ジムチャレンジ敗北者、ジグザグマになる。   作:匿名希望

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なかまづくり

 頬に当たる陽の光で、目が覚めた。

 

 

『……首……繋がってるな……』

 

 あのドラピオンの戦闘後。

 疲労感に耐えかねて、ハシノマ原っぱとストーンズ原野の境辺りで寝落ちてしまったのだが。

 ずっと雨が降っていたので時間の感覚がはっきりしていなかったものの、どうやらワイルドエリアで夜を明かしてしまったらしい。

 鳥ポケモンのさえずりや羽ばたきが間近に聞こえるが、身体的には清々しい目覚めとは到底言えない状況だ。

 

『からだ、だる……』

 

 四肢が上手く動かせない。

 寝ている間に他の野生ポケモンによってもがれたりなどはしていなかったようだが、それを喜ぶ気にはとてもなれない。

 ドラピオンの毒が回ったのか、それとも単に疲労が回復していないのか。どちらにせよ、今の俺にはどちらも解決する術はないのだけれど。

 

『はあ、』

 

 顎の力だけでむりやり体を起こして、おそらく朝焼けに照らされる原野を眺めて思う。

 それでも、まだ生きている。

 実感は薄いが。 

 俺が今ここにいられるのは、ほとんどあのカビゴンのおかげだ。たまたま、運良く。そう考えると、生に対して妙な執着心も湧いてくる。

 

『確か、この橋の下に果樹がたくさん生えてるところがあったよな……』

 

 そんな建設的なことさえ頭をよぎる。

 もったいない精神というとおかしな感じだが、要するにそういうことだ。死ぬかもという状況から奇跡的に生き残ったのに、そう簡単に諦められるか、という貧乏根性である。

 

『ヨクバリスがいたらウザい、けど……』

 

 まあ、落ちているのをちょっと拾うくらいだったら見咎められない……と思いたい。

 確かに体はしんどいが、 

 

『腹……減ったのは事実だしな』

 

 一日二食におやつまでもらう恵まれた生活をしていたせいか、空腹に弱くなっている。

 何か食べれば多少元気になるか。

 ひいふうと苦労しながらも起き上がったところで、ふと。目についたものがあった。

 

『──ん、……?』

 

 空だ。

 見上げた空の様子が何か、おかしい。

 端的に言えば、見慣れないモノがあった。ポケモンでも風船でも飛行機でもない何か。

 

 

 それは綿球──だった。

 巨大な綿球にしか見えない、白っぽい塊がワイルドエリアの空を浮遊している。

 一瞬雲かと思ったが、それにしては立体的というか、近すぎる。

 目を凝らして、ぎょっとした。

 

『おおおモンメン!?』

 

 丸っこいフォルムに木の葉の翼。

 モンメンだった。大量のモンメンが、押し合いへし合いして大きな塊を形成しているのだ。

 

『え……何何何、』

 

 それが、どういう訳だかこちらに近づいてきているように見える。

 モンメンにそんな習性があると小耳に挟んだ気はするが、ガラル地方においては比較的珍しいポケモンだ。こんな大群を成すのが当たり前なありふれた存在ではない。

 

『な、何だよ……』

 

 人間だったら喜んで写真を撮っていたあたりだが、今はただ恐怖だ。最終的に塀際に追い詰められるところまで来て、冷や汗が滲む。

 目的がわからない。

 無数の瞳が無遠慮に俺を見下ろしている。至近距離で見ると一体一体がもぞもぞとうごめいており、可愛らしさより不気味さを感じる。

 生唾を飲み込んだ瞬間。

 ぽふっと。気の抜けた音が聞こえた。

 綿玉から飛び出してきた一匹が、ふよふよと目の前まで降りてくる。

 

『イオノ、』

 

 嗅ぎ慣れた匂いと、聞いたことのある声。

 まさか、

 

『モンメン……!?』

 

 いやここにいるのみんなモンメンだけどさ。そういうことじゃなくて。

 

『俺の……って言い方おかしいか、レンのモンメンだよ、な……?』

『うん』

 

 平坦な中に、微かに嬉しげな響きが滲んだ声。どうして、と聞くより先に、

 

『イオノが、いなくなったから……』

 

 しょぼくれた表情で、そう告げてくる。そういえば、逃げるところは見ていたのだっけ。

 

『仲間……あつめて探した……』

 

 さらっと言ってはいるが、ここにいるモンメンの大半は野生個体だろう。わざわざこれだけの数を探し出して声を掛けたのか。

 失礼ながらぼうっとした雰囲気からは想像もできない、パワフルな人海戦術である。

 感嘆して、次に思ったこと。

 

『……レンの指示か?』

『ちがう』

 

 まさか責任を感じてモンメンを探しに寄越したのか、と考えたのだが、すぐに否定された。

 そりゃそうだ。過保護なレンがそんなことをする訳もないか。その点では納得だが、モンメンが自らレンの指示を無視してこんな真似をした、ということに対する驚愕はデカい。

 それに、最長で丸一日近くあちこちを飛び回っていたようなのもすごい。スタミナとか。

 でも、レンは心配しているんじゃないか。

 手持ちが続けて急にいなくなったりして。

 レンの心労について考え込んでいたら、モンメンが近づいてきたことに気づかなかった。

 

『イオノ、ケガしてる』

『え、』

 

 おもむろに翼で脇腹をまさぐられて、痺れるような痛みと驚きが走る。

 ドラピオンのハサミが掠めた部分だ。やっぱり負傷していたらしい。首が短すぎて、脇腹なんか自分で見えやしないんだよ。

 

『だいじょうぶ』

 

 ふんすと若干反り返ってみせるモンメン。

 何をそんなに誇らしげにしてるんだ、と思ったその瞬間。巨大なモンメン玉の隙間から、ぼろぼろぼろっと、色とりどりの何かが降ってきた。

 

『うわっ』

『木の実も集めてもらったから』

 

 すぐに小さな山を形成したそれは、見た通りに様々な種類の木の実。スタンダードなオレンやクラボから、とっさに名前が出てこないようなちょっと珍しいものまで。

 

『こういうの、“コンナコトモアロウカト”っていうんでしょ』

『ああ、まあ、そうね……』

 

 とっておきを披露する時の返しのフレーズなのだが、モンメンのイントネーションのせいで、新しい技か何かのようにも聞こえる。

 しかし、これは願ってもない展開だ。わざわざヨクバリスの縄張りに怯えながら、熟れすぎて地面に落ちた木の実をくすねなくて済むのだから。

 棚からマラサダならぬモンメンから木の実。ありがたく頂いてしまうこととする。

 とりあえず、毒疑惑を払拭するためモモンをひとつと、オボンをいくつか。何も食べていなかったせいか、妙に美味く感じた。

 

『……ありがとう、楽になった』

 

 感謝を述べておく。

 体調はもちろんマシになったが、気分的にも、だ。食って偉大なんだなと再確認する。

 ……おお、この数のモンメンがくっついたまま一斉に何か言うともはや別の生命体感が強いな。

 

『あ、色違い……』

 

 こんだけ集まっているのだから確率的には珍しくもないが、1匹だけ葉っぱと体毛の黄色いモンメンが埋もれていた。目が合って微笑まれる。

 色が違うからと疎外されるでもなく、普通に混じれているようだ。勝手に安心した。

 

『よかた』『■■■■』『なかま』

『…………?』

 

 レンのモンメンとは違い、野生のモンメンの用いる言語はところどころよくわからない。スコルピやドラピオンの時と同じ現象だ。

 微妙に拙いものもあるし、そもそも意味ある単語として認識できない発言もある。

 

『■■■』

『えーと……なんて言ってる?』

『ジグザグマ』

 

 レンのモンメン自身はさすがと言うべきか問題なく解読できるらしい。しかし、この木の葉が擦れ合う音にしか聞こえない単語のどこに『ジグザグマ』要素があるのだろうか。

 

『そのぉ……■■■? って単語がジグザグマって響きなワケ?』

『うーん』

 

 微妙な顔をされた。

 一度しか聞いていない単語を耳コピで反復しただけなので、再現性が危うかったのかと思ったが。

 

『地面を歩く毛、……?』

 

 少し経って、あまり馴染みのない単語の組み合わせが返ってきた。

 地面を歩く毛。いや、確かに彼らは空を飛ぶ種族で、ジグザグマは地面を歩く毛がある種族なので、この形容詞は何も間違っていないが。

 未知の言語に触れて混乱に苛まれる俺に対して、モンメンはさらっと、

 

『クスネとかのこともそうよぶ』

『あ、総称なのね……』

 

 それで何となく納得がいった。

 指示語の意味が時と場合により変化するようなものだろうか。今ここには俺ことジグザグマしかいないので、レンのモンメンは『ジグザグマ』と訳して伝えてきた訳だ。

 

 こいつはレンや他の人間と触れ合ううちに、人間と同じ文法や単語を習得したのだろうが、野生のモンメンは『モンメン語』とでも呼ぶべき半ば独自の言語体系を用いている。

 人間として生きてきた俺には前者の言葉は理解できるが、後者は曖昧にしかわからない。下手をしたらジグザグマ語もわからないかも。

 気にしてもしょうがないが、若干複雑な気持ちになった。

 

『イオノ』

 

 呼びかけられて、学者まがいの思考回路にメスが入れられる。現実に引き戻される。

 モンメンが俺を見つめていた。

 琥珀色の瞳が揺れる。

 

『ひとりになっちゃダメだよ』

 

 きゅっと。喉元が、詰まる感じがした。

 

『さびしいよ』

 

 寂しい。

 誰のことを言っているのだろう。

 俺か、このモンメンか、……レンか。

 俺だけのことであってほしいなと思った。モンメンやレンが、俺がいなくなったことに悲しみを感じざるを得ないのは、つらすぎるだろう。

 

『──────、』

 

 俺はきっと、二人の側にいるべき存在ではないのに。“イオノ”がただの“イオノ”のままだったら、おそらく永遠にこの二人とは関わり合いにならなかっただろう。

 ならば運命の出会いである、と喜ぶ気にはなれなかった。俺は何の罪もないレンとモンメンに、たまたま不幸をばら撒いているのだ。

 

『なあ、モンメン』

『どうしたの』

『変なこと言っていいか?』

『イオノはいつでもヘン』

『おい』

 

 モンメンのマイペースに飲まれそうになった。ごほん、軽く咳払いをして先を続ける。

 

『……何か、ものすごく良くないことが起こってる気がするんだ……たぶん、俺はそれに関わってる』

 

 あの黒ずくめを見て、確信した。

 俺は、ハメられたのだ。何らかの罠に。それでポケモンになってしまったんじゃないか。

 

『だから……俺のせいで、レンやあんたを危険に晒すようなことが……起きるかもしれない』

 

 人間をポケモンに作り変えてしまうような奴らのやることだ。社会的地位もない人間とポケモン一体くらい、簡単に始末してしまえそうだ。

 現に、俺という引きこもり一匹は社会的に抹殺されてしまった訳だが、問題になっている気配はない。レンは比べるまでもなく立派な社会人だが、それでもどうだか。

 

『“それがどうして”っていうのは……今は言いたくないし、レンには伝える手段もない』

 

 黙って聞いていたモンメンが、そこで淡々と尋ねてくる。

 

『……どのくらい怖いことが起きる?』

『わからない……』

 

 どのくらい危険か。下手をしたら、死んでしまうかも──とは言えなかった。そんなことは考えたくもなかった。恐ろしすぎて。

 そこで、沈黙が落ちた。

 長い長い静寂、のように感じた。

 先に口を開いたのは、モンメンだった。

 

『イオノがしゃべれても、レンは納得しないよ』

 

 断言だった。

 微塵も語気を荒げることなく、かといって言い聞かせてくるでもなく。平坦に、きっぱりと。

 

『レンはイオノが大切だから』

 

 大切。ついぞ向けられることはなかった言葉だなあ、と他人事じみて噛みしめる。

 親からも、誰からも。誰かに大切にされているなんて、口が裂けても言えなかった。誰かが誰かを大切にしている、なんてことも言ってやれなかった。

 知らないものについて言える訳ないだろ、そんな無責任なこと。

 

『モンメンもイオノが大切』

 

 大切、大切、たいせつって何?

 わからない。わからない言葉を使って俺のことを語らないでほしい。こめかみがじんわりと、圧迫されていく感覚。

 

『……なんで』

『なかよくしてくれたから?』

 

 ──が。

 あっさり返されて、拍子抜けした。

 しかも、かなり素朴な因果だ。

 つい、単純すぎるだろ、という目で見てしまったのに気づかれたのか、モンメンはさらにぽつぽつと、

 

『モンメンはずっとひとり……だったから。レンがいたから平気だったけど、ポケモンと一緒も楽しいんだって思えた。イオノのおかげで』

 

 ずっと一人。

 悩みも何もなさそう、と失礼ながら勝手に思っていたけれど。モンメンはモンメンなりに、今までの人生で色々と思うことがあったらしい。

 しかも、その悩みの解決に俺が貢献していると来た。何かしてやれた覚えもないが。

 

『……みんな、苦労してるんだよな……』

 

 当たり前か。

 俺だけがつらい訳じゃない。

 何も考えず生きている人間はいないし、それはポケモンだって同じなのだろう。

 前々から思っていたことだが……どうも、俺は視野が狭くなりすぎるきらいがある。

 自分しか見えないので、自ずと被害者意識が強くなる。幼少期からのコミュニケーションの偏りが生んだ弊害か。

 ──でも、そんな俺を『大切』と思ってくれる変わり者が少なくとも二人はいるらしい。

 

『種族が変わってようやくモテ期到来、か』

 

 かたや同性ゴリラ、かたやポケモンのメスだけれど。モテ期という単語に偽りはない。

 

 しかし、なんだ。

 俺の不在なんかで悲しんでほしくはないが、実際に悲しんでしまうのなら仕方ない。

 二人のもとに戻る。

 問題解決もやる。

 この二足のわらじを履いていくっきゃない。

 我ながら無茶苦茶だとは思うが、悪い気分ではなかった。どこか吹っ切れた気持ちで、モンメンに“ヤツ”の所在を問うてみる。

 

『……あの黒ずくめは?』

『レンが帰らせたよ』

 

 帰らせた。まあ、そりゃそうか。探してくるので駅で待っててくださいは現実的でなさすぎる。

 

『何か、言ってたか?』

『……イオノの反応はふつうじゃなかったって。だから今はイオノが見つかっても渡せないって』

 

 おお。

 これはちょっと……驚いた。

 いくらポケモン愛護精神溢れるレンとはいえ、あの俺の凶行は単なる癇癪で済ませてもおかしくはない。なにせ、対象は俺なので。

 とりあえず、レンはレンなりに俺のことを守ろうとはしてくれているらしい。

 

『あの人間、誰なの?』

 

 モンメンがおずおずと聞いてくる。

 トレーナーでないことは確かだが、それ以上のことは俺にも言えない。

 

『……わからない……でも絶対に関わっちゃダメだ、レンも、これ以上踏み込まないほうがいい……』

 

 同じ屋根の下に戻るまでは良くても、このトラブルに巻き込む気には到底なれなかった。その感情だけは変わりない。俺の形相にモンメンも何か思うところがあったのか、

 

『……わかった、気をつける』

 

 珍しくと言っては何だが、殊勝な態度で了承してくれた。それから、顔を上げて。

 

『帰ろう』

 

 帰ろう。帰る。

 “俺たち”の家に。

 

『…………ああ、』

 

 思った以上に、違和感のない響きだった。

 帰ろう。帰りたい。

 あそこは自分の家なのだ。

 俺も、そう思ってたのかもな。

 

 モンメンの丸い背中を追いかけて、隣に並ぶ。

 

『……つーかあんた寂しいとか言ってるけど、行きの電車でバリバリ寝てたじゃん』

『モンメンは電車乗ると眠くなるから仕方ない』

『はァさいでっか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りまたシュートシティまで歩くのきつくないか、と思ったが、ありがたいことにわりと近くまで例のモンメン玉に運んでもらえた(最中くしゃみが止まらなかったが)。

 変に街中に出ると衆目を集めて大変だから、とモンメンの通訳を挟みつつなだめて帰したので、シュートシティ内からは徒歩。

 いつもの散歩コースがやたらと懐かしく感じる感性のバグ。まだ昨日一昨日の話なのにな。

 

 さて、ようやく辿り着いたホームの前で、モンメンは開口一番、

 

『窓が開いてる』

『あんたが帰ってこれるようにじゃないの……』

 

 普段はモンメンが飛んでいかないようにだろう、閉め切られているはずの窓が、全開だった。

 それだけでレンの心労が窺える。

 

『ノックしよう』

『いや窓から入れよ』

 

 ドアノッカーに翼を引っ掛けて、ごんごん、と2回音を出してみせるモンメン。話聞けよ。

 すぐに、中からドタドタと荒っぽい足音が聞こえて。ドアのすぐ内側で、止まる。

 スコープでこちらを確認しているのか、

 

「──モンメン!」

 

 ……いきなり勢いよく扉が開いた。

 その風圧でふわんと飛んでいきそうになった体を、中から現れたレンの両手がしっかりキャッチする。

 

「いきなりいなくなるから心配、……」

 

 当たり前に始まったお小言が、不自然に途中で止まって。レンの流し目が、玄関アプローチに佇む俺の姿を捉えた。

 

「……ジグザグマ」

 

 機械音声じみた、“無”のトーンだった。

 はい、ジグザグマです。

 ホウエンのほうです。

 

『ああちょっと、服汚れるぞ……』

 

 かと思えば、躊躇なく抱き上げられる。泥と草にまみれて今はさわれたもんじゃないと思うのだが、というか、俺が気になるからやめてほしい。

 レンは嫌がる素振りなんて欠片もなく、俺を胸元まで抱き寄せてきた。白シャツなのに。

 

『モンメンは寝る。ずっと飛んでつかれた』

『だから、あんたも汚れるって……もう、』

 

 さらに、モンメンまで毛並みに着地してくる。ふわふわの体毛が台無しになるぞ。

 

『ていうか怒られてんだからちゃんと、』

「悪かった」

 

 突然の謝罪で、遮られる。ふと見上げた顔は、わかりやすく落ち込んでいるようで。

 というか、疲れている顔だと思った。目の下にうっすらクマがある気もする。満足に眠れていなかったのか。

 表情筋死んでんのかい、なんて思ったこともあったが、こいつ案外情緒豊かなんじゃないか。カブの一件からして、単に自制が効きすぎるタイプなのかもしれないが。

 で、なんで俺謝られてるんだっけ、

 

「会いたくなかったんだろう」

 

 一瞬、どきっとした。

 

「もうあのトレーナーは来ない」

 

 改めて聞かされると、何とも言えない感情が生まれる。レンが謝るようなことじゃないのだけは確かだが、本当に俺のことを真剣に考えていてくれたんだな、とかそういうモニョモニョが。

 

「……今日は久しぶりに有休を取ったが……とりあえず、寝よう」

 

 それには賛成。モンメンも眠そうだし。

 うつらうつらしたはずみで転げ落ちそうになったモンメンを、レンが片手で軽く受け止める。ナイスキャッチ。

 そこで、なぜか目が合った。

 

「お前なら……モンメンを振り切って逃げることだってできたはずだ」

 

 そんなこと、考えたこともなかったな。

 確かに、ついてくるなと一喝するなり痛い目に遭わせたりするなりで、モンメンを撒くこと自体は可能だったのかもしれない。

 いや、そんなことできる訳ないだろ。

 ……もしかすると俺は、レンが思っている以上に二人に入れ込んでいたのかもしれない。気づかないうちに。ああ、なんか恥ずかしい。

 

「ふ」

 

 百面相しているのを見られたらしく、噴き出しがちに苦笑される。何だよ、もう。

 

「いや、」

 

 頭を撫でられる。だから、こんな汚いジグザグマよくさわれるよな。俺だったら絶対ムリ。

 

 お行儀悪く扉を足で閉めて、鍵をかけて。レンに抱かれて入った室内は、懐かしい、落ち着く匂いがした。

 そうだ。ここは俺の家だ。

 

「……おかえり」

 

 ……ああ、ただいま。






ようやく前置きが終わった感じ
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