厨二病だよ黒崎くん 作:きりたん
「藍染隊長まで気にする人間ねぇ…ちょ~っとボクも拝見させてもらおかな」
着物の人がやってきて黒崎くんに関する新しい事実を発見してからしばらく…
黒崎くんとは表面上ただのクラスメイトでしかないという風に頑張って過ごしていた。表面上も何も実際ただのクラスメイトなんだけどさ…
ただ茶髪の女の子のカップリング妄想に参加させられてもたまらないし、色黒の子や眼鏡の子から勝手にライバル視されても困る。
別に彼らの趣味嗜好をとやかく言う権利はないけど、そこに俺が勝手に参戦させられてるなんて勘弁してほしいだけだ。
だがボーイズラブの神様は平穏な生活などさせてくれないつもりらしい。
今日もいつも通り由美ちゃんや顔見知りのみんなと軽く話しながら登校していただけなのに、この前の人とは別の着物の人が目の前にいる。
何も聞かなくてもわかるよ。どう考えてもこの前の人の知り合いでしょ…
「君がウチの上司が気にしとった子やね。ほんま普通の子にしか見えへんねんけどなぁ」
「俺に何か用事ですか?」
「ああ、君がボクの上司と話してるのを見とってな。ちょっとボクも話してみたいな~おもてやってきたんや」
ああ…あの着物の人の部下なんだ。てかこの人の喋り方で確信したわ。
ただのコスプレの人なのかと思ってたけど、この人たちは役者さんだったんだね。
目の前の細目の人の喋り方は京都弁っぽい感じだから、太秦あたりの時代劇俳優さんとかなんだろう。
羽織の背中に『誠』とでも書いてくれてたら新選組モノってすぐわかるんだけど、どうやらこの人たちは違うみたいだな。
しかし上司の人はもう帰ったのに、なんで次は部下の人がやってくるんだ?
「あなたの上司の人はもう帰りましたよ?」
「それはわかっとるよ。ちゃんと確認してから来とるからね」
「それなら俺じゃなくて黒崎くんのほうに行けばいいのでは?」
「そんな邪険にせんでもええやん。ちょっとあの人とどんな話をしたか知りとうてな」
うん?黒崎くんじゃなくて俺のところで上司の人が何を話したか聞きたい…
マジカ…つまりこの人は上司狙いだったのかよ!?しかも俺とのちょっとした会話内容ですら知りたいとかガチすぎんだろ!男のヤンデレとか誰得なんだよ。
…ちなみにこの場合どっちが攻めでどっちが受けになるんだろ?黒崎くんが受けだから、上司さんは攻めになるわけで、そうするとこの人は受けってことか。
受けのヤンデレなんて聞いたことないが、このNIPPONではそれが普通なんだろうか?
なんで朝っぱらからそんなヘビーな事態に巻き込まれなきゃいけないんだ…
つまり上司の人は黒崎くんを狙ってて、部下の人は上司を狙ってるのか。見事に矢印が交差しない関係だなぁ。
こういう人には嘘を言わずに正直に話しておくに限る。下手に隠し事なんかすればちょっとした疑いだけで刺されかねないからな。
「話したのは黒崎くんの事を少しだけですよ。(黒崎くんの事を好きすぎて)ほんの少し話しただけのクラスメイトである俺の事まで確認しにきたみたいですね」
「なるほどなぁ。ちなみにキミは黒崎クンのこと、どない思ってんのか聞かせてくれへん?」
おいおい、まさか俺と黒崎くんをくっつけたら自分が上司と…っていう考えしてるんじゃないだろうな?
なんなんだこの人たちは…俺はドが付くくらいノーマルだぞ。黒崎くんと話してるのだって、9割くらいは妄想の話に付き合ってるだけだ。
たまにアイデアが思い浮かばないことがあるみたいだからアドバイスというか、前世での漫画知識を披露することはあるがそれだけだぞ。
「黒崎くんの事ですか…普通にクラスメイトだと思ってますよ。そんなに話すことも多くないし、たまに彼の(妄想物語の)話を聞いたりアドバイスしたりする程度の関係ですから」
「(やっぱりキミが黒崎クンに何か吹き込んでるみたいやな)それならボクにもちょっとアドバイスもらわれへんかなぁ?」
「そうは言われても俺は(ボーイズラブの感情なんて)詳しくないですからね…それでも言わせてもらうなら、上司さんを狙うのは止めたほうがいいと思います」
「!?(コイツ…まさかボクが藍染隊長の命を狙ってるのを知っとる言うんか?)へぇ?ボクがあの人の事を狙ってるなんて、そんなわけないやんか」
「言わなくてもわかりますよ。(わざわざ京都からやってきて、ほんのちょっと話しただけの俺にまで何を話したのか聞きに来るくらいだし)正直なところ不毛だとは思いますけど、本気だけは伝わってきますからね」
「…不毛とは随分な言い方やな。ボクがあの人に敵わへんのはようわかってるよ」
敵わないのはわかってる?もしかして元々は上司さんとこの人は付き合ってて、上司さんが目移りしたとかなのか!?
有り得そうな話だな。恐らくだが上司さんは黒崎くん育成計画の傍ら、つまみ食い程度のつもりでこの人に手を出したんだろうけど、残念ながらその相手が悪かったってことだ。
まさかヤンデレ属性持ちだとは思ってなかった上司さんは、最初こそそれすらも楽しんでいたんだろうけど徐々に興味を失って飽きてきたんだろう。
あと考えられるのは、たぶんだが幕末とか時代劇の作中ってのは確か女人禁制とか普通にあった時代だよな。役作りのつもりが本気になってしまい…ってパターンってことか?
もしくは俺は見た記憶がないが、この人たちが演じてるのが
もし配役に入り込みすぎて元の自分と役がわからなくなってるってだけならまだチャンスはある。
きっとこの人だって話せば元に戻ってくれるはずだ。いやもしも本気なんだったら本人たちの気持ちの問題だから同性愛をどうこう言うつもりなんてないんだけど、できればそういうのは俺の関係ないところでやっていてもらいたい。
それにこのままだと黒崎くんを中心にして刃傷沙汰になりかねないしな。
気持ちだけは平和的に話し合いでどうにかなることではないってわかってるつもりだし、もうすでに色黒の子や眼鏡の子と上司さんで泥沼一歩手前くらいまで来てそうなのに、そこにあなたまで入ったら茶髪の子のご飯が更に進んでしまう。
ならば俺に火の粉が飛んでくる前に少しでも燃料は減らしておかないといけない。
「わかってるなら言わせてもらいますが、あなたの言う通り、あなたじゃあ上司さんには敵いません。あの人は俺が話しただけでも下準備は念入りにして(黒崎くんの性癖が)自分好みになる過程も楽しむタイプでしょうけど、あなたは(ヤンデレだろうから上司さんの心を)取り戻したいと思ったらそれしか考えず周りが見えなくなってるっぽいですし」
「(
なんかこの人の雰囲気が変わったような…やべぇ、ヤンデレ状態の人に諦めろってのはやっぱり地雷だったのか!?
そういや前世でもゲーム内でヤンデレキャラに刺されてバッドエンドなんてよくあったわ…これはマズイ気がする。もう説得とかしてる場合じゃない。
「おっと、話は最後まで聞いてください。あなたは(上司さんの心を自分の元に)取り戻したいんでしょうけど、求めてばかりではいけません。あなたの
「(乱菊がボクに)何を求めているか…?」
「ええ、そうです。あなたの(上司さんに対する)独りよがりな求愛ではなく、
「…独りよがりなんはようわかっとるけど、それを求愛と言われたんは初めてやなぁ。キミには(乱菊の魂を取り戻す事が)求愛に見えとるいうことか」
見えるも何も、ヤンデレの行動原理って「相手の全部が欲しい」みたいな感じじゃなかったっけ?
あと髪の毛とか食べさせて自分と相手が混ざり合う的な狂気的な愛情の事を指すもんだと思ってたんだけど、やっぱり自分では気づかないものなのかな?
なんか嫌な予感がして、思わずアドバイス的な言い方をしてしまったが許してくれ。俺だって男同士の痴情のもつれで刺されてバッドエンドなんて嫌なんだ。
それにこれは悪いアドバイスではないはず。この人が刃物振り回して「あなたを殺してボクの死ぬ!」とかやりだす前に少しでも考えてくれればいいんだから。
もしそれでも刃傷沙汰になるなら撮影所のほうでやってください。俺はそれを見てご飯が進むような人間ではありませんので。
「黒崎クンがキミにいろいろと相談するわけやね。ボクもちょっと(キミに対する)認識を変える必要があるみたいや」
「それほどではありませんよ。それに俺には
「黒崎クンの事もわかっとるわけか…ちなみにどこまで知っとるん?」
「どこまでと言われても難しいですが、彼が難儀な星の下に生まれてしまったなぁ…程度ですよ。彼の半生を考えると、言ってはなんですが俺では耐えられなかったでしょう」
「(難儀な星の下に、半生を考えるとねぇ…つまり藍染隊長の計画もお見通しっちゅうことか)キミが彼にアドバイスを送るのはそういう理由からっちゅうことか」
いや最初はそんな理由を知らなかったから、どちらかと言うと話に付き合うだけ付き合って早く帰りたかっただけだったはずだ。
ただ彼の境遇というか、同性愛者になるべく育てられたような人生を知ってしまい、哀れみのような気持ちがあることは否定しない。
そこで唯一の逃げ場である妄想世界まで否定してしまっては、黒崎くんはもう考える自由すらなくなってしまうと思うとね。
しかしノーマルな人間の少ない世界だなぁ。もしかしてこの世界にはMARINERAとかあるんじゃないだろうな…
俺みたいなマトモな人間には住みにくい世界とかやめてくれよ。
「キミと話せて良かったわ。まさか独りよがりの求愛言われるとは思わんかったなぁ。ちょっと(乱菊が何を求めてるのか)考えてみることにするわ」
「ええ、そのほうがいいでしょう。相手のためを思うのは大切な事ですが、必要なのはそれを相手が望んでいるのかということだと思います。あなたの
どこまで俺の気持ちが通じたのかわからないが、この人も少しは落ち着いて俺の話を聞いて考えてくれるみたいだ。
できればこのまま健全な世界で役者として大いに活躍してもらいたいものだ。上司の人だって本命が黒崎くんだろうから、この人がノーマルに戻ったとしても喜びこそすれ怒りはしないだろう。
着物の部下の人の表情を見るに、どうやら少しは
俺も学校へ行く途中だし時間があまりない事を察してくれたのか「それじゃボクはもう行くわ。キミとはまた話してみたいなぁ」と言って京都へ帰っていった。
次に会う時は舞妓さんでも芸妓さんでもいいから、仲の良い女の人ができたとかそういう話を聞けるといいな。
しかし俺もよく巻き込まれるもんだな…元々声をかけられやすいってのはあるんだろうけど、黒崎くんと関わってから増えたような気がする。これもある意味人気者なのかもしれないけど、でもみんな話をするだけで一緒に何かをすることはないんだよな。
通学路でよく会うケガしてるお姉さんだって未だに連絡先を教えてくれないし、由美ちゃんだって電柱のところで話すことはあるけど気分転換にと遊びに誘っても来てくれない。
声をかけてくるくらいなんだから嫌われてるわけでもないはずだし、恥ずかしいってこともないと思うんだけど理由がまったくわからん。かと言ってあんまりしつこく誘ったりするのも事案になりそうだからやるわけにはいかない。
「おい、あんまりチンタラ歩いてると遅刻しちまうぞ?」
「やぁ黒崎くん。君もヘビーな星の下に生まれてるよね」
「なんだよいきなり。確かにいろいろとあるけど、
「(やる?願わくばそれがヤるじゃないことを祈ってるよ)大丈夫だよ。間違っても(君たちの入り乱れる矢印に)首を突っ込もうなんて思ってないさ。これでも自分の身の程はわかってるつもりだよ」
この時、俺はわかってる気でいただけだと後で思い知らされることになる。
しばらくして京都からあんなにたくさんの役者さんたちが相談に来るなんて思わなかったんだ。
これにて原作時間軸での話は終了です。
あとは書くとしても原作後の後日談的な感じになると思います。