ユーナの鍛錬30日目。預かり令嬢が居るため、大規模遠征に出られ
ず、教育用のダンジョンを公国内に設置することにした。ここに設
置すると、ゴブリン、オークなどの演習に即した人タイプ魔物が生
息出来ない為、公国に設置することにした。ここ魔王領域だと、悪
魔系、巨大系の魔物が出やすいのだった。ユーナの鍛錬用には厳し
く、暗殺者向きになりつつあるユーナは人タイプの相手が相性が良いのだった。
アイリスを加えた娘達と、格闘系の基礎である呼吸法の鍛錬を始め
た。ユーナとアイリスを除いた俺達は、基本呼吸を必要としないの
だが、呼吸により精神統一がしやすいのは、元々呼吸を必要として
いた生物だった名残らしい。
「ゆっくり深く呼吸することで、空気中の魔素を体内に取り込みや
すくなる。それは体外魔力を使う上で、必要なことだ」
訓練中もアドバイスを送る。普通の魔法使い達は体内魔力を使い、
それを用いて魔法を行使するが、体外魔力を使えるようにするとス
テイタスに現れるMPの値よりも多くの魔力を扱えるようになる。
MPの値は血液の量と魔素の血中濃度、それに加え魔素を魔力に変
換する心臓の強度により変化する。身体が大きくなり、血液量が増
えると魔力が増えるのだ。
魔力を溜めておけるのは血管内の血液であり、血管はしなやかで丈
夫である必要がある。それを為すためには食生活から極める必要が
あるのだ。
この世界には栄養学は無い。人体解剖学も無い。大賢者としての知
識と転生者としての知識により、ここまで魔法理論を解明できたの
は奇跡に近いかな。
「後、食事は重要である。丈夫な身体を作ることは、体術にとって
も魔法にとっても大切である。好き嫌いはなくそうね」
この世界に無い食材は好き嫌いが激しいようだ。特に海産物や野
菜。微塵切りにしてハンバーグにしてしまえば、バレずに喰ってく
れるけど。
---アイリス・ノヴァ---
食べ物が美味しい。いや、美味しすぎる。お城の晩餐会よりも美味
しい食事が毎日食せるのは嬉しい。その上、沢山食べているのに太
らないし。
「これはなんていう食べ物ですか?」
「ハンバーグだ。オークとミノタウロスの肉を合い挽きという状態
にして捏ねて、丸めて焼き上げたものを、スープで煮込んだ物だ
よ」
魔物肉がこんなに美味しいとは…ダンジョンにしか生息しないミノ
タウロスの肉は、王都ではたまに見かける高級食材である。
「もう少しすれば、食用飼育した牛というミノタウロスの肉に似た
家畜の肉と、ブタというオークの肉に似た家畜の肉が手に入るよ」
牧場では見た事のない家畜が沢山飼育されている。あれって、食用
なんだ。
「これは美味しい、これはなんと言う料理ですか?」
「それはカレーライスだ。白いつぶつぶはライスで、茶色いソース
はカレーだよ」
帰宅したら、ここの食事には出会えないのかな…ここに永住したい
なぁ。
---マイン---
ユーナの鍛錬31日目。アイリスのジョブはお嬢様で、家事全般にデ
パフが付いていた。料理を覚えたいというアイリスにとってのハン
デであるが。座学、護身術の他、料理と解体のスキルも教えていく。
ユーナよりもスキルの伸びが悪いけど、彼女の努力を知っているので、
根気よく教えていくか。
地球から、コシヒカリ、牛の枝肉、ブタの枝肉、調味料の類いを仕
入れて来た。まだ飼育している牧畜から肉を得られるだけの個体が
いないから。
買ってきた枝肉は、使いやすいように解体していく。オークを丸々
解体よりも楽な作業であるが、肉のクリーニング工程は、見極めが
大事である。大雑把だと、食える部分が少なくなるし。焼き豚用や
ビーフシチュー用の糸で縛る作業も大切だし。コンビーフ化する作
業なんて完全の手作業だし。枝肉1本で2,3日潰れる程度の手間
である。
「お父さん、私はコンビーフ作業する」
縛り作業に飽きたルナがコンビーフの作業を始めた。肉の線維単位
にバラす作業である。両手剣使いであるルナはナイフ作業が苦手の
ようだ。
---リュート---
マリン共々、グランデ公国に、女勇者、女僧侶の勇者パーティーを
拾いに行った。ユートハイム王国のノヴァ公爵家の護衛任務を失敗
し、盗賊に捕縛され、穢されたそうだ。二人共心がポッキリと折れ
ていた。
「助けてくれたパーティーにお礼が言いたいのだが」
「必要は無い。このまま、帰ってくれないか」
グランドマスターの言葉から、関わったパーティーが大体判った。
あのパーティーなんだろう。
「王からも礼をするように言われている」
「アイツは愚王が大嫌いだ。早く帰ってくれ。もうコイツらを国か
ら出すな。迷惑だ」
嫌いな理由は想像が付く。アノンがえん罪の内容を知らずに、えん
罪を晴らし名誉を回復すると言ったらしいからだろう。えん罪の内
容をまず知る事が大事であるのに…先走ったことを言ったな、アイ
ツは。
迷惑の理由も分かる。盗賊ごときに心を折られる勇者パーティーで
は不安なんだろう。魔王を倒すどころ騒ぎでは無い。
「そもそも、魔王はいるのか?勇者は必要なのか?勇者ありきの魔
王に思えてしかたが無いんだよ」
アノンによると、『村人からの成り上がり』の拠点は、禁足地であ
る魔王領域だったと言う。あのパーティーリーダーは、もう魔王が
いないと断言したらしい。
「いるかいないかを確かめる為に、勇者が必要だろ?」
「聖剣をロストした勇者はいらないだろうに」
確かに…魔王領域に入るための鍵になる聖剣を、あの女勇者は盗賊に
奪われた。いや勇者装備の総てをロストした。それは勇者としての資
格を失ったことに繋がる。由々しき事態である。