ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~ 作:水晶◆
慣れ親しんだボロっちい卓袱台がなければ、俺は多分ここが自分の部屋だとは気が付かなかったと思う。
そう思ってしまうぐらいに俺の部屋がきれいさっぱりと掃除されていたのだ。
万年床と化していた布団はきれいに畳まれ、読みかけの雑誌や漫画は分別されて本棚に。
最低限の文化的知識は得られるようにと、親父についてナルニアに行ったお袋が卒業までの3年分の契約を済ませていた新聞は、古いモノから順にしっかりと紐で縛られて部屋の隅。
丸めて一カ所に固めていた洗濯物の山は丁寧に畳まれてタンスの中。
俺の秘蔵のAVやらなんやらが……見覚えの無いのもあるが、どんと卓袱台の上に置かれていた事を除けば実にパーフェクトな仕事っぷりだ。
……イカ臭くもないしな。
となると、これはいったい誰の仕業だろうか。俺のはずはない。
まあ、お袋に決まってるんだけどな~。とはいえ、いつの間にお袋が日本に帰って来たんだ?
とーとーあのクソ親父に愛想でも尽かしたんだろーか。それはそれで実にめでたいような気もするな。
裁判になったら当然、俺はお袋側に付く。
クククッ、息子に裏切られる屈辱を味わうがいい。
卓袱台の上から大事なお宝達をそっと降ろしたら、見覚えのない急須とお茶の入った湯のみがあった。
俺の部屋にある物だから俺の物に違いないと湯のみをとって茶を飲んだ。
熱過ぎず、かといって温すぎるわけでもなく。これまた実に俺好み。
どうにも最近ワケの分らん事が続いたせいか、このほっとする感じはスゴク良い。
そのままぼけ~っとしていたら今更ながらに台所に誰かがいる事に気が付いた。
トントントンと規則正しく振るわれる包丁の音に、ぐつぐつと何かが煮えている音がする。
時折音を外していたが鼻歌まで聞こえてくる。
――ちゃんは今日は随分と機嫌がよさそうだ。
え?
誰だ?
お袋じゃない。美神さんでもない。
ふすまの影から見える人影はあの二人よりも小柄で、スタイルだってちょっとだけ残念なぐらいで――
いえ、スイマセン。何でもないです!
怖ぇーーっ!?
今包丁が! 包丁が飛んできた!! 切れてない!? ねえ切れてないっ!?
“横島さん! そーゆーのをデリカシーがないってゆーんですよっ!!”
「堪忍やーーっ! ちょっとした出来心やったんやーーーーっ!!」
ハッ!?
あれ? ここは?
「俺の部屋じゃない。あれ?」
「おい横島! 生徒指導で呼ばれておきながら指導室で居眠りかますとはいい度胸だな?」
え、なんで担任が俺の部屋に?
ここって、生徒――指導室?
ああ、そうか。
そういえば進路調査の事で呼び出されていたんだっけ。
クラスの中で俺だけが提出してなかったんだよなー。
まあ、そんな事はどうでもいい。そう、どうでもいいんだ!
今大事なコトは――
「あのたぶんきっと美少女であろう名も知らぬあの子も俺の嫁にするからどぉこぉにぃ隠したぁーーっ!?」
「うぉう! 校内暴力か!? 屈さんぞ! 教師として生徒の暴力には屈さんぞーーっ!! 故郷(クニ)の母さんオレ頑張るからなーーっ!」
「で、実際お前は何か考えでもあるのか? ゴーストスイーパーだったか、お前のバイト先。
ご両親の事情を知っているから、バイトをする事自体にはあまりうるさい事は言いたくはないんだが。
だからと言ってもな、学業をおろそかにし過ぎているだろうお前。出席日数も考えろよ?」
「う~ん。そうなんスよねぇ。美人の嫁さん貰って退廃的な生活を送るか、美人で金持ちなねーちゃんと結婚して左うちわか。
どっちがいいと思います?」
「そりゃあお前、気の強いねーちゃんを屈服させて自分色に――って何を言わせる!!」
「そーっスよね~、それもロマンですよね~。でも美神さん相手にはハードルが高過ぎて……」
「……男のロマンだよな~。その美神さん、ってのが誰かは知らんが。アレだ、お前、諦めたらそこで全てが終わりだぞ?」
そうだよな。
諦めたらそこで終わっちゃうもんな!
「アリガトウ先生! 俺もっと頑張るっス!! 美神さんを俺色に染め上げてみせるっス!!」
「おう! なんか知らんが頑張れ!!」
「――ってな事があったんで結婚して下さい美神さん」
「……真面目な顔して何を言うかと思えば。横島クンってさぁ、毎日が幸せそうでいーわよね~」
「本気なんですが?」
「知ってるわよ? あ、この仕事いいわねー。ギャラは安いけど……うん、なかなか良いじゃない」
むう、なんというスルー力。これが大人の余裕ってヤツか!
まあいい。時間はまだまだたっぷりあるのだ。
こーして小さなことをコツコツと積み上げていけば、やがては美神さんの心の中に俺という人間が確かな存在として刻み込まれるはずなのだ!
そして、やがては心だけでなく――
「その身体にボクという存在を刻み込ませ――ゲフぉぅうっ!?」
「だんだん言う事が過激になって来たわねコヤツは」
またかっ!
またしても神通ハリセンが俺の行く手を阻むのかっ!?
うぉのれぃ厄珍とやら! 敵だ! お前は間違いなく俺の敵だっ!!
「でも珍しいですね、美神さんがあえてギャラの安い仕事を受けようとするなんて」
「ん~? まあ、ホントならこーゆーレベルの仕事は受けないんだけど。これ、この間先生から預かった仕事なのよ」
「ああ、そういえば神父って昨日から海外に行ってるんでしたっけ。イタリアか~」
なんでもかなり長期間の拘束が予想される仕事らしくて、その間に受ける予定だった依頼の幾つかを美神さんにお願いしてたんだっけ。
神父は業界の中でもその腕に反比例するようにギャラが安い事で有名らしく、依頼主の事情によっては報酬をゼロにしてしまう事もあるとか。
結果として自分の生活費まで犠牲にしているらしく、確かに“目を離したスキに餓死しちゃう人”という説明も納得だ。
美神さんが言っていた“超の付く善人”の意味がよく分る。
神父の受ていた仕事を代理する事には、提示されたギャラの安さもあってか~な~り渋っていた美神さんであったが、結局は数件だけと言う条件で折れていた。
「先生ぐらいになると海外からの仕事のオファーもそう珍しい事じゃないのよ?
まったく、あれでもうちょっと金銭感覚をしっかりしてくれていればね~」
「金銭感覚とおっしゃるのなら、そろそろボクの時給をもう少し……」
「なら、荷物持ち兼丁稚からGS見習いになる?」
あの日、俺の右手に宿った光こそが霊力の輝きだったらしく。
視覚化される程に集束をしていた事に美神さんや神父は驚いていたそうだ。
道具や術を介さずに、という点でもかなり珍しい。というよりも、あの時の事は悪い意味で異常な事だったそうだ。
本来、霊力とは総量にこそ大小の差はあれど、血液のように全身の隅々に行き渡っているモノらしい。
それが、あの瞬間の俺は右手以外には殆ど霊力が回っていなかったらしく。
仮に、悪霊の攻撃を“右手以外で”受けていたとしたらひっじょーに危険な状態になっていたそうだ。
らしいとか、そうだ、とか。どこか他人事のようなのは――あの時以来、この手が光った事がないからだ。
どうやったのか、どうやればいいのかがさっぱり分らんのだ。
そもそも意識してやった事じゃないんだからどうしろと?。
再現出来ん事を考えても仕方がないし、話に聞いているだけでもリスクの方がでか過ぎる。
実に無駄に珍しく使い道がなさそうな能力だ。
すごく固い盾と普通に固い鎧なら、鎧の方が安心できるもんな~。
そんなこんなで、神父からは折角の才能がうんぬん言われたが、俺は自分の能力とやらにすっかり興味を失くしていたので指導の件やらなにやらの申し出を丁重にお断りしていたりする。
「丁稚でお願いします。でも給料はもうちょっと欲しいです」
「ハイ、これ。次はこの依頼を受けるから」
なになに?
人骨温泉ホテル――ってすごい名前だな。なんだかダシでも取られそうな。
ふむふむ、またえらい辺ぴなところに。山しかねーじゃねーか!
あ~、一応スキー場とかもあるのか。登山コースもあるな。山なんだからあるか。
名所として古くから続く由緒正しい神社が――これはどうでもいいな。
霊障は……露天風呂に霊が出て客が激減。まあ、そりゃそうだろうな――って!
「露天風呂!?」
「そう露天風呂。で、横島クン? 給料がどうかした?」
「給料がどうかしましたか? 一生ついていきますおねーさま」
そんな事を言った過去の俺を殴ってやりたい。
「大丈夫ーー!? 横島クーン?」
「う、うわはははは! だ、大丈夫っスよーー!!」
イカン!? 大声を出したら酸素が!?
空気が薄い! 荷物が重い!!
「標高が高いからあんまり大声を出すと辛いわよーー?」
そーゆーことはもっと早く言って!
普段より量が多くなっているとはいえ、この背中の荷物をこれ程までに苦痛に思った事はねーーっ!!
「み、美神さん? す、少しでいいので荷物を……!」
「私雇い主、横島クンは荷物持ち。若いんだから、がんばって~」
今から荷物持ちを止めてGS見習いを目指してもいいですかっ!?
「先に行くわね~。荷物ヨロシクね~~。無くしたら――殺すから」
あんのクソ女~~っ! スキップして行きやがった!?
俺の命なんてへとも思ってねーぞアレはっ!? 完全に露天風呂目当ての観光モードになってるじゃねーか!!
お、おんのれぇ~~!!
負けん! 俺は負けんぞ!!
空気が薄いのがなんだっ! 荷物が重いのがなんだっ!!
そうだ、これは試練だ! 俺の迸る情熱へ対する挑戦だ!!
「く、くくく。ふはははははははっ!! 燃えて来た! 燃えて来たぞーーっ!! まっとれよ美神さ――」
『えいっ!!』
「のわぁあっ!?」
な、なんじゃーー!?
イノシシか!? ヌシ様の襲撃かっ!?
た、体勢が!
転んだせいで荷物が!? 重たすぎて起き上がれねーーっ!!
助けて美神さぁーーーーん!!
『大丈夫ですかっ!? おケガはっ!? 私ったらドジで……』
「えい、っちゅーたな!? 今さっき“えいっ”ちゅーたろーーが!! 聞こえ取ったぞコラぁっ!!」
どこのどいつじゃー!?
今の俺はナイフみたいに尖っとるぞー!!
触る者みな傷付け――
『あ、あの……』
み、み、み、巫女さんじゃーーっ!!
しかも! しかも! なんかちょー可愛いんですけどーーっ!!
「おキヌちゃん大丈夫っ!? ケガはないっ!? 俺ってドジで……!!」
こんな荷物程度がなんぼのもんじゃーーいっ!!
リュックなんだからベルトを外せばノープロブレム!
『うっ、今の衝撃で持病の――って、あれ?』
「ああっ!! それは大変だ!? さあ、ここに横になって!! 大丈夫痛くしないから! ちょっとだけ! ちょっとだけだか――あれ?」
あれ?
なんだかこの娘(コ)、どこかで見た事があるよーな?
腰の辺りにまで伸ばされた綺麗な髪、ちょっと童顔っぽいけど容姿は文句なしの美少女、そして清楚な巫女さんコス。
俺よりも年下っぽいけど、だからってこんな可愛い娘だったら俺が忘れる事はありえんと思うのだが。
美神さんに比べたら、まあ比較対象がアレ過ぎるけど、ちょっとだけ残念なスレンダー系かな?
『あ、あの……! どうして私の名前を知っているんですか!? あなたはいったい……!?』
ん?
残念な? 残念なスレンダー系とゆーことは、つまりはつつましい乳と尻ということだ!
何だ? 何かが引っ掛かる! こー、喉の奥にまで出かかっているとゆーのにっ!!
思い出せ! あれはいつだ? 最近だ! つい最近だったはずだ!!
『あの――ッ!? え? き、きゃあああっ!?』
「ッ!? 何だ!?」
悲鳴!?
目の前の巫女さんが――怯えている?
俺に? 違う、俺を見ているんじゃない、俺の――
“ミツ……ケ……タぞ……!”
後ろ!?
なんだこの畑の肥料みてーな腐った臭いは!
「なんか……ヤバイッ!」
『キャアッ!!』
ゾクリとした悪寒に従って俺はその場から飛び出していた!
思わず抱きしめちゃったけどゴメン巫女さん、警察に通報するのは堪忍してっ!
あ、やわらかいな~。
なんて言ってる余裕はねぇーーっ!! 俺もいっぱいいっぱいだからっ!?
背後ではなんか爆発でも起こしたような音が鳴ってるーーっ!?
「いったいなんやっちゅーーねんっ!! 俺がなにしたっちゅーーねんっ!?」
巫女さんを抱きしめたまま恐る恐る振り返る。
デカイ胸とくびれた腰を曝け出した痴女がいた。それも、ただの痴女ではない!
「いくら女とゆーても葉っぱと虫とゾンビを足して2で割ったような化物はムリーーーーッ!!」
こいつが露天風呂に出る幽霊?
どこが幽霊だ!! かんっぜんに化物じゃねーか! 腐ってるホラー系の!!
そーだ!
除霊道具だ!
俺には美神さん愛用の除霊道具達がついているではないかっ!!
あの化け物は馬鹿みたいにただ暴れてるだけみてーだし、敵は一匹。
破魔札は値段が高過ぎてアレだけど、霊体ボーガンの矢なら多少は勝手に使っても美神さんはそこまで怒らないハズ。多分。だったらいーなっ!
そんでアレをけん制しながらホテルまで逃げて美神さんと合流。後はプロにお任せだ!!
巫女さんも怯えてるみたいだしここは急いで――
「――って、俺の馬鹿ーっ!! リュックはあそこだーーーーっ!?」
痴女が邪魔して取りに行けねぇーーっ!!
どけっ! そこをどかんかーーっ!!
“アの……ムすめの……ニオいが……”
『ひぃっ!?』
「こ、コッチを見たーーっ!?」
助けて美神さぁーーーーんっ!!