ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~   作:水晶◆

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リポート1 薄い人

 GS(ゴーストスイーパー)の仕事、特にこの美神除霊事務所で行う仕事の大半は予約制だ。

 依頼を受ける際にはまず相手の事を調べ上げ、次に依頼内容を注意深く確認し不備や偽り、誤情報が無いかを入念にチェックする。

 そうして依頼主の信頼性と依頼内容をクリーンにしてから仕事の準備に取り掛かるのだ。

 

 物件への除霊であれば、その建物の成り立ちからそこに関わったであろう人々の事まで調べ上げ。

 悪霊を掃う依頼であれば、例え気に食わない同業者であろうとも上手く利用して相手の情報を得る。

 情報を得た後には必要となる道具を揃え、自身のコンディションを万全に持って行く。

 美神さんが仕事を行うという事は、つまりは絶対の勝算が有っての事。依頼を完遂できると確信するからこそ動くのだ。

 自分の能力を過信せず、しかし過少せず。

 綿密な計画をうち立てる繊細さと、時にはその計画すら覆して行動する大胆さ。

 そういった様々な要素が若くして超一流と呼ばれる美神令子を形作っているのだ。

 

 下手に失敗でもしてこれまで培ってきた評判や、莫大な違約金を払いたくない、と言うのが9割ぐらいは有るとは思う。特に金。

 そう、美神さんは金に厳しい。厳しいというよりもがめつい。そして微妙にセコい。

 使う時にはパーっと使い、特に仕事がない時でも事務所に入り浸っている俺に昼飯を奢ってくれたり晩飯を奢ってくれたりするのに仕事の報酬となるとホントに厳しくなる。

 実際、これまでも依頼人と諸経費や報酬の件でトラブルになった事は多々あった。

 その全てに美神さんは守銭奴と言う言葉が温く思える様な悪辣な手を用いてでも勝利をもぎ取っていた。

 背中をすすけさせた依頼人や、物凄い勢いで頭髪を失った依頼人の姿を俺は忘れる事はないだろう。多分。

 

 アレか? 提示された報酬の金額が自分自身の価値に繋がっているとでも思っているのか?

 だとすればそれは――悲しい事だ。美神さんの価値はそんなモノでは計れないというのに。

 

 その乳尻フトモモさえあればこの横島忠夫、例え火の中水の中。行けと言われれば宇宙にすら行ってやるとゆーのに!

 そう、美神さんの乳尻フトモモは俺の――

 

「俺のモンじゃーーっ!!」

 

「わたしの乳尻フトモモはわたしのだーーッ!!」

 

「ああっ!? またしても口に出てた!?」

 

 美神さんからの渾身のアックスボンバーを喰らってぶっ飛ばされる俺。

 毎度毎度理不尽な虐待を受けているはずなのに、肌と肌が触れあえた事でどこか満足している自分に気が付き愕然とした。

 

「ち、違う! 嬉しくなんてないっ!! こんな事で満足したりなんてするもんかっ! 俺は、俺は~~っ!?」

 

「アンタはさっきから何をワケの分んないコトを言ってるの?」

 

 ジト目で俺を睨む美神さん。

 あ、なんだかちょっと……

 

 

 

 

 

「ん~、やっぱり今日はこの辺にしておきましょうか」

 

「あ、それじゃあ今日は……もう予約も無いですね。てことは終了(あがり)っスか?」

 

 さて、美神除霊事務所が行う仕事の大半は予約制ではあるが、必ずしもそれが必須であるというわけではない。

 同業者への臨時のヘルプや緊急を要する依頼などが舞い込む事も多い。

 美神さん的にはそういう臨時の仕事の方が色々と美味しくて好きなんだそーだ。

 

“足下見てふっかけられるからね~。そーゆー輩って私の評判を知っていて、それでも来ているのよ? もー鴨がネギ背負って来たって感じ!!”

 

 らしい。

 ひでえ。

 でも、こーゆー時の晩飯は豪華になる事が多いから俺としても歓迎だったりする。

 時給250円。この現実を俺は心のどこかでなめていたかも知れん。今更ながらに。

 

「む~、そうね。私の霊感にもこう、ピピッと来るものがないし」

 

 眉間を押さえながら美神さんが呟く。

 美神さんのこの霊感ってやつは意外と馬鹿に出来ない。

 こと金銭に関する事に対しては。

 

「最近先生にも顔を見せてないし、丁度良いかな」

 

 身体が半分以上埋まりそうな豪華な椅子に座っていた美神さんが立ち上がる。

 ちなみに机はマホガニーとかいう超高級ブランド品らしい。

 机なんてコ○ヨの学習机とか学校の机みたいなもので十分じゃないかとは思うのだが、こーゆー商売をしている以上、ある程度の見得やハッタリは必要なんだと以前美神さんがぼやいていたのを思い出した。

 事務所内には俺には何が高級なんだかさっぱり分らない壺やら絵やらがたくさんあるしな~。

 都内のテナントビルの5階フロアを全て借りきって事務所にしているのもそーゆー事なのだろうか。

 金持ちの考える事はよー分らん。

 

 おやつとして置かれていた袋入りビスケットをいつものようにジージャンのポケットに入れながらそんな事を考えていた。

 そんな時だった。

 

 

 

「横島クン今日この後暇?」

 

 

 

 何だ?

 

 今、何と言った?

 

 この女は今、何と言った?

 

 横島クン――俺の名前だ。君ではなくクンである所がポイントだ。

 今日――トゥゲザーだ。確かそうだったはずだ。トゥモロウだったような気もする。

 暇――暇だ。時計を見ればまだ夕方の4時。確認したのはもちろん事務所の時計でだ。腕時計なんて高級品を俺が持っているはずがない。

 正直、こんな時間からボロアパートに帰ったところで時間を持て余してしまうだけだ。

 唯一の楽しみであるAV観賞をしようにも昨日返却したばかり。新たに借りる金も延滞する金もないのだ。

 18歳未満? ソコはソレだ。

 

 待て、落ち着け横島忠夫。 

 さて、冷静に考えてみよう。

 

 よこしまくんきょうこのあとひま?

 横島クン今日この後暇なら付き合わない?

 横島クン今日この後暇なら私と一緒に夜景の見える洒落たレストランで食事でもしない?

 横島クン私貴方の事が初めて見た時から愛していたの――抱いて!!

 横島クン令子子供は男の子と女の子の二人欲しいな。

 

「つまり今日から令子は横島令子ーーっ!!」

 

「脳ミソ腐ってんのかこのクソガキーーッ!!」

 

 世紀の大怪盗三世を超えたかもしれん俺の全身全霊を込めた愛情表現は美神さんには刺激が強過ぎたらしい。

 横島専用と書かれた神通ハリセンなる凶器の一撃によって俺は意識を失った。

 

 ただし、意識を失う瞬間、美神さんの呟いた言葉はしっかりと心に刻み込んでいた。

 

「なかなかイイ感じねコレ。厄珍もたまには良い仕事するじゃない」

 

 厄珍?

 男か?

 男なのか?

 そーだ、男に決まっている! きっと2.5頭身ぐらいの胡散臭いエセ中国人っぽい奴に違いない!

 厄珍なんて名前の美少女が存在するはずがないのだ。

 いや、男だと? イカン、それはイカン!

 美神さんにどこの馬の骨ともしれん奴が近付くなど許せるはずがない!!

 

 俺があの乳尻フトモモに触れるためにどれだけのモノを掛けて挑んでいると思っているのだ!

 誰にも渡さんぞ!? 美神さんは俺のモンじゃーー!!

 

 

 

 

 

「ハイ到着。ここよ」

 

「ここって……教会じゃないっスか。なんつーか、美神さんとは対極の場所のよーな」

 

 美神さんの運転する車(コブラ)の助手席で目を覚ました俺が連れて来られたのは、御世辞にも立派とは言い辛い、ぶっちゃけボロっちい教会だった。

 建物は大きいし、敷地内には庭もある。

 都内でこれだけの物件なんて結構な金になりそうだが。なりそうなんだろうが。

 素人の俺にも分る。ここに金運はないと。

 幸が薄そうと言うか、なんだか色々と薄くなりそうな。そんな微妙な雰囲気を感じるのだ。

 それに、いつもの俺であれば二人っきりで教会なんてシチュエーションに燃え上がるはずなのだが、どういうわけかこれっぽっちもそんな気にならない。なれない。

 

「アンタ私をどーゆー目で見ているのかしら? まあ、確かに色々と薄くはなっているみたいだけどね」

 

「はぁ。で、ここに何の用があるんです? 道具は持ってきてないみたいですけど除霊っスか? なんか憑いてそうですもんね、ここ」

 

「そんなワケないでしょ。ここの責任者は超の付く一流のGSなのよ? まあ、私も実は貧乏神に憑かれているんじゃないのかって疑った事もあるけど」

 

 そう言って美神さんは敷地内を慣れた様子でずんずん進んで行く。

 俺は置いて行かれまいとその尻を追い掛けた。うむ、今日も実に良い尻だ。

 

 

 

「先生ー? 唐巣先生ー? 生きてますー?」

 

「ドアを開いて開口一番の挨拶がそれっていいんスかね?」

 

「甘いわね。ちょーっと目を離したスキに餓死しちゃうような人よ?」

 

「GSって儲かるんですよね?」

 

「先生は超の付く一流だけど超の付く善人でもあるのよ」

 

 なんのこっちゃ?

 ん? 先生?

 

「先生って、美神さんミッション系の学校に通っていたんですか?」

 

 教会内はボロっちい外観とは裏腹に、想像していたよりも教会だった。

 ベンチみたいな椅子が並んでいてその先には壇があって十字架があってステンドグラスがあって。

 

「違う違う、GSの方よ。資格を取るには研修が必要で、唐巣神父はその時の私の研修先の先生だったの」

 

 ここで研修していたのよ。そう言いながらも家捜しする勢いで先生とやらを探す美神さん。

 いや、美神さん? さすがに椅子の下に人はいないと思うんスけど。

 

 それにしても高校生ぐらいの時の美神さんの先生か。

 高校生の美神さん。

 女子高生の美神さん。

 

「ぐびびっ」

 

 イカン。想像したらよだれが。

 

「アンタねぇ、いつかホントに捕まるわよ?」

 

 

 

 

 

「おや美神君、久しぶりだねえ」

 

「お久しぶりです先生。先生もお変わり……元気そうで安心しました」

 

「美神君、人の頭を見てから言い直すのは止めてくれないかね?」

 

「すいません先生。それじゃあ――また薄くなられましたね……」

 

「言い直すのかね!? そこまでハッキリ言われるとさすがの私も心に来るモノがあるんだよ!?」

 

 勝手知ったる我が家と言うか。

 手慣れた様子で戸棚からカップやらなんやらを取り出すと、勝手にお茶の用意をし始めた美神さんにそれじゃあ俺もと付き合いながら二人でくつろぐこと20分程。

 眼鏡をかけた男性がやって来た。

 人の良さそうな、柔和な雰囲気を全身から醸し出しているいかにも神父、いかにも善人そうな男性だ。

 見たところ40代ぐらいだろうか。

 なるほど、確かに薄い。

 

「まったく、久しぶりに顔を見せたかと思えば。変わらないねえ美神君は」

 

 ずれ落ちた眼鏡を直しながら、やれやれと呟く神父。

 しかし、その表情はなんと言うか我が儘を言う娘を困った感じで見守る父親のようにも見え。

 美人のねーちゃんに、美神さんに近付く男は基本的に全て俺の敵だが、この神父に関しては認めてやってもいいかなと。何となく俺はそう思っていた。

 

「君の活躍は聞こえているよ。相変わらず――お金に執着しているようで。変わらないねえ美神君は」

 

 一転してどんよりとした雰囲気で呟く神父。その姿を見た俺は“ああ、この人も美神さんに苦労させられたんだろうなあ”というのが非常によく理解出来た。

 そうか。俺が神父に対して敵意を抱かなかったのはこのシンパシーのせいか。

 

 

 

 腕を組みながらうんうんと頷いていた俺に気が付いたのだろう。

 

「ああ、見苦しい所を見せてしまったね。私は唐巣。この教会で――破門された身ではあるが神父をやっている者だ。初めまして横島君」

 

「あ、はい。どうも、初めまして横島忠夫です。え~っと神父は俺の事を?」

 

「ああ、美神君から聞いているよ。面白い助手を雇ったとね」

 

「はぁ」

 

 ニコニコと笑っている神父の様子から、悪くは言われていないようだとは思うのだが。

 あ~、なんか気になる。気にし出したらひっじょーに気になる。

 別に男にどう思われようがかまわんが、美神さんが、あの美神さんが俺の事をどう話していたのかが気になって仕方がない!!

 

『先生、実は私バイトの子を雇ったんですよ』

 

『横島忠夫君。彼って年下なんだけどスッゴクカッコ良くて頼りになって』

 

『だからお世話になった先生のところで結婚式を挙げようと思ったんです』

 

「つまりここから始まる俺と令子のバージンロードーーッ!!」

 

「自重と言う言葉を知らんのかキサマ―ーッ!!」

 

 美神さんのハイキックを喰らってぶっ飛ばされる俺。

 

「ハ、ハハハ……。うん、話に聞いていた通りだねえ……」

 

 あの、神父?

 笑ってないで助けてもらえないでしょーか?

 あなたの教え子さんに現在進行形で殺されそうなんですが。

 

 ところで美神さん?

 わざわざ俺なんかを連れて来て、一体ここに何しに来たんでしょーか?

 

 

 

 ああ、今日は“白”なんスね。

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