魔法少女まどか☆マギカ 《円環の理》――この世界に幸あれ 作:ぞ!
「ふんふんふふーん」
今日も彼女はご機嫌だった。
「ふふふーん」
鼻歌に合わせてゆらゆらと体を左右に揺らしながら、彼女は小学校へと続く道を歩いていく。
「えへへへ」
自然と笑みが漏れてしまう。
にやにやと笑いながら、時折鼻歌をまじらせて彼女は進む。
彼女がこうまでご機嫌なのは、当然のことながら理由があった。
数日後に、とても、とてもとても楽しみなことが待っているからだ。
「おねーちゃん、おねーちゃんだぞー」
なんと彼女に弟ができるのだ。
つまり彼女はお姉ちゃんになるのだ。
これはとてもすごいことである。
自分が、お姉ちゃん!になるのだ。
弟。
赤ちゃん。
前に友達の家で見たことがあるけれど、とってもかわいかった。
ならば自分の弟なのだから、きっともっともっとかわいいにちがいない。
「たつや~たっくん~、たつやくん~」
初めてそのことを知らされてから、彼女はずっとそのときを心待ちにしていた。
そしてついに数日後には生まれるというところまできた。
楽しみで楽しみで仕方がなかった。
だから浮かれきっていた。
朝家を出る前に、母親になにか言われたような気がしたけれど、それも今の彼女の頭の中には残っていなかった。
ただご機嫌なままさらに通学路を進もうとして――。
ふと。
彼女は誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り返った。
しかしそこには誰もいない。
首を傾げていた彼女は、気のせいかと思い直し歩みを再開させようとして。
「あっ、傘わすれたぁー」
今日は雨が降るからな、という母親の言葉を唐突に思い出した。
その場で立ち止まった彼女は、しばし腕を組んでうんうんとうなり声をあげる。
もう学校までの道のりの半ばまで来てしまっていた。
今さら戻るのは正直面倒くさかった。
空を仰ぐ。
そこには雲ひとつない晴天が広がっていた。
とてもこれから雨が降るような天気には見えない。
――きっと大丈夫。うん、問題ないない!
そう思って再び歩き出そうとして、
「……うーん。やっぱりもどろ」
傘を忘れたことについて、あとで母親に叱られるかもしれない。
その可能性に気づいて、ため息を吐いた彼女は来た道を戻り始めた。
――これはたったそれだけの話である。
それだけのために、多くの少女が絶望し続けたという、そういった話である。
しかしそれだけではない。
絶望した数と同じぐらい、少女達が願い、祈り続けたという、そういった話でもあるのだ。
その物語には魔法も奇跡も存在しなかった。
そこにあったのは、奇跡を願う誰かの祈りだけだったのだ。