とある学院のシュッツエンゲルとシルトとその周辺 作:癒月るな
こどもの日に大遅刻で滑り込んでいくスタイル!
いや、できてはいたんですけど整えるのに時間がかかっていただけ、ですよ?
朝。ヘルヴォルのミーティングルームにて。佐々木藍を除いた4人のメンバーが集合していた。
「今日はこどもの日です! これすなわち藍の誕生日だと言っても過言ではありません!!」
「さすがにそれは過言でしょ?」
「でも一葉ちゃんの考え方はとっても素敵だと思うわ」
「うん。藍、誕生日のことも・・・・・・よく分かってないみたいだったし」
「ああ、なるほどね。お祝いする機会は多いに越したことはないってことか」
「そういうことですね! 本来であればプレゼントを用意しておくべきなんでしょうが・・・・・・」
「ここのところ、任務で忙しかったから」
「こればっかりは仕方ないわね」
「はい。というわけでこれから何か買いに行こうと考えてまして」
「んー、あんまり盛大にしない方が良いんじゃない?」
「どうしてですか?」
「もしかしたら藍が誕生日だって勘違いしちゃうかもしれないでしょ?」
『・・・・・・』
「なぜ急に黙る?」
「ぷっ、恋花。いくら藍でもそこまで鈍くはないよ」
「藍ちゃんは賢い子だから、それくらいの分別はつくわよ?」
「恋花様ーーようこそ、こちら側へ」
「ばっ!? 藍ならあり得るかもって思っただけだしっ! この程度のことで一葉レベルにまでは堕ちないから!」
「ーーと口ではそう語っているものの、恋花の身体は正直だった」
「変なナレーション入れてくるな瑤!」
「ふふっ、一葉ちゃん今の聞いた? 『入れてくるなYo!』だって」
「えっと・・・・・・そうですね、千香瑠様」
「あーもう!! それならプレゼント早く考えるよ!! 時間もないでしょ!?」
「たしかにもう朝の10時だものね」
「藍が眠ってる間に、済ませておきたい」
「ですよね、それでは早速行きましょうか」
『了解!』
◇◇
そうして彼女たちが向かった先は都内にある大型ショッピングモールだ。豊富な品揃えと品質の良さ。ここでなら藍に合ったプレゼントが買えるだろう。
「で、我らがリーダーは何をプレゼントするつもりなのかな〜?」
「また祝辞なんて言ったら、絶対に止めるよ」
「あはは……そのことは忘れていただけると」
「内容は良かったけれど、ちょっと藍ちゃんの好みではなかったからね」
「そうそう。藍が好きなものって言えばたい焼きとかお菓子とかだし」
「だね。甘いものを美味しそうに頬張ってる藍・・・・・・かわいい・・・・・・」
「出先でトリップするなこらっ!」
「はっ・・・・・・」
「私もここに来るまでに考えてはみたんですが、恋花様の言うことにも一理あるかもしれません」
「ん? それじゃあ派手なのはなしってこと?」
「いえ、少し言葉が足りなかったようですね。私が言いたかったのは、プレゼントらしいプレゼントでは藍には効果がないのでは、ということです」
「あー、そういうね」
「誕生日は形に残る物をみんなで渡したけど全然喜んでなかったしね」
「藍ちゃんは物は物でも食べ物じゃないと駄目みたいだから」
「はい。ですので藍が人間的に成長を遂げて人並みに物欲が出てくるまでは、美味しい料理やお菓子などを中心に贈ろうかと考えています」
「うん。それが無難かも」
「大切な物はみんなで渡せば良いしね」
「じゃあここからは私の出番かしら?」
「だね。どうぞ心ゆくまで腕を振るってください千香瑠シェフ!」
「あ、恋花様がいつもの発作を」
「あれが恋花の良いところでもあるから」
「それなら恋花ちゃん。今日からあなたは私のスー・シェフよ!」
「スー・シェフ!?」
「シェフの右腕。極めて重要なポジション。あなたにこの役目を果たすことができるのかしら?」
「できる! 私なら絶対にね! 伊達に日頃から一葉のサポートをしているわけじゃないことを見せてあげるわ!」
「一葉。あの2人は置いておいて、材料買いに行こうか」
「それが良いかもしれませんね。千香瑠様なら食品売り場の場所も粗方知っていますからはぐれることはないでしょうし」
「私たちの作った料理で、藍が笑顔になってくれるといいね」
「ええ、本当に」
◇◇
山ほどの食材を買い込んでエレンスゲへと帰ってきたヘルヴォル御一行。
『ただいまー』
「あー! みんないけないんだー! らんにないしょで知らないとこに行くのはダメなんだよ!」
「ごめん藍、今日は藍がいっぱい楽しめるように私たちで買い物に行ってたの」
「楽しむー?」
「絶対藍が好きなことだぞー?」
「これから色んなお料理をヘルヴォルのみんなでご馳走するから、それまで藍ちゃんは良い子で待てるかな〜?」
「!? うんっ、良い子で待ってる!」
「やっぱり藍は、ヘルヴォルの癒し枠だね」
「なら瑤はらんのお布団枠だよ!」
「ふふ、こっち来る?」
「ん」
当然だといった風に大袈裟に頷いて、藍は彼女のいる場所にとてとてと進んでいった。
「ーーとうちゃーく!」
「料理ができあがるまで、ソファーで待とうか。ほら」
「分かったー」
自然に差し出された瑤の手をしっかりと握った彼女。今日もお利口さんのようだ。
「みんな、任せて良いよね?」
「もちろんですとも!」
「キッチンは人が多過ぎても困るから全然問題ないわよ」
「主賓をもてなすのも大事だし、あんたも責任重大なんだからね?」
「それなら安心」
「瑤、行こっ!」
「そうだね、藍」
◇◇
パイやハンバーグを始めとした香ばしく食欲を刺激する匂いの数々がリビングにまで押し寄せてきていた。
それには瑤の膝の上に座っている主役の少女も当然気づいていたようで。先ほどからずっとうずうずとしている。瑤がいなければ真っ先にキッチンへと駆け出していたことは想像に難くない。
「ーーできたわよ藍ちゃんっ! 今日の主役は座ったままで良いからね? うちのスー・シェフが持ってきてくれるから」
「やったーっ!!」
「その設定、まだ生きてたの?」
「設定言うなしっ!?」
「あはは、最近千香瑠様から料理を教わっているそうですし、決して的外れというわけでもないですからね」
「ふーん?」
「べ、別にあんたたちのためなんかじゃないんだからね!」
「恋花ちゃんのツンデレ一丁入りました〜」
「つんでれいっちょー」
「なるほど。恋花様には私たち以上に信頼し合えるような方がいらっしゃるのですね、寡聞にして存じませんでした」
「え、あ、いや、ノリで言っただけなんだけど」
「あ・・・そ、そうですよね!も、もちろん私も分かっていましたとも!」
「なんか、ごめん」
「一葉は天然」
「一葉ちゃんはたらし」
「一葉はちょろい」
「私は天然でもたらしでもちょろくもありませんよ! それに藍に“ちょろい”なんて言葉を教えたのは誰ですか。今すぐ名乗り出てきてください!!」
『一葉(ちゃん)』
「っ!? 私そんなこと言ってましたか!?」
「恋花にね」
「『ラーメンひとつで懐柔できる恋花様は本当にちょろいですね』だったかしら」
「あの時に藍も一緒だったから覚えてたんでしょ。誰かさんのせ・い・で♪」
「くっ」
「恋花ちゃんの煽りに言葉を返したいけど、言ってること自体は正しいから反論できない顔と見たわ」
「それをわざわざ声に出して言う千香瑠も相当だよね」
「ふふふ」
◇◇
藍専用の豪勢な、それでいてボリューミーな食事を終えた彼女たち。現在はゆるりと食後の休憩中のようだ。
「はふー。美味しかった〜♪」
「私たちからのプレゼント、喜んでくれたかな?」
「うんっ! でも今日はらんの誕生日じゃないんだよー?」
「おやおや〜? うちの子は今日が何の日か知らないのかな〜?」
「むうぅ・・・知らなくても良いもん! 恋花のいじわるっ!」
「今日はね、こどもの日なのよ藍ちゃん」
「ええー? らんは子どもじゃないよー?」
「そうなんだ、残念。藍がこどもなら、これからいっぱいたい焼き食べられたのにね」
「!? じゃあらん子どもでいいー!」
「やっぱり藍ちゃんは純粋ね」
「誰かさんみたいに意地悪もしないし、ね」
「なんで一瞬こっち見たのかなあ?」
「別に」
「それではこれからたい焼きを買いに・・・・・・いえ、オペレーションたい焼きを開始します!」
『ぷぷっ』
「おぺ?」
「ーー皆さんどうしました?早く行きますよ!」
「あはっ。締まらないなあ、まったくもう」
「まあでも、一葉ちゃんらしくて良いんじゃないかしら」
「これがヘルヴォルだからね」
「たい焼きはヘルヴォル?」
「うん、似たようなもの」
「それは違うでしょ!?」
そうしてまた1日が過ぎていく。日夜人類を守護せんと命を賭して戦うリリィ。そんな彼女たちの笑顔に満ちたありのままの姿。
それはもしかすると、ありふれた日常の尊さを我々に教えてくれるものだったのかもしれない。