【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!!   作:どうだか

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前回の「×××」以降のあらすじ
①『私』はお坊ちゃんのことをうっすらと覚えている。理由は不明。
②あからさまにヤバい様子の義姉が血まみれでやって来た。


第三十七話 ”前世”の記憶

「そん、な……、どうして……義姉さん……?」

 

 お坊ちゃんは震えた声でそう言った。よく見ると、少女のカタチをした何かは、お坊ちゃんと同じ山の上の学園の制服を着ている。明らかにお坊ちゃんの関係者だった。あまりにも気配がおぞましくて、パッと見で気がつかなかった。

 

「あれぇ? どうしてわたしの顔が分かるのかしら?」

 

 お坊ちゃんの義姉だという少女は、指を顎にあて可愛らしく小首をかしげた。

 

「ん~~、さっきちょっかいかけてきたアレ*1が原因かしら? まあ見られたところでかまいませんね。いつもみたいに記憶をいじればいいだけですもの。えへへ」

 

 記憶をいじるとかヤバいひとり言がボロボロとこぼれておられる。こわい。

 

「ところでぇ」

 

 義姉の目がこちらを向く。木のうろのように真っ暗な目だった。ぞわりと鳥肌が立つ。とても嫌な予感がした。

 

「今度の浮気相手は、その子ですね」

 

 疑問でなく断定。義姉はニタリと嗜虐的な笑みを浮かべた。私を義姉の視線から遮るように、お坊ちゃんが一歩前に出る。

 

「なにを、何を言ってるんだよ! 義姉さん!!」

 

 ほんまそれな。

 

「義姉さんがやったのか!? 今までのことも、ぜんぶ!!」

 

 詳しい事情は分からないけれど、今の状況と向こうの口ぶりから察するに、あなたの義姉が犯人なのは確実だと思います。

 

 糾弾された本人(義姉)は、不思議そうな顔で目を瞬かせた。

 

「どうして、って。弟くんが悪いからですよ? わたしという相手がいるのに何度も何度も浮気するんですもの。お仕置きをたくさんして、ようやく反省してくれたと思ったら──*2

 

 彼女はそこで言葉を切った。ものすごい形相でお坊ちゃんを睨む。絶望と憎悪と執着がないまぜになったような顔だった。ものすごくこわい。

 

 対するお坊ちゃんも義姉を睨んでいる。その目には燃え上がるような怒りが見えた。義姉は、そんな彼の様子に頬を膨らませる。

 

「もぉ~、違いますよ、弟くん。わたしが見たいのはそんな顔じゃないです」

 

「あぇ?」

 

 思わず声がもれた。お腹が熱い。立っていられなくなって膝から崩れ落ちる。血の気が引いていく。地面に横たわる私の腹部から、どくどくと血が溢れていた*3

 

「なっ!?」

 

「そう! その顔!! えへへ、わたしとお揃いですね♡」

 

 お坊ちゃんが私の傍にしゃがんだ気配がした。仰向けに寝かされ、傷口を圧迫される。鋭い痛みにうめく。

 

「血がとまらない……っ」

 

 視界に広がるのは、お坊ちゃんの泣きそうな顔と暮れゆく空。指先から冷えていく体には、彼の手のひらだけが温かく感じた。

 

「さあ、もう一度はじめましょう! この一週間を繰り返し続けている間、弟くんはわたしのものなんですから!!」

 

 義姉の恍惚とした声が聞こえた。高らかに歌い上げるような、熱に浮かされたような声だった。

 

 ──なるほど。そういうことか。

 

 これも”訓練”のたまものか、死に瀕しているというのに頭は冷静だった。お坊ちゃんはループものの”主人公”くんだ。おそらく、自分と”ヒロイン”が犯人に殺されるタイプのループもの。

 

 こういうシナリオってルートによって犯人が違ったりするんだけど、このルートではヤンデレな義姉が犯人だったんだろう。まあ、殺されてるのは”ヒロイン”じゃなくて私だけども。

 

「死なないで、死なないでくれ」

 

 震える声とともに、ぱたぱたと温かい液体が頬に落ちてくる。顔をくしゃくしゃにして、お坊ちゃん──ループ”主人公”くんは泣いていた。

 

「俺のせいで、こんな……君は俺を助けてくれただけなのに……!」

 

 せやな。ただまあ、ここでわたしが死んだとしても、ループすれば生き返る。人の生き死になんて無かったことに──

 

 ああ、そうか。

 

 彼は、ループ”主人公”くんだものな。ぜんぶ、覚えてるんだ。ずっとずっと、こうして傷つき続けてきたのか。この人は、そんな地獄に、ずっと独りで生きているのか。

 

 ──たった独りで足掻くことのつらさを、私は知っている。この一年間、嫌というほど味わってきた。一年だけでも、心が折れそうなほどしんどかった。

 

 いやまあ、『地獄のようなループからの脱出』と『同人エロゲの”女主人公”対策』を同列に扱ったら怒られるかもしれないけども。

 

「まだ何も知らないんだ。君が誰なのかすら、知らない」

 

 私は、ループ”主人公”くんに出会ったことうっすらと覚えている。重なりすぎてぼやけた記憶は、これまでに蓄積されたループの記憶なんだろう。自分にまったく関係ないループの記憶がある理由はサッパリ分からない。

 

 ただ、こうやって覚えていることが、ループ”主人公”くんの助けになればいい。そう思った。

 

「……りんね」

 

 ──私の名前は、点瀬(トモセ)リンネ(凛音)

 

 ループ”主人公”くんが小さな声で私の名前を復唱した。

 

「俺は、エイゴ。花卉樹(カイキ)エイゴ(永悟)

 

 気力を振り絞って微笑み、小さく頷く。本当は自分の連絡先とかを伝えたかった。そうすれば、次のループの手助けができる。けど、そんな長い文章を話す余裕はなかった。

 

 ふと、遠くの空に黒い点が見えた。とうとう目までおかしくなったらしい。と、思っていたら、瞬きの間に空から影が降ってきた。なんとなく見覚えのあるシルエットをしている影は、軽い音とともに地面へ着地した。

 

「”血液”の反応が消えたから、気になって来てみれば──」

 

 周辺の空気が、重く、暗くなったように感じた。あまりの重圧に、息が苦しくなる。

 

 ──この声、一人称『僕』おじさん?

 

 かすむ視界の端で、一人称『僕』おじさん vs ヤンデレ義姉の戦いが勃発。怪獣大決戦みたいなことが起こり、駅ビルは爆発した。

 

 

 ◆

 

 

 ──以上が、十数年ぶり二回目に死んだ時の記憶だ。

 

 次に気がついた時、私は、駅ビルの地下街に防犯ブザーを構えて立っていた。さっき死んだばかりの──”前世”の記憶を引き継いで。

*1
一人称『僕』おじさんの”血液”。

*2
お坊ちゃん視点で義姉が自殺したループのこと。実は、そのループで犯人である義姉にたどりついていた。自分を選んでくれたと大喜びする義姉を、お坊ちゃんは否定し拒絶した。周りの人を傷つけられたことをどうしても許せなかった。絶望した義姉は、お坊ちゃんと心中してループし直し、彼の記憶をいじった。そして、彼がループから脱出するのを諦めるように仕向けた。義姉的には「ループしたら生き返るんだからお仕置きにちょうどいい」くらいのノリだった。

*3
義姉の能力により『お腹を切られた』という記憶を植え付けられた。記憶が肉体に反映され、出血している。このルートでは何千何万回と能力を使っているので、別ルートよりも能力が強力で精密。

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