この不思議な世界に旅人を! 作:風来人
ㅤ翌日の昼。
ㅤ昨日はカズマたちの疲れもありそのまま解散し、改めて冒険者ギルドに集まった俺たち三人は。
ㅤどうせならパーティーにもう一人二人ほど仲間が欲しいというカズマの意見のもと、アクアが作成した求人の張り紙を出し、酒場の席でまだ見ぬ仲間を待っていた。
ㅤ欲を言えば、前衛職と後衛職が各もう一人ずついればいいな、とカズマ。
ㅤこれに対してアクアは、とりあえず上級職じゃなければダメ、というスタンスらしい。
ㅤこの世界での風来人──冒険者には、個々のステータスや適性に応じた職と特有のスキルなるものがあるのだという。どれも俺のいた世界にはなかったものだ。
ㅤ原理やらなにやらごちゃごちゃと説明を受けたが、ともかくモンスターを狩ることでレベルが上がる点に関しては元いた世界と大して変わらないようだ。これはありがたい。
ㅤちなみに俺は適性のあったアサシンとやらをひとまず選ばせてもらっている。アクアたちの説明によれば、これも上級職なのだとか。
ㅤ冒険者登録の際に語りイタチを初めて見た職員は随分と面食らっている様子だったが、端末が問題なく動作したので特にもめたりはしなかった。
ㅤ不思議のダンジョンでもないのに、奥の手を出さずに済んで内心ほっとしている。
ㅤただまあ、随分と無用な注目を集めてはいたな。
「…………来ないわね……」
ㅤふと、アクアが溜め息をついた。
ㅤ確かに求人を張り出して、かれこれもう数刻ほど経っている。
ㅤ複数の張り紙が出されている壁を何人かの冒険者が見ては離れているので、求人そのものを見てもらえていないわけではなさそうだが……。
「……なあ、ハードル下げようぜ」
ㅤ手持ち無沙汰を紛らせようと眺めていた冒険者カードを壺にしまい、カズマの話に耳を傾ける。
「目的は魔王討伐だから、仕方ないっちゃ仕方ないんだが……。上級職だけ募集しますっていうのは、流石に厳しいもんがあるだろ」
「うう……。だってだってぇ……」
ㅤカズマの意見ももっともだが、一度上級職だけと絞ってしまった手前、アクアはなかなか踏ん切りがつかない様子。
ㅤカズマから聞いた話をまとめると、この街は駆け出し冒険者の街とも呼ばれていて、魔王が根城にしている魔王城から最も遠い位置にあるらしい。
ㅤ当然この街にいる冒険者のレベルはまだ低く、知識や経験も浅い。
ㅤとなれば、通常の職よりも高いステータスを要求される上級職に就いている冒険者の絶対数も少ないはずだ。
ㅤもちろんアクアや俺のように初期から上級職に就けるような冒険者もいないこともないようだが、そういった稀有な冒険者は他で既に確保、優遇されているだろう。
ㅤましてそれが熟練の冒険者なら言わずもがな、だ。
「このままじゃ一人も来ないぞ? 大体、お前は上級職かもしれんが俺は最弱職なんだ。周りがエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなるだろ。幸いコロンバが上級職なんだし、ここは募集のハードルをちょっと下げてだな……」
ㅤそう言って立ち上がろうとするカズマの背後から、小柄な女の子が歩み寄ってきた。
「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここで良いのでしょうか?」
ㅤ異国風の格好をした女の子と目が合う。
ㅤ正確な身長は帽子や靴でよくわからないが、恐らくは後脚で立った俺の前脚の付け根くらいだろうか。
ㅤそれと、左目を眼帯で被っている。あの若さで片目を悪くしているのかもしれない。
「ああ、ここで間違いないぞ。それで君は?」
ㅤ目も合ったことだし、代表して俺が名前を訊くと、
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……っ!」
ㅤバサッ──と突然マントを翻し、俺たちの前で名乗りを上げた。
「…………冷やかしに来たのか?」
「ち、ちがわい!」
ㅤカズマの突っ込みに、女の子は俺から視線を外して鋭く切り返す。
ㅤ確かに名前といい口上といい、なんとも奇抜だが。しかし風来人を見た目で判断すると後が怖いのはよくある話。
ㅤ女の子の奇抜さよりも、内から感じるゾワゾワとしたものが気になる。
「……その赤い瞳。もしかして、あなた紅魔族?」
ㅤはたして俺に残る野生の直感が正しかったのかどうか。
ㅤアクアの問いに頷くと、女の子は自分の冒険者カードを取り出した。
「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く……!」
ㅤアクアにカードを手渡し、威勢よく言ったまでは良かったものの……。
「……という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか? ……そして図々しいお願いなのですが、もう三日もなにも食べてないのです。できれば、面接の前になにか食べさせては頂けませんか……」
ㅤ失速し、目を回す寸前といった様子のめぐみん。
ㅤ日数はさておき腹を空かせているのは本当らしく、腹の鳴る音が耳に届いた。
「俺が出そう。カズマたちも、好きな物を頼むといい」
「好きな物を──って、お前金あるのか?」
「ああ。昨日、小遣い程度に稼いだからな」
「い、いつの間に……」
ㅤめぐみんにメニューを渡し、驚くカズマたちにも同じものを寄越す。
ㅤ空腹は辛い。辛い上に空腹は最大の敵だ。
ㅤ不思議のダンジョンにて、どれほど良い装備が整えられたとしても、食料が尽きればあっという間に無に帰してしまう。
ㅤ故に風来人の満腹度を減らす、まわるポリゴン種は根絶やしにしなければならない……。
ㅤ話が逸れた。問題は俺がいつ小銭を稼いだのか、だったな。
「二人と別れた後、ギルドに戻ってな。腕試しを兼ねてカズマたちが受けた依頼と同じものを紹介してもらったりと……。まあ、お陰でこっちでの勝手は大体わかった」
「うわ……なんつー手際の良さ……」
「ま、俺のことは今はいいんだ。そんなことよりめぐみん、お前左の目が悪いのか?」
ㅤ俺が指摘すると、カズマもめぐみんの眼帯に目をやる。
「そういや眼帯してるな。怪我でもしてるなら、こっちのアクアに治してもらったらどうだ? こんなでも一応アークプリーストだしな」
「あれもいいわねぇ──って、ちょっと一応ってなによ!」
ㅤだらしない表情でメニューを眺めていたアクアが一転抗議するが、カズマめぐみん共にこれを無視する。
「……フ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテム……。もしこれが外されることがあれば……。その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう……」
「へえー……。封印みたいなものか」
「まあ嘘ですが。これは単にオシャレで着けている、ただの眼帯……──あっあっ、ごめんなさい、やめてください引っ張らないでください!」
「おいおいカズマ、子供相手に大人げないぞ……」
ㅤからかわれて眼帯を引っ張りはじめたカズマをなだめていると、アクアがメニューをテーブルに置いてめぐみんの冒険者カードをカズマに回した。
「……ええと。カズマに説明すると、彼女たち紅魔族は生まれつき高い知力と強い魔力を併せ持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族はその名前の由来となっている特徴的な赤い瞳と──」
ㅤめぐみんに視線をやり、アクアは言葉を切った。
「それから変な名前をそれぞれが持っているの」
「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人たちの方が変な名前をしてると思うのです」
「……ちなみに、両親の名前は?」
ㅤ抗議するめぐみんに、カズマがなかなか意地悪な質問をする。
「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー!」
「「…………」」
「それはまた……」
ㅤなんとも言えん名前だな。
ㅤペケジに匹敵する奇抜さじゃないか。
ㅤもはやダギャン種*1レベルとも……。
「……とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな? 仲間にしてもいいか?」
「おい、私の両親の名前についてなにか言いたいことでもあるなら聞こうじゃないか」
ㅤ冒険者カードが俺に回ってきた。
ㅤ確かにアークウィザードと表記されているし、俺と違って魔力値も凄いことになっている。
ㅤ流石は魔道神ドラス*2のいない世界で魔法を使う者といったところか。俺たちのようにドラスをある程度信仰して、巻物読んだり杖振ったりするのとはわけが違うらしい。便利なものだ。
「いーんじゃない? 冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を自在に使うアークウィザードで間違いないわね。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ」
「俺はいいと思うぞ。カズマも後衛が欲しいって言ってたしな」
「そうね。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄いことよ? 爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」
「おい、彼女ではなく、私のことはちゃんと名前で呼んでほしい」
ㅤあえて名前を呼ばない二人に不満を呈するめぐみん。
「……じゃ、決定だな」
ㅤしかしカズマは耳を貸さず、話を進める。
ㅤ話も纏まりそうなことだし、こっちに回ってきた冒険者カードは持ち主に返しておくか。
「俺はカズマ。こいつはアクアだ。それでこっちは……」
ㅤカードを返そうとした瞬間、めぐみんに腕を掴まれる。
ㅤお前っ、さっきメニュー渡した時はそんな感じじゃなかっただろ!
「そうです! このもふもふはなんですか?! カズマたちの使役獣ですか!? 喋る使役獣なんて初めて見ました!」
「お、ちょ……や、やめ──ぬおおおお!!?」
「コ、コロンバー──?!」
ㅤ加減を知らない子供にもみくちゃにされる獣の悲鳴が、冒険者ギルド内外に響いた。
作者の中にあるコロンバのイメージは、サクナヒメのアシグモをも少しだけデフォルメして配色を変えた感じですかな。
おいらコッパレベルになるとあれは可愛すぎる……。もはやヒロインですやん、あれ。
求む、感想。
作者書く、続き。