とある学院のシュッツエンゲルとシルトとその周辺   作:癒月るな

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とある方の『一葉と恋花でスタバシチュ』コメントを見た人が「こんなSS見たいなあ」と言ったところから想像を膨らませた作品です。

私も見たいと思ったのでコメント主様に許可をもらって今回書かせていただくことになりました!


一葉と恋花とコーヒーチェーン店

 ここは幅広い層から人気を得ている有名コーヒーチェーン店スタッブス。その店内にエレンスゲのトップレギオンであるヘルヴォルのリーダーである相澤一葉(あいざわかずは)と同レギオンのメンバーである飯島恋花(いいじまれんか)の姿はあった。

 

「なんというか、その・・・・・・すごいですね」

 

「え〜? このくらい普通でしょ」

 

「普通。普通、ですか」

 

「ん〜、もしかして訓練の邪魔だったりした?」

 

「いえそんなことは! ただ、こういった場所にはあまり来たことがなかったので、少し、戸惑ってしまって」

 

 こういう場所に訪れる機会自体は一柳隊やグラン・エプレといった他校のレギオンとの特型ヒュージの情報交換を目的とした集まりのなかで何度か経験していたが、それはあくまで対外的なもので、エレンスゲの代表として参加していたことから一葉自身そこまで気にはならなかった。

 

 しかし今日は完全なオフ。一般的な女子高生に比べるとまともな休日というものを過ごしたことのない彼女にとっては少しハードルが高すぎたのかもしれない。好きな食べものに完全食を挙げている時点で彼女の女子力はお察しである。

 

「コーヒー好きなのにスタブ来たことないの?」

 

「はい。コーヒーはいつも純喫茶で飲んでいるので」

 

「純喫茶? なにそれ?」

 

「コーヒーを専門に取り扱っている喫茶店のことですね。レトロな雰囲気が魅力だったりするんです」

 

「へ〜、そういうのもあるんだ」

 

 とはいえ彼女も休息を挟まないわけではない。適度な休憩は結果として戦闘効率を上げることにも繋がるからだ。それでも恋花から言わせればまだまだ息抜きが足りないのだろうが。

 

「興味があるのでしたら今度ご一緒しませんか?」

 

「行く行く! なら今日はなおさら一葉をエスコートしなきゃだね」

 

「はい。(つたな)い部分も多々あるとは思いますが、ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどよろしくお願いいたします」

 

「もうっ、だから固いんだって。もう少し肩の力を抜いたって良いんだから」

 

「そう、でしょうか?」

 

「そうそう。じゃないと、ここぞという時に力を発揮できないかもよ?」

 

「なるほど。それは困りますね」

 

「だから今日はお姉さんが休日の楽しみ方を教えてあげようっ」

 

「! はい、ありがとうございます恋花様」

 

 気に入っている後輩の生真面目さをどうにか和らげようとお姉さん()ってそう提案する恋花。スタブに来ていたエレンスゲのリリィはそれを見て「れんかず尊い・・・・・・」と言いながら倒れた。今日も東京地区は平和である。

 

「それじゃあ、まずは注文からだね。一葉はなに飲む?」

 

「えっと、おすすめはありますか?」

 

「リストレットショートツーパーセントアドエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングブラウンモカチップクリームフラペチーノとか」

 

「え・・・・・・恋歌様、今なんと?」

 

「ん〜? リストレットショートツーパーセントアドエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングブラウンモカチップクリームフラペチーノだけど?」

 

「そ、そうなんですか」

 

 この時、口には出さなかったが彼女は思った、『私がおかしいのでしょうか?』と。至って正常なのでしっかりと正気を保ってほしい。こんなところで無駄に知性の高さを見せつけた恋花は気にした素振(そぶ)りもなく言葉を続けた。

 

「まあ今日は一葉の初スタブだし、お揃いにしよっか。私と同じので良いよね?」

 

「あ、はい。それでお願いします」

 

「了解〜。あとデザートとかも頼もっか」

 

「そうですね。少しお腹も空いてますし」

 

 そこまで注文待ちをしている人もいなかったので順番はすぐに回ってきた。

 

「リストレットショートツーパーセントアドエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングブラウンモカチップクリームフラペチーノを2つ、それとキャラメルケーキとクラシカルティラミスで」

 

「・・・・・・す、すごい。さっきもそうだけど全然噛んでない」

 

 まるで呪文のフレーズのような長さの注文をスラスラと店員にしていく恋歌の姿。しかもメニューを一瞥(いちべつ)すらもしていない彼女。その様を目にした一葉は自ずと感嘆の声を漏らした。

 

 放心している彼女の前に、いつの間にやら注文したトッピング増し増しブラウンモカチップクリームフラペチーノとデザートが1つずつセットで載っているトレー2つを両の手で器用に持った恋花がやってきていた。

 

「はい、これ一葉の分」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「一葉、どこ座る〜?」

 

「っ、恋花様!」

 

「わっ!? な、なに? きゅ、急にどうしたの?」

 

 突然声を上げた彼女に恋花はびくっと震えた。一葉にトレーを渡していなければ、確実に片方は落としていたことだろう。

 

「すごいですね! あんな長文を一切噛まずに発音できるだなんてさすがは恋花様です!!」

 

「え、そこ? えーと、ありがとう?」

 

「それにメニューに目を通した様子もなかったですから、全部暗記してるんですよね!?」

 

「あ〜、うん。まあ慣れだよ慣れ。一葉も行きつけのお店のメニューは覚えてるでしょ?」

 

「はい、それはもちろん。ですがそれでもすごいです!」

 

 キラキラとした純粋な尊敬の瞳を一心に向けられている彼女は気恥ずかしくなってきたのか、おもむろに髪を弄り始めた。

 

 同世代のリリィにここまで誉めそやされた経験は彼女にはない。しかも新興ガーデンとはいえ、実践第一主義を標榜するエレンスゲ女学園で序列1位を勝ち取った相手に手放しで賞賛されているのだ。同じ学園の同じレギオンでともに戦ってきた気心の知れた仲間、それも戦闘の時には頼れるリーダーにここまで言われた恋花が照れないはずもなく。

 

「まだまだありますよ!ーー」

 

「ちょ、ちょっと恥ずかしくなってきたから辞めない?」

 

「恥ずかしい、ですか?」

 

「それにほら」

 

 妙に察しの悪いリーダーに対して珍しく言い淀んだ彼女は目で訴えかけた。普段からメンバーとの連携を密に取っている一葉は即座にその意図を理解して周囲を見渡す。・・・・・・なるほど。どうやら自分の興奮した声に店内の客からの視線が突き刺さっていたようだ。

 

「あ・・・・・・す、すいません」

 

「良いって良いって、空いてるとこ座ろっか」

 

「・・・・・・はい」

 

 

§

 

 

 人が少ない壁際のテーブル席に2人は座っていた。

 

 最初は窓際のカウンター席でもどうかと一葉は思ったのだが、カウンターをデスク代わりにしてパソコンを立ち上げている大人や資料を広げている大人で埋まっていたため断念した。恋花は『また来れば良いって』と彼女に言っていたが次の機会はいつになることやら。

 

「このケーキ美味しいですね」

 

「ふふん、そうでしょ」

 

「まあ、コーヒー好きの一葉の好みにフラペチーノが合ったかどうかは分からないけど」

 

「美味しかったですよ」

 

「へ〜、なんだか意外。一葉ってチェーン店のメニューは認めないみたいなイメージあったのに」

 

「なんですか、その偏見」

 

「コーラ無理って言ってたから、そうなのかなって思ってたんだけど」

 

「それとこれとは別ですね。同じドリンクでも種類が違いますし」

 

「あははっ、確かにね」

 

「ですけど多分、ドリンクの味がどうこうではなくてですね」

 

 一葉はそこで言葉を止めて、目前の恋花を真っ直ぐに見据(みす)えた。

 

「ーーこうやって、恋花様と一緒に過ごす時間が美味しかったんだと思います」

 

 そう言い切った彼女はいつになく自然な笑みを浮かべていた。

 

 ・・・・・・ほんと、こうやって笑うと年相応にかわいいのに。この子はいつも根を詰めすぎだから。できることなら今日くらいは、今日くらいはエレンスゲ女学園での教導官との衝突やゲヘナとの折衝(せっしょう)、そして彼女の宿願も忘れていてほしい。

 

 どこまでも背負い続けて、どこまでも頑張り続けていたら、いつかきっと彼女は壊れてしまうと思うから。

 

「・・・・・・そうならないようにきちんと先輩として見守っててあげないとね」

 

「? なにか言いましたか?」

 

「いや、このフラペチーノだったら藍でも飲めるだろうなって」

 

「ふふっ。そうですね、デザートも欲しがるかもしれません」

 

「でも結局『千香瑠の作ったお菓子の方がすきー』って言うんじゃない?」

 

「藍なら『両方たべるー』とも言いそうですけどね」

 

「あはは、それもありそうだ・・・・・・ーー」

 

 その後もとりとめのない会話は続いた。そこには凛とした楯の乙女の姿はなく、あるのは普通の女子高生が2人だけ。なんてことのない日常の1ページが彼女たちの胸にまた深く刻まれたのだった。




ヘルヴォルは未だに藍ちゃんしか持っていないので、ラスバレのイベントストーリー『叛逆のスキャルドメール』などを主に参考としています。設定がおかしい部分があるかも知れませんが、それも含めてご了承ください。

スペシャルサンクス:コメント主様。並びに某チャンネルで情報提供をしてくださった皆様。
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