ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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とある堕天使のその後

 聖剣を盗んでから帰ってみると、部長と焼き鳥(ライザー)の結婚式はイッセーがぶち壊したらしい。

 

「良かった良かった。あのまま結婚されたら目覚めが悪くなる所だったしね」

 明かりを付けていない真っ暗な部屋で無駄に豪華な椅子(家の家具の中で一番高級)に座りながら、朧は満足そうに呟く。

「しかしイッセーもやるなー。現段階のイッセーでは逆立ちしてもあの焼き鳥には(かな)わなかった筈だが」

 この状況での逆立ちは、もちろん文字通りの逆立ちでは無い。

「どうやら、左腕を代償に支払う事で、一時的にドラゴンの力を手に入れたそうです」

 一人暮らしのはずの朧に答えるのは一人の女性。

「それはまた……逆立ちどころかちゃぶ台返し。裏技というより邪道・外法の(たぐい)じゃないか。ドラゴンへの代償、安くはないだろうに」

「兵藤一誠さんは左腕をドラゴンに支払ったことで、左腕がドラゴンの腕になってしまったようですが……」

「それは、日常生活に支障(ししょう)が出るんじゃないか?」

 悪魔として生活しているのならまだしも、人間社会で生きていくにはドラゴンの腕は邪魔すぎる。

「ドラゴンの気を散らす事で、左腕を人間の姿に留めているようです」

「どうやって?」

 朧が何と無しに言った一言に女性は顔を赤くした。

「――あぅ……。・・・・・・です」

「それはイッセーにとってはある意味代償になってないなー……というよりご褒美? それよりも、お前結構初心(うぶ)だったんだな」

 朧がからかい混じりの言葉に、女性は顔を更に紅潮(こうちょう)させて反論する。

「元はといえばあなたの所為です!」

 それを聞いた朧は顎に手を当てる。

「それが……その時の事は全く覚えてなくてな。その場のノリで行動すると後々後悔するな。一体何があったのやら。どうか教えて欲しいね」

「嫌です」

 親の(かたき)を見るような目つきでこちらを睨んでくるのを見て、朧は肩を竦める。

 

「まあ、それはそれとして……お前、そろそろあいつらに会う気はないか?」

 朧の質問に女性は顔を曇らせる。それを見た朧は一つの決心をする。

「よし、今週中に会いに行こうか。拒否権は無し」

「…………はい」

 長い沈黙の後に来た肯定に、朧は内心で、おや? と思う。

(彼女もこのままではいけないと思っているのか、それともケジメをつけるためか。どちらにせよいい事だ。それに、あいつらに今のこいつを見せた時の反応が気になるぜ)

 くっくっくっと、不気味な笑い声を漏らす朧に、女性はため息を一つ()いた。

「どうしてこんな事に……」

「身から出た錆だ。死んだ方が良かったとでも?」

「・・・・・・」

「本気で悩まれると困るんだが……」

 女性の態度に、嫌な汗が頬を伝う。

「マサカ。シンダホウガヨカッタナンテオモッテマセンヨ」

「済みませんでした」

 棒読みで話す女性に朧は思わず頭を下げる。

「冗談ですよ。助かったとは思ってます。感謝はしませんけど」

「お前、以前の原型を全く留めていないな」

「重ね重ね言うようですが、あなたの所為です」

「ご(もっと)もだ」

 

 そして、真っ暗な部屋に二人の笑い声が響いた。

 

 

 

 今日の部活は旧校舎の清掃のため、一誠の家で行われる。

 

「という訳で、今日はお前をイッセーの所へ連れて行く」

 他のオカ研のメンバーが学校から直接向かった中、一度家に戻った朧は家で掃除をしていた女性へ向けてそう言い放った。

「待ってください! まだ心の準備が!」

「問答無用」

嫌がる女性の襟首をつかんで引きずる。

「せ、せめて服を着替えさせてください! この服じゃ……!」

「この方が面白そうなので却下」

「この人でなし!」

「俺は人間だってば」

 嫌がる声に耳を貸さず、朧は女性を連れて一誠の家へ向かった。

 

 

 

 イッセーの家へ着いた俺は呼び鈴(チャイム)を鳴らす。すると、イッセーの母親らしき人が出て来た。

「どちら様かしら?」

「あ、私一誠君と同じオカルト研究会に所属している黒縫朧と申します。こっちの人は気にしないでください」

「あら、ご丁寧にどうも。イッセーの所へ案内するわね」

 自分で言っといてなんだが、本当に気にされていなかった。それでいいのか兵藤母よ。

 

 

「イッセー、お友達が来たわよ。黒縫くん」

「遅くなりました……――って空気重っ」

 部屋の中には重い空気がどんよりと漂っていた。原因は木場から殺気が(にじ)みだしているせい。

「よ、よう朧! 遅かったな」

「ああ、こいつを連れて来たからな」

 扉の向こうに隠れているこいつをイッセー達の眼前に(さら)した。

「れ、レイナーレか……?」

「はい……」

 そう、俺が今日連れてきたのは少し前に騒ぎを起こしたレイナーレだった。その彼女を見たイッセー達は木場も含めて全員が呆然としている。しかし、その原因はレイナーレそのものにあるのではなかった。

 そんな面々の中で一番早く冷静さを取り戻した部長が代表して皆が抱いているだろう疑問を尋ねてきた。

 

「ねえ朧、何でレイナーレはメイド服を着ているの?」

「俺の家には、それしかレイナーレに合う服が無かったんです」

 俺とレイナーレでは身長が頭一つ分は違うし、それ以前に性別が違うため、体型からしてかなり違う――特に胸部――ので、俺の服をレイナーレは着れなかった。

『何故それだけあったんだ……?』

「さぁ……?」

 オカルト研究会の全員は当然の質問をしてきたが、それに朧は答えられなかった。

 

 

 

「この前は本当にごめんなさい!」

 

 場所は変わってイッセーの部屋。レイナーレはそこでイッセーとアーシアに向かって土下座をしていた。

 

「謝って許される事じゃないのは分かってます。だって私は二人の命を奪ってしまったんですから……けど、ごめんなさい!」

 一度頭を上げたと思ったらもう一度頭を床に埋れとばかりに下げた。

 それを見たアーシアはオロオロして、頭を上げてくださいと言うが、レイナーレは決して上げようとはしなかった。イッセーは頭を下げ続けるレイナーレをしばらく黙って見据えていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「頭を上げてくれ」

 先程までアーシアにその言葉を言われても顔を上げなかったレイナーレだが、イッセーの言葉にはゆっくりとだが顔を上げた。

「お前が反省しているのはよく分かった。それで、お前は俺達にどうして欲しいんだ?」

「私はあなた達に何かをしてもらおうとも、()して許してもらおうとも思ってないです」

「だったら何で謝るんだ?」

「……私はあなた達の命を奪いました。それは悪魔に転生することで取り戻されましたけど、本来なら命はたった一つ。それはほぼ全ての種族に共通する事です。そんな大事な命を奪っておいて、その相手に望む事はありません。もしあるとすれば――」

 レイナーレは伏し目がちにしていた目をイッセーに真っ直ぐ向けて言った。

 

「せめて、二度目の人生は幸せになってください」

 

 その言葉を最後にレイナーレはその場を去った。

 

 

「ねえ、あなた一体彼女に何したの? まるっきり別人じゃない」

 同伴していた部長が俺に尋ねてきたが、それは俺も知らなかった。むしろ俺も知りたい。俺は一体何をした?

「さて、何をしたんでしょうかね?」

 俺は部長をはぐらかして――半分ほど本音だが――イッセーとアーシアに声をかけた。

「さて、それじゃあ俺もお(いとま)するけど、レイナーレに伝えたい事はあるか?」

「あ、それじゃあ……」

 アーシアがおずおずと言った。

「今度は一緒にお茶をしましょうと、伝えてください」

「了解。イッセーは?」

 イッセーは長々と考えてから、一言だけ言った。

「また遊びに来ても良いって、伝えてくれ」

「分かった。――ありがとうな、イッセー、アーシア」

 

 最後に言った言葉の返答を聞く前に、俺はイッセーの部屋を出た。

 

 

 

 

 

 その後、兵藤家の玄関のすぐ外で立っていたレイナーレに先程の事を伝えると、レイナーレは泣き崩れてしまった。

 

(あの、ここ公道なんで、泣かれると俺の立場とか名誉が危ないんですけど……)

 


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