ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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共同戦線

 朧は帰ってオーフィスを抱きしめて眠ると心が回復し、元気にテロる気力が生まれた。

 

 オーフィスを涙ながらに見送ると、朧は兵藤家の地下を訪れた。そこには、グレモリー眷属と堕天使のお偉いさんとオーディンとそのお付のヴァルキリーとだけでなく、シトリー眷属とヴァーリたちがいた。

「やあ皆さん、今どういう状況かお聞かせ願えますか?」

 いきなり登場してそう言ったら、アザゼルが嫌そうな顔をして朧を見た。

「お前らは信用できないって話だよ」

「別に信用しなくてもいいでしょう。悪魔なのだから双方利用してお互いの目的を達成できれば、それで万々歳ではないでしょうか?」

「途中で裏切らない保証はあんのかよ?」

「それについての保証は出来ませんが、『ロキを倒す』。この一点においてのみ、我々は絶対に裏切らない事を確約しましょう。それでも信じられないというなら……そうですねぇ、私の知る英雄派の幹部の情報を無償でご提供いたしましょう!」

 その言葉にその場にいる全員がギョッとした。

「おいおい、それはまずいんじゃねえのかよぅ?」

「ふふ、猿よ。俺が一番好きな言葉を教えてやる。――バレなきゃいいんだよ」

 その言葉を聞いて、周りの皆は一斉にこう思った。

(こいつ、一番信用しちゃいけない奴じゃないんだろうか……)

 ちなみに、これは後に世界の共通認識になる。

 

 

 

 朧が信用ならない相手だという共通認識が得られた所で、話題は信用問題からロキ・フェンリル対策へと移った。

「そういう事ならミドたんの出番ですね」

 早速朧が訳の分からない事を言い出した。

「ミ、ミドたん……?」

「そう、ミドたん。本名は長いのでよく覚えていない!」

「おい、それってまさか、ミドガルズオルムの事か?」

「そうそう、確かそんな名前でした」

 アザゼルが恐る恐る尋ね、朧はそれを聞いて手をポンと打った。

「先生、何ですかその、ミドガ、ミドガルズなんとかってのは」

「ミドガルズオルムな。五大龍王の一匹、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』とも呼ばれている。なんでお前はそんなのと知り合いなんだよ」

「数年前にリュウグウノツカイと一緒に浜に打ち上げられてまして。見つかると厄介なので日本海溝に沈めに行った仲です」

「それでよく仲良くなれたな」

 朧の答えにアザゼルが呆れた顔をする。

「では、早速呼んでみましょう」

「待て。そう簡単に呼ぶな」

 アナウンサー感覚で呼ぼうとする朧をアザゼルが止める。まさかとは思うが、体長500~600mもあるドラゴンにいきなり出てこられても困る。

「ミドガルズオルムの事は俺たちに任せろ」

 その本音はじっとしていろである。

「とにかく、俺はちょっとシェムハザと対策練ってくるから、お前らは大人しく待機してろ」

 アザゼルがバラキエルを伴って退室すると、ヴァーリチームの面々(特に美猴)が好き勝手に振る舞い始めた。椅子に座って難しい本を読んでいるヴァーリと支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)についてイリナと話しているアーサーは朧的には許容範囲だった。しかし、一誠を誘惑している黒歌とリアスと喧嘩になっている美猴を見て、朧のこめかみに十字に血管が浮かんだ。

「……よし」

 一つ頷いた朧は、袖口から一つずつ鎖の付いたUFOキャッチャーのアームのように一部が割れた鉄輪を取り出し、投げる。

「ぬおっ!?」

「にゃっ!?」

 それは狙い違わずに美猴と黒歌の首に命中し、ガチャンと音を立てて閉まった。それを朧はすぐに引き戻す。するとどうなるか? 美猴と黒歌の首が締まりながら朧の下へと引きずられた。

 呆気に取られた一同を見て朧が一言。

「うちのペットがご迷惑かけまして」

 そう言って深々と頭を下げる。

「誰がペットでぃ!」

「そうにゃ!」

「黙れ、猿、猫」

 ピシャン!

 いつの間にか朧の手に握られていた鞭が地を打つ。

「いいですか。人様の家では大人しくする。これが守れないようなら。屠殺(とさつ)しますよ」

 言葉を区切る度に鞭が一閃され、二人の近くの地面を叩く。

「うぉ! 危ねいだろうがっ!」

「当たったらどうする気にゃん!」

「怪我したら優~しく治療してあげるよ。傷口に塩塗ってな」

「「鬼だ!!」」

「残念ながら人間だ」

 (おのの)く二人に対して朧はいつも通りの態度で鞭を(しご)く。

「全く……ペットの不始末は飼い主の責任なんだから大人しくしてろ。(しつ)けられたいの? そういうつもりなら、趣味じゃないけどハードSM程度ならしてあげてもいいよ?」

「「すいません。大人しくしてるからそれだけは勘弁してください」」

 朧の背後に浮かび上がった多種多様かつ精緻(せいち)巧細(こうさい)な拷問道具を見て、二人は大人しく土下座した。

「これに()りたら大人しくする事。分かった?」

「「はい……」」

 二人はしおらしくなって頭を下げたと思うと、一瞬で元通りの態度になった。

「で、これとっとと外してくれねえか?」

「首輪は窮屈(きゅうくつ)で嫌いにゃ」

 しかし、それより朧が一枚上手だった。

「ああ、それ外す手段とかないから」

「「嘘ぉ!?」」

 

 

 

 アザゼルが帰ってきて、早速ミドガルズオルムを召喚することになった。

「俺が呼びましょうか?」

 アザゼル・一誠・ヴァーリ・匙についてきた朧がそう言うが、アザゼルはそれに首を横に振った。

「ミドガルズオルムを召喚できる場所なんかねえよ。いいから黙って任せとけって」

 アザゼルはそう言って術式を展開して地面に魔方陣を書いていく。

「タンニーン殿、お久しぶりです」

 手持ち無沙汰(ぶさた)になった朧はミドガルズオルム召喚のために呼び出されたタンニーンに挨拶をした。

「む、貴様か」

 朧に気付いたタンニーンが渋い顔をする。

「黒縫朧といいます。先日は誠に失礼しました。機会があればまたお手合せをお願いしたいものです」

「手加減はせんぞ」

「大丈夫です。しなければならない場所以外で戦う気はありませんから」

「……堂々と卑怯なことを言うのだな」

「戦いは対峙する前より始まってると思えばこそ。それに、卑怯千万は褒め言葉ですよ」

 タンニーンの呆れたような言葉に朧は作り笑いを崩さず言葉を返す。

「魔方陣の基礎ができた。指定された場所に立ってくれ」

「しかしまぁ……巨大な魔方陣ですね」

 やることのない朧がポツリと呟く。

「ドラゴンを呼び出すもんだからな」

「そうですか。……ところで、これは龍神と真龍には対応してないんですか?」

 魔方陣の構成を見ていた朧が疑問点をアザゼルに尋ねてみた。

「あいつらとの意思疎通は困難だからな。対応させても仕方ないのさ」

「あー、納得です」

(オーフィスは言葉数少ないし、グレートレッドは何考えてるか分からんし)

 訳の分からなさなら誰にも負けない朧が思うことではない。

 

 各員が配置に着き、魔方陣が発光し始めてから数分後、ようやくミドガルズオルムの立体映像が映し出された。

「これ、頭部だけで良かったのでは?」

「……そうかも知れねえな」

 大きさ数百メートルにもなる立体映像を見上げ、朧はそう呟き、それにアザゼルも思わず同意した。

『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』

「相変わらず寝てるな、ミドたん」

「全く……。起きろ、ミドガルズオルム」

 タンニーンに呼びかけられて、ミドガルズオルムが目を覚ました。

『ふわぁぁぁぁぁ……。あ、タンニーン、おはよう。あれ、ドライグにアルビオン、ヴリトラにファブニールまでいる。しかも、えーと……』

「朧な」

 名前が出てこないミドガルズオルムを朧が補足する。

『そう、オボロまでいる。どうしたの、世界の終末なのかい?』

「違う。今日はお前に訊きたい事があってな。意識のみ呼び出した」

『ふーん。それで、何を訊きたいの?』

 

 タンニーンがミドガルズオルムからロキとフェンリルの対策を訊き終わると、ミドガルズオルムは大きくあくびをしてから話が始まってからは黙っていた朧へ目を向けた。

『ねえオボロ、オーフィスは一緒じゃないの?』

 その質問の後、長い沈黙があり、朧は重々しく口を開いた。

「…………今は、な」

『そっかぁ。じゃあ、また何かあったら起こして』

 ミドガルズオルムもそれだけで察したのか、立体映像はすぐに消えた。

 

 

 

 

 

 翌日。ロキとの決戦が近づいているため、一誠たちは学校に行かず(代わりに使い魔が行っている)、地下の大広間に集まっていた。

 ただし、朧には使い魔はいないので普通に登校していた。もっとも、立ち入り禁止の屋上でサボっていたが。

「神様相手に戦闘か……いや全く。俺は何をしてるんだろうね」

 屋上に黒き御手(ダーク・クリエイト)で創り出したシートを敷いて仰向けに寝そべる朧は、自嘲的な目をして空を見上げていた。

「ミドガルズオルムの言う事も尤もだ。『オーフィスは一緒じゃないの?』全く、昔の方が強いと言われるのも無理はない」

 クックックッと今の自分を笑い飛ばす。

「昔と比べて、俺は知恵を付けた。知識も得た。技術も進歩した。――だから弱くなった。先に頭で考えて、危険と結果を天秤にかけて、その結果がテロリスト。昔の俺が今の俺を見たら、間違いなく殺されるな」

 頭の後ろで組んでいた手を(ほど)き、大の字になり、晴れ渡った青空を見上げる。校舎の喧騒(けんそう)に、風の音に耳を傾ける。人々の気配を感じる。

「……世界はいつでも個人に構わず、ただひたすらに回っていく。世界の裏側で人が死んでも、誰も気にせず幸せを享受(きょうじゅ)する。世界がたとえ滅ぶとしても、その時さえもこの一瞬は続いているんだろうなぁ……」

 朧は体を起こして屋上からの風景を見る。

「ただ無為(むい)に生きるだけのこの世界は、俺にとっては眩しすぎて、この中で生きるのは苦痛でしかない。嗚呼(ああ)、なんという残酷なほど優しい世界」

 朧は立ち上がると、早退して兵藤家へ戻ろうとする。

「あーあ。ほんと、俺は一体何してんだろうなー」

 


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