ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~ 作:水晶◆
結局、美神さんからのシバきは神父が止めに入ってくれるまで続いた。
白。
感動のあまり口に出してしまったその言葉を美神さんに聞かれてしまったからだ。
おかげで、俺は今こうして呪縛ロープで全身を雁字搦めに縛られて蓑虫の如く天井から吊るされていたりする。
当然、頭は下だ。
「あの~美神さん? さすがにこの体勢は……頭に血が上ってかなり辛いんスけど」
あ、ヤバい。クラクラしてきた。
俺の切実な訴えを完全に無視(シカト)して、美神さんは神父と話し込んでいる。
しっかし意外だ。
あの天上天下唯我独尊を地で行く、ドSオーラを振り撒きまくっている女王様な美神さんが。
神父の前ではえらく丸いとゆーか、刺が少ないと毒が少ないとゆーか。
ふむ。こーゆー美神さんもありだな。
しかし、ひょっとして美神さんはあーゆーオッサンみたいなのがタイプだったりするのか?
まさか……年上がタイプなのか?
女はやっぱり年下よりも年上の方がいいのか?
……親父のような?
イカン。この思考はイカン!
何が悲しゅーてあのクソ親父のことなんぞを思い出さなねばならんのだ!?
大体、奴はもう日本にはいないんだ! あのオカンといる以上、どうやったって俺の邪魔が出来るはずがない!!
「そーだ! 奴はもういない! 今度こそ、こ・ん・ど・こ・そ! 俺の時代がやってくるんじゃーーっ!!」
「……あの、美神君?」
「いつもの病気ですから」
あ、神父と目があった。チャンスだ!
助けて唐巣神父ーーっ!!
神父なら。神父ならきっと俺のアイコンタクトに気が付いてくれるはず!
あ!? 目を逸らした!? ひどっ!!
神の愛は無限ではないのか? 有限だとでもいうのかコンチクショーーッ!! 神は死んだ!
「それで、今日はどうしたのかね美神君。まさか本当に世間話をしに来ただけではないのだろう?」
確かに神父の言うとおり。一体何しに来んだ美神さんは?
俺なんて、これじゃあシバかれて蓑虫にされていただけではないか。今は床に転がされた芋虫だがな!
この代償がパンツ一枚ではやっとられんわ!
「――え?」
……ちょっと美神さん?
「ああ、ハイハイ。思い出しました。横島クン、ちょっと来て」
「うい~っス」
何の用だか分からんが、呼ばれたのならば行かねばなるまい。
「フンッフンッフンッ!!」
これでも昔は“尺取虫のタダちゃん”と呼ばれた男。
たかが手足を縛られたぐらいで!
「……うわっ、気持ち悪っ」
「アンタが縛ったからでしょーがっ!!」
こんのクソ女が~~!
いつかギャフンと言わせちゃるからなっ!!
まあ、それまでこの芋虫視点を堪能させてもらおう。
すべすべのおみ足からバレないように徐々に視線を――あれ、なんだか目の前が真っ暗に?
「ほんっと馬鹿ね~。アンタの考えなんてお見通しよ」
ウス。
おみそれしましたおねーさま。だから顔面をヒールで踏み抜くのは勘弁してもらえないでしょーか。
「……大丈夫かね彼。さすがにやりすぎではないのかね?」
「大丈夫ですよ。次のコマ――ゴホン。3分あれば復活しますから」
「……本当に人間かね?」
時々我ながらどーなんだろーなと思うことはあります、はい。
きっかり3分後。
華麗なる復活を遂げた俺を交えて話が始まった。
先日の鬼塚邸でのことらしい。
はて?
美神さんの乳をこの手で掴んだ以外に何かあったっけ?
あの感触は良かった。何が良かったって、とにかく実に良かった。
当然の如く、今の俺は二人の会話など右から左。
そんなふうに脳裏に焼き付けたあの時の感動に思いを馳せていたら――
美神さんにグーで殴られた。
なぜバレた? 美神さんはエスパーかっ!?
「胸の辺がゾワゾワしたわ」
「ひどいっ! 俺はただあの時の感触を思い出していただけなのにっ!!」
「記ぃ憶を失えーーっ!!」
「理不尽な暴力の前に信仰の自由は失われたーーっ!?」
「……話を続けてよいかね?」
「ハイ」
「……ウス」
口調は穏やかですけど神父、目が笑ってないッス。
怖えー。
温厚な人ほど怒らせると、ってのはマジだったのか。今後はなるべく神父は怒らせんようにしよう。
ん? 美神さんからのアイコンタクトか?
なになに“アンタのせいよ”と。
なんとゆー横暴な!
ならば“美神さんのせいでしょーが”と。
“丁稚のくせに生意気な”
アンタはどこのジ○イアンか!?
「……話を続けてよいかね? 次はないよ?」
だから神父怖いですって!
「ふむ、話分かったよ。つまり横島君への霊視を」
「はい。先生にも一度お願いしたいと思いまして」
「無論構わないよ? しかし、それならば私でなくとも構わないのではないのかね?
単純な霊視であれば六道君の方が適任だよ?」
「え!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」
何? 俺への霊視!?
なんだ? なんか悪いモノでも憑いているのか!?
馬鹿な、恨み辛みを一身に集めてそうな美神さんじゃあるまいし!
この品行方正な俺にそんなことへの身に覚えなんかないぞ!?
それとも病気か!? 死ぬのか!? 俺はひょっとして死んでしまうのか!?
彼女いない歴17年のまま死んでしまうのか!?
あーんなことやこーんなこと、まだまだヤリたい事はくさるほどあるとゆーのにっ!?
チクショウ、チクショウッ!!
そんなんイヤじゃー!
そんなんイヤじゃーーっ!!
「だったらせめて子作りだけでもーーっ!!」
同じ死ぬなら腹上死ーーっ!!
「こんなアホですから冥子に会わせるのはちょっと……」
「おブッ!?」
黄金の右!? お約束入りましたーーっ!!
「ああ、なるほど。それは……うん。危険だね、周囲が」
「それに他の同業者はどうしても“美神”を前提に見てしまいますから。
下手な先入観を持たずに信頼出来る。そんな相手は先生しか知りませんし」
「なら小笠原く――」
「イヤです!」
「即答かね。やれやれ」
小笠原?
また知らん名前が出てきたな。
まあ、あの美神さんのものっすごい嫌そうな表情からすると、この話題には触れない方が賢明かな。
「それじゃあ横島君、こっちに来てくれるかな? ああ、そんなに緊張する必要はないよ」
「いや、でも、ナニか悪いモノが憑いてるとか不治の病とか……」
ホントにそんな宣言されたら泣くぞ!?
「ははは、安心しな――」
「色情霊なら憑いてるわね、もうびっしりと」
え!? マジで!?
「冗談よ。そういう悪い話じゃないから安心しなさい」
「……美神さんに言われたらシャレにならないんですが」
霊能者が言っていい冗談じゃないっちゅーねん!
「ふふふっ」
お、神父が俺を見て笑っている!?
「ああ、すまないね。別に横島君の事を笑ったわけではないよ。どちらかと言えば美神君に、だね。
昔の彼女を知っているだけに感慨深いものがあってねぇ」
「先生!? ちょっと止めて下さいよ! む、昔の事なんて今はどーでもいいじゃないですか!!」
おお!?
あの美神さんが慌てふためいとる!
「そんな事よりも横島クンの事ですよ! ほら、さっきから横島クンが待ちくたびれているじゃないですか!」
いや、俺はそんな事よりも昔の美神さんの話の方が気になります。
「ね。待ちくたびれているわよねヨコシマクン?」
「……イエスマム」
分りました。聞きません。聞きませんから俺の足をぐりぐりと踏みつけるのは勘弁して下さい。
そんなこんなで只今唐巣神父が俺を霊視中。
気分は美術の授業でのモデルだ。
椅子に座ってじーっとしているだけ。
暇だ。
最初は目視で、その後に霊視ゴーグルを持ち出して。
今もこうして熱心に調べてくれている神父には悪いが、暇で暇でしょうがない。
正直言って男に見つめられても嬉しくもなんともないからなー。
あんまり暇だから神父に何か話し掛けようと思ったが、美神さんから送られたブロックサインは“大人しくしていろ”だった。
ちなみに、美神さんとはブロックサインの取り決めなんてした事はない。時々すげーな俺。
「……ふうっ」
お、やっと終わったのか? お疲れ様っス神父。
「いや、驚いたね。霊力と生命力は必ずしもイコールではないが無関係でもない。
なるほど、あの異常な回復力にも……納得はしかねるが一応の説明にはなる」
さっぱり分らんのですが。それは褒められているのでしょーか、けなされとるのでしょーか?
「臨死体験、それに近いモノを経験した人間がそれまで眠らせていた霊能力を発揮する。
それ自体はこの業界ではそう珍しい話ではないんだよ」
はぁ、そんなもんなんスか。命賭けてますもんねー。
でも、俺はそういう話ってあんまり聞いた事はないですけど?
「残念な事だけどね。この業界ではそういった状況になる人は多いけれども、そこから生還出来た人自体は極めて少ないんだよ」
あ~、なんか分るような。
俺もあの時は死ぬかと思ったからな~。
ん?
あの時?
「そして横島君。美神君から聞いてはいたが、君はその極めて少ない生還者の一人となった」
そういえば、俺はあの時どうやって助かったんだ?
鬼塚の悪霊に喰われかけて……アレ?
なにか魂を揺さぶるような素晴らしい光景を見たような。
「やっぱり覚えてなかったか。ま、横島クンだから覚えていたらいたで、今頃調子に乗りまくっていただろうし」
「え~っと、鬼塚(アレ)は美神さんがシバき倒したんじゃ?」
え?
なんスか? なんで俺を指差しているんですか美神さん?
「鬼塚(アレ)を倒したのは横島クンよ。素手でぶん殴って消し飛ばしちゃったの。
あの時は火事場のなんとやらかと思ってたんだけどね」
……はい?
「や、やだなー美神さん。俺を煽てたってなんにも出ませんよ? あはははは」
俺はただの荷物持ちっスよ?
美神さんにそんな事を言われたら、ほんとに調子に乗りますよ?
未来のゴーストスイーパー横島忠夫とか名乗っちゃいますよ?
「素手で、と言うのは確かに火事場の的なものだろうね。それでも、今の横島君からは平均的な見習いGSレベルの霊力が感じられる。
何度も確認したからね、その点は間違いない。私が保証しよう。なるほど、これは美神君の言った通りかもしれない。
少なくとも、つい先日までただの荷物持ちだった。同業者にはそう言っても信じてはもらえないだろうね。
肉体の成長期と霊力の成長期には通じる部分がある。何もしていない今でこれなのだから、適切な指導の元でしっかりと学ぶのならば――いやはや先が楽しみでもあるね」
神父まで!? なんば言うちょるとですか!?
「横島クンには分らないでしょうけどね、この業界では“霊力が高い”ってのはそれだけで一つの才能よ?」
え?
ええっ!?
才能って、いや、だって、俺っスよ?
去年プールでナンパした時にねーちゃん達から“貧弱な坊や”とか“お呼びじゃない”とか“バ~カ”って蔑まされた俺っスよ!?
そうだ、これはきっと夢に違いない。
こんな漫画の主人公みたいな都合の良い事が俺に起こるはずがない!
でなければドッキリだ。
きっと中学の時みたいに“ちょっと良いなと思っていた女友達を家に呼べてヨッシャーと舞い上がっていたらその子は実は親父に会うのが目的でした”みたいな!!
モテ期が来たと調子に乗って浮かれて舞い上がっていた俺をどん底に叩き落とすために、そのためだけに親父が仕組んだあのドッキリ!
親父の浮気をお袋にチクってやった事への報復だからって、実の息子にやっていい事じゃねーだろうがっ!! 本気で泣いたぞ俺は!!
――殺す!
クソ親父の顔を思い出すだけでも腹が立つ!!
あのクソ親父は一度この手で完膚無きまでに叩きのめして地獄に放り込んでやらんと気がすまんっ!!
「ああ、勘違いしないでね。だからって、私は別に横島クンにGSになれって言っているわけじゃないのよ?
普通の人よりも霊力があるからと言って、必ずしもこの道に進む必要はないし。その程度の理由でなるモノでもないしね」
ハッ!?
イカンイカン。また思考がぶっ飛んでしまった。
落ち着け俺。
美神さん達がどーゆーつもりかは知らんが、とりあえず今はしっかりと話を聞かんと。
「それに横島クンはまだ高校生だし、この先もっと他にやりたい事がたくさん見つかるでしょうしね。
普通の人よりも選択肢が一つ増えた。そう考えておけばいいと思うわ」
「ああ、そうだね。私とした事が少々配慮に欠けていたようだ。勘違いをさせてしまったのならすまないね。美神君の言う通り別に強制をするつもりはないんだよ。
ただね、未成年に対して大人が、破門の身とは言え聖職者が言うべき事ではないとは思うんだけれどもね。
霊的な事案が急増している今、才能ある人材は一人でも多く欲しいのが協会側としての私の本音でもあるんだ」
教会?、ああ、GS協会の方ですか。
「先生はGS協会のお偉いさんの一人でもあるのよ」
「ははは、上の方々に比べれば私なんてまだまだぺーぺーのヒヨッコだよ。
先程も言ったが横島君、君は肉体的にも霊的にも成長期にあると思われるんだ。
アルバイトとはいえ、この業界に関わっている以上、君にも多少はこの道へと進もうとする意思があるのではないのかね?」
あ~、スンマセン神父。それは過剰評価っス。
ぶっちゃけ、美神さんの乳や尻に引き寄せられただけなんです。
目の前にきれーなねーちゃんがいて、その人がたまたまGSだっただけで。将来の事とかもあんまり。
美人の嫁さん貰って退廃的な生活をしたいなー、とか。
それにしても神父って意外と熱血とゆーか、こーゆー面もある人か~。
あ、美神さんも目を逸らしてる。
そりゃあ俺のバイトの動機を知ってるもんなぁ。
しかし、俺がGSに?
死にかけて才能に目覚めた?
それが本当なら、まあ神父と美神さんの様子からして本当みたいだけど。
俺がこの手で悪霊をぶん殴った?
どう見てもただの手だぞコレ?
ん~、なんなんだろうなこのモヤッとした感じは。
素直に喜べないっちゅーか、な~んか腑に落ちないっちゅーか。
俺は別に美神さんみたいに悪霊をシバき倒すのが好きでもないし、そりゃあ金だって欲しいけど命を掛けてまで欲しいかと言われればNOだしなぁ。
神父みたいな熱意もないし。
うん。
考えれば考えるほど向いてないわ。
美神さんの傍で馬鹿やって、時々美味しい目にあって。
それぐらいでいいんだよな~。
ああ、モヤっとした感じはアレか。
作文コンクールで賞を貰ったのは嬉しかったけど、皆の前で発表する事になるから嫌だった。みたいな。
「――ちょっと! 横島クン!?」
あれ?
なんですか美神さん、そんな驚いたような顔をして。
「無意識かね!? 横島君、自分の右手を見たまえ!」
神父も?
右手?
「あ~、なんか光ってますね~」
うむ。手首から先がなんかぼーっと光っておる。
――えっ!?
「な、ななななななっ!? なんスかこれ! なんスかこれ!? 病気? 何かの病気ーーっ!?」
あ、消えた。