とある学院のシュッツエンゲルとシルトとその周辺 作:癒月るな
前回の『二水ちゃんは見た!』の続き。
いつものようにネタ探し。ですが普段と違うのは、今日がお祭りの日だということ!
百合ヶ丘フェスティバル、通称百合フェス。夏季の2日間に渡って開催されるお祭りで、今回はその1日目となります。あ、もちろん百合ヶ丘女学院の学園祭である『聖白百合祭』とは別のイベントですよ。日夜ヒュージと命懸けで戦っているリリィが羽目を外せる場所というのは多いに越したことはないですからね。
このお祭りは百合ヶ丘女学院のリリィと百合ヶ丘周辺地区の共同で行われる大々的なイベント。世界的に見ても名門のガーデンが参画するだけあって、毎年相当な盛況を博しています。その様子が例年のように複数のテレビや新聞で取り上げられるので、もはや一種の風物詩と言って差し支えないかもしれません。
さらに言うならヒュージとの戦闘で得た金銭をリリィが消費する場としての側面もありますかね。ヒュージに対抗できるリリィという存在は良くも悪くも経済に莫大な影響を及ぼしていますから。
そのような事情から、鎌倉府の盟主とも呼ばれる百合ヶ丘女学院は在学中のリリィに百合ヶ丘駅周辺地区で開催されるお祭りへの参加を推奨しています。百合ヶ丘に所属するリリィが国定守備範囲の地域にお金を還元することで、その土地の経済を活性化させる役割となることを期待してのことでしょう。
それに常日頃から外征任務に駆り出されているトップレギオンの方々はこういった祭りごとでもないとお金を使う機会自体がそこまでありませんからね。余程お金を使う趣味でもなければ預貯金が貯まっていく一方になるらしいです。
さてと。ここまで色々と百合フェスの概要を話しましたが、実はもうすでに新聞に載せるネタは粗方探し終えているんですよね。ですので、これからは気の向くままに屋台を巡っていこうかと考えていたところなんです。
おっと、少々思考に
「す、すみません。不注意でした」
「別に大丈夫よ? あら、二水さんじゃない。ごきげんよう」
「あっ、亜羅椰さん!? ごきげんよう」
なんとぶつかったお相手は亜羅椰さんだったみたいです。すぐに挨拶を返しますが、ここで立ち止まっていては人の波にずるずると流されてしまいそうなので一旦脇道まで2人で退避することにしました。それにしても偶然ぶつかった相手が亜羅椰さんだなんてすごい偶然ですよね!
「それで、今日も取材なの?」
「はいっ! こんなスクープだらけのイベントを見逃すなんてありえませんから!」
「ふーん。それじゃあ1人なんだ」
「そうですね。一柳隊のみなさんにも誘われたんですが、今回は参加を見送っていまして」
正確には梨璃さんが『みなさんで一緒に回りましょう!』と一柳隊全員をお祭りに誘っていたんですが、その際に神琳さんと夢結様の『(雨嘉さん)(梨璃)と2人きりにさせなさい』という無言の圧力が凄かったので、ええ。私は大人しく取材を理由にして断りましたね、はい。今思い出しても恐怖しかないです。今頃、梨璃さんと雨嘉さんはそれはもう美味しくいただかれていることでしょう。
「奇遇ね。今日は私も1人なの」
「え? 亜羅椰さん今フリーなんですか!?」
そんなまさか。この女好きという概念を煮詰めに煮詰めたような人がお祭り当日に1人でぶらついているだなんて。ギャップがすごいですね。歩いているだけでも絵になる美少女な亜羅椰さんですから余計にそう感じられるのかもしれません。
「ええ、壱に断られちゃってね」
「そうなんですか」
なるほど。先ほど見かけた壱さんは樟美さんや天葉様たちと一緒に回っていましたから、大方2人だけでお祭りを見て回りたいとでも言って断られたんでしょう。壱さんは過去の出来事から何よりも樟美さん優先らしいですからね。
「そうだ、二水さん。どうせなら一緒に回らない?」
「え、良いんですかっ! もう存分にネタは集められたので、私もお祭りを楽しみたいと思っていたところだったんですよ!」
亜羅椰さんの提案は渡りに船でした。おすすめの屋台の記事などもできれば別途作成しておきたかったので。暗くなってきましたがまだまだお祭りは続きますし、イベントは楽しんでなんぼですからね。それに憧れのリリィとともにお祭りを楽しむなんて今後あるかどうかも分かりませんしね。
「じゃあ決まりね。ほら、行きましょうか」
「はいっ」
§
ひょんなことから2人で屋台を巡ることとなった私と亜羅椰さん。日本を始めとした各国から有数のリリィが集う百合ヶ丘なだけあって国際色豊かな屋台を見物しています。
フランクフルトや焼きそば、やきとりといった日本のお祭りの定番からベトナム風スペアリブやインドテイストのタンドリーチキンにと美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきますね。あっ、しらすのかき揚げなんてものまでありましたよ!
ついさっきまでは過去にヒュージとの戦闘において活躍したリリィや偉人のお面が売っている屋台を見ていました。
あの人も今でこそ穏やかな雰囲気を醸し出していますが、ヒュージ出現初期の時代から最前線で生き抜いてきた英傑ですから。人間とヒュージの初めての大規模戦闘と言える南極戦役での数少ない生存者であることからもそれは窺えます。
そんな理事長代行のお面を亜羅椰さんは気に入ったようで斜めにしてかけています。いつも装着している猫耳ヘッドギアをわざわざ後ろに移動させるほどの徹底振りです。やきとり片手に理事長代行のお面を付けた猫耳美少女なんてなんだか凄い字面ですね。あとはビールがあったら完璧です!
ちなみに私はドネルケバブを食べてます。あの大きな肉の
「二水さん、口にソース付いてるわよ」
「え? どこですか?」
「ここよ、ここ」
「ここ、ですか?」
亜羅椰さんに指摘されるまで気づきませんでしたが、ソースが付いていたみたいですね。少し気が緩みすぎていたかもしれません。百合ヶ丘のリリィに相応しい立ち振る舞いを忘れないようにしなければ。
ポケットから取り出したティッシュで亜羅椰さんが空いてる方の手で指差した場所を拭こうとしているんですが、いまいちどこだか分かりませんね。ここですか? ここじゃないんですか?
「あーもう! 私がするからジッとしてて」
「は、はいぃ」
痺れを切らした様子の亜羅椰さんに静止を促されました。こうなると私が彼女に逆らえるわけもないので、大人しくティッシュを渡して待つことに。
あ、亜羅椰さんの顔が間近に。面と向かって見てみると本当に綺麗ですね。腰まで伸ばされた梨璃さんよりも色素の薄い桃色の髪に、ルベライトを彷彿とさせる深紅の瞳。
意図したものではないにせよ見つめ合っているようなこの状況。気を抜くと彼女という大きな存在に吸い込まれていってしまいそうです。
そういえば理想の身長差って確か15cmくらいでしたよね。亜羅椰さんが165で私は152と。・・・・・・いやいや、何を考えているんですか私は。これは早急に理事長代行のお面を見て落ち着く必要がありますね。ナイスイケオジ!
「・・・・・・よしっ、取れた」
「あ、ありがとうございます亜羅椰さん」
「どういたしまして」
色々と変な気持ちになる前に取ってもらえてほっとしたような残念な気分のような。こちらの複雑な心境など意にも介さず、亜羅椰さんは残り少なくなったやきとりを頬張っています。
なんだかもやもやするというか。やっぱり逆流性食道炎でしょうか? 若い世代でも増えているそうですし。今度お医者さんにでも診てもらいましょうかね。
「ーーと思うんだけど、どうかしら。? 二水さん?」
「あ、すいません。聞いてませんでした」
そこでようやく、いつの間にやらやきとりを食べ終えていた彼女が私に問いかけてきていたことに気づきました。
「へー、まあ人も多いし仕方ないわね」
「ごめんなさい」
「別に気にしてないから大丈夫よ。もう一度言うけど、ある程度飲み食いもしたことだし、リリィのパフォーマンスを特等席で見たくはないかしら?」
「! そういえばこれからですもんね!!」
リリィたちによる屋台。それ自体は日中も各所で見られるんですが、そちらはCHARMの開発や研究の資金が足りない新人アーセナルが万人に受けるパーティーグッズなどの販売をしているものが主体となりますかね。
ですが! これより始まるのは世界でもトップクラスのガーデンである百合ヶ丘女学院のリリィたちがその能力をフルに活用して行うパフォーマンスなんです! あ、2代目アールヴヘイムのメンバーは明日の部に出るので、亜羅椰さんはここに居ても大丈夫だったりします。
そしてですね。驚かないで聞いてくださいね? 今日はなんと雨嘉さんも出るんですよ!
彼女は百合ヶ丘駅周辺の複数箇所に点在する投射機から空中に射出される的の数々を相手取り、天の秤目を用いて連続して遠距離射撃を行う役目を任されていまして。超広範囲の変則クレー射撃みたいなものですね。今回のイベントに合わせて雨嘉さんのアステリオンには百由様の魔改造が施されています。マギの消費が格段に多くなる代わりに、射出された弾丸にライトエフェクトが付与されるものですね。
ヒュージとの戦闘においては本来必要のない仕様なんですが、信号弾から派生した対ヒュージ兵器開発の際の副産物として誕生したそうで。あ、もちろん当時開発を主導していたのはグランギニョル社です。
彼女の出番はパフォーマンスの最初なので見逃さないようにしないといけません。というわけで雨嘉さんの晴れ舞台を見に行きましょう! 見晴らしの良い場所が位置取りできれば良いんですけど。っと? 腕が後ろに引っ張られてますね。
「!? えーと、その、亜羅椰さん?」
「なにかしら?」
「こ、これは?」
「? 腕を絡めただけだけど」
そんなさも当然のように言われましても。女慣れしてる人ってみんなこうなんですかね。梨璃さんもその
「どうして急に?」
「だって、私の声が聞こえないみたいだったからーーこれだけ近くにいれば聞こえるでしょう?」
「ひゃ、ひゃい」
事あるごとに耳元で囁かないでください!? とでも言えれば良かったんですが、亜羅椰さんの真剣な眼差しを見ると口をもごもごとさせるしかありません。そんな表情今までしたことありましたっけ?! もっと、こう、なんというか毎回エロい感じで女の子に迫ってませんでしたか!!?
「ふふ、かわいい」
「かわ、かわいくないです」
「かわいいわよ?」
「かわいくないですから!」
「そうなの?」
「そうなんです!」
「・・・・・・まあ、これから教え込んでいけば良いか」
これ以上話をしていては完全に亜羅椰さんのペースに呑まれてしまいそうな気配を感じます。何か不穏な言葉が聞こえた気もしますが、とりあえず場所取りをしましょうか。
「亜羅椰さん、早くしないと良い場所取れなくなっちゃいますよ!」
「ん? ああ、それについては大丈夫よ」
「はい?」
「だって私、アールヴヘイムだもの」
§
「・・・・・・あの」
「なに? 二水さん」
「これ、私がいても良いんですか?」
「良いに決まってるでしょ、私が連れてきたんだから」
「でもここ、2代目アールヴヘイム専用の観覧席ですよね」
「そうね」
「私、一柳隊なんですけど」
「今日は他に誰も来ないし平気よ。百合ヶ丘の催しなんてみんな見慣れてるしね」
「で、でも」
「そんなに心配しなくても大丈夫だから。毎年お忍びで仲が良い子を連れ込んでるリリィも多いそうだし」
「ええ・・・」
常ならばスクープだなんだと騒ぎ立てているのかもしれませんが、今はそこまでの気力もなく。高級なことが一眼で分かる3人掛けのソファーにただただ沈み込んでいます。座り心地良すぎませんか、これ? 横に座る亜羅椰さんはグラス片手に手慣れたご様子。やっぱりSSSランクレギオンは格が違います。
いや、当事者になってみて初めて分かりましたが根が庶民なんですよね、私。さすがにここまで豪華な内装のガラス張りの観覧席、というか巨大な個室に顔パスで通されてしまうとなんというか。ガラス越しに見えるお祭り会場の様子がどこか遠いものに感じられます。人が小さく見えますね。
あ、ドリンクサーバーまであります。ああ、亜羅椰さんがグラス持ってたんだから当たり前か。なんだか思考能力まで低下しているような。
傍観者から当事者になった今日、初めて夢結様の気持ちを理解できたかもしれません。夢結様、あなたもこんな気持ちだったんですね。今までのお詫びに梨璃さんの趣味を今度それとなく伝えることにしましょうかね。
「気に入らなかった?」
「いえ、そういうわけでは、ないんですけど」
「けど?」
「場違いだなあ、と」
「そうかしら?」
「そうですよ」
先ほどと同じような問答。・・・・・・。まあ、いつまでもこうしてるのは案内してくれた亜羅椰さんに悪いですし、切り替えますか。ソファーの魔力に抗って立ち上がります。とりあえず聞くべきことは。
「駄菓子とかあります?」
「あるわよ」
「あるんですか」
あるのか、駄菓子。それなら遠慮なくいただきましょうかね。好きなものでも食べれば少しは気持ちも上向きになるかもですし。梨璃さんみたいに何事もポジティブに変換していきましょう。といっても百合ヶ丘のSSSレギオンのVIP室で駄菓子を
「もうすぐね」
「はい、そうみたいです」
これより始まるは雨嘉さんの大舞台。一柳隊の仲間として、また同じ
そういえば昔は射的という屋台も存在していたらしいですね。ヒュージの出現に伴って、一般人であってもスモール級を倒すことのできる銃火器の需要が高まったこと、またシューティングモードの
それにリリィにとっては射撃訓練室でやっていることと同じですからね。雨嘉さんを始めとする必中スキルである天の秤目持ちでなくともリリィであれば無双できる未来が容易に
「時間ですね」
開始時刻になるとともに百合ヶ丘駅周辺地区の照明が一斉に暗転。そうして静寂に包まれる会場。夜の帳が下ろされるなか唯一光に照らされた空間に現れたるは王雨嘉。
彼女は観客に向けて一礼したあと、おもむろにアステリオンを構えた。いつになく集中しているのがここからでも分かるほどです。
カチッ。同時、発砲音が轟いた。転瞬、夜闇に蒼の閃光が奔る・・・・・・初弾命中。
確認も待たず即座に体勢を変えた彼女は2射、3射。カチッ、カチッ。次弾命中、3弾目命中・・・・・・ーー全弾命中。彼女の手によって蒼穹を思わせるシャワーが黒の世界を塗り潰していく。
『未完の大器』と呼ばれた彼女はもはや過去のこと。観衆の目に映るのは
綺麗ですね。花火のような鮮やかさはありませんが、その輝きにはどこか惹かれるものを感じます。雨嘉さんの成長を間近で見てきた分、余計にそう思うのかもしれません。
「綺麗ね」
「はい、本当に」
「はー、まさかあそこから脱出するなんて! 凄すぎませんか百合ヶ丘!?」
「ふふ、お気に召したみたいね」
「はい! それはもう!」
開幕前に庶民がどうたら考えていた自分とはもうさよならバイバイ。やっぱり特等席で見る一流のリリィたちの演出は違いますねえ!
「亜羅椰さん、本当にありがとうございます! 私だけで場所取りしてたらここまでのものは見られなかったでしょうから」
「どういたしまして」
私の身長からして人混みがあるなかでは満足にパフォーマンスを見物することは難しいですしね。来年はここら辺も考えて行動していかないとですね。
これで今日の部は閉幕。そして門限も近いですね。お祭りということで寮長も大目に見てくれるとは思いますが、早く帰るのに越したことはありません。
うーん、グラスとかって置いたままでも良いんですかね? そう亜羅椰さんに尋ねようとした時。
「ーーーなら、お代はちゃ〜んといただかないと、ね?」
あ、なんかこれデジャブ。思いもよらない横方向からの力に簡単にソファーに押し倒されてしまいます。グラス持ってなくて良かったです。いや、そんなこと考えてる場合じゃなくてですね。
私の上に馬乗りになった亜羅椰さんをどうにかしなければ。爛々と紅く輝く彼女の瞳には情欲の色がはっきり浮かんでいました。というかハートマークの目とか初めて見たんですけど!? これが亜羅椰さんの言うゾクゾクしている状態なんですかね?!・・・・・・え、まさかこれガチなやつです?
あ、今顔の横に両手置かれました!? 見つめ合ってます! 見つめ合ってます?! こういうのは順序が大事というかもっと前にやることがあるというか?!?!
「二水さん、かわいいわよ」
「へぅ。そ、そんなことないですよ?」
そんな恍惚とした表情でストレートに感情を伝えられると心臓に悪いんですってーー!? わ、私ほんと美味しくないですからーーー!!??
「この間は逃げられちゃったけどーー今夜はもう逃がさないから」
ひえっ。
え、いや、待ってくださいよ!! あらふみですか!? あらふみなんですか?! ゆゆりりみたく百合の花咲かせちゃうんですかーーー!!?
§
「ねえ、いっちゃん。そういえば亜羅椰は?」
「ああ、亜羅椰ね。なんでも一緒に見て回りたい相手がいるんだってさ」
「また?」
「そ。・・・・・・まあ今回はいつになくガチに見えたけどね」
今回こそはふみふみで入れてやりましたよ!・・・・・・二水ちゃんは庶民派であってほしい(願望)
百合フェスなんてものは存在しない? き、気のせいじゃないですかね(震え)