ユーナの鍛錬10日目。暗殺術からの派生スキルの気配消滅、探知を覚えた。気配消滅は足音、息吹など存在を示す現象を消し去るスキルで、探知は敵味方の位置や距離を感覚的に掴むスキルである。ユーナはどこに向かって成長しているんだろうか?
「裁縫をナナに教えて貰えよ」
「はい、師匠」
裁縫の派生スキルも中々良いものがあるし、将来が楽しみであり、不安である。
解体実習用の魔物を求めて、聖王国のダンジョンにやってきた。ここのダンジョンは暫く来ない間に、アンデッドダンジョンに変貌していた。聖女様に何か遭ったのだろうか。あの娘はまだ生きているだろうか?ここに来たのも縁かな。今日こそ連れ帰るかな。
「コアを確実に砕けよ」
「「はい!」」
娘達に指示を飛ばす。俺の聖属性魔法で一撃なのだが、それでは娘達の鍛錬にならないし。戦闘は娘二人に任せ、ダンジョンを探索していく。トラップを破壊しつつ奥を目指すと、最奥と思われる空間に神殿があり、その入り口に座天使が腰を据えて待っていた。
「貴様…マインか?」
「よぉ~、座天使か。こんな陰気な場所で隠居か?」
座天使…王座に座る者の願いを叶える天使である。
「智天使をどうした?」
コイツは愚王と聖王の願いに応じ、智天使に命じて、俺を消そうとした諸悪の根源の片割れでもある。
「返り討ちにして、下僕にしたけど…」
俺を男で無くし、人間でなくし、俺の命を奪おうとした愚かな天使、ラファエルを座天使の前に召喚した。
「座天使…助けて…」
智天使の美しかった翼は、既に燃え落ちている。這いつくばって座天使の元へ向かおうとするラファエル。そんなラファエルの目の前で、座天使を抹殺した。光の粒子に分解されていく座天使。
「そんなぁ…なんで…なんで、こんなことをするの?」
ラファエルは泣きながら、俺に非難するような視線を向けてきた。なんで?お前ら、人間をゲームの駒としてしか思っていないだろう?そんな廃プレイヤーにお仕置きだよ。
「俺の魂を奪う契約のせいだよ。智天使と愚王、座天使と聖王の間に締結した契約の結果だよ。俺は熾天使と契約している。代償は俺の魂だ。最上位の天使が俺の魂の所有者である為、下位天使であるお前らが交わらせた契約は不履行にするしか無い。その結果、お前は俺の下僕に、高見の見物を決め込んだ座天使は消えて貰うことにしただけだ」
「何で、アンタが管理者に…熾天使の主になっているのよ!」
「天使は人間と交われないが、ラファエルのおかげで俺は人間ではあり得ない存在になった。生殖器官の喪失…俺は子孫を残せない。それは俺が唯一無二な存在になったってことだ。熾天使によると、それは管理者しかあり得ないと言うんだよ。座天使は消えた、ラファエルよ、ハウスだ!」
目の前にいたラファエルの姿が消えた。座天使がいた場所に扉が出現して、その扉を開けて中に入った。
◇
「お父さん…来てくれたのね」
そこには成長したエリーゼがいた。鑑定するまでもなく、彼女の頭上に彼女の名前がポップアップ表示されていた。そして、彼女の目の前には棺があり女性が横たわっていた。
「聖女…アーシアか?」
「うん…お母さんだよ」
魂を閉じ込める棺。魂と共に封印されている死骸は、生きていた時の姿を保っていた。座天使が護っていた物はこれか。聖王との契約の対価…聖女の魂である。聖王が死ねば、聖女の魂を手に入れられ、座天使は聖女として転生できる。その時の肉体がエリーゼである。実の親子であり、魂が器に馴染み易いらしい。
「解放してやろう。『昇天 輪廻の輪』」
棺が光の粒子に分解され、閉じ込められていた魂が天へとゆっくりと昇っていった。それと共に死骸は死骸らしく朽ち果て、風化したのか塵として空間を舞っていき、魂を追い掛ける様に舞い上がっていった。
「エリーゼ、家に帰ろう。お前に妹が三人出来たぞ」
「えっ?!本当に?でも…お父さん…出来ないよね?私の為に…」
「俺の娘4人は、俺とは誰とも血の繋がりは無い。心が通い合っていれば、いいだろ?」
「うん…だよね?」
久しぶりに見るエリーゼの笑顔。ダンジョンでバトルモードになっている娘二人を拾い、4人で家に転移した。
---勇者リュート---
聖王国の聖王から、聖都神殿の聖火が消えたので、原因を調査してくれと依頼を受けた。賢者マリンと共に、聖王国の聖都神殿に赴いた。
「そもそも、あの聖火が灯される仕組みは?」
仕組みが分からないと原因を調査出来ない。
「神殿に居られます聖女様の命の息吹でございます」
神殿長が説明してくれたのだが、それは仕組みでは無い。
「では神殿の中に入れて下さい」
「それはなりません。聖王様が崩御されないと神殿の扉は開きません」
入れないのか?
「中にいる聖女様と連絡はつきませんか?」
「つきません。誰も中に入れませんから」
「食事は?」
「聖女様は食事をなされません」
それは即身成仏か…昔の儀式にあった。祈りを捧げ、身も心も神に捧げるという儀式である。結果、即身成仏を為された聖人達はミイラになり、その国を守護する守護霊となると言われている。それは、あの聖火は聖女様の魂ってことで、消えたのは守護する霊にならず、天に戻られたのだろう。
「外部から聖女様をお救いください」
「出来る訳無いだろ?勇者は死者を蘇らせる能力は無い」
「何をおっしゃっているのですか?聖女様が死ぬわけが無いでしょ?聖女様は天使様の生まれ変わりなんですから」
認定聖女ならば、その可能性はあるが、彼女は召喚された人間で、ジョブが聖女なだけである。それも召喚されて直ぐに、手籠めにされ、聖女としての教育をまるでされぬ単なる聖女見習いである。
「聖王様から聞いていないのか?彼女は認定聖女では無く、召喚されたジョブが聖女の少女だぞ」
「なっ、なんですって…どこで、お聞きになったのですか?」
「セントラル王国の現国王陛下にだ」
「聞いて参ります」
事実を知らなかったのか、慌てて神殿長が神官達を連れて王宮へと向かった。