそこにはオールマイトの姿はない。
どうやら想定外のアクシデントのようだが、このまま続けるのだろうか。ゲートを生み出した黒霧とその隣りにいるおそらく敵連合のボスの青年、そしてその隣りにいる烏のような頭に大男のような体のバケモノを見る。おそらく今回の襲撃の重要人物はこの三人だろう。
「どこだよ...せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさぁ...オールマイト。平和の象徴、いないなんて...子供を殺せば来るのかなァ?」
体中に死人の手をつけてる狂った青年が雄英生を襲うように指示をだす。射撃隊が飛び出してきた教師のプロヒーローに攻撃を仕掛けるようだ。自分も銃撃を主に攻撃手段として使うヴィランなので攻撃に参加するべきなのだろうが、ここは様子見をしておく。
相手のプロヒーローのことを何も知らないので当馬として威力偵察として彼らの戦闘を見守る事にした。
のだが、どうやら射撃隊の様子がおかしい。弾が出ない、個性が発動しないようで一方的にやられてしまっている。なるほど、あのヒーローが出発前に聞いていたヒーローイレイザーヘッドなのだろう。
異形型以外の個性を視認している間無効化することのできる非常に強力な個性。近接戦闘も得意なようで、異形型の個性相手にも有利に立ち回っている。一見混戦が苦手だと思われた個性だが、どうやらそんなこともないらしい。
そろそろ参加しなければなにか言われそうなので遠くから適当に銃撃することにした。戦闘はなるべく避けたいので、敢えて当たるような弾は撃たないようにした。
イレイザーヘッドもドライ6が面倒な遠距離攻撃ヴィランではないと判断したのか全く対応しに来ようとしない。
ボス格の三人に目をつけられない程度に参戦しているので恐らくしばらくはこのままで大丈夫だろう。作戦によるとこのあとは生徒たちを災害ゾーンの各地に送りつけて各地の地形に有利な個性を持つヴィランが襲撃するという計画だったはずだ。
あの烏頭や、手だらけのボスが参戦すればこのままここの正面部隊だけでも押し切れそうな雰囲気ではあるがオールマイトの事を考えると作戦通りにすすめるのだろうか。
黒霧がボスに耳打ちしたあと隙を見計らい個性を発動する。生徒達が逃げようとしている前にワープしていったようだ。生徒達と交戦しているようだが、流石の個性。計画通りに大多数の生徒をワープさせることに成功したようだ。
優秀な個性だ。あんな個性があれば僕の殺しも少しは楽になっただろうに。
プロヒーロー13号のブラックホールは非常に強力な個性だ。いくら黒霧の個性が優秀だとは言ってもブラックホールで全てを吸い込まれてしまってはどうする事もできない。
対応策が何もないとは言わないが他の生徒の個性がわからない以上、想定外のことは起こるものである。各災害ゾーンの被害よりも足の早い個性を持った生徒に助けを呼ばれに行かれる方が厄介である。
僕が助けに入るなら黒霧の所だろう。彼らと良い関係を築くためにも要人を助けることを優先したほうが良いだろう。
13号を行動不能にした黒霧だったが、足の早い個性を持ったメガネの生徒が其の隙に黒霧の横を駆け抜けて出口の扉へと向かっていた。
「調子にのるなよメガネ!」
他の生徒から妨害を受けるがなんとかメガネの生徒をワープ點せてようとする黒霧。しかし、体を浮かせられ、テープのようなもので引っ張られ無理やり広場の方へと放り投げられてしまう。
「応援を、呼ばれてしまうっ!!くっ...」
どうしようもないかと諦めかけていたその時だった。
扉の前に見覚えのないヴィランが立ち塞がり、メガネの生徒を蹴り飛ばし、13号や他の生徒のところまで蹴り戻したのだ。
黒いコートにメタリックな骸骨の顔。異形型の個性であることは間違いないが、一体どんな個性なのか検討もつかない。
しかし、雄英の生徒を蹴り飛ばしたことから味方であることは確かであろう。黒霧はワープゲートを通り、謎のヴィランの隣にワープした。
「どなたか存じませんが、助かりました。ありがとうございます」
すると、相手はこちらを向きフッと笑う。
「構わないよ。その代わりと言ってはなんだけど、ここでの事に片がついたら頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
「私にできる範囲のことでしたら」
危うく失態を犯すところだった自分を助けてくれたのだ、よほどの要求でもない限りは応えるつもりだ。実力は未知数だが、なんだか雰囲気のあるヴィランだ。まだ蹴りしか見たことがないが全く無駄のない動きだった。
武器は片手に持った銃から遠距離タイプのヴィランであろう。しかし、それなりの速さで走っていたあの生徒に蹴りをクリーンヒットさせたところから見ると、近接戦闘もそれなり以上にできることがわかる。
「私は戦闘向きのヴィランではないので彼らの相手は任せてもいいですか?代わりに他のヴィランを送り込みますので」
「助けはいらないよ。足止めだけなら僕一人で十分だ。君はあのボスを手助けしてあげてほしい。ここで応援を呼ばれることはなくともいずれは助けがくる。いつでも逃がせるように準備しておいてくれ」
「あなたがそういうのなら...ここはお任せします。御武運を」
中々の自信家なのか自分の助けはいらないらしい。もし本当に一人で抑え込むことが出来たならば、オール・フォー・ワンやドクターに紹介しても良いかもしれない。
そう思いながら黒霧は死柄木のいる広場へとワープした。
「そ、そんな。みんなが作ってくれたチャンスを僕はっ...!!!」
「気にするな委員長。あれは仕方ねぇよ。それよりも何なんだあのヴィランは」
「気にせんでええよ飯田君!誰か他の人が助けを読んでくれとるかもしれへんし、異変に気付いた先生が来てくれるかもしれん!大丈夫!」
「すまない、みんな」
チャンスをものに出来なかった僕は本当に申し訳ない気持ちになっていた。13号先生は大怪我をしているし、みんなは僕の為にあのワープさせるヴィランの足を全力で止めてくれた。たしかに今僕達の目の前にいるヴィランさえいなければ助けを呼べていただろうが、僕がもっと速く走れていたなら。もっと早くに動けていたならなんとかなったかもしれないのだ。
扉の前にいるヴィランを見る。こちらをじっと見つめて何をしようとするでもなく、ただこちらを見つめている。銃を手に持ってこそいるものの片手は被っているハットを気にして位置の微調整をしている。一体何をしているんだ、
「子供を蹴るのは気が引けたんだけどね、中々速い速度で走っていたから一番やりやすい方法で止めさせてもらったよメガネ君すまないね」
何を言い出すかと思えば、そんなことを宣った。
「一体何のつもりだ。お前はヴィランじゃないのか、どうして僕に謝るんだ」
「子供に暴力を振るうのは好まない。僕の邪魔をされたわけでもないし、知られたくないことを知られた訳でもないからね。子供は知らなくてもいい真実にどうしょうもなく引き寄せられるものだけれど、君たちは何も知らない。だからすまないと謝ったんだ」
まったくもって意味がわからない。
「子供に暴力を振るうのが嫌なら今すぐ帰れ!なぜこんな所にいる?」
「当然、必要なことだからだよ。それ以外に理由なんてないさ」
「君達にはなんの恨みも無ければ個性も性格も生まれも名前も何も知らない興味がないんだ。だからそこでじっと大人しくしているなら、僕は何をするつもりもないよ。そこでじっとしている分には僕の邪魔にならないからね。他の災害ゾーンにいる君たちの仲間よりはいい状況なんじゃないかな。僕達ヴィランは君達を殺せるだけ殺せと言われているんだけど、つまらない殺しには興味がなくてね。強制じゃないならやる気はないんだ」
時間稼ぎ、されているのがわかる。本当に僕たちに何もしてほしくないんだろう。一体多数の状態で一人も逃がすことなく一人で抑えるなんてできるはずもない。もう一度連携を取ることができれば助けを呼ぶことができるかもしれない。
そう思い、みんなとアイコンタクトを取ろうとしたときだった。
気づけば扉の前にいたヴィランは消えていて代わりに隣に足を振り抜いた状態で立っていた。そして僕の隣りにいたはずの佐藤君は遠くの災難ゾーンまで吹き飛ばされていた。遠くで土煙が舞っているのが見える。佐藤君にも何が起きたかわかっていないだろう。なにせ隣りにいた僕でさえ、蹴ったんだと理解するまでにかなりの時間を要したのだから。
「動くなと僕は言ったんだ。無用の暴力を振るわせないでくれるかな。こんな意味のないことはしたくないんだ。退屈でつまらなくて反吐が出る」
それからはここに居る誰も、微動だにすることができなかった。呼吸をすることすらためらわれるような緊張感の中、ただ時間だけが過ぎていった。このまま仲間がやられるのをただ見過ごすしかないのかと思っていたその時、突然隣りにいたヴィランは広場の方に跳躍した。そしてその直後扉が吹き飛ばされて開いた。
そこにいたのは、
「オール、マイト...オールマイト!!!」
待ちわびていた希望がそこにはあったのだ。
「おかしいな、助けは呼びに行けていないはずなんだけど」
「おや、貴方は。ご苦労様でした。よく一人で彼らを抑え込んでくれましたね」
「しかし、ここにいなかったはずのオールマイトが来ているということは他のプロヒーロー達が来るのも時間の問題ということだろう?何があったんだい?」
「ジャミングを担当していたヴィランがしくじりやがったんだ」
そう言って横から入ってきたのは死柄木と呼ばれている今回の襲撃のボスだ。体中に死人の手をつけている。
「普通に通信機器で助けを呼ばれたのか。それはそれは」
流石はヴィランクオリティというかなんというか。ならず者の集まりならこの程度だろう。
ガリガリとイラつくように首を掻きむしる死柄木の足元には血溜まりと粉々になった何かが落ちていたが、それが何かを考える必要はないだろう。明白だ。
「まあ、予定とは違うけどオールマイトが来てくれたということは本来の目的の平和の象徴の失墜が実行できるということじゃないか。他のヒーロー達が来る前にやりたい事をやってしまった方がいいね。他の生徒やヒーローが邪魔しないように援護するよ」
「助かります。私は脳無の援護をして平和の象徴を相手します」
そんな話をしていると、広場にいたヴィランはすべて制圧され死柄木達が殺そうとしていた生徒も奪還されてしまった。今までに見たことのない速さだ。奪還する時に死柄木に一撃を入れるおまけ付きである。
なるほど、強い。超人的なパワー、圧倒的なパワーもここまで極めればここまで強くなるものなのかと感心させられる。数ある増強型個性の中でも最高位の個性なのだろう。
持っている人は持っているものである。
「単純に羨ましいよ。そんなに強い個性をはじめから持っているなんてね。持っているとわかった時点で勝ち組の個性。そんなものが僕にもあれば...」
後ろの生徒たちを銃撃で牽制していく。脳無と呼ばれるヴィランとオールマイトが打撃による戦闘を繰り広げているが状況があまり芳しくない。オールマイトによる打撃の連打で衝撃が蓄積されていき、許容量をオーバーしつつある。それもオールマイトに傷一つつけることもなくだ。
どうやら、死柄木や黒霧はあの脳無とかいうヴィランがオールマイトを倒せるものだと考えていたみたいだがまったくもって実力不足だった。オールマイトの天敵のような個性を持っているヴィランだったが、圧倒的な力の前には無力だった。
蓄積され続けた力がついに限界を迎え、脳無はどこか遠いところへと吹き飛ばされてしまった。どうやら潮時のようだ。多くのヒーローが駆けつける足音が聞こえる。
「残念ではあるが、そろそろ引いたほうがいいんじゃないかい?死柄木君」
「弱っているはずじゃなかったのかよ、オールマイト!クソックソッ!!」
会話にならない。聞いていた話と違うだの何だのと喚いている。
「おいお前、お前がなんとかしろ。ここまで根回しをして襲撃してオールマイトに傷一つつけられなかったどころか、脳無を失って終わっただけなんて許されない。お前がなんとかしろ。いいな?」
血走った目で僕を睨みつけてくる。こちらに当たられても困るというのが本音だが、ここで成果を見せないと彼のバックにいる大物には合わせてくれないだろう。まだご機嫌取りは必要なようだ。
「やれるだけやってみるよ。回収地点は例の場所で頼むよ」
「...貴方が逃げられる事を祈っています。絶対に捕まらないでください」
それだけ言い残すと二人はワープゲートの中へと消えていった。
この場に残されたのは倒れた大量のヴィランとオールマイト。そして雄英生達。
「とても不本意なんだけど、どうやら君に痛手を負わせないと僕は彼らに歓迎されないらしい」
オールマイトが構えるのがわかる。まだ余力が残っているようだ。非常にまずい。
「徹底抗戦の構えだね。抗うならそれもいい。僕は欲しいものは必ず手に入れる」
殺気を放つ。日常生活の中で決して浴びることのないような密度の殺気に耐性のない学生達は次々と気を失っていく。まだ幾人か残っているようだが、その程度なら仔細なし。牽制とばかりにオールマイトにむけて銃弾をばら撒く。相手の躱す先を読んで銃を撃っているが当たり前のように回避される。
後ろから氷結の個性でオールマイトを援護しようとする学生に向けて一発発砲する。決してその生徒に当たる軌道ではなかったため、オールマイトは反応しなかったが、その生徒の前に弾が着弾した瞬間巨大な氷の壁がオールマイトと生徒達を隔てる。
「なっ!貴様の個性は異形型の個性ではないのか!」
「異形型の個性...それも間違いじゃないが、正しくはない。僕の個性はとてもささやかなものさ。殺人に特化した下らない個性。親の遺伝でね、僕はとある個性と氷結の個性の2つの個性を持ってるんだ。こんなことを敵である君に話すのもどうかと思うけれどね」
「殺人に特化...氷結の個性。どこかで聞いた覚えが、いや今はいい!貴様を捕らえて奴等のアジトを吐かせる!!」
まるで大砲でも撃たれたのかと思うぐらいの轟音を鳴らしながら拳を振るうオールマイト。一発でも当たれば意識は一瞬で持っていかれてしまうだろう。
「僕に聞いても無駄さ。そんなこと。まったく君の個性を見ていると僕の持つ個性がくだらなく見えてくるよ」
笑いながら、オールマイトの拳を蹴りを避けて避けて避けていく。
「君達は個性という物をどういうふうに理解している?個性とは記憶、遺伝、力。自分の個性に限らず、個性を深く知るとこういう芸当も出来るようになるのさ」
無造作に縦断をばら撒く。当然のように躱されるが、着弾したそばから全方位に向けて鋭い氷結のつららが急伸する。それだけではない、宙にある弾丸さえも急に動きを止め氷結の攻撃を撒き散らす。
不規則な攻撃の組み合わせ、それにより徐々にオールマイトの動きからは精細さが欠けていく。動きが鈍くなり、拳もより避けやすくなっていく。息からは白い息が出始めようやくそこにいた人々は異変に気付く。
「雪?天候を変えるほどの個性だと!?」
「銃弾に個性を乗せることも、個性の積み重ねによって個性を増強することもできる。この白銀の世界こそが僕の独壇場なんだ。君は徐々に力を奪われ、気付いたときには命すら奪われている。安心してくれていい、丁重に扱うから。君の死体は完璧に保存するよ」
戦いなれた地形を作り出すことができる。己の蹴りや拳、銃弾に個性を載せて地形、気候を作り変えていく。これこそが僕の戦闘スタイルだ。陰湿と罵ってくれても構わない。
僕は今までそうやって数々の敵を打倒してきたのだから。
「ぐうっ...」
脇腹に一発銃弾が撃ち込まれた。普段なら鍛え上げられた肉体で縦断なんて弾き飛ばしてしまうだろうがこの状況下ではそれも叶わない。この白銀の世界では僕の個性は強化され、相手の耐久力は下がる。それだけでなく単純に寒さから体力を奪われ思考も鈍くなる。簡単に言うと敵にとってのデバフフィールドみたいなものである。
長期戦になるほど此方に形勢が傾いていく。逃げるのも容易くなる。しかし、何事もそう思いどおりには行かないみたいだ。
ゴオッと僕の世界に豪炎が上がる。建物の天井付近に広がっていた雲は薙ぎ払われ、立ち上る豪炎が雪を溶かしていく。
「出し惜しみしてる場合じゃねぇな...」
「炎か...相性の悪い個性の子がいたのか。ただの火の個性持ちなら大した驚異でもなかったのだけど、君の個性は別格のようだね」
「あぁ、テメェの個性のおかげでデメリットなく全力で使えるみてぇだ。気は進まねぇけどな」
僕の雪が溶かされていく。幻想の世界から現実の世界へと引き戻されていく。
「はぁ...さてどうしようか」
途方に暮れていた時、ポケットの中の端末が震えていることに気付き手に取る。
『そろそろ時間です。ご準備を』
差出人の書かれていないメールだが、誰から来たのか分かる文面だった。オールマイトに傷をつけることには成功したし、今回はここまでで良しとしよう。
「オールマイトを殺せなかったのは無念だけど仕方ない。今回はここで下がらせてもらうとするよ」
「逃げられると思ってんのかよ」
「僕が逃げようと思ったら誰が相手であろうと逃げられるのさ」
姿が霞んでいく。さっきまでとは比べ物にならない勢いで室内の温度が低下していく。必死に炎の個性を噴出させるがかき消すには程遠い。
「また機会があれば会おう、オールマイト。そして雄英の生徒達」
吹雪が止んだ頃にはドライ6はその場から消え去っていた。