夕方、ルナが帰宅してから夕食の支度を始めた。狩って来たボアキングという猪の親玉を解体して、肉をクリーニングして、食べる分だけ錬成術で急速熟成させ、食べない分は熟成庫に保存しておく。
「今日はボタン鍋だ」
米を炊き、漬物を出し、鍋の準備を進める。味噌の調合メモをユーナに渡し、調合スキルを鍛えて行く。
「ユーナ、錬成、錬金、魔法はイメージが大事だ。過程のイメージを頭に焼き付けながら、作業しろよ」
「はい、師匠!」
ユーナは習う時だけ、俺を師匠と呼ぶらしい。そういえば、ルナもそうだったか。ルナの場合は初めから剣士だったから、スキルの伸びは良く無かったけど。
「ねぇ、ルシアちゃんとルナさんと出会った馴れ初めは?」
ナナが話題を切り出した。気になるよな、やっぱり…魔王と剣聖だし。
「初めに拾った子は親元に返ったんだけど、まるで俺が誘拐したような事を言ってね。俺とその赤子が住んでいる村に攻めてきたんだよ。その時に分かったんだけど、あの赤子は聖王国の王女だったんだよ。俺は聖王国の王女を誘拐した罪で、死刑を言い渡され、攻めてきた聖王国の軍隊、聖騎士団と戦った。村人を逃がしながら戦って、相手の聖騎士団を殲滅したのが良く無かった。聖王国と小規模国連合との間の戦争の引き金になったんだ。結果、俺は聖王国、連合国の両方から戦争を起こしたテロリストと言う罪を背負わされた」
「捨て子を拾って育てただけなのに?」
「あぁ…その行為で俺は大罪人の烙印を押された。その後、聖王国、セントラル王国の圧力で、人間の治める国の殆どにおいて、大罪人認定をされ、俺は住む場所を失った。そして、流れ着いたのは魔王城だ。ぶつけようの無い怒りを魔王城に向けて、一人で魔王城を殲滅させた。その時に、地下室を見つけたんだ。その地下室に入ると、神と名乗る人物がいてね、人魔大戦の理由を訊いたんだ。人魔大戦…それは大戦でなく対戦であり、神と智天使との将棋とかチェスのようなゲームだった。魔王サイドを神が担当し、聖王サイドを智天使が担当し、魔王対勇者、聖騎士の戦略ゲームをしているだけだった。神は天の声として魔王を煽り、智天使は天啓として聖王、聖女、勇者を煽った。これが魔王と人間の戦う理由だよ。そんなことの為に、異世界から拉致したり、大勢の人々の命が消えたんだ。俺はその怒りの矛先を神と天使に向けた」
怒りにまかせ、神は煉獄に落とし、智天使は下僕に堕とした。俺を大賢者にしてくれた智天使が、まさか悪の権化だったとは。裏切りもいいところである。俺は智天使ラファエルを隷属の術で、俺に逆らえないようにしてある。
「神を煉獄に堕とした後、熾天使が降臨してきて、俺に謝った。その時に、神の代わりに、この世界の管理者として、この世界を導いて欲しいと言われたんだ。管理者として生きるなら、魔王領域を好きに使っていいって言われてね。だから、ここに俺の家を作った。その時に託されたのが魔王の卵…好きに育てて良いって…孵化したらルシアが産まれた」
ナナ達が聞き入っている。
「今後、人魔大戦を起こさない為に、ルシアは俺の娘として育てた。卵生のせいか、産まれた時には赤子では無く少女として産まれた。だから、俺と同じ物を食べ、人間としての暮らしを教えていった。熾天使ミカエルは、サポート要員として悪魔公爵であるセバスチャンを寄越してくれ、従者として執事として、俺の手助けをしてくれている。この世界では悪魔も天使も同族らしい。ただ駒としての見分けの問題で、姿が違うらしいんだ。そのことを人間は知らない。だから、悪魔は悪だと決めつけている」
その決めつけが勇者待望論に繋がり、異世界からの拉致に繋がる。
「ある時、ルシアとの散歩に出たんだ。あの戦争の発端となった村へ…そこで戦争孤児らしいルナを見つけて保護をした。ルナは名前しか覚えていなかった。どこの村の出身かも覚えておらず、親元に返すに返せなくて…ルシアとルナが仲良くなったのを見て、ここに連れ帰って、俺の娘として育てた。これが馴れ初めだな」
「お父さん…拾ってくれてありがとう」
ルナが抱きついて来た。柔らかな二つの丘が俺の胸板を刺激するが、気持ち良さすら感じない。あの智天使のヤロー!俺の悶々感を返えせぇぇぇぇ~!
「ユーキ君は、ここ以外では住めないの?」
「まぁ、そうなるなぁ。身元さえ割れなければ、どこでも行けるけど…あぁ、偽名でジョナサンって名乗って、俺とルシア、ルナで冒険者パーティー『村人からの成り上がり』を結成して、たまに冒険者しているよ」
大賢者特権、ステイタスを偽装しまくれる。なので、俺達の正体はバレないはずだ。熾天使もそう言っていたし。
「ユーナも戦えるようになったら、パーティーに加入させるからな」
「はい!」
◇
ユーナの鍛錬2日目。調合、短剣術が芽生えた。錬成はもうしばらくかかるかな。
「ルシア、ユーナに魔法を教えて上げて。取り敢えず、ウォーターボールとファイアーボールな」
「あい!」
両方とも、料理には必要である。桶に水を溜めたり、種火を作ったりと。
---side ルナ---
召喚勇者達が街で狼藉を働いているそうだ。お金を払わずに飲み喰いをし、気に行った異性には乱暴をし…召喚勇者は魔導騎士団の客員になる為、私の騎士団では取り締まれない。魔導宰相…魔導騎士団の団長に文句を言うが。
「彼らは我が国の戦力を高めてくれる存在だよ。ルナ騎士団長よりも強い。そんな存在に快く働いて貰う為の処置だ。多少やんちゃな方が元気があり、よろしいだろ?」
王都に暮らす住民の安全はいいのか?平民、貴族関係無しに、襲われているんだが…当然、襲われた貴族達から、うちの騎士団に苦情が押し寄せる。貴族達も国王直轄の魔導騎士団に苦情が入れられないようだ。
最後の手段、王への直訴…だが、
「お前が勇者パーティーに入らぬというから、異世界から来て貰っているんだ。それよりも、お前の身体を勇者に差し出せ」
何を言っているんだ?このジジィは…玉間にいる近衛騎士団は私の配下であり、王の世迷い言をスルーしている。
「おい、コイツを捕縛しろ!」
どこからか湧いた魔導騎士団と召喚勇者達に捕縛された私。迂闊に傷つけると配下の者に八つ当たりされる恐れがあるからだ。
「おぉ~、いい身体じゃないか」
召喚勇者達の手が私の身体を弄り始めた。王と魔導宰相達のゲスな笑み。私をコイツらの玩具にする気か?そんなのは、いやぁぁぁぁぁ~!お父さん…助けて…
グシャ!グシャ!グシャ!
何かが潰れる音がする。優しいオーラが私を包み、馴染んだ臭いに抱き締められた。お父さんだ!
「ルナ、帰るぞ。お前は娼婦では無いんだから。こんな場所にいたら、心が病むぞ」
お父さん…迎えに来てくれた。
---side アノス---
「大変です。殿下!」
父である王のガード役である近衛騎士団の者が私の部屋に入ってきた。
「直ぐに玉間に来て下さい」
迎えに来た者と玉間に向かうと、一面血の海、四方八方に骨肉片が散らばっている。地獄絵図とはこういう事だろうか?玉間には血の匂いが充満しているし。
「何があった。誰がやられた?」
「王の命令でルナ騎士団長が召喚勇者達の慰み者に…」
なんてことをするんだ?この世界最高火力の騎士団長を悪ガキ達の玩具に?
「騎士団長を助けに来た魔導師が、王、宰相、魔導宰相、魔導騎士団、召喚勇者のパーティーを瞬時に殲滅させて、騎士団長と共に逃走しました」
召喚勇者パーティーと魔導騎士団…我が国の最高戦力集団を瞬時に殲滅?そんな魔導師は訊いたこと無いぞ。もし、いるのであれば、この世界の最高火力の魔導師になるはずだ。
「その魔導師は見た顔か?」
「いえ、見た事が無いです」
「ルナ騎士団長の家はどこだ?」
そこにいるはずだ。近衛騎士団と共に、ルナ騎士団長の家へ向かった。
◇
彼女の家は蛻の殻だった。住んでいた形跡がまるで無い。
「彼女の実家はどこだ?」
「戦災孤児で、騎士養成学校からのたたき上げです」
実家も無いのか。誰が助けたんだ?戦災孤児であれば、両親もいないだろうし。
「彼女と親しい者はおるか?」
「プライベートで親しい者はおりません」
騎士団長にまで上り詰めた彼女なのに、分からないことだらけである。
「騎士団に入団するに当たっての保証人は?」
「確か…騎士養成学校の校長です」
騎士養成学校へと向かった。
◇
応接間に通され、校長に用件を伝えた。
「彼女の親しい者ですか?いないのでは?鍛錬と食事と睡眠の毎日でしたから」
学生時代も、ストイックに強くなることだけに集中していたようだ。女性なのに女性らしいことに興味を持つことも無く、鍛錬に明け暮れる毎日だったそうだ。
「そういえば、育ての親がえん罪を掛けられているから、名誉を回復したいって相談されたことがありました」
育ての親?えん罪?それがあの魔導師か?