ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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神々の黄昏

 決戦当日。

 オーディンが日本の神々と会談を行うホテルの屋上に、グレモリー眷属と匙を除くシトリー眷属、イリナとバラキエル、そしてヴァーリチームが集まっていた。

「ルフェイは結界の構築を済ませて待機中だ。後はどうやってフェンリルをそこに連れていくのかだが、こればっかりはケースバイケースでなんとかするしかない。グレイプニルだけでことが済めばいいが……」

「朧は心配性ねぇ」

「お前らほど能天気じゃないんだよ。万全のフェンリルなんてタンニーンでも一対一じゃ勝てないんだぞ。いざという時はヴァーリに覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使って貰うしかなくなるんだからな。だから、ロキ相手はあまり無理するなよ」

「ああ、分かっているさ」

 ヴァーリはそう言ったが、朧はそれを全く信用してない。

「大丈夫だってばよぅ。これだけの人数でかかればフェンリルだってイチコロさ」

 美猴が発言に、朧はため息で答える。

「……あのなぁ。北欧神話を知らないのか? フェンリルには、」

 と、そこまで言ったところで強大な気配が現れた。

「小細工抜きとは恐れ入る」

 ヴァーリが呟くと同時に皆が待機するホテルの正面の空間が歪み、そこからフェンリルを連れたロキが現れた。

「作戦開始」

 その後すぐに匙を除くシトリー眷属が結界魔方陣を発動し、自分たち以外をロキとフェンリルを含めて採石場跡地に転移させた。

「逃げないのね」

「逃げる必要はない。どうせ遅いか早いかの違いでしかないのだからな」

 短い会話の後、一誠とヴァーリが禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を纏い、ロキとの戦闘を開始した。しかし、一誠に渡されたミョルニルのレプリカは、一誠に邪心があるため雷を発せず、ただの鈍器だった。一番の問題だったフェンリルも、強化されたグレイプニルによって捕縛された。

 

「スペックは多少落ちるが――」

 ロキが両腕を広げると左右の空間が歪み、そこからフェンリルとそっくりの狼が現れた。

「スコルッ、ハティッ!!」

「やっぱりいたかー」

 ヴァーリを除く全員が驚く中、朧が現状にそぐわない気の抜けた声を発した。

「朧くん、あれが何か知っているの?」

「簡単に言えばフェンリル二世です。つまりフェンリルの子供です。というか、これぐらいネット見れば分かることなんですから少しは調べてくださいよ」

 朧が呆れたように呟くのと同時にスコルとハティはそれぞれグレモリー眷属とヴァーリチームへと襲いかかる。

「フェンリル対策が思わぬ所で役に立ったな……!」

 朧は先ほど黒歌がグレイプニルを独自の領域から出したのと同様に、朧の足元に展開された魔方陣から黒い鎖が幾本も伸びてスコルかハティのどちらかを縛る。

「グレイプニルの前身であるレージング――そのレプリカだ。性能はグレイプニルには遠く及ばないが……複数併用すれば動きを鈍らせる事は可能なようだな」

 十数本の鎖に縛られた子フェンリルの動きは目に見えるほど鈍くなった。それを見た美猴とアーサーは好機とばかりにそれぞれの獲物を持って攻撃を始めた。

「さて、あっちは……って、拙い!」

 朧がもう片方へと目を向けると、子フェンリルが親フェンリルをグレイプニルから開放しようとしていた。

「黒歌、あっちの足止め!」

「無理、間に合わない!」

 子フェンリルは爪と牙を使ってあっさりグレイプニルから親フェンリルを開放すると、高速で移動してロキの背後から攻撃をしようとしていたヴァーリに噛み付いた。

「拙い……いや、ある意味で好都合か?」

(これでフェンリルの牙を封じたし、あの状態ならフェンリルを逃がさず転移させられる)

「黒歌、ヴァーリとフェンリルの転送準備だ。俺はグレイプニルを確保する」

 朧は周りに気づかれぬよう小声で黒歌に指示する。

「分かったにゃ」

 黒歌の返事を聞いた朧は、グレモリー眷属と戦闘している子フェンリルの近くに落ちているグレイプニルを取りに行った。

(生半可なことでは壊れないと思うが……もし壊れてしまったら後の計画の修正が面倒だからな)

 朧は三つの戦闘――それぞれ子フェンリルと戦うグレモリー眷属とヴァーリチーム、そして先ほどロキが召喚した量産型ミドガルズオルムとタンニーンとロスヴァイセ――を避け、グレイプニルの近くへとたどり着く。

「再びグレイプニルでフェンリルを捕らえる気か?」

 その朧の前にロキが立ちふさがる。

「ちっ」

 朧は舌打ちし、どこからか取り出した湾曲した箱状の物体の投げつける。

「む?」

 それを警戒したロキが防御壁を張ると、物体はコツンと軽い音を立てて弾かれる。朧はその防御壁を踏み台にしてロキの頭上を飛び越える。

「逃がさぬよ!」

 宙を舞う朧に向けてロキが魔術を放とうとした時、空中の朧が手に持ったリモコンのスイッチを押した。するとドォンという爆発音が二度響き、ロキの背中に無数の鉄球が突き刺さった。

 先ほど朧が投げたのはクレイモア地雷――指向性対人地雷であるそれは、内蔵されたC-4が爆発すると数百個の鉄球を撒き散らす。これは神であるロキには余り効果を得られなかったが、完全に意識の外からの不意打ちに攻撃魔術が中断する。

「オマケでもどうぞ」

 更に朧が独自領域から取り出した対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)――バレットM82から連続で弾丸が叩き込まれる。直撃すれば人体を軽く両断するその弾丸十発がロキに命中しかなりの痛手を負わせ、その反動で朧の鎖骨にひびが入る。

(五連射ぐらいにしておくんだった……)

 今日のために米軍基地から盗んだそれを捨て、右肩の痛みに顔を(しか)めつつ、グレイプニルの下にたどり着いたとき、丁度ヴァーリが覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を発動させた。

(ナイスタイミング!)

 グレイプニルをフェンリルの真上に転移させたすぐ後に、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を発動させたヴァーリとフェンリルが予定されたルフェイが構築した空間に転送された。

 

(さて、残るはロキとスコルとハティとミドガルズオルムの量産型か)

 朧が気持ちを切り替えた時だった。

「おっさん! 乳神様ってどこの神話大系の神様だ!?」

 一誠のその叫びを聞いてグレモリー眷属とタンニーンが大慌てする中、朧は一人だけ呆然としていた。そして、我慢できなくなって叫んだ。

「乳神だとーーー!?」

 あまりの叫び声の大きさに、戦場が、スコルとハティまでその動きを止めた。

「バカな……奴は誰も寄り付かない(すた)れた神社に御神体を封印したはずだ……!」

『知ってるの!?』

 その場にいた全員が朧の発言に耳を疑い叫んだが、朧は至極真面目に対策を検討していた。

「クッ……! まさかまだ奴の存在が残っているとは。こんな事なら次元の狭間に(ほうむ)って……いや、もしもそれが原因で世界が乳に包まれたら……ああ、考えるだけで恐ろしい!」

 周りは何言ってんだこいつ? みたいな目で朧を見ているが、朧は真剣であった。さっきのロキの相手をした時よりも真剣だった。

「だが大丈夫だ。今ここには神殺しの牙を持つフェンリルの子がいる。フェンリルには及ばないだろうが、二匹も居れば乳神の一柱くらい滅せるさ……」

 そう言って頷いた朧はまずボロボロな方の子フェンリルに近づき強制的に伏せさせ、自分を噛み砕こうとして開いた口に大量のクレイモア地雷を放り込み爆破して大人しくさせた。地雷の使い方が間違っている。

 子フェンリルの一匹が動かなくなったのを見て、朧はもう片方の子フェンリルに近づいていく。子フェンリルは朧を爪で引き裂こうと襲いかかったが、大人しくなった子フェンリルから外した黒い鎖に縛られて動きが鈍り、朧の雨霰と降り注いだ神器(セイクリッド・ギア)と魔法の波状攻撃に敗れた。

「あ、倒したら乳神が噛み殺せないじゃないか。起きろー!」

 子フェンリルにビンタした朧だったが、後ろから忍び寄っていたもう一匹の子フェンリルの爪に引き裂かれて吹き飛ばされた。

「ぐぅ……こ、これは死ぬ……」

 朧はフェニックスの涙を取り出すと、背中の傷にかけようとして手が届かない事に気付いた。

「誰か助けて。真面目に死ぬ」

 朧がそれなりに必死で助けを求めると、小猫が自分が持っていたフェニックスの涙を背中の傷にかけてくれた。

「ありがとう小猫。でも血が足りなくなったから俺はもう休む。魔力も手持ちの武器も無くなったし」

 朧の顔は青ざめた馬(ベイルホース)並みに青ざめていた。

「……分かりました。後は私たちがやります」

「頼んだ」

 朧はほとんど力が入らない体をそのまま地面に横たえた。

「……ところで朧先輩」

 小猫は振り返って朧を見下ろした。

「何でフェニックスの涙を持っているんですか? 先輩はもらってませんでしたよね?」

「……ここだけの話だけど、レイヴェル経由で購入した」

 朧はパーティでの一件に対する謝罪のためフェニックス家に行き、その時に頼み込んでフェニックスの涙を購入していた。無論土下座込みである。

「……そうですか」

 

 そう言って小猫は立ち去り、その後現れたヴリトラと化した匙の援護もあり、一誠は乳神の力によってミョルニルの力を引き出し、ロキを打倒した。

 

 

 

「さーて、そろそろずらかるぜぃ」

「ヴァーリの方はうまくやったかしら?」

 美猴と黒歌はそう言いながら倒れている朧の足をつかむ。

「おい、まさか引きずるつもりか? ここは採石場で角が尖った石がゴロゴロ転がっているんだが」

 朧の言葉は無視された。

「さて、あいつらに何か言われる前に逃げようぜぃ」

「あ、待って。子フェンリルの牙を爪を、血液を――」

「ちゃんと確保してるにゃん」

「さすが」

(作戦開始前からあれだけ騒いでたら嫌でも覚えるわよ……)

 黒歌はその時のことを思い出してうんざりした。

「さ、早く行きましょう」

 アーサーがコールブランドで空間を切り裂き、その裂け目に入っていく。その後を美猴と黒歌が続いていく。

「あの、痛いんですけど。顔が、腹が、手が」

 その後ろをザリザリと音を立てて朧が引きずられていった。

 


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