ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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Excalibur
聖剣奪取


「手酷くやられたようじゃねえか。朧」

 どこかの城と思わしき場所――『禍の団(カオス・ブリゲード)』の隠れ家(アジト)の一つを、朧は一人で歩いていた。フェニックス戦の傷は既に無く、万全の体調まで回復していた。

 そんな朧に今話しかけたのは、そこそこ容姿の整った男だった。

 その男に朧は敵意を隠さずに言葉を返す。

美猴(びこう)……喧嘩売ってるのか? 買うよ、高値で。代金はお前の命で」

「軽い冗談じゃねえか。お前も本気は出してなかったみてえだしな」

 朧は話しかけてきた男――美猴に軽く殺気を込めて返答する。

 美猴はその名から分かるように美猴王――孫悟空の子孫だ。先祖と違って今ではテロリスト集団の仲間だが。いや、暴れん坊という点ではあながち違っていないのかも知れない。

「それで? この哀れな負け犬めに何か御用でしょうか?」

 朧は無駄に(かしこ)まった台詞で美猴に尋ねる。

「そんな話し方すんじゃねえよ。背中が(かゆ)くなる」

 それを嫌がった美猴を見て、朧は元の口調へ戻して再度質問する。

「で、何の用?」

「お前さんに依頼だとよ」

「依頼?」

 初めて聞いた単語――知らないという意味では無く、言われなかったという意味――に首を傾げる。

「ああ。堕天使の……なんつったけな。コカ、コカ、コカ……」

 美猴は名前を思い出せないでいた。

「コカビエル。あの戦闘狂――いや、戦争狂が俺に?」

「正確には『禍の団(カオス・ブリゲード)』にだけどな。旧魔王派の奴らがいうには、堕天使共が参加する交換条件らしいぜぃ」

 その答えに朧は顔を(しか)めた。

「それをなんで俺がする事になってるんだよ」

「お前さん、負けただろ? その汚名返上の機会らしいぜぃ?」

「あんなので汚名になるのかよ」

 朧は旧魔王派の器の小ささにほとほと呆れていた。

「俺っちも対した事じゃねえとは思うけどねぃ。けど、このままだとお前、アイツ(・・・)の近くに居られなくなっちまうぜぃ?」

 美猴の言葉に、朧の表情は一瞬で真面目なものへと変わる。

「チッ。――美猴、その依頼とやらを教えろ」

 舌打ちをひとつしてから、朧は美猴に渋々と尋ねた。

「やる気になったみてえだねぃ。それじゃ教えるぜ。コカビエルからの依頼ってのは、折れた聖剣――エクスカリバーの奪取さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余裕だな」

 今の俺は全身を黒い甲冑で包み、黒い剣を(たずさ)えていた。どちらも黒き御手(ダーク・クリエイト)で創った物で、一応顔を隠すのが目的だ。剣はおまけだが。

「しかし、面倒な注文だ。聖剣六本も確保できるか。しかも三箇所に分散してるというのに……。一箇所につき一本確保するのが限度だ」

 正教会、プロテスタントと来て、現在はカトリックのこれで三本目を確保したのだが……。

 

「聖剣使いに見つかるとは、俺もつくづくついてない」

「避けながら話すとは余裕だな!」

 聖剣使いはそう言うも、実際はほとんど余裕がなかった。なにせ相手の剣は破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。触れたら一撃でお陀仏(だぶつ)だ。

「当たらなければどうということはない、とはいかないんだよな」

 破片が飛び散って視界が悪いし甲冑に当たってカンカンうるさくて集中できない。まあ、ノルマの三本は達成したし、逃げるか。

BOMB(ボム)ッ!」

 軽い破裂音がすると黒い煙が辺りを包み、視界を奪う。聖剣使いは剣でそれを払うも、その程度では煙は消えなかった。

 十秒ほどすると煙は消え去り、無残に破壊された通路だけが聖剣使いの目に映った。

「くっ! 逃がしたか……」

 青い髪の聖剣使いは腹立ち紛れに剣を床に突き刺した。

 破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の力で、床には大穴が開き、聖剣使いはその穴に落ちていった。

 

「……馬鹿だ、馬鹿がいる」

 その後、誰もいない通路でそんな言葉が聞こえたかどうかは、定かではない。

 

 

 

 

 

「やれやれ、つまらない任務だった」

「いやいや、あんな事を一晩でできるのはお前さんぐらいだぜぃ」

 俺の感想に美猴が反論してくる。

「そうか? 天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)は確かに優れた武器だが、持ち主不在の聖剣なんて鉄の(かたまり)と大差ない。そんな物をいくら盗んだ所で……」

 対した事無いと続けて言ったが、美猴は首を横へ振るだけ。

「いやいや、それをできる奴なら何人かいるかもしれねえけどよ、それをバレないようにやるっていうのはなかなか難しいぜぃ」

「それこそ、俺が無名だったっていうだけの話だろ。それに、最後で聖剣使いに見られたからバレてない訳ではない。――ま、それはどうでもいいんだ。先方はどうだって?」

 相手がどう思おうがどうでもいいが、自身が行ったことの結果がどうなったのかは聞いておきたかった。

「一応は満足したみたいだったぜぃ」

「そうか。一体何が目的だったのか――と、考えるまでもないな。あの戦争狂の事だから、どうせ戦争だろ」

「その通りだねぃ。けど、それが起こる気配はちっとも無いねぃ」

 それに俺は露骨に舌打ちする。

「ちっ――堕天使の羽を落としたり、逃げる際に堕天使の翼を創って逃げたのに無駄骨かよ。わざわざとある事情で捕まえた堕天使(・・・・・・・・・・・・・)まで働かせたんだぞ」

 より一層力が抜けた俺は背中を壁に預ける。

「あーあ、戦争が起こってくれたら、どさくさに紛れてシャルバ、カテレア、クルゼレイの首を取れるんだがな……」

「おいおい、滅多なこと言うもんじゃねさ。どこで誰が聞いてるか分かんねえんだからよぅ」

 つい漏らした愚痴(ぐち)を聞き(とが)める美猴。

「周りに誰もいない事は確認してるさ。万が一聞かれて口を封じればいいだけだ」

「おっかないねぃ」

 

「まあ、今回の任務で汚名は返上されただろ?――それに、お前にとっても意味のある任務だったんだし」

 確かに無駄ではなかったが、それで労力が埋まるかどうかかというと微妙であった。

「まあな。折れた聖剣(エクスカリバー)はなんだかんだで六本全部見たし。残りの一本見れば、出来る(・・・)だろうな」

「ハハハハハ! お前さんはやっぱりすげえな。それで、最後の一本はどうなってるんだっけか?」

「アーサーが探してるらしいけどな。まだ見つかってないらしい。――じゃ、これ失礼する」

 話を打ち切り、美猴に背を向けて歩き出す。

「おう、アイツ(・・・)によろしくな」

 俺が今からどこに行くかは、どうやらバレていたようだ。

「あの猿にも分かるとは……そんなに分かり易いかね?」

 

 恐らく、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の誰かがそれを聞いたら、十中八九(じゅっちゅうはっく)頷かれるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の一番奥の扉を開ける。そこは王などの一番偉い人が座っているであろう場所。

「朧?」

 彼女を表すのに最も相応(ふさわ)しい、孤独な玉座に座っているのは、ゴスロリドレスを着た少女。『禍の団(カオス・ブリゲード)』のトップ。

「ああ。久しぶりだな。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス」

 

 

 

 

 

「朧、最近来てくれなかった」

「悪いな、最近俺も忙しくてな」

 朧は玉座に座り、オーフィスを自分の膝の上に乗せた状態で(くし)――神器(セイクリッド・ギア)で創ったものではない――で髪を()きながら、軽い不満を漏らす彼女に苦笑しながら答える。

「昔はずっと一緒だった」

「昔、ね……」

 確かに、朧とオーフィスは昔はいつも一緒に居た。あの時(・・・)からあの時(・・・)まで……。

 回想に入ろうとした朧の袖が引っ張られる。彼が目を下へ向けると、オーフィスが不安そうな無表情で朧を見上げていた。

 朧は心配するなという気持ちを込めてオーフィスの頭を撫で、彼女の髪を再び()かし始める。

 

 

 

 しばらくそれを続けていると、扉を開けて誰かが入って来た。

「オーフィス! 私の分の『蛇』を貰いに来た!」

 入って来たのは旧魔王派の頂点である、旧魔王の子孫の一人であるシャルバ・ベルゼブブ。

 シャルバは朧を見ると露骨に嫌そうな顔をした。

「貴様……またそんな事をしているのか。そんな事などオーフィスには無意味――ッ!」

 シャルバは玉座から発せられた殺気と力に気圧(けお)され、口をつぐんだ。

 それを発したのは朧かオーフィスか。力の圧力を考えるとオーフィスであろうが、彼女が殺気を放つ事は考えられない。ならば朧かと思うが、ただの人間にここまでの力を発するだろうかと考えたシャルバだが、問題はそれを発したのどちらかではなく、それが自身に向けられている事だった。

 どうすればこの状況を逃れられるかと考えたシャルバだったが、それはオーフィスが『蛇』を作り出したことで、発せられていた力と殺気は霧散した。

 『蛇』は朧が出した小瓶に入れられ、シャルバへと投げ渡される。

 シャルバはそれを受け取ると即座に(きびす)を返し、玉座の間から出て行った。

 

「まだ生きてたのか。あの小蝿」

 シャルバが部屋を出たのを確認してから、悪態を吐く。

「酷い言い様」

「俺があいつを嫌っているのはお前も知ってるだろう?」

 オーフィスはそれに無言で首を縦に振り肯定する。それから体の力を抜き、俺に体を預ける。

「オーフィス? ――寝ちゃったか……」

 オーフィスが眠ったのを確認した俺は、彼女――という表現を使っていいのか微妙だが――を起こさないように優しく抱きしめ、そして静かに呟く。

 

「たとえ、世界があなたを責めようと、世界の誰もがあなたを利用しようと、あなたが無限であると知っていても、俺はあなたを絶対守る。たとえ、世界が相手でも、神が、天使が、堕天使が、悪魔が、ドラゴンが、魔獣が、人間が、その他の全てが敵であろうとも、必ず」

 

 これは俺からオーフィスへの、神器持ち(限りある人間)から無限の龍神(限りなきドラゴン)への、たった一つで絶対の誓い。

 

「俺はずっと側に居よう。俺が死ぬまで、永遠に」

 

 これだけは、誰にも譲るつもりは、無い。

 




うちのオーフィスの服はちゃんと前まであります。11巻の表紙のような服は朧が止めさせました。

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