従者のセバスチャンを呼び、ナナとユーナの部屋を準備してもらった。二人共このまま、ここに住むと言う。
「だって、私達だけ帰っても、ユーキ君は帰れないんだよね?」
とナナ。俺は向こうでは既に荼毘に付されいるしな。旅行程度で帰る分には問題無いけど、こちらでの仕事もあり、向こうに永住は出来ない。後、コチラの世界の娘達の行く末が気になるしなぁ。
ナナは俺の両親に、そのことを伝えたいそうだ。俺亡き後、結城姓となったナナは、俺の両親と暮らし、ユーナを育てたそうだ。なので三人で里帰りし、夢枕状態で今後のことを知らせることになり、三人で元の世界に転移した。俺の両親に夢うつつ状態にする魔法を掛け、ナナ達を枕元に置いた。
俺は、二人に前以て指示された物を亜空間収納庫にせっせと収納していった。下着、洋服の入ったタンスや引き出し、本棚、机、そしてシャンプー、リンス、コンデショナー、化粧品、歯ブラシに至るまで、二人の愛用の私物を収納していった。
「伝え終わったよ」
ナナの声。収納忘れが無いかをチェックして、俺達の住む世界へと帰った。
「なぁに?これ…動き易い」
ルナがユーナのジャージに興味を示した。なので、ルナとルシアの分を買いに行き、二人にプレゼントした。
次にお風呂場を改築しないとダメだ。住民が増えたことで、シャワーの数が少なく、サウナとか湯船が狭い。錬成術で増設、拡張していく。
「お父さん、私はどんな鍛錬をするの?」
ユーナに訊かれた。
「料理から始めよう。料理を極めていけば、剣術、錬成術、調合などのスキルも覚えるから」
村娘、村人はハズレジョブと思われているが、実は大当たりジョブなのだ。日常生活に必要な行為をするだけで、様々なスキルが伸びていく。包丁さばきが向上すれば剣術、短剣術が鍛えられ、味見、味付けで調合が鍛えられる。水くみなんかだと、体力、筋力で、水補給なんかだと水魔法など、様々なスキル魔法が鍛錬できるのだ。
これが大当たりだと言われる勇者だと、上級剣術、上級魔法を鍛えない限り、スキルの伸びは無い。剣豪なんかだと、魔法が得られない可能性もあるし。この世界は理を読み解けずに、間違った解釈で愚かな指導をしている者ばかりである。
「1週間、料理を鍛えて、ステイタスの伸びを確認して、次の目標を決めよう」
とは言ったが、次は解体である。解体作業を極めていけば、剣術、特に短剣術の伸びが良い。どこに切れ込みを入れれば解体しやすいかを知れば、相手の急所も分かり易いはずだ。
「お父さん、お風呂入ろうよ」
ルナが俺を誘う。
「えっ?!お父さんと入るの?」
ユーナ、ナナが驚いている。
「毎日、お父さんに洗って貰っているけど…ダメなの?」
ちょっと困った顔のルナ。ルシアは平常運転で、俺をお風呂場に向かって引っ張っていた。小さい時からお風呂に入れていたので、今でも俺と入るのが当然と思っている娘二人。それはこの世界の倫理とも異なる行為ではあるが…
「だって…異性とお風呂って…間違いがあったら…」
ナナの声だ。既に俺とルシアは風呂場で、居間に残った三人の表情が分からない。ナナの言いたいことは分かる。俺が普通の男であればだが。
「お父さんと間違いは起きないよ。だって、お父さんは…」
ルナが俺の問題を小声で伝えているようだ。俺の問題…勇者パーティーを追放された後、赤子を拾ったのだが、母乳の当てがまるで無かった。なので智天使を召喚し、母乳を作り出す能力を貰ったのだ。その代償として、年齢は3倍にされ、永遠の45歳に…男しての致命傷である子宝を作る行為がまったく出来なくされたのだった。
故にスタイル抜群のルナの全裸を見ても、ムクムクもしないし、悶々ともしない。俺は男して終わっているのだった。
「お父さん…捨て子を育てる為に、そんな大事な物を天使に捧げたの?」
全裸のルナと共に入浴しに来た全裸のユーナに訊かれた。
「赤子を生かす為には、問題無い。確かに、ルナの全裸を見ると、なんか勿体無い気もしないでも無いが…」
ルシアの頭を洗いながら、そう説明した。見れば分かるが、俺の股間には何も無いのだ。小便の出る穴すら無い。人間としても終わっているかもしれない。あのクソ天使めぇぇぇぇ~!
「まぁ、娘が三人…ユーナを入れれば四人いるし。問題は無いだろう」
最初に拾った赤子は、親元に帰っている。なので、もう俺との関係は無い。
「ユーキ君、よく頑張りましたね」
ナナが俺を抱き締めてくれた。ナナの全裸によるスキンシップ、前世の俺なら鼻血モノだろうが、今の俺には何の刺激も無い。良いことをしたのに
罰を受けている気分である。
「すまん、ナナ。もう一人…無理だ」
血の繋がった子を育てたかった。ルナも拾い子、ルシアもだ。
「いいの。こうして、一緒に暮らせる幸せ…子作りより有意義だわ」
まぁ、そうとも言うか。
◇
ユーナの鍛錬1日目。朝ご飯を一緒につくる。小麦を捏ね、熟成させて、石釜で食パンを焼き、カリカリベーコンにスクランブルエッグを添える。食材は、俺があちらの世界で買い込んで来ている。家の周囲で牛、ブタ、鶏を飼っているが、買って来る物より味が数段落ちるのだ。
「エサを改良しないとダメかな」
「王都で探してくるよ」
食事を済まし、ルナが王都へ転移していく。セントラル王国騎士団長を務めるルナはほぼ毎日出勤をし、俺とルシアは、牧場の世話と狩りをする毎日である。狩りで得た肉や皮、角、魔石などを売って生計を立てている。近くの街で物品販売をし、得たお金で金を買い、アチラの世界で換金し、輸入すると言う。
「買い出しと欲しい物は、このメモに書いておいて。買い出しは、2週間くらいに1回だよ」
亜空間収納庫のおかげで、まとめ買いも問題は無い。コス●コやプ●ショップの会員になっているので、大量購入も問題は無い。
「人数が増えたし、冷蔵庫と洗濯機、後、太陽光発電システムが欲しいかな」
と、ルシア。大物家電が多数だな。少し、換金素材を狩りに行くか。
「ルシア、午後から迷宮巡りして、稼ぐぞ」
「了解」
ルシアと俺の二人ならば、どこの迷宮でも大丈夫だろう。ここにルナが加わると、オーバーキルになりかねないけど。
「ねぇ、ユーキ君。ここってどこなの?家の周りは平原で、遠くに山々が見えるけど」
この世界の地図帳を見て訊いてきたナナ。
「ここは地図には載っていない。魔王領域と呼ばれる禁足地だから」
「ま、魔王がいるエリア?!」
「魔王?目の前にいるけど…」
俺はルシアを指差した。
「うん?」
ルシアは首を横に傾けた。
「る、ルシアちゃんって、魔王なの?」
ナナの声が裏返っている。
「そうだけど…因みに、この家の建っている場所って、魔王城の跡地で、使った建材は魔王城の瓦礫を錬成したんだよ」
「魔王城の跡地?ど、ど、どういうこと?勇者召喚なんか必要無かったの?」
「無いよ。だって、この世界には悪い魔王も、傲慢な神もいないから。その事実を人間が認めないだけだよ」
先代の魔王も先々代の魔王も俺が消した。そして、傲慢なる神もだ。
「人間が一方的に魔王を倒さなきゃって思っているだけ。世界最高戦力と呼ばれているルナが勇者パーティーに入らないのも、悪い魔王がいないことを知っているからだし」
ルナが勇者パーティーに参加しないから、勇者召喚の儀式を行う理由にしている人間サイド。ナンセンスである。
「なんで、そのことを知らせないの?」
「俺はセントラル王国と聖王国に入国禁止だから。えん罪なんだけど、セントラル王国も聖王国でも、俺は国家反逆罪で入国次第、死刑だそうだ。事実を知らせる方法は無い。大罪人の俺の言葉を信じる王族はいないからね」
ルナは俺のえん罪を晴らそうとアレコレしてくれているみたいだけど…あのクソトリオである王と宰相、聖王がいる限り無理だな。
「魔王って、勇者でなくても倒せるの?」
ナナに訊かれた。
「倒せるよ。勇者が魔王討伐に必要な理由は、魔王領域に入るための鍵ってことだけだし」
魔王領域は、特殊な結界で護られていて、何人もその結界を通り抜けられない。例外は勇者のいるパーティーだけである。勇者で無い俺達が転移出来るのは、行ったことのある場所には自由に転移出来るからで、俺が勇者パーティーとして、この地を訪れたことがあるからだ、俺達家族は皆転移出来る。まだ転移術を持っていないユーナとナナには無理だけど。