ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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行先不明、現在地不明

「なあイッセー。俺、本格的にやる事なくなったんだけど、どうしたらいいかな?」

 朧は目を覚ました一誠に唐突にそう話しかけた。

「そんな事言われても困るんだが……今の俺はそれより自分の体の事が心配なんだが」

 朧の相談は如何せんタイミングが悪かった。

「いや、やること無いって辛いね」

「そのセリフは鏡を見てから言ってくれ……」

 一誠が辟易して呟く。

 何故なら、さっきから朧はオーフィスの髪に至福顔を(うず)めていたからだ。

 一誠としては「お前それでよくやる事がないとか言えるな」という感じであるが、朧的には呼吸と同程度の行為なので、首を傾げるだけである。

「お前、『禍の団(カオス・ブリゲード)』を利用してでもやりたい事があったんじゃないのか?」

 一誠は――彼の主観で――先ほど朧が言っていた事を思い出したので、尋ねてみた。

「あれ、そう簡単に出来ることじゃないから、自分一人でやるとなったら手間かかって正攻法じゃ一年二年では終わらない。諦めはしないが、当面の目標にするのは適さないな」

 一誠はため息を吐く。

「俺には上級悪魔になってハーレムを作るって目的があるからな」

「だったらその次を考えておけ。今の俺の状態はその後にあるものだぜ」

 今の朧を見て、一誠はとても納得した。主にイチャつきっぷりに。そしてより一層励もうと思った。今は鎧なのだが。

「当面の目標としては『家に帰る』しか無いんだけど、どこかの誰かが鎧だからなぁ……」

 一誠の今の状態を維持しているのはグレートレッドの力なので、離れると一誠が成仏(じょうぶつ)してしまう。

 つまり、今の一誠にとって、グレートレッドは点滴です。

「お前がやった事だろ」

「何か文句でも? 何なら分離させるよ?」

 ほとんど殺害予告である。

「すいませんでした」

 一誠は腰を綺麗に90°に曲げた。

「いいのか? お前の新しい肉体完成したのに、鎧のままでいいと」

「それを先に言えよ!」

 一誠は直角に曲げた腰を戻し、朧に食ってかかる。

「ふーん、お前という奴は人の折角の行為を勘違いした上でそんな態度を取るんだ。助けなきゃ良かったかな」

「どうもすいませんでした!」

 朧の口車に手玉に取られる一誠である。

 

「それじゃあ、肉体と魂と神器(セイクリッド・ギア)を融合させるぞ」

 立ち上がった朧の前には一誠(魂 in 鎧)と一誠(肉体)があった。

「不安だからオーフィスを肩車しながらするのはやめてくれ」

 これから精密な作業をするというのに、朧の頬がだらしなく緩んでいるのを見て、一誠はそこはかとなく不安になった。

 それを聞いた朧は顔を引き締めて真面目な顔をするが、さっきの表情を見た一誠は呆れ気味である。

「ふっ……俺はな一誠。オーフィスと一緒にいると全ステータスが十倍になるんだよ」

「マジで!?」

 とんでもない支援効果であった。

「もう一つ理由がある。これ超重要だぞ」

 朧は指を立てると、肩の上のオーフィスを指差す。

「オーフィスと離れたくない」

「聞いた俺が間違ってたよ!」

 もうこいつにオーフィス関連の事を尋ねるまいと、一誠は心に誓った。

「実際はここは空気が薄いから、オーフィスからエネルギー分けてもらわないと酸欠になるからだけどな。鎧で良かったな、イッセー」

 本当は割りと深刻な問題だった。最初からそれを言えばいいのに。

 

「それじゃ、行くぞー」

 そう言うと朧は鎧の頭部を掴むと、一誠の肉体の入っている(まゆ)に思い切り叩きつけた!

 鎧は繭を突き破り、どんな魔法を使ったのか、肉体は鎧の中に、魂は肉体の中に収納された。

「朧ぉーーーッ!」

 余りの仕打ちに一誠が立ち上がって文句を言う。

「普通もっと丁寧にするもんじゃないのか!?」

「俺の前には常識など無意味」

 非常に説得力のある言葉だった。

「それで、調子はどう? 見える? 聞こえる? 嗅げる? 味分かる? 痛くしてあげましょうか?」

 おそらく五感が働いているのかを確認しているのだが、最後のだけ痛覚限定であった。

 一誠は手を握ったり閉じたりすると、朧に向けて親指を立てた。

「バッチリだ!」

 それを見て、朧は斜め下を向く。

「チッ……」

「何で舌打ちした!?」

 問い詰める一誠に朧は笑って誤魔化す。

 

「さて、どうする一誠。今なら帰るのに合わせてどこかに送ってやるぜ」

「だったらリアスたちの所に頼む」

 朧は頷くと、魔方陣を展開したところで動きを止めた。

「……現在地座標と目的地座標を入力してください」

 今どこにいるのかも分からないのに、転移するのは難しかった。

 自力で帰れないことが判明して、男二人はズーンと落ち込んだ。

 

 その時、次元の狭間の万華鏡の空に、おっぱいドラゴンの歌を歌う冥界の子供たちの姿が映る。

 グレートレッドが冥界の子供たちの思いを投射させているのだが、それを見た一誠とドライグが力を湧くのに対して、朧のテンションがダダ下がりである。

「これが全世界的に流行(はや)る冥界って……いや、もう何も言うまい。こんなのが流行るぐらいの冥界なら平和だね。いや、今盛大に危機なはずだけどな」

 グレートレッドの上で手足を着くほど落ち込む朧の上で、オーフィスが自分の足の間にある朧の頭を撫でる。

「朧、元気出す」

「よっしゃ、元気出た!」

 割りと単純な朧であった。

 朧が立ち直ると同時にグレートレッドが咆哮し、次元の狭間に裂け目が生まれ、その向こう側に冥界の都市が見える。

「あれ? 俺が冥界に行くの結構問題なんじゃ……指名手配とかされてない?」

 朧は知るヒトぞ知る世界規模なテロリストなので、普段の世界以外では気が休まる暇はない。

「でも、レイナーレや鵺他一名が今どこに居るのかもしれないから行かないわけにはいかないし……」

 真面目に悩む朧の耳に、虫の羽音が聞こえた気がした。

 


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