魔法少女まどか☆マギカ~絆の物語~   作:tubaki7

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Ep.08 -秘密-

 

「・・・・なぁ、杏子」

 

「ん~?」

 

「いい加減そこどいてくれないか。テレビが見えない」

 

「や~だ」

 

 

深く溜息をつく。杏子がここに来てから約一週間あまりが過ぎたものの、彼女は依然としてここから立ち去ろうとはしない。英雄が許可したのだからあたりまえだが、そろそろ一般常識というものをわきまえてほしいものだ。風呂から出れば全裸でウロウロし、さも当たり前のように寝る時は此方のベッドに入ろうとしてくる。そして今、彼女は英雄の膝の上で風呂上りのアイスを頬張りながらテレビを見ているという状況である。基本、英雄が学校から帰ってくればいつもこんな感じだ。約束した風呂とトイレ以外は毎回べったり。これでは子供と言われても文句は言えないが、そうも言えない理由が一つ。

 

 

(いい匂い・・・・って、これは俺の使ってるシャンプーの匂いだろ!でも、こう目のやり場だけは・・・・!)

 

 

視線を少し下げれば、肌色の双丘が見える。それを見ながら着痩せするタイプか、なんて考えている自分を全力で殴り飛ばす。なにをやっているんだ何を。

 

 

(落ち着け俺、相手は杏子だぞ!?)

 

 

彼女は友人であって、恋人ではない。そもそも恋愛対象ですらないのだから、こういう煩悩は今すぐに捨て去るべきだ。心の中で念仏を唱える英雄。思いつくかぎりのそれっぽい呪文のようなものを唱えていくが、それも適当すぎてさすがに怪しいと思うが、生憎とそれ以外できることなどないのでこのまま即興の念仏を唱え続ける。

 

 

「なぁ英雄~、さっきっからなにやってんだ?」

 

「おのれの中の煩悩と戦ってんだよ」

 

「ふ~ん・・・・」

 

 

なにやらいい事を閃いたと笑みを浮かべる杏子。絶対にそんなモンじゃないと見たら確信するものだが生憎英雄は今目を閉じている為それも見えない。しめしめと杏子はバレナイよう笑いを堪えながらソウルジェムを指輪から宝石の形へと変える。ソウルジェムが赤い光を放ったかと思うと、急に英雄が悶え始めた。

 

 

「グアアァァァァァァ・・・・き、杏子!おまえ、また魔法をそうやっ、ガアアアアアア!?」

 

「アハハハハハッ!やっぱおんもしれー!」

 

 

英雄の脳内に、色であらわすならピンクな光景が次々に送られてくる。あの手この手で杏子は自分の思い描いた煩悩の数々を強制的に英雄に流し込みおもちゃにした挙句眠くなったからといい立ち上がる。英雄はようやく解放されるもすっかり疲労しきった様子で倒れてしまう。それを見て杏子は満足したように笑った。

 

 これが、主にこの部屋で繰り広げられる日常の一コマである。あれから杏子は英雄から言われたことを遵守してはいる。だが、やはり魔女狩りともなると人が変わったように好戦的になる。

 

 

そして今日も今日とて魔女狩り。今回は運が良かったようでグリーフシードを落としていった。黒い卵を拾いながら満足そうに笑むと、それを今度は真剣なものに変える。急に変わった杏子の様子に首を傾げた英雄はふと、後ろを振り返る。そこには、綺麗な黒髪がチャームポイントの暁美ほむらが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち寄ったのは近所のゲームセンター。ここにはさやかとまどかともよく寄り道していくが今日は休日。人通りも多い為、見つかるなんてことはないだろう。

 

ダンスゲームを余裕で踊りながら、杏子はほむらの話に耳を傾ける。

 

 

「近々、この街に〝ワルプルギスの夜〟が来るわ」

 

「へぇ・・・・なんでそんなことがアンタにわかるのさ」

 

「調べたのよ。ワルプルギスは最悪の魔女、今までの魔女とは格が違う。だから今日は協力を要請しに来たの」

 

「なるほどねぇ・・・・」

 

 

踊りながら少し考える杏子。それほどまでに強力な魔女なら、グリーフシードを落とすのはまず間違いない。そのワルプルギスとやらがどんなものかは知らないが、こうして協力を仰いでくるということはつまりそういうことなんだろう。一人では絶対に倒せない。そう確信があるからこその頼みだということは杏子も理解できた。そして、チラリと英雄を見る。もし、この協同でワルプルギスの夜を倒すことができたら、きっと彼も自分の事を認めてくれる。マミなんかよりも、自分だけを見てくれるかもしれない。そう思った杏子はゲームのフィニッシュを決めると振り返り、ポッキーを差し出しこう言った。

 

 

「喰うかい?」

 

 

それは、彼女なりの承諾の意味であった。こうしてほむらは杏子という協力者を得て来たるワルプルギスの夜へ向けての共同戦線を結ぶ。その理由が英雄に認めてもらいたい、自分だけを見てもらいたいからという理由が大きなところであるにしても、彼女の戦力は大いに役に立つ。まどかの契約阻止とワルプルギスの夜討伐、そして彼女の行動理念であるもう一つの理由。神田英雄を守りきるという目的のためには重要な〝駒〟となってくれるに違いない。杏子自身、英雄には酔心、依存しているとさえ見れる感情がある。彼にいったいなぜそこまで依存するかを〝見てきた〟ほむらには彼女を誘い込む餌として英雄はうってつけだったと言える。

 

 とは言うものの、このことを良く思ていないのもほむらの本心ではあるが、背に腹は代えられないし手段を選んでいる余裕もない。

 

もう誰にも頼らないと決めたからこそ、彼女は1を救う為に10を捨てる方法を選んだのだ。たとえ、それで自らがどんなに傷つくことがあっても。

 

そして、場所は変わり噴水広場。時間はすっかり日も暮れた夜19時。駅も近いこの場所だが、そうに賑うのは休日の昼間くらいでこの時間帯にはほとんど人影はなく、道路を車が通り過ぎていくくらいだ。そんな場所で、ほむらと英雄は並んでベンチに座る。噴水がライトアップされ色とりどりに輝く水がなんとも美しい。

 

 

「・・・・本当に来るのか?その、ワルプルギスの夜って」

 

「ええ、本当よ」

 

「まるで見てきたみたいだな」

 

「・・・・見てきたもの。実際ね」

 

 

英雄のつぶやきにほむらはいつもの無表情で返す。

 

 

「え…?」

 

「・・・・英雄」

 

「お、おう」

 

「・・・・あなたはどうするの?戦うか、逃げるか」

 

 

ほむらの問いにそれがワルプルギスの夜と戦うか否かを訊いていることに気付き、すこし考える。

 

 

「俺は・・・・正直、よくわからない。この力がなんなのか、自分が一体何者なのか・・・・」

 

「そう・・・・」

 

「なぁほむら。俺はどうしたらいい?どうすれば答えがでる?」

 

 

そう訊いたところで、答えなどでるはずもない。それはほむらも英雄もよく分かっている。一番得たいのしれないのはこの英雄が持つ力のことだ。魔法少女でも、ましてや魔女でもないこの力。いったいどこから来て、なぜ存在しているのかすら不明である為、英雄はさらにわからなくなる。

 

 

「光、とか、適合者とか・・・・もうわけわかんねーよ・・・・」

 

「…最初にその力――――たしか、ウルトラマン、だったわね。それを見た時、私は神が現れたのかと思った。でも、それは間違いだった。だって、こんなにも人間臭いんですもの」

 

 

そう言って、からかうかのようにうっすらと笑みを浮かべる。普段絶対に他人の前では見せないような感情ある温かな表情を見せてくれる彼女が、ちょっとだけ愛おしく思えた。でも、気がかりなのはそこも英雄にとっては不思議な点の一つだった。

 

この子は、どうして自分にだけこんな顔をするのだろう?

 

初めて出逢ったはずなのに、どこか懐かしい感じがする。そして夢に出てきた・・・・偶然にしては出来過ぎている。必然なら、根拠が曖昧すぎて説明できない。なら、この不思議な感じはなんなのか。まどかも同じものを感じているという。やはり夢に出てきたことといい、今起きていることといい、やはりなにか関係があるんじゃないかと思う。

 

 

「…なぁほむら。きみはどうしてそんなに俺に優しいんだ?」

 

 

なんて質問が思わず零れ落ちる。それにほむらは一瞬切なそうな顔をしたあと、またいつもの仏頂面に戻ってしまう。応えは・・・・沈黙。答えられないのか、もしくはそうしたくないのか。どちらにしても、彼女にとってはあまり触れたくない話題だったか。

 

だが、ほむらは口を開く。

 

 

「・・・・好き、だからかしら」

 

「え…?」

 

「・・・・佐倉杏子には美樹さやかに手出ししないよう私から念を押しておくわ。貴方は、いつも通りの貴方でいればいい。・・・・それじゃ、私はこれで」

 

 

訊き返したところで答えるはずもなくほむらはベンチから立ち上がり踵を返す。去りゆくその背中を眺めていた・・・・その時。携帯のマナーがポケットの中で震え、ディスプレイを見ると鹿目まどかの文字があり通話ボタンを押して電話を受ける。

 

 

「もしもし」

 

《もしもしヒデ君!?大変だよ!さやかちゃんと杏子ちゃんが・・・・》

 

「――――わかった、すぐ行く」

 

 

通話をきると、ほむらの方を見る。どうやら会話が聞こえていたらしく、先ほどとは打って変わって険しい表情だ。

 

 杏子とさやかが、また戦っている。その一報が入ったのは夜の20時ごろのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原駅から少し離れた鉄橋の上。下は国道が走り、トラックなどの貨物用車が夜間の配送の為せわしく通り過ぎていくのが見える。とはいえ時間も時間なのでさほどここからインターへと入って行く車両は多くなく、人目にも気づかれにくい。そんな場所に、杏子とさやかは立っていた。

 

 

「おまえ・・・・!」

 

「ハン、こないだのヒヨッコじゃん。なんか用?」

 

「別に…」

 

「あっそ。じゃどいてくんない?邪魔なんだけど」

 

 

これで、さやかが大人の対応をして道を開ければよかったんだろう。だがそうはせず道のど真ん中に立ったまま、杏子を睨んだまま動かない。

 

 

「・・・・どきな、アタシの歩く道だよ」

 

「その前に、一つ謝って」

 

「謝るぅ?アタシが、誰にさ」

 

「マミさんにだ!」

 

「・・・・あぁ、アレね。別にいいじゃんか、もういない人間の事なんてどう言おうが勝手だろ?」

 

 

悪びれるようすもない杏子にさやかはさらにイライラを募らせる。それを見た杏子はニヤリと口元を歪ませた。

 

 

「いいねェその目・・・・やる気かい?なら、どっからでもかかってきな!」

 

 

魔法衣を展開する。槍を肩でかつぎ、指をこちらに向けて手前に引くような仕草、いわゆる挑発行為をしてくる。冷静さを欠いたさやかは、まんまとその誘いに乗るようにソウルジェムを指輪から宝石へと変えた。

 

 

「さやかちゃん!?」

 

「どいててまどか。これはアタシとあいつの問題だ…まどかまで巻き込むわけにはいかない!」

 

 

そして、遅れて英雄とほむらも現れる。

 

 

「どういうこと。話が違うわ」

 

「やめろ杏子!おまえ、またこんな・・・・」

 

「下らないって?でもね英雄、今回吹っかけてきたのはアッチなんだけど」

 

「マミさんを侮辱したこと・・・・絶対に許さない!」

 

「ハン、かかってきなド素人。また返り討ちにしてやんよ」

 

 

余裕の表情と態度。さやか自身明らかに実力差の開きがあるのはわかっていたが、それでも引き下がるわけにはいかなかった。マミを侮辱すること、それはすなわち英雄をも侮辱されたということに繋がる。情に人一倍熱いさやかはそのことが心底許せなかった。

 

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

 

もはやさやかに冷静さはない。今また二人が激突するようなことがあれば、それこそワルプルギスの夜どころではなくなる。これを危惧していたほむらだったが、やはりこうなるかと苦虫をかみしめたような顔をする。英雄も止めに入ろうとエボルトラスターに手をかけるが、それも躊躇いによって阻まれる。力を使う、ウルトラマンになるということが、英雄に大きな影を落とす。

 

現状、動けるのはまどかのみ。それを知ってか知らずか、まどかは「さやかちゃん、ごめん!」と早口で言いさやかのソウルジェムを放り投げてしまう。落ちていく青い宝石はちょうど下を通りかかった貨物トラックの荷台に乗ってみるみる内に遠くなっていく。

 

 

「ちょっとまどか何すんのさ!?」

 

「こんなのよくないよさやかちゃん、どうして――――、さやかちゃん・・・・?」

 

 

急に、ホントに急にさやかがまるで糸を失った操り人形のようにまどかに倒れた。目は開いたまま、瞳孔も同じ。いきなりのことに動揺が走る中、ほむらがその場から消えた。

 

 

「今のはマズかったよまどか。まさかきみ、親友を放り投げるなんて」

 

「え・・・・?」

 

「おい、どういうことだよ?」

 

「何言ってんだよQB、さやかならそこに・・・・」

 

 

いるじゃないか。そう言おうとして、英雄はあることに気が付いてしまう。

 

まるで抜け殻になったかのような躰。そして、投げ捨てられたソウルジェムと直後のほむらの行動。これじゃ、まるで――――。

 

 

「きみこそなにを言ってるんだい?それはさやかの〝抜け殻〟だよ。〝さやかは今、まどかが投げ捨てたじゃないか〟」

 

 

気づきたくなかった真実、ずっと引っかかっていたことが、ようやく解消された。しかも、最悪の形で。

 

 

「・・・・、どういうことだオイ!?此奴、死んでるじゃねーか…!」

 

 

首の頸動脈に手を当てた杏子が驚愕の表情で言う。

 

 

 

「死んでるって・・・・どういうことだ!?」

 

「そのままの意味さ。魔女と戦ってもらうのに、わざわざ傷つきやすいまま、壊れやすいままの状態で命がけで戦ってもらうほど僕らは非道じゃない。だから戦い安い姿に変えてあげたのさ。魂を肉体から切り離し、ソウルジェムとしてね。肉体はただの器で、戦う為の道具でしかない。ソウルジェムは肉体から100Ⅿ以上離れるとその効力を失ってしまうから、こんな事態にならないよう指輪に変えて常に持ち歩いてもらっているからよほどのことがない限りこんなことは起きないんだけど・・・・」

 

 

と、感情のない声でいうQB。まるで他人事のように説明する白い生き物の頭を鷲掴みにし、杏子は怒鳴る。

 

 

「ふざけんじゃねェ!これじゃアタシら、みんなゾンビにされたようなモンじゃねーか!」

 

「キミ達人間はいつもそうだ。真実を知ると決まってみんな同じ反応をするね。僕らは同意の上で契約を結んだはずだけれど・・・・わけがわからないよ」

 

「・・・・知ってたのか?マミはこのこと、知ってておまえと契約したのか?」

 

 

沸々と湧き上がる感情。それが怒りだと気が付くまで、すこしの間時間が掛かる。英雄はその怒りを抑えようと、息を深く吸って、吐くを繰り返す。が、そのスピードはどんどん加速していく。落ち着けと言い聞かせるほどに、怒りがこみあげてくる。

 

 

「いや、知らないよ。それにあの時はそんな余裕さえなかったからね。なんせあの時は――――」

 

「やめろ・・・・」

 

 

それを言わせてはならない。聞かせてはならない。知らせてはいけない。杏子は叫ぶ。

 

 

「あの時は――――」

 

「やめろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あの時は、キミヲイキカエラセルタメニ、カノジョハボクトケイヤクシタンダカラネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・・?」

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