魔法少女まどか☆マギカ~絆の物語~   作:tubaki7

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第一章 始まりの物語
Ep.01 ―出逢い―


気が付くと、そこはどこかの地下道のような場所だった。暗い空間を非常用のライトが淡くともし、物々しい雰囲気を出している。

 

走っていた。どこへと聞かれればわからないが、とりあえずはその空間から出たくて、或いはどこかへ行かなければいけない気がして。

 

これはいったいなんなんだろう。自分の置かれた現状に視野を広げると、手の中にある小さなもう一つの手の感触に気が付く。自分に手を引かれ、息を切らしながら必死に自分についてくる小柄な少女。不安に顔を染め、その不安に押しつぶられそうになる心を自分の手をギュッと握ることで耐えているようだ。少年も、自分の前ではせめてもと思い安心させるように精一杯の笑顔を作る。心なしか、少女の顔に明るさが戻った。気休めにもならないだろうが、今はこうする以外に彼女を安心させる術を知らない。

 

 やがて、一つの扉がみえてきた。階段を登り、重々しい厳重な扉を開ける。金属と金属が擦れあう嫌な音が辺りに響き、その先に見えたのは・・・・一言で言えば、地獄絵図だった。つい数日前まではあそこを人や車が行き交い、青空の下自分たちも学校へと通っていた。その風景が、想い出をも今は見る影もない。

 

暗雲に浮かぶのは、巨大なシルエット。特徴的なのは、巨大な歯車とまるで西洋人形を思わせる容姿。そして、なんといっても上下逆さまというのがさらに不気味だ。

 

そして、そんな存在と相対するのは艶やかな黒髪のロングストレートを風に靡かせ辺りに浮かぶ遮蔽物を足場に戦う少女。自分たちと同い年くらいのその少女の戦うさまは、勇敢と思う反面、あの巨大な存在と比較するととても小さく頼りなく見える。

 

 

「・・・・これ、大丈夫なのか?」

 

「無理だろうね。彼女一人では荷が重すぎる」

 

「じゃぁ、どうしたらいいの?」

 

 

二人は足元にいる白い生き物に問う。どうすればこの惨状を止められるのか。どうやったらこの状況を打破できるのかを。

 

そして、生き物は可能性を提示する。

 

 

「それはキミ達次第だね」

 

「俺たち次第・・・・?」

 

「そうさ。二人にはとても大きな力が宿っている。それを解放すれば、世界をひっくり返せるほどの〝奇跡〟だって起こせる」

 

「奇跡・・・・」

 

 

ドクン、と脈打つ鼓動。いつの間にか手に握れれている白い棒状のものは、今まで自分の傍にあった〝力〟だ。

 

 

「だからまどか。僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 

「ダメだ」と誰かが叫んだ。「やめて」と悲願する声が聞こえた。

 

でも、二人は躊躇いもそれを聞き入れることもなく自らの決断に基づいて行動する。少女は〝希望〟を、少年は〝光〟を手に―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・夢オチかよぉ」

 

 

なんとも情けない声だが、あんな中途半端に現実じみたものを見たらそう言いたくもなる。見ていたものと見えているもののあまりにものギャップに一度目をぱちくりさせてから、少年は今自分がベッドから転げ落ちていることに気が付く。なんとも間抜けな目覚めだと心の中で溜息をついてから起き上がり暗く閉ざされている空間にカーテンを開けることで光を招き入れる。朝日の眩しさに目を細めながらも伸びをして、「シャッ!」と気合を一つ。

 

いつもの朝だ。まずは眠けを吹き飛ばす為に水で顔を洗う。洗顔料は少しキツめの清涼剤入りのものを使い、水で汚れと一緒に洗い流す。

 

 

「ニキビ、なし」

 

 

中学三年ともなると、もうそういう時期は過ぎた頃あいだが時期は時期であり、疎かにしているとできてしまうというのが人間の肌のデリケートな部分である。女子ほど過剰に敏感な反応は示さないが、それでも気を付けることに越したことはない。次に取り掛かるは歯磨き。此方は至ってこだわってすることなどはないが、それでもテレビでやっていた歯を綺麗にする磨き方、などの特集を思い出しながらワシャワシャとブラシを動かす。口の中の歯磨き粉を水でゆすぎ、洗面台に吐き出す。清々しい、すっきりとした気分に頭が今日一日の始まりを理解して動き始める。幸い、頭髪は短めな為そこまで手間をかけることはない。寝癖を先日新調したスプレーで濡らしてから手串でワシャワシャと散らしてからワックスで整える。良い匂いのするこの整髪料は好んで愛用しているものであり、これでないとイマイチ締まらない。

 

手に類ているワックスを洗い流して時計に目をやれば、いい時間帯となっている。特に急ぐ必要もなくマイペースで制服に着替えていると隣の部屋からドタバタと音がしてきて、直後にゴン!という音の後「いったぁい・・・・」と恨めしそうな声が聞こえてきて苦笑いを浮かべる。騒々しいとは思わないが他人といる時とこういう時のギャップがあまりにも激しすぎて少々心配になってしまう。悪く言えば、化けの皮がはがれないかが心配だ。

 

 そろそろ部屋を出るために靴を履く。鞄を肩に担いで扉を開けば、隣の部屋からも同じく出てくる。金髪にロールしたヘアースタイルに、女子中学生とは思えないプロポーションを持ちながらも、その中身は全くのポンコツ。良い意味でのポンコツだ。まぁポンコツに良いも悪いもあるのかは知らないが、そう言っておかなければ彼女が少しかわいそうに見えてしまうのでそうつくろっておくことにし、再び苦笑い。

 

 

「遅刻遅刻!・・・・って、アレ?」

 

「おはようマミ。それから・・・・」

 

 

数回目をぱちくりさせたあと指の先を見る。視線を少年の顔から自分の足元へと移すと、左右でまったく違う履物をしていることに気が付いてから赤面し、「ついでに」と言った彼の言葉に耳を傾ける。

 

 

「今俺と鉢合わせてるってことは、いつも通りの時間。相変わらず、そういうヘンなとこで慌てる癖は治らないな」

 

 

苦笑いから本格的な笑いにシフトしつつある為クスクス程度にそれを抑える。が、それが彼女に更なる羞恥心を与えてしまい、挙句は恥ずかしさのあまり少し涙目になりながら部屋に戻っていった。耳を少し澄ませば、扉の中からすすり泣くような声が聞こえてきた。

 

 

「…コホン、おはよう英雄君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の名前は神田英雄(じんだひでお)。中学二年生。並んで歩いているのは巴マミ。彼女も同じく中学三年生だ。二人は似た境遇でちょっとした理由から現在同じマンションにて一人暮らしをしている。その為幼馴染という間柄でなくてもこのような関係が成り立っている。友達以上恋人未満という間柄ではあるが、言ってしまうとこの二人、淡い恋心もあったりなかったり。だが互いにそれを認識することなくこのような距離感を保っていた。

 

 

「でな、その時先生がさ――――と、ワリィ、俺ここで」

 

「あ…そうね。それじゃ、ここで」

 

 

二年と三年とでは玄関が違う。そのためここで別れることとなるため、二人がこの見滝原中学校に一緒に登校するのはここまでだ。クルリと振り返って少しスキップ混じり踏み出すマミだが、途中で何か思い出したように此方を振り向いて。

 

 

「今夜は英雄君の好きなハンバーグ作っちゃうから!寄り道しないで帰ってくるように!」

 

「大声で言うな!恥ずかしいだろ…」

 

「今朝のお返し。それじゃねっ」

 

 

してやられた、と内心で舌打ちしてとっとと下駄箱にて土足と上履きを履きかえる。

 

 

「おはようヒデ君!」

 

 

元気そうな声に振り向けばそこにはいつもの仲良し三人組が。左から順に志筑仁美、鹿目まどか、そして美樹さやかだ。さきほどの声はまどかによるものだ。

 

 

「なんかさっき大声で恥ずかしいセリフ聞こえてたけど、もしかして彼女かァ?」

 

 

からかうような、いい獲物をみつけたような感じでさやかがにじり寄ってくる。これはマズい奴に目をつけられたと心底面倒臭そうにする英雄だがその後ろから仁美がさらに追随する。

 

 

「先ほどの方、たしか三年生の方でしたわね。お名前は残念ながら存じ上げませんが、とてもかわいらしい方でしたわ」

 

「ほほぅ?ヒデも隅に置けないねぇ」

 

「おっさんかお前は。ンなことよりお前こそどーなんだよその後」

 

「あ、アタシ?いやぁ…イマイチかね」

 

 

切り替えされてあははと苦笑いしながら頭を掻くさやか。

 

 

「そういえば、今日転校生の方がくるそうですわよ?」

 

「へ~、どんな子かな?女の子かな?」

 

「どっちだろうな。・・・・と、もうこんな時間か。教室行かないと遅刻だ!」

 

 

話題がそれたことにシメシメと思い時計を見て半ば棒読みでそう吐き捨ててからダッシュする。そのことに気が付いたさやかが「コラ待て!」と言いながら追いかけてくる。

 

 

「もう二人ったら・・・・」

 

「ウフフ…さ、私達も参りましょうか?」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この見滝原市では近代都市計画というものが進んでいる。所謂、漫画やアニメなのでよく描かれる都市風景、と言えば想像に難しくないだろう。その計画はこの街全体に浸透しており、今でも開発や建物のリフォームなども盛んに行われている。そして、この見滝原中学校もその影響を受け3年前に改装されたばかりである。教室は職員室と保健室、そして更衣室などを除き全面ガラス張り。生徒の机や椅子も木材と鉄パイプを組み合わせたものからボタン一つで床からせりあがって机と椅子を展開するという仕組みになっている。それでも教材は往来と変わらない紙でできた教科書とノート、そしてシャーペンと、その組み合わせだけはいつになっても変わらない。

 

そんな教材達は、今は鞄の中で出番を待っている。授業が始まる前のSHRの時間なのだが、いかんせん自分たちの担任はなんとも言い難く気丈が荒い。

 

事、恋愛が絡んで来ればかなりメンドクサイのだ。今も一番前の列に座っている中沢という名前の男子生徒を捕まえて目玉焼きは醤油派か、ソース派かで問いただしている。挙句中沢の回答などそっちのけで自論をこれでもかとマシンガントークだ。正直、これで教員免許を取れるのだから試験なんて楽勝なのではないかという錯覚さえ感じる。

 

 

「センセ~、そろそろ転校生を紹介してほしいんですけど」

 

 

さやかの一声でようやく事態が進展する。扉の外まで丸見えなつくりだから正直もう見えてはいるのだが、それはホワイトボードの向こう側な為、足元しか見えない。

 

見えていた足が、動き出す。服装からしてすでに女子ということは確定し、あとはどんな子なのかという期待を膨らませて登場を待つ。

 

扉が開く。まず目に留まったのは、美しく靡くロングの黒髪。気品のある、どこかの名家のお嬢様のような風格。綺麗な素肌に少しキツメな目つきはまさに漫画やアニメのキャラクターをそのまま現実に引っ張り出してきたかのようだ。

 

総称して、綺麗でかわいい。この言葉が一番合う。

 

 

「暁美ほむらです。よろしくおねがいします」

 

「暁美さんは心臓の病気で今まで入院していたんです。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転校生の宿命と言えば、質問攻め。これは例外なく行われる伝統行事と言っても差支えないんではなかろうかと思うほどによく見る光景だ。それを今暁美ほむらは受けている。四方八方から一辺にモノを言われるので聞き取るのに苦労するが、彼女にとってそれは心底でどうでもいいものだった。

 

だから、適当にあしらってほむらは席を立つ。向かった先は、まどかの席だ。

 

 

「鹿目さん、保健室に連れて行ってくれるかしら?少し具合が悪くて…」

 

「あ、うん。ヒデ君は・・・・って、あれ?」

 

「なんかさっき呼び出されてたよ?ホラ、今朝の先輩に」

 

「あ~・・・・じゃぁ仕方ないかな。それじゃ暁美さん、案内するね」

 

 

まどかが席を立ち、ほむらを連れて教室を出る。廊下へ出て右にまっすぐ。校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に差し掛かったところで、ほむらとまどかの位置が入れ替わった。角を曲がる際、内側にいる人間が小回りになりそのせいで先頭になってしまうというのは歩幅を考えたら自然なながれだ。実質、ほむらの方がまどかにくらべて大きい。が、この位置に不思議な感覚を覚えたまどかは首を傾げる。それが何かは、わからないが。

 

ふと、ほむらが立ち止まる。

 

 

「どうしたの?」

 

「・・・・鹿目まどか。あなたは自分の人生が尊いと思う?家族や友達を、大事にしてる?」

 

 

どういう意図で言ったのかはわからない。だが、その言葉の奥に隠されたなにやら暗いものを感じ取ったまどかはそれに反発するかのごとく答える。

 

 

「してるよ!パパもママも、弟のたつやも、さやかちゃんや仁美ちゃん。それに、ヒデ君も。私の大事な人達だよ」

 

「・・・・そう。なら、ヘタに自分を変えたいなんて思わないことね。でないと、一番大事なものを失うことになるから」

 

 

いったいどういうことか。先ほどの質問と同じく意図なんてわからないが、その言葉が持つ重みを感じ取ったまどかはそれ以上なにも言えず、とうとうどうしたらいいかわからずに困り果てる。

 

 と、そこへ。

 

 

「お~いまどか!」

 

「あ、ヒデ君」

 

「・・・・」

 

「さっき先生呼んでたぞ。おまえまたノート提出し忘れたろ?」

 

「あっ、やっちゃったぁ・・・・ヒデ君、ちょっとお願いしてもいいかな?」

 

「おう。行ってこい」

 

「うん、ありがとう。ごめんね、暁美さん」

 

「大丈夫よ。それから、私のことはほむらでいいわ」

 

「うん。じゃぁほむらちゃん、ごめんねっ」

 

 

ほむらに謝罪し、あとを英雄に任せて足早にかけていく。それを見送ったあと、英雄は振り返り。

 

 

「悪いな。選手交代で」

 

「…いいえ、好都合だったわ」

 

 

そう言って、心なしか笑ったように見えた英雄は面食らったように目をぱちくりさせる。それを不思議に思ったほむらが問うと、

 

 

「イヤ、そんな顔もできるんだなとおもってさ。なんかクールビューティってイメージだったから新鮮で」

 

「・・・・そうでもないわ。おもしろかったり楽しかったりすると笑うし、感動したときは涙だって出る。そんな普通の女子中学生よ」

 

「なんか皮肉めいて聞こえるんだけど…もしかして怒った?」

 

「ええ、かなり」

 

 

そう言って、今度ははっきりとわかるぐらいに笑うほむらをみてこちらも笑顔になる。

 

 

「改めて、俺は神田英雄。神なんてだいそれた漢字ついてるけど全然そんなじゃないから。あと、名前負けしまくりのどこにでもいる男子中学生」

 

「暁美ほむらよ。私も名前負けしてるわ。お互い様ね」

 

「そうか?俺にはそうは見えないけどな」

 

 

そんな他愛のない会話をしながらほむらを保健室までおくり届け、なにかあったら呼んでくれと携帯のアドレスを教えてから保健室を出ていこうとする。そんな彼のことを、ほむらは呼び止めた。振り返ると、先ほどの凛々しい表情とはまったく想像つかないようなほど真逆な、どこか悲しげな顔になっていた。自分の目が確かなら、今彼女の瞳はうるんでいる。

 

まさか、この期に及んで一人じゃ寂しいなんて言うんじゃないだろうか。いくらなんでもこの年齢にしてそれはないだろうと思うことでその選択を消去して、でなければなんなのかと考える。

 

 

「えっと、どうかした?」

 

「・・・・英雄。貴方は、大切な人はいる?」

 

「あ~・・・・特定の異性って言われると回答に困るけど、でも友達ならいるよ。でも、なんで?」

 

「いいの。それだけ聞きたかっただけだから。ごめんなさい。ヘンに呼び止めてしまって」

 

「いいって。んじゃ、またな」

 

 

今度こそ出ていこうとする英雄。が、またしてもほむらに止められてしまう。しかも、今度は言葉ではなく、背中から抱き着いてくるというアクションでだ。

 

美少女に、後ろから手を回されている。その出来事に中学二年生の英雄の脳内はパニック状態に。いったいどうなっているんだと思った矢先、僅かにだが、泣くのを堪えるかのような息遣いと声が聞こえてきた。

 

 

「・・・・親離れできない子供じゃあるまいし」

 

「・・・そうね。でも、少しだけ・・・・ほんの少しだけでいいの。そうしたら私、また歩ける気がするから」

 

 

そんなほど心身を病んでいたとでもいうのか。仮にも心臓の病だ。治ったとはいえ入院している間の精神状態は相当なものだったのだろう。英雄はそれ以上なにも言わずに自分の腰に回されているほむらの手に自分の手を重ねた。なんとも繊細で綺麗な手なんだろうか。そんな手が、まるで何かに縋るかのごとく震えていたのを、英雄はただそっと撫でた。

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