相克の“アンティーカ”   作:在処サクラ

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第四話 “すれ違い”

「で、できた……」

 

 私のデザインが起用され、製作に取り掛かってからおよそ三週間。

 ついに、私の分を含め『L'antica』用の衣装五つが無事に完成した。

 

「お疲れさん。初めてにしてはよくやったな」

 

「先輩……ありがとうございます!」

 

 流石にひとりきりで作るのは難しいと判断されたのか、途中から同僚の先輩男性も手を貸してくれていた。私に『L'antica』について教えてくれたあの人である。

 

「オイ地味メガネ、調子に乗ってんじゃねぇぞ。最終チェックは社長が直々に行う。俺達の仕事は終わったが、他のチームも追い込み入ってんだ。助っ人に呼ばれるだろうし、お前はまた雑用係に戻れ」

 

「は、はい。すみません……」

 

 リーダーは相変わらずキツい口調ではあったが、どうやらイライラしているわけではないらしい。彼の些細な仕草でその機嫌が理解できるようになった私も、すっかりこのチームの一員だなあ、と思う。

 

「……ま、なんだ。お前にしては、良くやったんじゃねぇか」

 

「えっ?」

 

「ただの雑用係だと思ってたが、今回だけは認めてやるよ。なんせ服だけは嘘をつかねぇ。その服は……ま、合格点だ」

 

「リーダー……」

 

「勘違いすんじゃねぇぞ。奇跡的に一枚良いデザインが描けたからって、お前が一人前のデザイナーになれたワケじゃねぇ。浮かれるのは勝手だが、調子には乗るなよ。デザイナーとして認められたいなら、まずはこの俺と同じ土台に立つことだな」

 

「は、はい!」

 

 口は悪いけど、これはこれで称賛して貰えているのだろう。

 確かに今回のは奇跡の一枚だと思う。偶然社長の目に留まり、それを『アンティーカ』の服として改良する為の意見を貰い、こうして見事なまでに昇華された―――

 

(全部……あの子のおかげだ……)

 

 もはやこれは運命と言っても良いかもしれない。

 私にとっては大きな転機となった今回のデザイン―――それを生み出すキッカケになった一人のアイドル。

 

 彼女の姿を見て、彼女の為の衣装を作ろうとして、頭の中に浮かんだデザインを描き起こして。

 

 最終的には社長の手が加えられて、私のイメージとは少し変わってしまったけれど―――それでも、この衣装を彼女が着ると想像しただけでワクワクが止まらない。

 

 惜しむらくは、ずっと付け加えたいと思っていたワンポイントアイテムが採用されなかったこと―――

 

(どうせなら……自分で、作ってみようかな)

 

 使われないと解っていても、どうしても形にはしたい。

 

 ……こういうのもデザイナー気質というものなのだろうか?

 そう考えたら、私はすごく嬉しくなって。

 

(TGC……楽しみだなあ……―――)

 

 私のデザイナー人生を変えてくれた、あのアイドルの為に作り上げた、正真正銘、私にとっての処女作。

 

 ―――イメージは白と黒。

 輝かしい舞台の上で舞う、()()()()使()()()()()()()

 

 きっと、彼女なら素晴らしいファーストルックを飾ってくれる―――私はそう信じていた。

 

  ◆◆◆

 

 283プロ、レッスン室。

 先に来ていた結華、そこに駆け付けた咲耶と霧子に加え、恋鐘と摩美々も仕事終わりに合流を果たしていた。

 

「ほら見て見て〜! この服、ばり可愛か〜!」

 

「わ……! ほんとだね……」

 

「昔はもうちょっと色々あったんだケドー、最近はゴスロリばっかりなんだよねぇ」

 

 恋鐘、霧子、摩美々はとあるファッション雑誌を囲みながらわいわいと話している。

 

 そんな中、結華と咲耶はウォーキングの反復練習に励んでいた。

 

「結華、もう少し肩の力を抜けるかい?」

 

「あーうん、ゴメンゴメン。やっぱ少しでも気が抜けると目立っちゃうんだねぇ」

 

「そうだね……私から見て、結華はもう完璧と言って良いんじゃないかな。ただ、これはあくまで基礎の話だ。最終的に大事になるのは着る服のコンセプトと、それを魅せる為の本人の表現力だからね」

 

「そういえば、Pたんがそろそろ衣装の出来上がる時期だろうって話してたけど……」

 

 二人が一息ついて語り合っていると、不意にレッスン室の扉が開いた。

 

「おーい結華、いるかー……ってなんだ、みんなも居たんだな」

 

 やってきたのはプロデューサー。

 その姿を見るや、全員がそちらへと駆け寄っていく。

 

「Pたん、どしたの?」

 

 先頭に立つのは結華。

 その屈託のない明るい表情を見て、プロデューサーの顔が険しく曇る。

 

「……いや、それがな。少し言いにくいんだが―――」

 

 そうして。

 プロデューサーの口から“それ”が伝えられる。

 

「―――TGC……ファッションショーの件についてだが、結華がファーストルックから降ろされた」

 

「……え?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、結華の表情は一変する。

 

 結華だけではない。

 この場にいる誰もが、驚きと戸惑いで口を開くことすら出来ないでいた。

 

「あちら側の意向だそうだ。『L'antica』の為に用意された衣装……既にほぼ完成しているらしいんだが、そのひとつ……ファーストルック用のデザインを急遽、別のデザイナーが用意したみたいで……」

 

「ファーストルックの、デザイン……?」

 

「その服のモチーフやイメージから、結華ではなく……()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

「わ、わたし……ですか……?」

 

 突然名前を呼ばれ、霧子は動揺する。

 

「ああ。俺も詳しい話は聞かされていないんだが、変更になった向こう側のデザイナーの指示なんだろう。そのデザイナーが結華ではなく、霧子をイメージして服を作ったのかもしれない」

 

「ちょ、ちょっと待つばい! 本番まであと二週間もなかとよ?」

 

「そうだよプロデューサー。私達はもちろん、結華はこれまでずっとファーストルックとして……」

 

「恋鐘、咲耶。俺も同じことを言ったよ。でも、今回の件については完全にあちら側の舞台だ。みんな……『L'antica』はあくまでモデルとして参加する立場。向こうの決定には逆らえない」

 

「それはそうですケド、それじゃあ三峰は―――」

 

 メンバー全員が異を唱える中、結華はひとり拳を握りしめていた。

 

 ファーストルックを降ろされた事への悔しさ、これまでの努力を裏切られたかのような憤り―――そんなものが心の中で渦巻いて、けれど、そんな自分が嫌になって。

 

「三峰なら大丈夫だよ、みんな。ほら、Pたんも困ってるしさ?」

 

「結華ちゃん……で、でも……」

 

「それに『L'antica』が降ろされたワケじゃないじゃん? 三峰じゃなくて、きりりんに代わっただけなんだし!」

 

「わ、わたし……ちゃんと、出来るかどうか……」

 

「きりりんだって一緒に練習してきたんだしさ、なんとかなるよ! 本音を言えばちょっと残念だなーとは思うけど、きりりんになら任せられるって思う」

 

 それが強がりであることを、この場にいる誰もが気付いていた。もちろん本心であることも。

 

「すまない、結華。でも、ファーストルックじゃなくたってランウェイを歩くことには変わらないんだ。みんな、これまで以上に気合いを入れてレッスン、頑張って欲しい」

 

 こうして、TGCでのファッションショー、そのファーストルックの座は結華から霧子へと受け継がれた。

 

 突然の申し出ではあったが、『L'antica』メンバー全員はそれ以上異議を唱えることもなく、再び練習に励むこととなり―――

 

 ……ついに。

 TGC、本番の日を迎えることとなる。

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