ユーナの鍛錬22日目。ルシアによる魔力の制御の仕方を理解をし、
漸く初級魔法を覚えたようだ。
「ウォーターボールが使えるようになりました~」
嬉しそうに手桶に水を溜めていくユーナ。
「全属性とは、羨ましいなぁ」
魔王であるルシアは、種族の特性上、聖属性、光属性を持てない。
その代わり、無尽蔵な魔力を持てているのだった。
あのメイド見習いは返品した。行儀見習い以前の問題で、周囲を観
察出来ないみたいで、寝間着からメイド服に着替えることすら、出
来ていなかった。グランドマスターに返品ついでに訊いてみたとこ
ろ、自分一人で着替えや湯浴みが出来ないことが判明した。
「行儀よりもまず、それからでしょ?」
「いや、貴族令嬢ってそんなものだろ?」
「いやいや、身の回りのことが自分で出来ないなら、メイド見習い
として送り込まないで欲しいです」
「そこか?そこからなのか…」
「まずは、親が日常生活を躾けてください。俺の娘達は全員、一人
で出来ますよ」
唸る義兄。そこまで酷いとは思わなかったのだろうか?
「そうですね。着替えとおトイレは最低限一人で出来るようにして
ください」
トイレに入って出て来ないと思ったら、自分で拭けないって…メイ
ド見習いがメイドを呼ぶってどうなの?
◇
今日はユーナに軽く実戦をさせてみるか。向かった先は公国から愚
王じゃない王国に伸びる街道で、そこを徒歩で移動する。街道に沿
うように森が広がり、魔物や魔獣、果ては盗賊などが生息してい
る。それらを中距離から探索して狩る訓練である。盗賊がいればラ
ッキーである。アジトを強襲してお宝をゲット出来る場合があるか
らだ。
「師匠、馬車が襲われているみたいだよ」
ユーナの探索能力にヒットしたようだ。
「あれは人に見えるけどゴブリンだ。被害者を殺すなよ。ユーナと
ルナは遊撃、ルシアはユーナのガード、エリーゼは被害者の救援で
行ってみよう」
娘4人は頷き、現場へ急行していく。俺はヤツラのアジトを探す。
森の中程に、ゴブリンの村を占拠した盗賊達を見つけた。後で、行
くか。
俺が襲撃現場に着く頃には、娘達が制圧を終えていた。襲われたの
は貴族と商人のキャラバンのようだ。
「助かりました。冒険者の方ですか?」
商人らしき男に訊かれた。
「まぁ、そんな処です。このキャラバンには冒険者はガード要員と
していなかったのですか?」
被害を受けたのは貴族のガードの騎士達のようで、冒険者らしき者
達はいない。
「いえ、いたのですが…勝てないと思ったのか、逃げていきました
よ」
「それは災難でしたね」
エリーゼが生きている者だけに治療を施した。死んだ者の蘇生は、
身元バレする恐れがあるので、禁止にしていた。
「では、これで失礼します」
相手がお礼やなんやと言い出す前に、俺達は森に攻め込んだ。貴族
が絡むと面倒であるからだよ。
森の中程に行くと、村が見えて来た。村の外にはゴブリンの死骸が
多数、山の様になっている。村の中には見るからに盗賊風の男共が
獲物を前に宴をしているようだ。獲物は逃げた冒険者達で、生きて
いるのは女体だけで、既に全裸にされ、性欲魔人達が群がっている
ようだ。なんというか羨ましい。
「あれ?師匠、あれって、勇者とその仲間ですよ」
と、ユーナ。勇者召喚された者達か。盗賊相手に逃亡し、捕獲され
るようでは、魔王討伐なんて出来ないだろうに…
「どうしますか?」
ユーナには仲間意識が無いようだ。まるで他人事である。
「通常の狩りと一緒だ。性欲魔人に見えるゴブリンは殲滅、生きて
いる捕虜は、ギルドへ配送する。勇者パーティーは治癒しなくてい
い。役目は先ほどと同じで、狩りを開始してくれ」
娘達は頷き、村へ襲い掛かった。5分ほどで制圧し、捕虜達を、ギ
ルド本部へ強制転移させていく。勇者がいるなら関わりたくないか
ら。
娘達は、身元の判る物、装備品、金目の物を集め、ゴブリンと言う
名の盗賊達の全裸死体をゴブリンの死骸の山へと投げ飛ばしてい
く。ゾンビ化させない為、衛生問題の為、死体は総て焼却処分する
のだ。
「なんかお宝はあったか?」
「勇者装備くらいだな。あとは小銭と魔石が少々かな」
と、ルナ。
「聖剣は、後でペティナイフにするか。浄化能力があるし、消毒効
果がありそうだよな」
通常の剣でオーバーキルしているルナには、いらない剣だし。そも
そも、この世界の聖剣は魔王領域に入る為の鍵にしかならない。