この不思議な世界に旅人を! 作:風来人
ㅤ昼食と食休みを挟んだ後。
ㅤ俺は満腹になりごねにごねためぐみんを仕方なく背に乗せ、カズマたちとあのバカでかいカエル──ジャイアントトードのいる平原に来ていた。
「爆裂魔法は最強魔法。そのぶん、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまで、他のカエルの足止めをお願いします」
「お、おう!」
ㅤめぐみんが正面に捉えている一匹の他に、ちらほらと見えるカエルの姿。
ㅤその内の数匹はこちらに気づいたらしく、緩慢な動きで向かって来ている。
ㅤ図体こそデカいが、単体の脅威はそれほど大したものではないので、落ち着いて一匹ずつ対処すればどうってことない相手だ。
「じゃあ遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ。コロンバは遊撃を頼む。あっちの近い方は……。おい、行くぞアクア。今日はリベンジだ。お前、一応は元なんたらなんだろ? たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」
「元ってなに!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は! アークプリーストは仮の姿よぉ!」
ㅤムキーッ、と何故かこんな時にカズマの首を締めようと迫るアクア。ペケジ*1かな。
ㅤこうしてたまに不思議な会話をする二人だが、今回のはまたとびきりおかしなやり取りだ。
ㅤそもそも元なんたらってなんだ、仮の姿とは?
ㅤそう思ったのはどうやら俺だけではないらしく、じゃれ合うカズマたちに、カエルを見据えていためぐみんが首を傾げる。
「……女神?」
「……を、自称してる可哀想な子なんだよ。たまにこういったことを口走ることもあるんだけど、できるだけそっとしておいてやってほしい」
「ああ……。可哀想に……」
「まあ主義主張は人それぞれだからな……」
ㅤ無難な意見を述べつつ、涙目になったアクアを見る。
ㅤそれで人様に迷惑をかけないなら、好きにさせてやればいいんじゃなかろうか。
ㅤ確かに、アクアから他の冒険者とは違う不思議な力を感じることがなくはないとはいえ……。
ㅤ少なくともリーバ信仰*2ではないこの世界の宗教がどうなっているのかは知らないが、ここまで堂々と女神を自称するとはまた随分と大きく出たものだ。
ㅤ大丈夫か? バチとか当たったりしてないよな?
「な、なによ……カエルには打撃が効き辛いって話だけど、通りすがりの
「……これって俺が悪いのか?」
「事情はよく知りませんが、それはないのでは?」
ㅤそう、だよなあ……?
ㅤ人差し指をこちらに向けるアクアだが、視線はカズマに注がれている。
ㅤよくわからない流れ弾でキツネもどき呼ばわりされた俺は、いっそ怒っても許されるんじゃなかろうか。
「コロンバも見てなさい、今からあのぶくぶく太ったカエルの土手っ腹に女神の一撃をお見舞してやるんだから!」
「いや、昨日のあれは単に脂肪の薄い急所を狙った貫手で……」
「神の力を前に腰抜かすんじゃないわよ!!」
ㅤ言うや否や、拳を握ってヤケクソ気味に、比較的近くにいるカエルへと駆け出すアクア。
ㅤ途中、なにやら必殺技じみた叫びが聞こえたような気もするが。
ㅤ果敢な突撃もむなしく、恐れ知らずのアクアはカエルに食われていった。
ㅤ平常心、平常心……慌てるんじゃない。
「……めぐみん、いい加減俺の背中から降りてくれ。このままじゃ俺も満足に動けない」
「あ、そうでした。名残惜しいですが、これも爆裂魔法の為……。仕方ありません」
ㅤめぐみんを背中から下ろし、後脚で立ち上がる。
ㅤ幸いカエルは捕食中、つまり獲物を丸呑みにしてしまうまで動かなくなるという話なので、万一ああして頭からぱっくりいかれたとしても焦らず対処すればいい。
ㅤ体を張ってカエル一匹の足止めに貢献しているアクアは消化されてしまう前に助けるとして、問題はその他のカエルだな。
ㅤ優先順位を決めつつ、俺は最初のカエルに狙いを定め──。
「……見ていてください。これが、人類が行える中で最も派手でかつ威力のある攻撃手段……。これこそが、究極の攻撃魔法です」
ㅤと、同時に全身の毛という毛がビリビリと逆立つ。
ㅤ獣の本能が告げる脅威は、小さな両手で杖を握り締め、魔法を唱えるめぐみんにあった。
ㅤこういうこと、前にもどこかであったような。
ㅤ確か、あれはシレン*3とモンスターハウス*4にぶち当たった時のこと。
ㅤ隣にいたシレンが唐突に巻物を取り出して……っ!
『──自爆の巻物を読んだ。』
ㅤバ、バカヤロー──ッッッ!!
ㅤ咄嗟に身を投げ出し、地に伏せる。
「『エクスプロージョン』──ッ!」
ㅤその瞬間、のどかな平原で光が爆ぜた。
ㅤめぐみんの杖から放たれたらしい小さな光の矢が、こちらに迫り来るカエルに命中し、激しい光と音を撒き散らしながら爆散したのだった。
ㅤ膨れ上がる光は標的の近くにいた哀れなカエルを余すことなく巻き込み、爆心地に遠い俺たちにもその凄まじい爆風が襲い来る。
「……すっげー。これが魔法か……」
ㅤぺんぺん草も残さない圧倒的な光景に、カズマが感心した様子で呟く。
ㅤ実際、カエルのいた場所の周囲は大きく地形が変わっている。
ㅤ魔王城とやらに攻め入った暁には、この爆裂魔法と共に大いに活躍してくれるだろう。
ㅤめぐみんの実力は堪能させてもらった。爆発範囲外にいた残りのカエルの始末は、余力を十分に残している俺たちに任せてもらおうじゃないか。
「っ地中から めぐみんは一旦離れて、距離をとってから攻撃を……」
ㅤ別方向から来ているカエルの対処をしていると、カズマの焦る声が聞こえてきた。
ㅤ二人の方を向くと、地中から這い出るカエルのすぐ横で、無防備に倒れているめぐみんの姿が。
ㅤ何故だ──!?
「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので今の私は身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ……!?」
ㅤあ、食われた。
ㅤ俺たちの目の前で、カエルにぱっくりいかれためぐみん。
ㅤそうか、爆裂魔法は使ったら瀕死になるのか……。
ㅤシレンのやつがたまに使う、自爆の巻物*5そっくりだな。道理で直前にデジャブを感じたわけだ。
ㅤただ、爆発させる場所を指定できるとはいえ、動けなくなるぶんあっちより出し所が難しいかもしれない。
ㅤカズマが動かなくなった二匹のカエルを頑張って倒しているのを視界に入れつつ、俺は最後の一匹にトドメを刺すのだった。
感想、求む。
続き、書く。