【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!!   作:どうだか

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第三十八話 ループを重ねる

 防犯ブザーを構えた私と、不良に囲まれたループ”主人公”くん──花卉樹(カイキ)エイゴ(永悟)くんは、お互いの姿を見て目が飛び出そうなほど驚いた。そのリアクションで、どちらにもさっきまでの記憶があることを察する。

 

 前世の記憶を引き継ぐ、というのは、この世界に生まれた時に発現した私の異能だったようだ*1。ループの記憶がうっすらあったのも、『時間が戻る=それまでの自分は死んだ』という判定だったのだろう。うっすらした記憶とはっきりした記憶の違いは、自分が死んだことの自覚があるかどうか、かな?

 

 まあ、私のことはさておき。

 

 隙を突いて不良から逃げた私たちは、新たなループについて色々と話し合った。結果、私と花卉樹くんは『二人が出会った土曜日の午後から私が死ぬまで』をループしていることが分かった。

 

 現在、一週間をループし続ける”一週間ループ”と土曜日の午後をループし続ける”土曜日ループ”、二つのループが同時に起こっていることになる。で、一週間ループが起きる前に、土曜日ループを起こし、同じ土曜日を繰り返している感じだ。

 

 ループについて詳しいことが分かったのは、花卉樹くんも”時間をループさせる能力”に覚醒していたから。自分で目的を設定して、土曜日ループを起こした覚えがあるらしい。

 

 私に死んでほしくないと強く思ったら、”時間をループさせる能力”が発動したのだという。つまり、土曜日ループの目的は、私が死なないようにすること。この目的が達成されるか、花卉樹くんが任意で解除するかで、土曜日ループから脱出できるそうな。

 

「義姉さんも、俺と同じ能力を持っている。何かの目的を設定して、ループを起こしたはずだ」

 

 花卉樹くんは断言する。

 

「今まで自覚が無かったんだけど、義姉さんの能力に巻き込まれるカタチで、俺の能力が発動してる*2

 

 その能力の性質が限りなく自分に近いのだと言う。

 

 簡単にまとめると、一週間ループを起こしているのはヤンデレ義姉と花卉樹くんということになる。一週間ループから脱出するには、ヤンデレ義姉の目的を達成して、花卉樹くんの能力を解除する必要があるというわけだ。

 

「お義姉さんが設定する目的って、花卉樹くんと両想いになること以外になくない?」

 

「だとしたら、俺は永遠に脱出できないかもな」

 

 花卉樹くんは、うんざりした様子でため息をついた。

 

 ……花卉樹くんとヤンデレ義姉が両想いになることがループの目的だったなら、なぜ、花卉樹くんや彼の周りの人を殺す必要があったんだろう? 殺す必要なくない?? だって、目的が達成できなければループから脱出できないんだもん。自分は高みの見物としゃれ込めばいい。

 

 調べなければいけないことが次から次へと増えていく──

 

 

 ◆

 

 

 けど、大丈夫! 私たちには土曜日ループがあるからね!!

 

 土曜日ループを認識しているのは花卉樹くんと私だけだった。ヤンデレ義姉すら土曜日ループに気がついていなかった*3。うん、そうなんだ。さっき殺されてまた戻ってきた。これで死んだのは三回目だ。

 

 つまり、この土曜日ループを活用すれば、ヤンデレ義姉に気づかれることなく情報収集ができるのだ! しかも、花卉樹くんと接触しない限り、私はノーマーク! やったね!!

 

 ちなみに今回の土曜日ループではすでに目をつけられている気がするぞ! いろいろ伏せながらだけど、めっちゃ話してるし!!

 

 しかし、花卉樹くんは土曜日ループを使っての情報集をものすごく嫌がった。

 

「(点瀬さんを死なせないために能力を使ったのに)それじゃ意味がないだろう!」

 

 せやな。

 

 ……花卉樹くんと関わらず、まっすぐ家に帰る。そうすれば私は死なないし、土曜日ループから脱出できる。けど──

 

「私は、花卉樹くんの助けになりたいって思ってる」

 

 花卉樹くんは泣きそうな顔で歯を食いしばった。への字に曲げた唇が震えている。二回目に死ぬとき、花卉樹くんの地獄を知った。傷つき続けている彼が、救われてほしいと思った。

 

「だから、花卉樹くんが殺される前に、私は自分で死ぬ」

 

 いやまあ、別の地獄に引きずり込むような誘いだけども。

 

 これは土曜日ループを上手く使うために、仕方のないことだ。

 

 ヤンデレ義姉は、記憶操作の能力も持っている。詳細は分からないけれど、その能力が相手の記憶も覗けるのなら──花卉樹くんの記憶から、土曜日ループと”前世”の記憶を引き継ぐ私の存在がバレてしまう。

 

 なので、ヤンデレ義姉が花卉樹くんに接触する前に私が死んで土曜日ループを発動させる必要がある。

 

「っなら、せめて俺が点瀬さんを……」

 

「いやいや、ただでさえ花卉樹くんは大変なのに、そんなことまでさせるわけには……」

 

 話し合いは、どこまで行っても平行線だった。しょうがないので、自分で死ぬのと花卉樹くんに殺されるの、代わりばんこにすることにした。

 

 死ぬのが怖くないかと聞かれると、もちろん怖い。ただ、”訓練”のおかげか、苦痛や恐怖も知らんぷりできるようになってるんだよねぇええっ! 命が軽ぅい!!

 

 

 ◆

 

 

 それから、私たちは土曜日ループを使ってたくさんの情報を集めた。

 

 情報収集に専念するために、まずはヤンデレ義姉の動向を。次に”時間をループさせる能力”の詳細。ヤンデレ義姉に対抗できる相手である一人称『僕』おじさんがやって来た理由。できるだけ時間を稼ぎつつ周辺に被害を出さない方法。などなど。

 

 ──そして、ヤンデレ義姉が一週間ループに設定した目的。

 

 白と黒の美しい織目が、辺り一帯を包んでいる。断続的に聞こえる激しい戦闘音に合わせて地面が揺れる。私は、詰めていた息をホッと吐いた。

 

「ようやく、ここまで来たねぇ」

 

「ああ、次で終わらせよう」

 

 私たちは、戦闘と人目を避けて、結界の端まで走った。これからすることを誰かに邪魔されるわけにはいかない。

 

「今回はどっちだっけ?」

 

「俺の番」

 

 すっかり慣れた手つき。何回も繰り返しているけれど、彼はいつだってツラそうな顔をしている。だから私は、彼のツラさが少しでも減るようにと、何でもないことのように微笑む。

 

「──またね、エイゴ」

 

「またな、リンネ」

*1
来世もずっと記憶を引き継ぎ続けるとなると、すごく大変そうなので、この世界限定の異能であることを祈っている。

*2
彼の”時間ループさせる能力”の特異性は、複数のループを同時に発動できるところ。今回はループ中にループを起こしているが、まったく別のループを同時に起こすこともできる。そのループのどちらにも遍在できる。わりとヤバい能力。

*3
そもそも、本来はループを発動した能力者しかループを認識できない。ヤンデレ義姉が起こした一週間ループを認識していたエイゴ。一週間ループと土曜日ループを記憶している『私』。これらはイレギュラー。


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