正直ダルい。目の前のトリオン兵――モールモッドの急所にスコーピオンを刺し入れながらそう思った。すでに周囲には数十、ともすれば百を超える
B級フリー、
風月のアタッカーランキングはそれほど高くない。しかしそれは本部でランク戦をしていないだけで、実際の実力は条件付きだとアタッカー一位のバカと同等。ちゃんとしたランク戦でも10000ポイントは超えていると言われている。が、その本業はオールラウンダーである。
「人型が出たから増えるのはわかるけど、やっぱダルいわ」
『仕方のないことだろう。この周囲のトリオン兵は殲滅された』
「りょーかい、そっちの戦況は?」
『少々厳しい。増援がいる』
「了解」
ネイバーによる大規模侵攻。その渦中に立たされている。B級の中でも腕の立つ風月は人型の相手を合同部隊に任せ、単身トリオン兵駆除のために動いていた。
B級合同部隊を指揮している東に許可をもらい警戒区域外でC級の護衛に向かおうとすると、周囲に潜んでいたと思われる
「……マジでダルいんだけど」
『全力でサポートする。7時の方向、数2体』
「…はぁ」
正直諦めムードではあるが死にたくないので戦う。グラスホッパーを起動し接近する無色2体に向かって突貫する。急所への攻撃を察知した新型が口を閉じて急所を守るが、風月の狙いはその2体ではない。友人のお目付け役の炊飯器からの情報で色つきの能力が判明している。その中でも一番厄介そうな黄色の新型をすれ違いざま孤月で叩き斬る。
『2体沈黙。2時と9時の方向から砲撃』
「了解。かち合わせる」
『連絡が取れた、”『強』印”。時間は3分だ』
「助かるぜ遊真、レプリカ。作戦変更誘って斬る」
『心得た』
一時的に強化されたトリオン体による全周防御。固定シールドではないので耐久力は低いが、シールドを固定させると足元から紫色の繰り出す液体ブレードに喰われる。空中なら狙い撃ちにされても逃走手段がある。
砲撃が止んだ瞬間にグラスホッパーを再起動、空中に上がってきた灰色の砲撃型を孤月の先から伸ばしたスコーピオンで突き裂く。撃破3。
下から磁力の弾が来る。足元にシールドを貼って被弾を防いでハウンド起動。黄色い奴を集中して狙うが、液体ブレードがそれを阻む。
「旋空孤月」
旋空孤月の一般的な射程は約18メートル。しかし風月は射程を3メートル程度にしか伸ばしておらず、至近距離での斬れ味向上のために旋空を使っている。なのであの程度の防御なら斬れる。
液体型のガードを上段から強引に叩き斬る。斬った瞬間地面を蹴り旋空を再度発動、紫の液体型2体を同時に撃破。合計6。
「ハウンド」
背後からの磁力弾をハウンドで迎撃。無色型2体が上から拳を叩きつけてくる。
「グラスホッパー」
その拳を反射させて体勢を崩させ、そのまま旋空で斬る。撃破8。
残り12体。そこでゲートが開き風月共々別の場所へワープさせられた。その場所には逃げるC級とソレを援護する烏丸と三雲の姿があった。
「はぁ!?ざけんなよクソワープがッ!」
「風月先輩も飛ばされたんですか」
「……もしかしてC級の護衛してた?」
「えぇ。東さんから連絡があったから待ちつつ引いてたんですけど、あの数とやりあってたんすか?」
「ああ。20体に囲まれた時は死を予感した」
烏丸が突撃銃のアステロイドを撃ち込み足止め。足を止めたところを風月が斬り払う。
「んで狙いはC級で、その中でもトリオンが馬鹿げてる雨取を狙ってる感じ?」
「大体そんな感じっす」
「んじゃまぁ殿は任せろ」
グラスホッパー展開。それぞれ2枚づつ重ねて反射力を上げる。三雲と雨取に深緑の煌めきが見えたので黄色の磁石型を優先して倒す。
「まずは一体」
展開していた最後のグラスホッパーを蹴り、旋空を発動させつつ2連撃。4体いた磁石型のうち2体を斬り捨てる。
頭上からハウンドの雨、鳥丸の援護だ。弾丸を防御しているところに潜り込み下からハウンドを食らわせる。体が浮いたところで、
「旋空孤月ァ!」
灰色2体と紫1体を斬り捨てた。残り9体。
ここでさらなる増援が来た。
「よぉ風月、随分手早く斬ったじゃねーか」
「おせーぞバカ3人衆」
「「誰がバカだ」」
「緑川否定しろよ」
「戦闘中、見てわかんない!?」
A級部隊の一員出水、米屋、緑川だ。風月はトリオン体強化がここで切れたため、丁度良かったと思っていた。
「多分俺はここからあまり戦力にならない。さっきまでブーストしてたからな」
「ずりーなオイ」
「20体に囲まれてみろ。泣きたくなるぞ」
いいながら米屋がガードを幻妖孤月ですり抜け一突き、出水はメテオラとバイパーを合成しトマホークで新型を浮かせる。そこに風月が突っ込みスコーピオンを膝から出して撃破。背後では緑川が持ち前の身軽さで2体撃破していた。
「ここで削り切る。援護頼む」
「オーケー。アステロイド!」
トリオンに物を言わせた弾幕プレイ。が、その実態は射程を犠牲に威力と弾速に振り切った必中の弾丸。そして風月はスコーピオンを限界まで伸ばし、敵の急所を穿った。
緑川と米屋が撃破したものを数えれば23。新型はこれで削りきれたはずだ。が――
『まずいです、援護頼みます』
「!…了解した。緑川、俺たちで先に詰めるぞ」
「オーケー先輩」
「俺らもすぐ追いつく!」
「あぁ!」
鳥丸の方で異常事態発生とのこと。機動力に優れる風月と緑川が先行して援護に向かう。そこには、
「……黒か。俺今日とことんツイてないのな」
「いいからやるよ、先輩」
敵のブラックトリガーが鳥を放ちC級をキューブにしていた。トリオンに対する攻撃ならば弾で対処するのが一番だろう。
「ハウンド」
狙いはもちろん敵の弾トリガー。威力はいらない、弾数と弾速を重視して迎撃する。
緑川は敵の本元へ接近していた。攻撃はせずに周囲を飛び回っているが、あれは単に詰められないだけだろう。いつ敵が動物を寄越してくるかわからない。ただ
『時間稼ぎするから駿はC級の援護に回れ。お前じゃ相性悪すぎる』
『そうだね。ミクモ先輩たちは任せて』
「もちろん。ハウンド!」
離脱する緑川を追う魚を迎撃する。いくつか弾幕を抜けていったが、緑川はシールドを細かく細分化してガードしていた。上手い。
足元に立方体が散らばる。トリオンのブロックとも言えるそれの中にはブロックにされたC級を確認できた。それらを拾いつつ弾幕を張っているとC級が逃げた先から巨大なトリオンの弾丸が飛来した。
「アステロイドっ!」
「バカ、修っ!」
その攻撃はすべてガードされ大きなトリオン塊が転がった。そして鳥の追撃が……
「…先輩っ!?」
「アホ、早く引け」
風月の左手と両足に触れた。咄嗟に分割シールドとスコーピオンを展開していたが、流石に全身をカバーすることはできなかった。
「畜生、もう動けねぇな」
「すみません…」
「うるせぇとっとと失せろ。お前のやることは逃げることだろ、ハウンドッ!」
「……わかりました!」
三雲と雨取が離脱したことを確認してからハウンドを弾数極振りで放つ。が如何せん距離が近すぎる故残った右手も大した機能を果たさなくなる。
「先程の兵を庇ったのは失策だったな、ミデンの射手」
「俺はあいにく射手と呼べるほど訓練してないのでな。もっとふさわしい人がテメェの首狙ってるぜ?」
そういってハウンドを乱射する風月。そして後ろから山なりの軌道を描いて弾丸が炸裂した。
「すまねぇ待たせた!」
「時間稼ぎは済んだ。ここから反撃してやるぜ黒角擬人化動物園野郎」
「「長ェ」」
「うるせぇ」
風月はハウンドと分割シールド、出水はアステロイドフルアタック、米屋は転がった瓦礫を準備して反撃に移った。