---賢者マリン---
目の前では信じられない光景があった。勇者リュートの首筋に容易
く手刀を叩き込む女。高レベルの暗殺者か?床に倒れた勇者リュー
トの身体が消えた。どこかに強制転移させたのか?転移術だと…賢
者である私が使えないのに…コイツら、何者だ?
冒険者ギルド本部から出た二人を追跡し始めた。私は勇者リュート
が失敗した時のバックアップ要員である。
街ハズレに向かう二人。街を出ると、突然私の目の前に現れた二人
…瞬動術か?
「なぁ、こそこそ付いてくるのは止めてくれない?」
身体が…動かない…
「ここで死ぬか?」
魔法なのか…なんで…声が出ない。詠唱が出来ないだと…
「次は無いからな」
鳩尾に激痛…意識が…
---アノス---
勇者リュートの記憶がハッキリして来た頃、今度は賢者マリンの姿
が玉間に現れた。コイツもやられたのだな。リュートの治癒が終わ
った治癒士達に、マリンの治癒を命じた。
これでハッキリした。冒険者パーティー『村人からの成り上がり』
は危険な存在であると。勇者と賢者を容易く倒せるなんて…味方に
付ければ心強いが…愚王である父にとっての村人マインもこんな存
在だったのだろうか?
冒険者ギルド本部のグランドマスターに、『村人からの成り上が
り』のリーダーと話し合いの場を作って欲しいとお願いをした。
数日後、いきなり知らない場所…いや、記憶に残る場所に転移させ
られた。ここは、魔王領域では無いか?だが、私の知っている魔王
領域と雰囲気が異なっていた。
「愚王アノスか?」
目の間には知らない男がいた。コイツが『村人からの成り上がり』
のリーダーか?
「ここは魔王領域なのか?」
「そうだけど…愚王の割に、記憶力がいいな」
「お前が新しい魔王か?」
「俺がか?俺をあんな弱いヤツと同じにするなよ」
魔王が弱いだと…コイツは何者だ…
「さて、交渉しよう。まず、お前の犯した罪は、勇者と賢者を刺客
にして俺を狙ったこと。次にお前の父親の罪だが、元騎士団長を召
喚者達の玩具にしたことだ。賠償として今後俺達に関わるな。ルナ
の退職金を払え!」
コイツ…騎士団長だったルナの養父か…
「お前の名誉を回復する用意がある。えん罪だと認める」
「はぁ?俺のどの行為がえん罪なんだ?知りもしないで、いい加減
なことを…流石は愚王だな」
確かに、ルナの養父の罪を知らない。どんな罪を掛けられたんだ?
「なんで、私を魔王領域に引き込んだのだ?」
「簡単なことだ。お前程度の為に、俺が移動する手間を掛けるのが
メンドーだったからだ」
「魔王領域に…まさか住んでいるのか?」
「問題ないだろ?もう悪い神も悪い魔王もいないんだから、俺がどう使
おうが、お前らの預かり知らぬことだ」
魔王だけでなく、神すらも殺したのか…
「話は済んだ。明日、ルナの退職金を貰う。もう関わるなよ」
次の瞬間、私は玉間に強制転移させらていた。