【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!! 作:どうだか
寝る準備を済ませてベッドの上に正座し、スマホと向かい合う。なんやかんや理由をつけて、ウダウダと先送りにしていた。けれど、もう寝るしかすることがない。
「……お誘いのメール、送るかぁ」
我が家は両親そろって共働き。最近は、海外出張の準備のために仕事の引継ぎやら何やらで、毎日とても忙しそうだ。二人ともいつも夜遅くに帰ってくる。
おうちデートをするにはもってこいのシチュエーションだ。
『今度のデート、うちに来ない?』
しばらくためらった後、送信ボタンをタップする。緊張で指の動きが固い。思ったよりもすぐにメッセージに既読がついた。待って待って、心の準備が出来てない。スマホを放り投げたくなる気持ちを抑えて、返信を待つ。
『うん、いいよ』
ホッと肩の力が抜けた。いつものように日時をすり合わせていく。
──来週。
来週の、放課後。クリスマスの前日。
おうちデートが! 決まりましたっ!!
クリスマス・イブにおうちデート! クリスマス当日はお出かけデートです!!
やっっった~~~~~!!
直接的にセックスしようとは送ってないけど!! そういう同意を得たと思っていいんだよね? いいんだよね!?
だって”おうちデート=セックス”ってお昼ご飯の会のみんなも言ってたし! 前世の感覚が「そこをイコールで結ぶのは発想が飛躍しているのでは?」と訴えてくるけど!! この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界ではそうなんだもん!!
…………いや待て。ちょっと落ち着こう。ここはきちんとセックスの同意を得た方がよいのでは?
この三ヶ月、今世の感覚で清すぎるお付き合いをしてきたんだし。当日になって、TS予定イケメンくんが「そんなつもりは無かった」と言ってもおかしくない。なので、この日にセックスするという言質を取っておきたい。おきたいがぁ! 何て書いて送れと!?
え~~っと……『当日はセックスしたいんですけど、大丈夫ですか?』……さ、さすがに直接的すぎるかな。
もっとこう直接的すぎず、かつ分かりやすい表現で……『付き合って三ヶ月になるので、そろそろ体の相性をご確認いただきたく存じます』……業務連絡感がスゴい。
考えろ。考えるんだ、私。
この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界では、付き合ってすぐセックスするのはフツウのこと。むしろ、付き合って三ヶ月、一度もセックスしてないのはあまりフツウじゃない。
ということは──
『エッチするの楽しみ! 二人の相性がいいとうれしいな』
これだ……! セックスするのが当然だと思っている人の反応を装う!! そのうえで相手の出方をうかがう!!
あとは、文末にハートでも散らしておこう。うむ。
おうちデートに誘う時よりも緊張しながら、送信ボタンをタップする。TS予定イケメンくんからは『そうだね』という返事がきた。これで”おうちデート=セックス”の言質を取ることができた。ヨシ!
おやすみなさいのスタンプを交わして、トークを切り上げた。スマホを抱えたまま、ベッドに倒れ込む。
「は~~~~……」
ぶっちゃけていい?
「どう考えてもフラグ」
クリスマス・イブて……そんなん……フラグでしかないやん……!
◆
案の定でござった。
クリスマス・イブの日。待ち合わせに現れたのは、TS予定イケメンくんの面影を残した美少女だった。目と目が合う。美少女は、おずおずと私の名前を呼んだ。
私は、現実を受け入れたくなくって、最後の抵抗を試みる。
「えっと……妹さん、かな? よく似てるね」
「違うんだ。……本人なんだ」
そっか~~~~! やっぱり~~~~~!!
人の多いところで話すことでもないということで、近くのカフェに移動する。先を歩く美少女の後を、のろのろとついていく。足取りが重い。
お店に入って、席について、注文して、飲み物が届いて。湯気の立つ紅茶をぼうっと眺める。すべてがボンヤリしていて現実味がない。
「別れてほしい」
ただ、その言葉だけが鮮明に聞こえて。ようやく意識がハッキリした。
「僕は、その、女の子になってしまったし。このまま付き合い続けるのは難しいと思うんだ」
私としても、別れない理由は無い。
TS予定イケメンくんと付き合っていたのは、処女でなくなるため。性転換した今、もう目的を果たせないのだから付き合い続ける意味は無い。
──いや、でも。
ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だ。男性向けエロゲには、百合ゲーやレズゲーもある。男の娘ゲーやショタゲーだってある。異性愛だけがすべての世界じゃない。
それに、処女でなくなる条件が、男女間でのセックスだけだと定義されているわけでもない。別に、このまま付き合っても──
はたと気づく。
『別れない理由は無い』はずなのに、必死になって『別れない理由』を考えている。どうして、なんて、今さらだ。
「わ、たしは……性別なんか、関係なくて……」
覚悟を胸に、顔を上げる。
「きみのことが……」
ずっと前から分かっていた結末を受け入れる時が来た。
「──すき」
TS予定イケメンくん──いや、TS”ヒロイン”ちゃんは、目を見張った。私をじっと見つめ、何かを言おうとして口を開き、ぎゅっと引き結ぶ。そして、「ありがとう」と言った後、「ごめん」と申し訳なさそうな顔でつぶやいた。
「いま、はじめて気がついたんだけど……」
ああ──
「僕、好きな人がいるんだ」
恋をしている女の子は、なんて可愛いんだろう。
◆
TS”ヒロイン”ちゃんが席を立った後、私は静かに泣いていた。カフェの人には本っっ当に申し訳ないのだけれど、涙が止まらなかった。
どのくらい泣いていたのだろうか。すっかり日は落ち、通りではクリスマスイルミネーションがチカチカと瞬いている。
窓の外が暗くなったので、カフェのガラスに映る自分の顔がはっきり見えた。TS”ヒロイン”ちゃんの顔と比べたら、あんまりにもボロボロで。自分が失恋したんだということを、まざまざと突きつけられるようだった。
──恋している自分はどんな顔をしていたんだろう。
彼の隣にいた自分の顔を、私は見たことがない。