ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~ 作:水晶◆
これも海○戦記の合間にちょこちょことやっていこうかなと。
過去掲載分に関しては、ほぼ修正なしで行きます。
原作もこれも古いものですので、古典を読むような感じでお願いします。
命とプライド、どちらを取るか。
命と金、どちらを取るか。
ためらう事なく即答しよう。
命の方が大事に決まっていると。
しかし、だがしかし!
命と女、ならばどうだ?
ただの女ではない。綺麗なねーちゃんだ。ムチムチプリンの極上なねーちゃんだ。
しかも! しかも相手は尽くすタイプだと言っている! 出血大サービスだと言っているッ!!
この世に生まれ落ちて17年。ようやく訪れた我が世の春を前に、この熱く滾る情熱を抑えることなど出来ようか!?
答えは否。断じて否!!
「と、ゆーことで目の前に開かれた青春の門への誘惑に勝てなかったんやーーっ!」
「何がとゆーことで、だ! 毎度ながら、いいように操られよってからにコイツは~~。
しかも、今回は雇い主を生贄にしようなんてね!? いい根性してるじゃないの横島クン?」
「かんにんや~~っ! しかたがなかったんや~~っ!! だってだって、あの女の幽霊が美神さんにとり憑いたら二人で幸せになれるってーーっ! なろうってーーっ!!」
「ええいッ! 泣きつくな抱きつくな離れんかこのクソガキーー!!」
私の名前は横島忠夫。
どこにでもいる平凡で善良な17歳の青少年。前途有望な若者である。
異国へと旅立った両親の手を離れ一人日本に残った私は、一日も早く自立した人間になれるように、こうして学業の合間をぬってはアルバイトに精を出す日々を送っていた。
美神除霊事務所。それが私の職場である。
平時には平凡な学生として日々を過ごし、時が来れば人に仇名す悪鬼悪霊を打ち払う正義のゴーストスイーパー。
それが私のもう一つの顔だ。
折からのバブル景気、それに伴う地価高騰によって地縛霊の除霊は超ボロい仕事となっていた。
一般人が住む場所にすら不自由し始めたこの国に、もはや幽霊であろうとも住まわせておく余裕はない。
そして、地縛霊に対する除霊への報酬が跳ね上がった影響か、除霊という行為自体へ求められる報酬の相場も比例するように上昇していた。
故に、多くの霊能者や、それに関係する者たちが莫大な利潤を生み出す心霊現象へと群がり、除霊は一大ビジネスとなって瞬く間に世間へと広まっていた。
無論、おいしい話には裏がある。
富と言うリターンを得るために、悪霊相手に差し出すチップは己の命である。
これを高いと見るか、安いと見るかは人それぞれであろうが、私に言わせればそんなモノに命をかける彼らの気が知れない。
さて、そんな強欲者たちの中でも一際異彩を放つのが、私の雇い主であり目の前にいる人物である。そう、美神令子嬢だ。
誰が見ても目を引いてしまう美しい容姿と燃えるような赤い髪、抜群のプロポーションを惜しげもなく衆目に晒すボディコンに身を包んだ彼女は、20歳という若さでありながら今や押しも押されぬ業界トップクラスの人物である。
「ああっ、お姉さまの良い匂い! 美神さんってあったかいなー! やわらかいなーーっ!!」
「ぶち殺すぞこのセクハラ小僧が!!」
勢いのままに彼女に抱きついてしまったが、私はこの程度で満足するような軟弱な男ではない。
いつの日か堂々とこの手で彼女とくんずほぐれ――
「アンタねぇ? 本人を前にしてずいぶんと好き勝手言ってくれるわね……」
「ああっ!? しまった! 心の声が口に出てたーーっ!?」
「それに、どこの誰が正義のゴーストスイーパーか! アンタはただの丁稚でしょーが!!」
「ちょ、荷物持ちから丁稚に格下げっスかーーっ!?」
「婦女暴行罪でブタ箱に放り込まれんだけでもありがたいと思わんかーー!!」
「ブーツが!? いつものハイヒールよりはましだけどブーツのヒールでもぐりぐりはやめて! 愛が、愛が痛いーーっ!」
あ! 美神さんのおみ足が!?
もーちょっと! もーちょっと上に――って!
『えーかげんにせんか貴様等ーーっ!!』
俺が命を掛けて女体の神秘に挑もうとしていたところに、野太いおっさんの怒声が響いた。
開けてはいけない新しい世界への扉を開きかけていた俺にとっては、ある意味で助けにも似ていたが、美神さんが脚を振り上げる=スカートの中の絶対領域に近付けるという究極の公式が成り立っていただけに、どうしようもなく恨めしさが募る。
どこのどいつだと声の出所を探れば、俺と一緒に幸せになろうと言っていた出前のねーちゃんの幽霊が居た場所だ。
そこにあのねーちゃんの姿はなく、むさ苦しいオッサンの幽霊の姿があった。
いや、よく見れば、あのオッサンの顔、どこかで見覚えがあるような?
「ハッ、やっぱりアンタがそうだったのね。化けの皮を剥がして本性を見せたわね鬼塚畜三郎!」
『ドやかましーわ! 黙っておったらイチャイチャしおって!! イヤミか!?
殺されるまでの32年間、女っ気なんぞ全くなかったワシに対してのあてつけかーーっ!!』
「なっ!? 幸薄そうな出前のねーちゃんがおっさんになったーーっ!?」
鬼塚畜三郎。
今回美神さんが受けた除霊物件。そこで起きていた霊障の元凶でありこの建物の主であった男の悪霊だ。
残忍非道で冷酷無比。10代で一大勢力を築き上げた犯罪組織のボス。
その最期は部下に裏切られて殺された、というものらしいが生前の経歴を見れば同情の余地はない。そんな男だ。
しかも、死後悪霊になってまで人様に迷惑を掛けているようなしつこい奴だ。
そんな奴が相手なのだから、俺はてっきりいつも通りに問答無用でシバキ倒すのかなと思っていたら、美神さんの考えは違ったらしい。
曰く、相手が相手だけに噂や報告書なんてあてにならない。本人の言い分も聞いてやりましょう、と。
美神さんも後ろ暗い事ありますからね~、と言ったらシバかれた。
で、交霊術だか降霊術だか分からんが、とにかくそーゆー術を使って本人を呼び出したわけだ。
結果は真っ黒。
報告書や噂に嘘偽りはなし。本物の悪党だった。
何やら喚き叫びながら突っかかってきた鬼塚の霊を、涼しい顔して平然と踏みつけていた美神さんはスゴイと思う。
もっとも、その場は逃げられてしまったが相手は地縛霊。この建物から外へ出る事はまずありえない。
長期戦になると見越した美神さんが、相手の出方を見る為にと俺を囮にした時には、正直はらわたが煮えくり返る思いであったが、お願いをされたあの時の、お互いの顔を間近に寄せ合った、あの瞬間のトキメキの前には許してやらん事もなくはない。
さりげなく胸が当たっていた事も大きい。誘っているのか? 俺を誘っているのか?
ゴチになります、と抱きしめたら腹に強烈な膝蹴りを食らった。しかし、悔いはない。
そんなこんなで色々あって、冒頭に至るわけだが――改めて思い出したら腹が立ってきた。
「俺の純情を弄んだんだなコンチクショーーッ!! ヨコシマパーーンチ!!」
狙いは当然目の前の鬼塚だ。
美神さんに踏みつけられていた姿を思い出せば、相手は柄が悪いだけで、その実力は大した事はないはずだ。
俺にだってやれるはずだ。
そんなはずがあるわけがないのに。
相手は霊だ。人に害をなす悪霊だ。
生身の人間、それも一介の高校生、荷物持ち程度にどうこう出来るような相手のはずがない。
美神さんはプロなのだ。彼女はその中でも特別なのだ。自分など彼女の周りにいる有象無象の一人にしか過ぎないのに。
強いのは美神さん、凄いのは美神さん。目の前の悪霊が恐れたのも美神さんだ。
――俺じゃない。
目の前の悪霊は、横島忠夫の存在など歯牙にも掛けてはいない。
俺は一体、何を勘違いしていたのか。
「ゴフッ!?」
俺のパンチは、鬼塚の身体をすり抜けて空を切る。それなのに、勢いのままに突き進む俺の身体は“鬼塚の霊体にぶつかって”弾き飛ばされていた。
冗談じゃない。
こっちの攻撃はすり抜けるのに、相手の攻撃は当たるってどんな反則だ!?
「横島クン!?」
美神さんが俺の名前を叫んでいた。
ド素人の俺が、臆病な俺が見せたアホな行動は、彼女にとって予想など出来るはずがない。
申し訳ない気持ちになりながら、怒っているだろうなと美神さんを見た。
いつも高飛車で妙な自信に満ち溢れて、自分やお金の事意外は屁とも思っていないであろう高慢ちきな女王様が、泣きそうな顔になっていた。それは俺が見た美神さんの初めての表情だ。
見てはいけなかった、させてはいけなかった表情だ。
美神さんが、その手に持っていた霊体ボーガンを投げ捨てて飛び出した。
鬼塚の悪霊が俺を喰い殺そうと迫ってくる。
美神さんが、スカートの陰に隠していたホルダーから神通棍を取り出して振りかぶる。
鬼塚が大口を開けて俺に覆い被さろうとしている。
間に合わないな、と冷静に状況を把握している俺がいた。
死に際の集中力だとか、走馬灯ってものは眉唾物だと思っていたがどうやら本当にあるものらしい。
俺の脳裏にこれまでの17年間がスクリーンに映された映像のように流れていく。
色鮮やかな場面もあればモノクロの場面もある。ノイズにまみれて何が何やら分からない場面もだ。
登場人物も多種多様。美神さんや親父やお袋、学校の友人や疎遠になった幼馴染、商店街のおっさんやエロビデオの女優さんもいる。
けしからんくい込みのレオタード、いやビキニか?
そんな全くもってけしからん格好をした見知らぬ美女の姿もあれば、清楚な巫女さんやら褐色の肌の美女、十年後ぐらいに出会いたかった少女や十年前に出会いたかった美人さんの姿もあった。
犬のような尻尾を生やした少女、小生意気そうな少女、角を生やした女性に猿とかマザコンとかロン毛とか……。
……ちょっと待て。
いやいや、ちょっと待て俺の走馬灯!?
明らかに“見た事もない、名前すら知らない美女たち”がいるのはどういう事だ? 男もいたような気がするが、そんな事はどうでもいい!
何だこれは?
俺はこんなにも美女に飢えているとゆーのに!
彼女ナシ17年の切ない生涯を今この時に終えようとしているのに!!
俺の走馬灯らしきモノは俺の見知らぬ美女たちに満ちているではないかっ!?
あり得ない!
理不尽だ!!
俺の走馬灯モドキっぽいモノの分際で、俺の知らない美女を侍らすとはいったいどういう了見かっ!!
赦すまじ、俺の走馬灯みたいな何か!!
俺はありったけの怒りと憎しみと嫉妬と煩悩と色々なモノを混めて込めて――
「そのねーちゃんたちは全員俺のモンじゃーーーーッ!!」
『ギィヤァアアアァーー!』
我が生涯に一片の悔い無し、と。
大往生を果たした世紀末覇者の如く、俺は拳を天に突き出して立ち上がっていた。
ワタ飴みたいな何かをぶっ飛ばしたような気がするが、今はそんなことよりも!
「何だ、あのけしからん乳尻太ももたちは!! ハッ!? そうか、あれは俺の妄想の中の住人!
つまり著作権者は俺! ナニをどーしよーが俺の自由!! 俺だけの――」
――ナニを……
「俺だけの桃源郷ーー!?」
「トチ狂っとるかキサマはーーっ!!」
「うぎゃーーーーっ!?」
修羅の如き美神さんのシバキを受けてぶっ飛ばされる俺。
あまりの衝撃の為か、その瞬間に俺の脳内の桃源郷の住人たちが霞がかって消えていく。
「ア、アカン! そんなんアカン!! まだ何にもしていないとゆーのに!!」
必死だった。
周りなんか見えちゃいない。
「幻でもせめて一掴みーーっ!」
次の給料日まで一週間の時点で、所持金が三桁を切った時よりも必死だった。
失われていく脳裏に浮かんだ桃源郷のねーちゃんたちを掴み取ろうと必死になって手を伸ばした。
この一瞬に全てを。
その手が――届いた。
美神さんの――胸に。
翌日、俺は白井総合病院のベッドの上にいた。
その横では、簡素な椅子に腰掛けた美神さんがなにやら書類の修正作業をしている。
あの後、あそこでいったい何が起こったのか。俺には綺麗さっぱり記憶がない。
再び気がついた時にはベッドの上だった。
何だか分からんが、重症だったが、不思議と後悔はない。
あの時、確かに手にした乳の感触。
それは、今もこの手の中にある。
この感触を覚えている限り、俺はまだまだ進めるはずだ。
バレたらきっと殺されるので、この事は胸の奥に永久に封印しておこう。
上書きできないようにツメを折っておかないとな。
そんな事をぼうっと考えていたら、美神さんがここ数週間見たことが無いほどに澄みきった笑顔で、修正の終わった書類を俺に突き出していた。
雇用契約書と書いてある。
「横島クン? “昨日から”時給250円ね」
「……給料なんてどうでもいいです。一生ついていきますおねーさま」
そうだ、悲しくなんてない。俺は、やり遂げたのだから。
決して、こめかみに井桁を貼り付けた美神さんの笑顔に、溢れ出る黒いオーラに屈したわけではない。
命とプライド、どちらを取るか。
命と金、どちらを取るか。
ためらう事なく即答しよう。
命の方が大事に決まっていると。
しかし、だがしかし!
命と女、ならばどうだ?
ただの女ではない。綺麗なねーちゃんだ。ムチムチプリンの極上なねーちゃんだ。
そして俺の勘は告げている!
このねーちゃんについて行けば、俺はきっとあの桃源郷に辿り着く事が出来ると!!
桃源郷が何なのか、自分自身さっぱり分からない!
だが、俺のことだから美人でエロくて可愛くて控えめで、それでも時々ふとしたことで――
とにかく!
俺の勘が告げている。このねーちゃんから、美神さんから離れるなと!
当たり前だ!!
この横島忠夫、美人の為なら命など惜しみはせんっ!
でも、時給はもうちょっと、もうちょっとだけ、なんとかなりません?
駄目っスか?