この不思議な世界に旅人を! 作:風来人
「……ほう?」
ㅤ思わず素っ頓狂な声が出てしまったが、なるべく冷静であるよう努める。いいか、焦るんじゃない……。
ㅤ常に冷静であれ。それが我が師の教え、そのイチだ。
ㅤたとえ落とし穴に引っかかろうと、その先が恐るべきモンスターハウスだろうと。ああ! 忌々しいドレインハウスめ……。
ㅤ踏んだのが大型地雷だろうと、残り体力がカスであろうとも……待て、残り体力って何だ?
俺たち風来人は冷静さを欠いてはならない。少しでも冷静さを失い、判断を誤れば……。
その先にあるのはとても残念な結末。モンスターの経験値として美味しく頂かれるという、あまりにも不名誉な最期なのだ。
胡散臭い針師の施術失敗の末なんてのはまだ序の口だぞ、マムルにペロリされたなんて番付に張り出されでもしてみろ。それこそ一生を笑いものとして過ごすことになる。
ㅤとはいえ──。
「のどかな平原だな……」
ㅤ周囲を見渡し、そう再確認する。
青々と生い茂る草、草、草。あと草。
ㅤそう、平原なのだ。
ㅤついさっきまで砂漠のど真ん中だったはずなのに、どういうわけか俺は緑豊かな平原に立っていた。
ㅤ果たしてそんなことが現実にありえるのだろうか。
「……いや、あるのか」
ㅤでなきゃこんなことにはなってない。大方砂漠に埋まっていた罠を踏んだか、古代の謎めいた装置を作動させてしまったんだろう。
ㅤあのペケジのように。……くそっ、そう考えると自分が激しく情けなく思えてきたぞ、いまの俺はゾウリ頭と同等ってことか。
こんな場所で落ち込んでばかりいてもしようがない。
溜め息をつきながら、とりあえず移動をはじめる。
ㅤ土地勘は当然皆無だが、来てしまった以上は動かなければ……。このまま干からびるのはゴメンだ。
「にしてもここ、どこなんだ」
ㅤ少なくとも知ってる国や地域ではなさそうだな。
右も左も、全く見覚えがない。
ㅤ旅の道すがら通り抜けた平原ならその限りではないではないものの、俺は基本的に一度でも訪れた場所であれば地形や景色を覚えているので、これっぽっちも記憶にないのであればまず知らない土地と言ってもいい。
ㅤとなれば完全な新天地か。せめてどの辺にある地域なのかわかれば、人里を探したりするのに楽なんだがな。
ㅤそんな初歩的な考えのもと、人影のひとつでもないものかと左右を確認しつつ、俺は先へ先へと足を運ぶ。
ㅤこれまでに歩んできた道の中で体験した不思議は数あれど、やはりこういう目には何度遭っても慣れないものだ。
「ああああああああ! 助けてくれ!!」
ㅤどれくらい歩いただろうか。
ㅤ突然、つんざくような悲鳴が耳に入ってきた。
「助けてくれえええええ!!!」
ㅤ見知らぬ土地で助けを求める声。これぞ旅の神クロンの思し召しか、或いは運命神リーバの導きか。
ㅤどちらにせよ今はこの波に乗るしかあるまい。
いざ行かん、と
「む、あれか……!」
ㅤ声のした方へ暫く走ると、遠目に巨大なカエルと追われる少年の姿が見えた。
に、しても凄く大きなカエルだ! あんなカエルはそうそうお目にかかれないぞ!
ㅤ
「──ッシ」
ㅤ
ㅤそのままの勢いで前脚をカエルの目と目の間、その少し後ろを狙いねじ込む。
ㅤぶよぶよとした感触がなかなかアレだが、これで確実に麻痺させられただろう。
ㅤズ、ズー──ン、と四肢を投げ出し倒れたカエルから飛び降りる。ざっと朝飯前ってとこだ。
「な、なんだ?
ㅤ俺を見た少年が失礼なことを言う。
ㅤまったく、どこをどう見たらネズミなんかと勘違いするんだ。
「失礼な。俺はコロンバだ、ネズミじゃない」
「うわ喋った!?」
「そりゃ喋りもするさ。
ㅤいまでは姿もとんと見られなくなった語りイタチとして生を受けた俺は、山賊親分にさらわれあわやイタチ鍋にされそうになっていたところを現在の育ての親であるトーリョーに助けられ、拾われた。
ㅤそれから十数年の歳月が経ち、コロンバという名を与えられた俺はトーリョーから一人前として認められたある日、己の出生について聞かされ世界のどこかにいるという両親を探す旅に出る。
ㅤあてのない旅の中、俺は幼い語りイタチを連れた同じく幼くも将来有望な風来人と出会い、以来その若き風来人や愉快な仲間たちと事ある毎に再会を果たし、共に不思議のダンジョンへと潜ることになるのだが……。
ㅤ思えば、今回も似た経緯だった。両親を探す旅の途中で奇妙な砂嵐に飲まれ、意識を失い運び込まれた砂漠の街の中で俺は風来人たちと再会したのだ。
ㅤそこで何があったかはバッサリ割愛するが、いつものように風来人たちや新たな仲間と共にいくつかの不思議のダンジョンを踏破し、いざ今度こそ街を出ようといったところで、風来人たちと別れた俺は三度目の砂嵐に飲まれ、気がつくとここにいた、とまあそんな具合である。
「語りイタチ? 聞いたことないわね。一撃ウサギなら知ってるけど……新種のモンスターかしら?」
ㅤ少年の後ろから不思議な格好をした少女が出てくる。
ㅤ軽装、青い髪、タベラレ……うっ、頭が……。
「いちげきウサギ? いやしウサギの亜種か?」
「知らないの、一撃ウサギを?」
「と、とにかく……コロンバだっけか。俺はカズマ。で、こっちはアクア。さっきは助けてくれてありがとな」
ㅤ首を傾げる少女をよそに、少年がぺこりと頭を下げた。カズマとアクアか……。
「なあに気にするな。──と、言いたいとこなんだが」
「……え?」
ㅤ迷ったと言い出すのがなんとも気恥ずかしく感じられ、右前脚を手のように頭に置く。
「俺、この辺に来たばっかりで……。そう、道がわからないんだ。よければ近くの人里まで案内してくれないか?」
「なんだ……それくらい構わないけどさ。この辺に来たばっかりって、コロンバも冒険者なのか?」
「冒険者? ……まあそうだな。俺は旅の風来人だよ。その口ぶりから察するに、カズマたちも風来人なのか?」
ㅤそれにしちゃあ頼りない気もするが。
「ふうらい……? やっぱり変ね、普通冒険者のことをそんな風に呼んだりはしないわよ? ちょっと、冒険者カード持ってるなら見せてみなさいよ」
「冒険者カード? なんだそれは」
「冒険者カードは冒険者カードよ。冒険者ギルドで登録した時に必ず貰うでしょ」
「風来人番付なら知ってるが……」
「ウソ、本当に知らないの? この世の常識よ?」
ㅤむか。なんかこの子に常識を説かれると無性にイラッとするな……。
ㅤアクアが信じられないといった様子で呟くと、カズマはアクアと俺を交互に見た。
「……なあ。ちなみにコロンバ、お前どこから来たんだ?」
「ん? ああ、イルパって小さな町のある砂漠地帯だな。そこで
「なるほど。……よし、アクアちょっと来い」
「な、なによ……」
ㅤカズマがアクアの手を引き、俺から少し離れた場所で背を向けて何やらひそひそと話をはじめる。
ㅤなんでもいいが場所くらい変えないか。いつまたカエルが襲ってくるかもわからないんだぞ……。
◆
「……なるほど。つまりここは俺がいた世界ではないのか」
ㅤ場所は変わってアクセルという街の酒場。
ㅤここは冒険者ギルドという施設も兼ねているらしく、多種多様な風来人がボードに貼られた紙を眺めたり、建物奥のカウンターで職員とやり取りしたりしている。
ㅤカズマたちに連れられこの街に入った俺は、一息つく間もなく重要な話を聞かされていた。
ㅤなんでも、この世界は俺が知る世界ではないらしい。
ㅤ奇妙な砂嵐との関連性はさておき、元いた世界からこちらの世界に召喚されてしまった、というのがカズマたちの見解だ。
「ああ、恐らくそういうことになる」
「で、元の世界に帰るためにはこの世界にいる魔王とやらを討ち倒す必要があると」
「多分それで帰れるはずだ。だよな、アクア?」
「ええ、その通りよ」
ㅤ……今なら罠やシューベルに呼び出されたモンスターの気分がわかる気がする。
ㅤ近くにいる風来人(魔王)を倒すか、経験値として美味しく頂かれるか。この世界に骨を埋める? どうだろうな。
「なら、魔王を倒す以外の道はなさそうだな」
ㅤ砂漠の邪神の次は異世界の魔王か。コッパへのいい土産話になりそうだ。
「そこでなんだが。コロンバ、俺たちとパーティーを組まないか?」
「パーティー?」
ㅤ訊き返すと、カズマは頷いた。
「俺たちも一応魔王討伐を掲げてはいるんだが、アクアは頼りにならないし、俺は俺で最弱職の冒険者。ろくな装備もないし、このまま二人でやってくのも無理がある」
「……確かに、こちらもひとりで魔王討伐は厳しいな」
「だろ。俺たちもコロンバみたいに場数を踏んだ冒険者が仲間にいると大いに助かるし、ここは手を組んで魔王討伐っていうのはどうだ?」
「なによ、カズマはともかく私まで足でまといだって言ってるみたいじゃない!」
「みたいもなにも、実際足引っ張りまくりじゃねぇかお前!」
ㅤダメ元で拝み倒すような姿勢のカズマ。
ㅤこちらとしては申し出に異論はないが、カズマ的には無理難題を吹っかけてる気分なのか。
ㅤ最弱職だとか、ろくな装備もないとか。その辺をやたら気にしているような口ぶりだ。
ㅤ風来人の中にはダンジョンに潜る際、持ち込みを一切しない猛者もいるし、不思議のダンジョンの中にはそもそも持ち込んだアイテムがどこかへ消えてしまうものもある。
ㅤ最弱だなんだにしたって、パチンコでもなんでもいい。最低限の戦闘ができるならモーマンタイだろう。
「迷子の女の子より戦えるなら大丈夫だ」
「え、迷子?」
ㅤあれはあれでキグニ族の種を投げれば敵味方関係なしに攻撃しまくるようになるのだが……。
ㅤ出だしは弱くとも経験を積むことで化けるという例は多々ある。恐るべき洞窟マムルや、それこそペケジのように。
ㅤ少なくともカズマが危惧しているような、完全なおんぶにだっこという状況にはなり得ないはずだ。
「……気にするな。それに、俺だってこれから冒険者登録とやらをするとこなんだぞ?」
ㅤ奥のカウンターに目を向ける。
ㅤ師の教えそのニ。郷に入っては郷に従え。当たり前のことのようで、その実とても難しい教えだ。
ㅤこの世界での風来人──冒険者は全員ギルドで冒険者登録をするらしいので、後で俺もやっておくつもりだ。
ㅤ問題はあの“タンマツ”とやらが、語りイタチに対応しているのかどうかだが。してないならないで奥の手を使うとしよう。
「あ。登録といえば、コロンバはこの世界の金を持ってるのか?」
「金……?」
「冒険者登録する時に、登録料として千エリス必要なのよ」
「ああ、世界が違うなら通貨は“ギタン”じゃないのか」
ㅤとなるとこの世界にいる限り、“壺”の中のギタンはもはや投げ物としての使い道しかなさそうだな。
「参ったな……。近くにアイテムの買い取りをしてくれる店のひとつでもあればいいんだが……カズマたちは知ってるか?」
ㅤ最悪記念品として貰ったガイバラの壺を売ってしまうのもひとつの手だ。美術品の価値は世界共通だろう。
「……よし。ここは俺が登録料を出そうじゃないか」
「いいのか?」
「最初からこうするつもりだったしな。ほら、コロンバが街の外で倒したカエルがいたろ。あれの引き取り価格が移送サービス込みで一匹五千エリスなんだ」
ㅤあの後ちゃっかり麻痺したカエルにとどめを刺していたカズマ。なるほど、そういう経緯があったのか。
ㅤカズマから千エリスを受け取り、パーティー加入の挨拶として握手もしておく。
「おいあんまり俺の肉球を弄るな」
「どぅわっ……すまんすまん」
ㅤ……まあ、初対面で食われそうになるよかマシか。
・コロンバ
●人間に育てられた語りイタチ。
○同じ語りイタチのコッパよりも年上で、体もかなり大きい。
○コッパを弟分のように可愛がっている。
●物心つく前に山賊親分に攫われ、イタチ鍋にされそうだったところを若きさすらいのジンなんとかさんに助けられた過去がある。
○以来ペケジやンフーなど、ちょくちょく食べられそうになるが、本人も半ばお約束として許容している節がある。
○ただし、非常食と呼ばれるのだけは嫌がる。よそ様のネタだからな。
・ゲーム的な設定。
●通常時は全ステータスが半減している代わりに倍速で二回行動ができる。
○巻物を投げると所持し、任意のタイミングで話しかけると使用してくれる。
○ストックは五つまで、使用は古い方から順に使っていく。
○未識別の巻物の場合、渋々使う(二回行動した判定になる)。
●ある条件で倍速が解除される代わりに全ステータスが倍増し、投げた武器や盾を装備して戦うようになる。
○未識別の装備だった場合、シレンの代わりに識別までしてくれる。
○話しかけることで通常時に戻し、アイテムを回収することができる。戻さなければ回収は不可能。
●射程内に複数のモンスターがいる場合、攻撃したモンスターと最も近くにいるモンスターに大ダメージを与える特技、イヅナオトシを使用する。
○射程はコロンバの周囲四マス。
○ダメージは直接攻撃したモンスターよりも、巻き込まれたモンスターに与える方が大きい。
●長細い見た目の“とりよせの壺”という保存の壺を兼ねた不思議な壺を背負っている。
○巻物未所持状態のコロンバに話しかけることで使用する。
○とりよせの壺はひっくり返して使用するとランダムで未識別のアイテムが出てくる。
○既に識別されてるアイテムも未識別のアイテムとして出てくる。
○稀にその階層では出てこないモンスターや確定で割れるうっぷんばらしの壺も出てくるが、初回でハズレを引く確率は非常に低く、同じフロアで二回以上使用すると以降ハズレの確率が高くなっていく。
●本人が空白の巻物を無記入のまま使うと……。
はっきり申し上げよう。
感想があると嬉しいです。