ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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クロス・エクスカリバー

「あー、マジ捨てたい」

 背中にイリナを背負って夜明けの町を一人で――木場とゼノヴィアとは逃げる際に別れた――堕天使から逃げている朧は、事情を知る者からするとかなり不穏当な発言をしていた。

「夜の町をシスター背負って疾走とか二度目だな。こんな経験はもう要らない」

 ややうんざりしながらも走っている朧は、そろそろ体力的な限界に達しようとしていた。それもフルマラソンの三分の一ほどの距離を人一人背負って走ればその疲労も頷けるが。

「イッセーの家はもうすぐだし……とっととイリナの治療をしてもらわないと。血で背中がベタベタして敵わん」

 血というものは凝固するので、時間を置くと厄介なのである。

 

 一誠の家の前にたどり着いた朧は、そこらの小石数個を摘まんで窓に向かって投げる。

 すると部屋の中の一誠たちが顔を出し、朧に背負われているイリナを見て血相を変えて降りてきた。

(なんで三人一緒の部屋で寝てるんだろう……)

「朧!」

「つかぬ事を()くけど……もしかしてお邪魔だった?」

「ばっ……! こんな時に何言ってるんだよ!」

「つい気になったから。アーシア、イリナ頼む」

 丁寧に地面に寝かせられたイリナにアーシアが駆け寄り、緑色の光を出して治療を始める。

「じゃ、イリナの事は任せたぞ。俺は帰って寝る」

「ちょっと待ちなさい。どうしてこうなったのか、経緯を説明しなさい」

「フリードを追って敵の根城に入ったら、コカビエルが出てきてイリナがやられたので、散開して逃走」

 リアスに止められた朧は、端的にそう述べて欠伸(あくび)をして歩き始めた。しかし、その歩みは三歩も行かない内に止まった。

「くそっ、なんで来るんだよ……!」

 それに一誠とリアスが首を傾げると、その直後に頭上から強大なプレッシャーがのしかかってきた。

「コカビエル……!」

 朧がそう言った直後、四本のエクスカリバーを(たずさ)えたフリードが姿を現した。

「やっほー、イッセーくん。もしかしてお邪魔だった?」

「上か」

 朧はそれに構わず上を見上げる。その視線の先には十の翼を広げるコカビエルの姿があった。

「隙アリぃ!」

「ねえよそんなもの」

 目の前で無造作に顔を上げた朧に、フリードは両手の聖剣で斜め下から斬りかかったが、それを朧は視線を向けることなく白羽取りした。

「嘘ぉ!?」

「不意討ちするなら殺気を収めな。気配で動きがバレバレだ」

 聖剣を掴んで動けないフリードを前蹴りで蹴り飛ばす。

「腕は鈍ってないようだな」

「鈍る腕なんて持ってなかったからな。それで、ここに何の用だ」

「魔王の妹に宣戦布告をしようと思ってな」

 コカビエルは視線を朧からリアスへと向ける。

「駒王学園を中心に暴れさせてもらう。そうすれば、サーゼクスが出てくるだろうからな」

「そんな事をすれば、堕天使と悪魔との戦争になるわよ」

「願ったり叶ったりだ。エクスカリバーを盗んだのも、ミカエルが戦争を仕掛けてくると思ったのだが……」

「戦争狂め……」

 リアスが忌々しく呟くも、コカビエルはそれを聞いて(わら)う。

「そうだ。俺は戦争が終わってから退屈で仕方なかった。だから、お前の根城でエクスカリバーをめぐる戦いを始めさせてもらおう」

「エクスカリバーをどうするつもりなの!?」

 リアスがそう問いかけるも、コカビエルは答えることなく翼を羽ばたかせ、駒王学園の方向に体を向ける。

「戦争をしよう! サーゼクス・グレモリーの妹、リアス・グレモリーよ!」

 コカビエルがそう宣言すると同時に、起き上がっていたフリードが目くらましの閃光弾を投げ、その隙に二人はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 生徒会メンバーの維持する結界に覆われた駒王学園の正門から、オカルト研究会のメンバーが入っていく。しかし、その場には木場と朧の姿は無かった。

 朧は血で汚れた服を着替えに自宅へと戻ってた。そのついでに治療が一段落したイリナを自宅へと運び、レイナーレに面倒を見させている。

 木場はゼノヴィアと共に行方不明だが、朧が携帯電話でエクスカリバーが駒王学園にあることを伝えたので、その内来るだろうと言っていた。

 

 校庭には魔方陣が描かれており、その上に神々しく輝く四本の剣が、ゆっくりと旋回しながら浮いている。

「四本のエクスカリバーを一本にするのだよ。七本全て無いのが残念だがな」

 誰も質問していないのに、バルパーは一人で話し始めた。

「エクスカリバーの統合は後何分かかる?」

 その頭上で空中に浮かぶ椅子に座ったコカビエルがバルパーに問いかける。

「五分もかいらんよ」

「そうか。――サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか?」

「お兄様とレヴィアタン様の代わりに私たちが――」

 そこまで言った時、コカビエルが八つ当たりに光の柱で体育館を破壊する。

「つまらん。だが、余興にはなるか」

 コカビエルが指を鳴らすと、校庭の暗がりから何かが重い足音を響かせ歩いてくる。

「地獄から連れてきた俺のペットと遊んでもらおうか」

 月明かりに照らされ、その何かの姿が(あら)わになる。黒い毛並み、太い四足、そこから伸びる鋭い爪、闇夜でも輝く真紅の瞳、口に並ぶ凶悪な牙、そして、それの最大の特徴である、三つの頭部。

「――ケルベロス!」

 ケルベロスは本来地獄――即ち冥界に続く門の周辺に生息し、その縄張りを守護する事から、地獄の門番の異名を持つ。

「ケルベロスを人間界に持ち込むなんて!」

 ケルベロスを見たオカルト研究会のメンバーはそれぞれ戦闘態勢を取る。

 

 三つの首から火球を吐き出すケルベロスに、オカルト研究会の面々はリアスと朱乃を中心に戦い、やって来た木場によって足止めされたところを、一誠の倍加された力を譲渡された朱乃の雷で消滅させる。

 その際中に二匹目のケルベロスが現れ、倍加中の一誠を狙ったが、駆けつけたゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)によって(ほふ)られた。

 

「くらえ、コカビエル!」

 朱乃と同時に譲渡され、力を増したリアスの滅びの魔力がコカビエルを襲う。それは今まで彼女の物と比べ、十倍以上の大きさを持っていた。

 しかし、それをコカビエルは片手で防ぐ。

「赤龍帝の力があれば、リアス・グレモリーの力がここまで上がるか……面白いぞ」

 哄笑を上げながら、コカビエルは自分が冥界から連れてきたケルベロスは三匹だった事に思い出したが、大方聖剣使いに屠られたのだろうと考えた。

「――完成だ」

 そのバルパーの声と共に、校庭のエクスカリバーが(まばゆ)い光を発し、青白いオーラを放つ一本の剣になった。

「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。あと二十分もしない内にこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」

 それを聞いた一誠が絶句する。自分の住む町が滅びると聞いたら普通の反応だが。

 

 フリードが一つになったエクスカリバーを握り、それ見たゼノヴィアが木場に改めて共闘を持ちかける。それを聞いたバルパーは(わら)う。

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺され、悪魔に転生した身だ」

「ほう、あの計画の生き残りか。こんな極東の地で合うとは奇縁だな。そうだな、一応礼を言っておこうか。キミたちのおかげで完成することができた」

 バルパーの口から誰も想像だにしなかった言葉が発せられた。

「完成? 僕たちを失敗作として殺したじゃないか」

 木場がそう問い詰めると、バルパーは首を横に振る。

「聖剣を使うのに因子が必要だと知った私は、被験者の子供たちの聖剣を使うには達していない量の

因子を抜き取り、結晶化させた。これの様にな」

 バルパーは懐から聖なるオーラを発する球体を取り出す。

「同志たちを殺して、聖剣適性の因子を抜いたのか?」

「そうだ。これはその時の物。最後の一つだ」

 バルパーはそう言って結晶を投げる。

「もうそれは私には必要無い。貴様にくれてやる」

 投げられた結晶は木場の足元まで転がって止まる。

「皆……」

 それを木場はいくつもの感情が入り混じった表情で、結晶を手に取ってその表面を撫でる。

 その時、結晶が淡い光を発し、校庭を包み込むまで光が広がる。そして校庭の地面の各所から光が少年少女たちのカタチを成した。

 これはきっと奇跡。魔剣、聖剣、悪魔、堕天使、ドラゴンの力が入り混じったことによって生まれた力場が生み出した、二度と起こらない出来事。

「……ずっと、思ってたんだ。僕だけ生きていていいのかって……」

 霊魂の少年の一人が微笑みながら口を動かす。それは一誠には聞こえなかったが、彼は『自分たちのことはもういい。君だけでも生きてくれ』と言った。

 それを聞いた木場は涙を流す。

「聖歌……」

 アーシアの言う通り、少年少女の霊魂は聖歌を口ずさんでいた。聖歌は悪魔が聞けば苦しむが、今は一誠たちが聞いていても苦しむどころか温かさを感じられた。

 辛い人体実験の中で、唯一心を保つために手に入れたもの。それを歌う木場と少年少女たちは、幼い子供のような無垢な笑顔に包まれていた。

 彼らの魂は青白い輝きを放つ。

 

『聖剣を受け入れるんだ――』

『怖くなんてない――』

『たとえ、神がいなくても――』

『神が見てなくても――』

『僕たちの心はいつだって――』

「――ひとつだ」

 少年少女の魂は天に昇り、ひとつの大きな光となって木場を包み込んだ。

 

 その時、どこからともなく聞こえてきた鐘の音が、彼らを祝福するように校庭に響き渡った。

 


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