【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!!   作:どうだか

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第十六話 貧すれば鈍する

 エロゲでたまに見かける『主人公に情報を伝えるキャラ』。

 

 情報と言っても、好感度とかじゃない*1。「大変だ! ○○が△△だって!!」とか、「実は、□□は昔──いや、なんでもない」みたいな感じのストーリーやルートを進めるのに必要な情報の方だ。そういう情報を主人公にお届けしてくれるのが『主人公に情報を伝えるキャラ』だ。

 

 と、私は勝手に呼んでいる。

 

『主人公に情報を伝えるキャラ』は、ヒロインやサブキャラで手分けしていたりもする。そもそも『めっちゃ事情通なキャラ』がいることもある。

 

 で、その『めっちゃ事情通なキャラ』に近しい存在が、このエロゲみたいなことが起きる世界にもいる。

 

 ”サブキャラ”だったりモブだったりする彼ら/彼女らは、ものすごく耳が早かったり、情報収集に熱心だったり、噂が大好きだったりする。そんな生徒が、どの学園にも何人かいる。学年に一人は必ずいる。

 

 中には、情報を売って、お小遣い稼ぎしている生徒もいる。

 

 はい、そうです。『性転換しそうな”サブキャラ”』である『モブ化現象を起こすイケメン』を見つけるために、『街で噂になるレベルのイケメン』の情報を、事情通の生徒たちから購入しています。

 

 なかなか当たりのイケメンに出会うことができず、コツコツ貯めていたお年玉がじりじりとすり減る日々。つらい。お金が減るのつらい。

 

 学生ってお小遣いとお年玉しかない大変だな!? 社会人だったころは! 自分の好きなことにモリモリお金を使えたのに!! 働くことの偉大さを転生してから味わうってどういうことなの!?!?

 

 ……バイト、しようかなぁ。

 

 もうすぐ夏休みだし。ウチの学園バイト禁止じゃないし。

 

 

 ──などとウダウダ考えていたら、後ろ受け身に失敗して後頭部をぶつけた。いたい。

 

 

 ぶつけたところを手でさすりながら立ち上がる。目から星が出るかと思った。お孫さん師範代から「顎をしっかり引くように」と、静かな声で指摘された。

 

 奥さんたちとバカンス中のおじいちゃん師範に代わり、今朝はお孫さん師範代に稽古をつけてもらっている。の、だけれども。

 

 ”女主人公”対策が進まない焦燥感と、貯金の底が見えてきた絶望感で、まっっったく集中できていない。

 

「稽古に、身が入っていないようだが……」

 

 寡黙なお孫さん師範代が、思わず口を開くレベルで気が散っていたようだ。

 

「すみません……」

 

 もう本当にすみません。教えてもらっている立場でこれはよろしくない。悩みはいったん忘れて、気を引き締めて稽古に臨もう──と、思ったのだけれど。

 

「……何か、悩みでもあるのか?」

 

 そう質問されて、思わずポカンとしてしまった。いやだって、お孫さん師範代が稽古の指導以外を話すところ初めて見たんだもの*2

 

 私が呆けているのを質問が聞き取れなったと思ったのか、お孫さん師範代は同じ言葉を繰り返した。そして、「自分でよければ、話を聞こう」とものすごく真剣な顔で言った。

 

 言葉数は少ないながらも、心配してもらっていることがまっすぐ伝わってくる。

 

 しかし、悩みの内容がアレなので、心配してもらうのがものすごく申し訳ない。いたたまれなさ過ぎてツラい。なんとかごまかそうとしたけれど、お孫さん師範代はごまかされてくれない。師範代ってば勘がめちゃくちゃ鋭いな!?

 

 腹をくくって、二つの悩みの片方を正直に話すことにした。頼む、これで見逃してくれ~~!

 

「えっと、その……お金が、なくてですね。……夏休みに、バイト、しようかなぁと……考えてました……」

 

「……そうか」

 

 ぬあ~~! お孫さん師範代、声に感情が無いから、どういう気持ちでその返事しているのか分からない!! 私は! 恥ずかしいやら申し訳ないやらで、頭が上がらない!!!

 

 たすけて!!!!

 

「君は、料理ができるか?」

 

 急にそんなことを尋ねられて、首をかしげる。

 

 前世では一人暮らしをしていたし、今世では両親が共働きなので、料理はそこそこできる。凝ったものは作れないけれど、レシピ通りに作るくらいなら大丈夫だ。

 

「まあ、それなりに。簡単なものでしたら」

 

「なら、バイトをしないか?」

 

 渡りに船だけれども、バイトと料理にいったいどんな関係が?

 

 聞けば、夏休みに巨大人工浮島(メガフロート)で合宿をするのだが、まともに料理ができる参加者が一人しかおらず困っていると言う。ほかの参加者は、台所に近づけてはいけないタイプ──ようするにメシマズらしい。お孫さん師範代は、その人(メシマズ)たちを台所へ近づけないようにするので手一杯だとか。なにそれこわい。

 

 う~ん、道場の門下生で合宿するってことだよね? 道場って言うと男所帯のイメージあるなぁ。たくさん食べる人たちのご飯を料理するのって、大変そう。それなら、短期のレジバイトとかの方が──

 

「あまり多くは払えないが……」

 

 日給を聞いて、私は目の色を変えた。それに加えて移動費と食費と宿泊費は向こう持ち!?

 

「バイトやります!!!!」

 

 

 ◆

 

 

 お孫さん師範代の申し出に飛びついた私は、夜になってメールで届いた合宿の概要と参加者リストに頭を抱えた。自分の部屋で一人、クッションで口を押えながら叫ぶ。

 

「男一人に女三人プラス師範代*3とか、ゼッタイどっかの”主人公”と”ヒロイン”のイベントじゃん!!」

 

 たしかに、お孫さん師範代は道場の合宿だと言ってなかったけどさぁ! 私が勝手にそうだと思い込んだだけだけどさぁ!! 巨大人工浮島(メガフロート)にある学園の『七不思議研究部』とかいう特徴的すぎる部活の合宿だとは思わないじゃないですか!!!

 

 ていうか師範代、巨大人工浮島(メガフロート)の学園の先生だったの*4!? まったく知らんかった!!

 

 どうか、どうか普通のラブコメ合宿イベントでありますように!!

 

 ガッチリと両手を組んで、お空に向かって祈る。けれども、心のどこかが「それはない」と訴えている。

 

 だって、お孫さん師範代(ガチで戦える人)が顧問やぞ? しかも『七不思議研究部』って、ホラーとかファンタジーとかサスペンスとかミステリーとか、そっち系でしょ???

 

 ──どれだけお金を積まれても、命には変えられない! やっぱり断ろう!!

 

 そう思った私の目に、バイトの日給が飛び込んでくる。

 

「…………」

 

 お金には勝てなかったよ……。

*1
好感度を教えてくれる親友キャラを、作者はエロゲで見かけたことがない。ゆえに、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界にも、好感度を教えてくれる人物はいない。このタイプのキャラは、ギャルゲの中でも特定のシリーズにおける定番キャラとなっている。そのシリーズがとてつもなく有名なので『親友キャラ=好感度を教えてくれる』と認識されているのかなぁと思う。

*2
おじいちゃん師範から、「あの娘さんに、何か変わった様子があったら詳しく聞け! いいな!?」と口を酸っぱく言われているから。もちろんそれだけでなく、師範代として弟子の心配もしている。

*3
このうち、まともに料理ができるのは”主人公”のみ。師範代は米なら炊けるがたいていのものを焦がすタイプ。そして気にせず食べる。残りの三人は、それぞれ方向性の違うメシマズである。バランスの悪さよ。

*4
正確に言うと、『巨大人工浮島(メガフロート)の学園に臨時教員として任用されている潜入捜査官』。巨大人工浮島(メガフロート)に渦巻く陰謀を、極秘に捜査するのが任務。なんやかんやあって”主人公”と”ヒロイン”が所属している部活、『七不思議研究部』の顧問をすることになった。

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