部屋に帰り、電気も付けずに布団に倒れこむ。 窓から入る微かな光が天井を照らしている。 一日のやるべきことを終えた後の倦怠感、疲労感に任せるがままに眠る毎日だったが、今日はなぜか目が冴えて眠れそうにない。
ポケットから携帯を取り出してふと日付を確認してみると、万人にとっては意味を持たない。 しかし、男にとっては重要な意味を持つ。 意味を持っていた日付である事に気付いた。
学生時代に同じサークルであったことから二人は知り合い、趣味も同じだったことから意気投合し、サークル以外でも合うようになっていた。
そうしてそのままどちらからと言う事無く告白し恋人同士となった。 サークル内では勿論、それ以外でも片時も離れず、互いに二人で一つであるかの様だった。 大学を卒業し、お互いが就職しても関係は変わらず、むしろより依存は深くなっていった。
二人は抱擁をするのが好きだった。 付き合いだして間もない頃、お互い一線を越えることに躊躇しており、妥協案として行った抱擁をお互いが気に入り、接吻より、体を重ねるよりの最上の愛情表現であった。
誰もがこの二人が離れることはないだろう。 そう思われていた。
きっかけというようなものはなかった。 この世に永遠はない、冷めない熱はない。
そうして二人は別れた。 破局時にはもう喧嘩すらなかった。 思い出は無く、かつて交わした抱擁の暖かさすら記憶の欠片として残っているのみである。
男は女をまだ愛していた。 それ故に思い出す。 彼女と交わした抱擁を。 時が流れ別の誰かと過ごそうとしてもあの時の熱さが心の中に燃え上がる。
故に男は一人だった。
部屋に帰り、ジャケットを脱ぎクローゼットにかける。 シャワーを浴び、一日の汚れを心身にたまる淀みと共に洗い流す。
パソコンを開き、明日の準備をとカレンダー兼スケジュール管理アプリを起動すると、今日の日付を再確認する。 忘れようと努力するほど、叶わず己の記憶に刻み付けられてしまった。
学生時代に彼女はとあるサークルに所属していた。 そこで知り合った男と意気投合し次第に惹かれあった。
二人は抱擁をするのが好きだった。 付き合いだして間もない頃、お互い一線を越えることに躊躇しており、妥協案として行った抱擁をお互いが気に入り、接吻より、体を重ねるよりの最上の愛情表現であった。
世間知らずの学生の思い込みであることは理解していたが、二人はお互いが世界で一番の幸せ者でこれからも永遠に寄り添い続けられると思っていた。
大きな理由はなかった。 社会に出て、理解していたつもりの現実を突きつけられ、次第に二人の心は摩耗した。 慣れない生活にお互い顔を合わせるのすら苦痛になり自然と二人は別れた。
女は男を愛してはいなかった。 幼稚で未熟だった己を思い出すからだ。 それ故に思い出す。 彼と交わした抱擁を。 時が流れ別の誰かと過ごそうとしてもあの時の熱さが心の中に燃え上がる。
故に女は一人だった。