「ちょっとヒデ!これは一体どーいうことなのさ!?」
杏子との一件が収まった後、さやかは英雄に詰め寄る。聞きたいことが山ほどあるが、今もっとも知りたいのは彼がウルトラマンだったという事実。
「あんた、今まで黙ってたってこと?」
「・・・・ごめん」
「ちょっとさやかちゃん」
まどかがさやかを宥めるように間に割って入る。
「あたしは別に怒ってるわけじゃないの。ただ、どうして今まで黙ってたのかってことが知りたいのよ。あたし等友達でしょ?」
さやかが納得いかないのは、友達ならどうして今の今まで黙ってたのかということ。情に熱く、かつ友人は大切にするさやかだ。英雄の、そのすこしよそよそしいまでの態度が気に入らなかったのだろう。
でも、いくら友達でも話せないこともあるわけで。それに英雄自身この力のことをよく理解していない為それほど詳しい話もできない。そんな得たいのしれないものを持っている自分のことをもしこの二人に知られてしまったら、そう思うと英雄は恐怖で言うことができないでいた。魔法少女とも、魔女ともいえないこの力。見る人から見れば化け物同然のそれは、今の英雄を苦しめている要因でもある。
黙りこむ英雄。そんな彼の背中に、さやかは溜息を吐く。
「・・・・わかったよ。言いたくないならそれで。じゃぁ、せめてあの杏子って奴のことは話してくれる?」
かんねんしたように息をついて語調もやわらかいものになる。それに英雄は内心謝罪と感謝の意を述べてから語りだす。
「彼奴と初めて逢ったのは一年前。俺とマミ、それから杏子の三人でいつも一緒だった。最初は彼奴とも距離があってさ。でも一緒にいたりする内に仲良くなって・・・・そんな時だ。ある日突然、杏子は俺達の前から姿を消した。マミに何を聞いてもはぐらかすように笑うだけでさ。結局のところ、俺もわかってねーのさ。ただ、一つわかってるのは、彼奴も俺と出逢った頃から多分魔法少女をやってたってことぐらいだ。そうだろ?QB」
「英雄の言う通り、杏子は僕と契約した魔法少女さ。といっても、見滝原じゃなくて、隣町の風見野だけどね」
QBの補足を聞いて納得したようにさやかは頷く。そして次にほむらの方を振り返って。
「オッケー、杏子って子の事は少しだけわかった。あとは、転校生、助かったよ。正直アンタと英雄がいなかったら危なかった・・・・ありがとう」
「…今回のようなことはなるべく避けなさい。でないと、この先もたないわよ」
「わーってるって。そんじゃね」
踵を返し、ほむらはどこかへと立ち去って行った。
◇
その日の夜。自室に戻った英雄は今回のQBの行動に疑問を抱いていた事を整理する。
まず、あの執拗なまでのまどかに対する執着。これにかんしてはほむらにも同じことが言えるが、彼の場合はそうではない。こう、どこか裏がある気がしてならないのだ。それがなんなのかはよくわからないが、たぶん契約すること自体になにかしらの意味があるのだろう。
二つ目として、QB側になにもメリットがないということ。もし契約した魔法少女が戦うことを放棄した場合、QBは願いを叶えたという事実だけが残り、叶えてもらった契約者側は願いを叶えてもらった上に人知を超えた力を得るわけだから、これだとなんの意味もない。これだけのデメリット要素がありながら、どうしてあそこまで契約を迫るのか。
「・・・・まさか、魔法少女になることそのものに意味があるのか?」
もし、契約した時点でなんらかの目的が達成されているのだとしたら。そうするだけで、QB側になんらなかのメリットがあるのだとしたら。それは、恐らく魔法少女側にも存在する大きなデメリットがあるに違いない。魔女と戦うという任を放棄されても、舞い込んでくるメリットがQB側にはあり、放棄してもしなくても、魔法少女側に存在するデメリット。・・・・いや、杏子の示した一番重要なものはグリーフシードという内容。このグリーフシードが一体なんなのか。ただ魔女の卵で穢れを浄化するだけののものなら、さして重要でもない。穢れがたまってきたら戦闘を控えればいいだけの話だ。
が、それをしない魔法少女達。善意で戦っていたマミとさやか、そして反対にまるで自分の為に戦う杏子。この行動が意味しているものはなんだ?いったいなにがおかしい?
構図的には完璧に見えて、そうでない点がいくつもある。ということはつまり――――
(QBの奴…まさか何かを隠してる?)
と、その時。来客を知らせるチャイムが鳴った。時計を見てみれば午後6時を指している。こんな時間に誰だと思い玄関を開けると、胸元から下に衝撃が走り、バランスを保てなくなった英雄はそのまま後ろに倒れてしまう。痛みに頭をさすりながら一体なんだと目を開くと、そこには赤毛のポニーテールが。それだけで、この人物が誰かを判断するには充分なものだった。
「杏子!?」
「へへ、来ちまった」
にこやかに笑む杏子。先ほどまでさやかと命のやり取りをしていたとは思えないような笑顔の少女にギャップを感じつつ、英雄はとりあえず杏子から躰を離す。
「おまえ、さっき帰ったんじゃ…」
「アタシ、色々あって家ないじゃん?だからここに泊めてよ。ビジネスホテルとか、空いてるマンションの部屋勝手に借りるのも飽きたしさ。やっぱここが一番落ち着くんだよ」
そう言ってズカズカと勝手に入って行く杏子。誰も許可していないという英雄だが、すでに杏子はソファに座ってくつろぎモード全開である。
「色々マズイだろ!?」
「マズいって、何が?」
「あのなぁ…わざとやってるなら怒るぞ」
「お~恐い恐い」といってまったく気にしていない杏子。さすがに年頃の男女が一緒というのはかなりマズい。それに加えてここ最近はまどかがちょくちょくこの部屋に来て料理なんかを作ってくれている。今日はくることはないだろうが、もし万が一この光景を見られたらどうなるかたまったものではない。
それに、あの時みた杏子の顔が、脳裏から離れない。彼女は野性的で喧嘩っ早いところもあるが根は優しくて思いやりのある女の子だ。だが、その杏子があんな笑顔を浮かべたことが今でも驚愕でしかない。一体、何が彼女をそうまで変えてしまったのか。
「そんなことよりさ、風呂貸してよ。アタシ汗かいちまってさ…あ、一緒に入る?」
「入るかッ!…だいち、着替えなんてないぞ」
「だいじょーぶだって。別に裸でも」
「大丈夫じゃねーだろ!・・・・ハァ」
もうすっかり杏子のペースだ。これ以上は主導権を握られると完璧にマズいと英雄は奮起してよし、と気合を入れる。
「あのな杏子。ここに住むのは色々とマズいんだ。だから、百歩譲って俺の隣に住むことは許可してやる。代わりに、マミの部屋を使え。さすがに男女ひとつ屋根の下ってのはだな――――」
多少年寄りクサい説教をしていると、急に杏子が抱き着いてきた。またしてもあたふたする英雄だが、よく見れば彼女の肩が僅かに震えているのに気が付く。
「…いいじゃんか、別に。要はそこんとこわきまえてればいいんだろ?アタシだって一応女だぜ。わかってるよ。迷惑はかけねーって約束する。・・・・だからさ、ここにいさせてくれよ・・・・」
最後の方は、杏子らしからぬ弱々しい声で聴こえた。そうまでされては、男として強く拒否はできないわけで。彼女の〝特殊な事情〟も知っている英雄としては杏子をそれ以上拒むこともできず、
「・・・・わかった、わかった!いいよ、許可してやる!」
「ホントか!?」
「ただし!俺意外の人間に見つからないよう行動すること!いいな!?」
「わーってるって。サンキュー、英雄」
一変かわって明るくなる杏子。我ながら甘いなと溜息をつく。でも、先ほどみた彼女の弱々しい部分は確かに本心からくるものだった、と納得することでこのことに決着をつけた英雄だった。