魔法少女まどか☆マギカ 《円環の理》――この世界に幸あれ   作:ぞ!

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Ⅹ 1:1

 

 

 

 

 

「まどかさん」

 

 

 

 

 

「ふんふんふふーん」

 

 今日も彼女はご機嫌だった。

 

「ふふふーん」

 

 鼻歌に合わせてゆらゆらと体を左右に揺らしながら、彼女は小学校へと続く道を歩いていく。

 

 

 

 

 

「まどかさん」

 

 

 

 

 

「えへへへ」

 

 自然と笑みが漏れてしまう。

 にやにやと笑いながら、時折鼻歌をまじらせて彼女は進む。

 彼女がこうまでご機嫌なのは、当然のことながら理由があった。

 数日後に、とても、とてもとても楽しみなことが待っているからだ。

 

「おねーちゃん、おねーちゃんだぞー」

 

 なんと彼女に弟ができるのだ。

 つまり彼女はお姉ちゃんになるのだ。

 

 これはとてもすごいことである。

 自分が、お姉ちゃん!になるのだ。

 

 

 

 

 

「まどかさん」

 

 

 

 

 

 弟。

 赤ちゃん。

 

 前に友達の家で見たことがあるけれど、とってもかわいかった。

 ならば自分の弟なのだから、きっともっともっとかわいいにちがいない。

 

「たつや~たっくん~、たつやくん~」

 

 初めてそのことを知らされてから、彼女はずっとそのときを心待ちにしていた。

 そしてついに数日後には生まれるというところまできた。

 

 

 

 

 

「まどかさん」

 

 

 

 

 

 楽しみで楽しみで仕方がなかった。

 だから浮かれきっていた。

 朝家を出る前に、母親になにか言われたような気がしたけれど、それも今の彼女の頭の中には残っていなかった。

 ただご機嫌なままさらに通学路を進もうとして――。

 

 

 

 

 

「まどかさん」

 

 

 

 

 

 ふと。

 彼女は誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り返った。

 しかしそこには誰もいない。

 首を傾げていた彼女は、気のせいかと思い直し歩みを再開させようとして。

 

「あっ、傘わすれたぁー」

 

 今日は雨が降るからな、という母親の言葉を唐突に思い出した。

 その場で立ち止まった彼女は、しばし腕を組んでうんうんとうなり声をあげる。

 もう学校までの道のりの半ばまで来てしまっていた。

 今さら戻るのは正直面倒くさかった。

 

 空を仰ぐ。

 そこには雲ひとつない晴天が広がっていた。

 とてもこれから雨が降るような天気には見えない。

 ――きっと大丈夫。うん、問題ないない!

 そう思って再び歩き出そうとして、

 

 

 

 

 

「まどかさん」
 

 

 

 

 

 

「……うーん。やっぱりもどろ」

 

 傘を忘れたことについて、あとで母親に叱られるかもしれない。

 その可能性に気づいて、ため息を吐いた彼女は来た道を戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――これはたったそれだけの話である。

 それだけのために、多くの少女が絶望し続けたという、そういった話である。

 しかしそれだけではない。

 絶望した数と同じぐらい、少女達が願い、祈り続けたという、そういった話でもあるのだ。

 

 その物語には魔法も奇跡も存在しなかった。

 そこにあったのは、奇跡を願う誰かの祈りだけだったのだ。

 

 

 

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