「ルフェーイ、夕飯少しくすねて来たぞー」
駒王学園の夕食はバイキング形式だったので、適当に種類多めで包んで持ってきた。
「あ、助かりました。どうしようかと悩んでいたので」
「ま、適当に摘めや。ヴァーリは現状について何か言ってたか?」
「ヴァーリさまも『実験』が気になっているようです。できる事なら見極めて内容次第で妨害しろと」
「全く、容易く言ってくれる」
ゲオルグは俺よりも魔術の技量は上だっていうのに……。
「まあ、黙って見逃す訳にもいかないし……俺はグレモリー眷属にくっ付いて直接この目で見てくるさ」
問題は妨害する場合の戦力だな。今のグレモリー眷属では幹部ならいざ知らず、曹操には束になっても叶わないだろうな。
「どっかに戦力は落ちてないかね?」
この近くにいる戦力で大きいのは堕天使総督と現レヴィアタン様だが……その二人は英雄派を京都から逃がさないように取り囲んでいる様だし。無駄だと思うが。
「それなら、九尾の御大将さんと会談する事になっていた闘戦勝仏さまが適任ではないかと思います」
「げ、お猿の大将か」
闘戦勝仏とは簡単に言えば初代孫悟空――つまりは美猴のご先祖様である。かなりの年ながら未だ現役であり、その強さも年齢に比例しているのではと疑いたくなるほど強く、一度対峙したときは結果的には逃げられたが、それまでに片手の指を超えるほどの回数の死を覚悟した。まあ殺されはしなかっただろうが。
「まあ適役ではあるな……俺は会うの御免だけど、あの化け物」
生き物的な意味と強さ的な意味で二重の意味で化け物である。
「それでは、闘戦勝仏さまは私が誘導しますね」
「よろしく。どうせまたあいつらは異空間に引き篭ってるんだろうから、俺にマーカー付ければ座標固定は楽にできるだろ――っと、そろそろあいつらが出陣する時間だな」
あいつらの追跡をしなければ。恐らくまた霧でご案内するのだろうから、それに巻き込まれる形で侵入するのが一番楽なはずだ。
ルフェイと別れて程なくして、二条城に向かうためにバスに乗ろうとバス停で待っているグレモリー眷属を見つけたのでその背後に気配を消して忍び寄った。俺が本気で気配を消すとあいつら程度ではすぐ真後ろに立っても気づかれない。何もしないことが前提だが。
そんな気配を消した俺の後ろを駆け抜けてイッセーに飛びつこうとする一つの影があった。
「九重ちゃん、何してるの? 良い子は寝る時間だよ?」
「ぬ、貴様いたのか」
「私はいつも御身の御側に――というのは冗談だけどね。こっそりと居ました」
このやり取りのせいでグレモリー眷属の皆さんにも俺の存在がバレた。どう言い訳したものか、それよりも九重の尻尾はモフモフしたいなと考えたとき、周囲に突如霧が発生した。
「今だ。九重、イッセーを掴め」
「む、心得た」
とっさの事だったからか言う通りにしてくれた九重がイッセーを掴んだ瞬間に霧が全てを包んだ。
無理矢理転移させられ、霧が晴れるとそこは地下鉄のホームだった。
(第一段階成功。後は九重を守りながら適当に進むか。九尾の御大将も取り返さないといけないし)
イッセーが電話するのを眺めながら腕の中の九重をモフモフしてする。
(携帯通じるんだ。基地局まで複製したのか? 全く、適度に手を抜けばいいのに)
ゲオルグの仕事に半ば感心、半ば呆れていると、腕の中の九重が暴れだした。
「いい加減に離せ無礼者!」
「はいはい、申し訳ありませんでした姫君」
九重は下ろされると
ギリギリギリギリギリギリギリ!
(……帰ったらオーフィスに会いに行こう。殺されるかもだけど)
ああ見えてオーフィスは独占欲が強いのだ。
(そこがまた良いんだけど)
それはさておき、早速敵とエンカウントした。相手は英雄派の
(つまり直接攻撃がメインのイッセーでは相性が悪いな。俺なら五秒も要らんが)
「九重、危ないからこっち来な」
「うむ……」
九重がイッセーから離れてトテトテと駆け寄ってくる。
「イッセー、こっちは気にせず全力でやっていいぞ」
「おう、助かる!」
お礼なんて要らないんだけどね。戦いには手は貸さないし。
イッセーと影使いの戦いは予想通り、イッセーのパンチやキックもドラゴンショットと呼んでいる魔力弾も通じず、相手の攻撃も鎧に阻まれるので長期戦になるかと思った。しかし、九重が援護で放った狐火を受けた影男の一言をきっかけに、熱で蒸し焼きにすることを思いついて龍の炎で駅舎一帯を包むという人間離れした技を見せた。イッセーは悪魔だけどな。
(やれやれ……炎の熱は俺に取ってもキツいんだけどな。魔法障壁なんて久方ぶりに使ったな)
周囲を手扇でパタパタと仰いで熱気を追い払う。地下だから空気の流れがないので蒸し暑い。
イッセーは九重を背中に乗せて先に行った。俺は乗れなかったので後から押っ取り刀で駆けつける訳だ。押取り刀にはおっとりという語感とは裏腹の意味を持つ言葉だが。
「う、ああ……」
最終的にイッセーに殴り飛ばされた英雄派の構成員がうめき声を上げた。それを見て、彼が先ほど言っていた言葉を思い出した。
「『悪魔も堕天使もドラゴンも人間の敵』――その言葉には一理あるが、人間にはもっと大きな敵がいるだろうに。お前らの派閥を――英雄派の名前が示す通りのな」
恐らくは聞こえていないだろう男に向かって吐き捨てるように言葉をかける。
「聞いたことはないか? 一人殺せば殺人犯、十人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄だ。――お前を迫害したのは、人間たちだったじゃないか」
一方的に言いたい事を述べると、背を向けて歩き出す。
「それにしても、よくも英雄なんてやってられるよな。英雄ってのは、人間に使われてバケモノを倒すだけの使い勝手のいい武器に過ぎないのに」
(ジークフリートもジャンヌ・ダルクも人間に殺された。英雄というのは、そういう存在でしかないんだよ、曹操)