【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!! 作:どうだか
①『私』はお坊ちゃんのことをうっすらと覚えている。理由は不明。
②あからさまにヤバい様子の義姉が血まみれでやって来た。
「そん、な……、どうして……義姉さん……?」
お坊ちゃんは震えた声でそう言った。よく見ると、少女のカタチをした何かは、お坊ちゃんと同じ山の上の学園の制服を着ている。明らかにお坊ちゃんの関係者だった。あまりにも気配がおぞましくて、パッと見で気がつかなかった。
「あれぇ? どうしてわたしの顔が分かるのかしら?」
お坊ちゃんの義姉だという少女は、指を顎にあて可愛らしく小首をかしげた。
「ん~~、さっきちょっかいかけてきたアレ*1が原因かしら? まあ見られたところでかまいませんね。いつもみたいに記憶をいじればいいだけですもの。えへへ」
記憶をいじるとかヤバいひとり言がボロボロとこぼれておられる。こわい。
「ところでぇ」
義姉の目がこちらを向く。木のうろのように真っ暗な目だった。ぞわりと鳥肌が立つ。とても嫌な予感がした。
「今度の浮気相手は、その子ですね」
疑問でなく断定。義姉はニタリと嗜虐的な笑みを浮かべた。私を義姉の視線から遮るように、お坊ちゃんが一歩前に出る。
「なにを、何を言ってるんだよ! 義姉さん!!」
ほんまそれな。
「義姉さんがやったのか!? 今までのことも、ぜんぶ!!」
詳しい事情は分からないけれど、今の状況と向こうの口ぶりから察するに、あなたの義姉が犯人なのは確実だと思います。
糾弾された
「どうして、って。弟くんが悪いからですよ? わたしという相手がいるのに何度も何度も浮気するんですもの。お仕置きをたくさんして、ようやく反省してくれたと思ったら──*2」
彼女はそこで言葉を切った。ものすごい形相でお坊ちゃんを睨む。絶望と憎悪と執着がないまぜになったような顔だった。ものすごくこわい。
対するお坊ちゃんも義姉を睨んでいる。その目には燃え上がるような怒りが見えた。義姉は、そんな彼の様子に頬を膨らませる。
「もぉ~、違いますよ、弟くん。わたしが見たいのはそんな顔じゃないです」
「あぇ?」
思わず声がもれた。お腹が熱い。立っていられなくなって膝から崩れ落ちる。血の気が引いていく。地面に横たわる私の腹部から、どくどくと血が溢れていた*3。
「なっ!?」
「そう! その顔!! えへへ、わたしとお揃いですね♡」
お坊ちゃんが私の傍にしゃがんだ気配がした。仰向けに寝かされ、傷口を圧迫される。鋭い痛みにうめく。
「血がとまらない……っ」
視界に広がるのは、お坊ちゃんの泣きそうな顔と暮れゆく空。指先から冷えていく体には、彼の手のひらだけが温かく感じた。
「さあ、もう一度はじめましょう! この一週間を繰り返し続けている間、弟くんはわたしのものなんですから!!」
義姉の恍惚とした声が聞こえた。高らかに歌い上げるような、熱に浮かされたような声だった。
──なるほど。そういうことか。
これも”訓練”のたまものか、死に瀕しているというのに頭は冷静だった。お坊ちゃんはループものの”主人公”くんだ。おそらく、自分と”ヒロイン”が犯人に殺されるタイプのループもの。
こういうシナリオってルートによって犯人が違ったりするんだけど、このルートではヤンデレな義姉が犯人だったんだろう。まあ、殺されてるのは”ヒロイン”じゃなくて私だけども。
「死なないで、死なないでくれ」
震える声とともに、ぱたぱたと温かい液体が頬に落ちてくる。顔をくしゃくしゃにして、お坊ちゃん──ループ”主人公”くんは泣いていた。
「俺のせいで、こんな……君は俺を助けてくれただけなのに……!」
せやな。ただまあ、ここでわたしが死んだとしても、ループすれば生き返る。人の生き死になんて無かったことに──
ああ、そうか。
彼は、ループ”主人公”くんだものな。ぜんぶ、覚えてるんだ。ずっとずっと、こうして傷つき続けてきたのか。この人は、そんな地獄に、ずっと独りで生きているのか。
──たった独りで足掻くことのつらさを、私は知っている。この一年間、嫌というほど味わってきた。一年だけでも、心が折れそうなほどしんどかった。
いやまあ、『地獄のようなループからの脱出』と『同人エロゲの”女主人公”対策』を同列に扱ったら怒られるかもしれないけども。
「まだ何も知らないんだ。君が誰なのかすら、知らない」
私は、ループ”主人公”くんに出会ったことうっすらと覚えている。重なりすぎてぼやけた記憶は、これまでに蓄積されたループの記憶なんだろう。自分にまったく関係ないループの記憶がある理由はサッパリ分からない。
ただ、こうやって覚えていることが、ループ”主人公”くんの助けになればいい。そう思った。
「……りんね」
──私の名前は、
ループ”主人公”くんが小さな声で私の名前を復唱した。
「俺は、エイゴ。
気力を振り絞って微笑み、小さく頷く。本当は自分の連絡先とかを伝えたかった。そうすれば、次のループの手助けができる。けど、そんな長い文章を話す余裕はなかった。
ふと、遠くの空に黒い点が見えた。とうとう目までおかしくなったらしい。と、思っていたら、瞬きの間に空から影が降ってきた。なんとなく見覚えのあるシルエットをしている影は、軽い音とともに地面へ着地した。
「”血液”の反応が消えたから、気になって来てみれば──」
周辺の空気が、重く、暗くなったように感じた。あまりの重圧に、息が苦しくなる。
──この声、一人称『僕』おじさん?
かすむ視界の端で、一人称『僕』おじさん vs ヤンデレ義姉の戦いが勃発。怪獣大決戦みたいなことが起こり、駅ビルは爆発した。
◆
──以上が、十数年ぶり二回目に死んだ時の記憶だ。
次に気がついた時、私は、駅ビルの地下街に防犯ブザーを構えて立っていた。さっき死んだばかりの──”前世”の記憶を引き継いで。