ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~ 作:水晶◆
今から行う事はただの余興だ、と。そうヤツは言った。
数百、いや数千、それよりも長く永く。
ヒトには理解できない時を存在してきた奴にとって、たかだか数年なんて時間は一眠りの間程度にしか過ぎないらしい。
“ここまでの君の健闘を賞賛しよう。コレは、私の計画の悉くを邪魔してくれた君へのささやかなプレゼントだ”
そう言ってヤツは背後にある巨大な装置へと向かう。
無防備な背中をさらけ出して、だ。勝者の余裕だとでも言うつもりなのか。
皆は動けない。
この場で僅かでも動けるのは、もう俺一人になってしまっている。
ヤツがなにをする気かは分らないが、少なくとも俺にとっては碌な事じゃないのだろう。
しかし、考えようによってはこれは最後のチャンスだ。
あの装置を使う瞬間、ヤツはその操作だけに集中しなければならない。
狙うのは、動くのはその時だ。
俺にはまだ、切り札が二つ残っている。
“君というRebel(反抗者)に対するReturn(回帰)とReborn(新生)、そして世界のRegenerate(再生)。フム、プロジェクトRとでも名付けようかね。
喜びたまえ、君にこの装置の、世界変革のためのモルモットとなる権利を与えよう。
現在(いま)に干渉する事は出来た。ならば既に確定されている過去はどうか、とね”
ヤツがなにやらベラベラとしゃべっているが好都合だ。
その間に、こっちは少しでも力を蓄えさせてもらうぞ。
知ってるか? 最終決戦でベラベラとしゃべるボスキャラってのはツメが甘いんだよ。
“事ここに至って、どうやら抑えていた研究者としての欲が出てしまったのだよ。
さすがに規模が大き過ぎるので巻き戻せる時は数年程度だろう。だが、テストとしては十分だ。
それで修正力というモノを計らせてもらおうか。君は無力な君となって同じ時を繰り返すのだ。
そこに奇跡は無いよ。絶望する君の姿を夢に見ながら、私は今回の溜飲を下げさせてもらう”
ヤツの手が鍵盤へと伸びる。
まだだ。美神さんも言っていた。あの手のタイプは最後の最後に必ず見得を切る、って。
これから実行するぞ、と。俺に明確なサインを出すはずだ。
ヤツが俺を見た。
――今だ!
“これが君への罰――ぐぁアッ!?”
ふはははははは! 痛かろう!
“な、なんだこの胸の痛みは!? な、何をしたキサマッ!”
相手を目視で捉えるだけで効果を発揮する、俺の対美形用必殺呪術『五寸釘アタック』じゃーーッ!
“わ、藁人形だとっ!? ラスボス戦でそんな物を装備して使う奴がいるかーーッ!”
ここにおるわーーっ!
ヤツが動揺している今しかない。最後の切り札を切る。
この隙に、あの装置を――
“ぐっ、しまった!? おのれぇ、どこまで私をコケにするつもりだ!!”
もう少しだ、もう少しで――
“止せ、既に演算は終了しているのだぞ!?”
――届いた。あとはこれで!
“止めろーーッ!! 取り返しの付かん事に――”
Reset(リセット)――
「うぉおおおおおおおおおおッ!?」
「やかましいッ!!」
あ、あれ? 美神さん?
ヤツは?
アイツはどこに――ぶべらッ!?
『横島さん、だいじょうぶですかっ?』
は、鼻が、鼻が痛い……。
あ~、うん。大丈夫。これぐらいいつもの事だから。大丈夫だよおキヌちゃん。
ちょっと美神さん、なんでそこで舌打ちするんスか。
「急に起き上がって叫び出して。まったく、びっくりさせないでよね。あのまま寝ておけばよかったのに」
毎度ながらぞんざいっスね、俺の扱い。
ん? 寝てた? 気を失ってたのか俺は。
なんだか変な夢を見ていたよーな気がするが……思い出せん。
ま、思い出せんとゆーことは大したことでもないんだろう。所詮は夢だ。
そうだ、夢の中でいくら美人のねーちゃんたちに囲まれてウハウハしたところで、現実に戻れば空しいだけではないか。
そー考えると……。
「夢も希望もね~じゃね~か~~っ!! いやじゃ~~っ! 生涯○貞はいやじゃーーっ!!」
『大丈夫っス。横島サンがちょっとアレな人でも自分は友達っスから。男同士の熱い友情っスから!』
……まだいたのかワンダーホーゲル部。
元をただせばテメーのせいで俺は気を失ったんじゃねーか。
ちゅーか、いったいいつ俺とお前が友達になったんだ。
ええいっ、近付くな、頬を染めるな、すり寄って来るんじゃねーーっ!!
「横島クン、これからちょっと真面目な事をするから、騒がずに大人しくしていなさいよ?」
「あ、ハイ。ってここ露天風呂っスよ? ここでいったい何をするんです?」
それと、できれば着替えたいんスけど。腰にタオル一枚はちょっとつらいっス。
じろじろ見てんじゃねーぞワンダーホーゲル部。
ちらちら見ないでねおキヌちゃん。
隠しているつもりかも知れないけど、すっごく分かりやすいから。
せめて浴衣ぐらいは下さい美神さん。
「……ハンッ」
ちょっと美神さん!? 人の裸見て鼻で笑うってヒドクないっスか!
「ワンダーホーゲル部を成仏させるには、雪の残った山の中から遺体を捜さなくっちゃいけない。
おキヌちゃんが成仏するには、誰かに立場を替わってもらって地縛を解くしかない。ここまではいい?」
ウス。
「で、ワンダーホーゲル部が成仏を止めても山の神様になりたいって言うから、これからおキヌちゃんと立場を入れ替えるのよ。
これで温泉に出るムサ苦しい男の幽霊の依頼は完了、おキヌちゃんも地縛を解かれて本人の希望通り成仏できる、ってわけ」
一石二鳥ってこーゆー事ね、と美神さんは上機嫌。
それじゃあ始めるわよ、と。
二人を正面に立たせてなにやら呪文を唱え始めた。
すると、おキヌちゃんの足元から現れた光の帯のようなナニかがワンダーホーゲル部の足元に巻きつき、ヤツの姿を登山者のそれからいかにも山の神(それ)っぽい姿へと変化させる。
ムサ苦しいヒゲ面は変わることはなかった。
『はるか神々の住む巨峰に雪崩の音がこだまするっスよー!!』
そう言ってヤツはどこかの山へと向かって去って行った。
山の神が雪崩を誘発してどうする、とも思ったが、俺は男のことなんぞどーでもいいので放っておく。
二度と会うことはないだろうしな。
「どう、おキヌちゃん。逝けそう?」
『あ、はい。ありがとうございました。これで私も成仏できます』
せっかく知り合えたおキヌちゃんともうサヨナラってのは正直残念だが、本人が納得しているんなら俺から言うことは特にはない。
これから成仏しようって相手に元気でね、と言うのはさすがにな~。
『横島さんも……色々とありがとうございました。あなたの事は忘れません』
うむ。可愛い子に感謝されるとゆーのは素直に嬉しい。
『幽霊を押し倒した男として次の人生でも語り継ぎたいと思います。それから――』
「語り継ぐなそんなも――んっ!?」
い、今なんだか、やーらかいものが……。
え?
『美神さんが横島さんへのお礼はこうした方がいいって。
昔の事はほとんど覚えていませんけど、多分……はじめて、です』
……。
「おーおー、固まっとる固まっとる。な~に~? 普段は変質者一歩手前な事をしておきながら。
意外とカワイイトコあるのね~横島クン?」
…………え?
いまなにをされた?
キス?
ちゅー、か?
『そ、そそそ、それじゃあ、あ、あの。お、お世話になりましたっ!?』
「ハイハイ。仕向けといてなんだけど落ち着きなさいってば。ま、私はホントに大した事はしてないんだけどね。
ほら、今は大丈夫だけど、横島クン(あのバカ)が現実に戻ってきたら絶対に騒ぎ出すから。そーなる前に早く成仏しちゃいなさいな」
『……はいっ』
目の前でおキヌちゃんがゆっくりと空へと上って行く。
「おキヌ――」
思わず叫びそうになって――堪えた。
馬鹿か、俺は何を言おうとした。
彼女はこれで成仏する。
俺を殺そうとしたのだって、三百年間の呪縛から解放されたかったからだ。
『……ありがとう』
おキヌちゃんが笑っていた。
ならば、これでいいのだろう。
せめて次に生まれ変わった時には幸せな人生を送れるように、山の神以外の神サマにでも祈っておこう。
さようなら、おキヌちゃん。
『あの、つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?』
……ないわー。
気まずい。
「……あ、あはははは」
『……え、えへへへへ』
ひっじょーーにっ気マズイッ。
小学四年生の頃に、家に遊びに来た女友達の前でクソ親父が俺がいつまでおねしょをしていたと暴露しやがった、あの後の気まずさに匹敵するぞ。
間が持たねーーッ!!
「ちょっとおキヌちゃん!? あーゆー綺麗な別れ方をしておいて、このオチはないんじゃないのっ!?」
ナイスだ美神さん! でも落ち着いて。
言いたいことは俺もめちゃくちゃ良く分かりますけど、とりあえず落ち着いて!
『ふぇ~~ん、ごめんなさ~~い。だって誰も教えてくれたことないんですよ~~』
あ~はいはい。おキヌちゃんも泣き止もう、な?
こーやって頭をなでてると、なんつーか泣いてる妹をあやす兄ってこんな気持ちかな~。兄妹いないけど。
ひょっとしたら今頃出来てるかも知れんけど。既にいるかも知れんけど。あの親父だから油断ならん。
いや、それにしたって。成仏って誰かに教わるようなモンなのか?
幽霊の先輩とか?
「地縛は間違いなく解けているわね。例えば家族の事とか事故や病気、殺されたとか。よっぽど現世に未練が残っていない限り、自然に成仏できるはずなのよ?」
美神さんはこめかみに指を当て、眉間にしわを寄せながらおキヌちゃんをじ~っと凝視している。
「美神さんはあー言ってるけど。おキヌちゃん、なんか未練ある?」
未練っていうと、な~んかドロドロした昼ドラ的なイメージしか浮かばんな。
美神さんならともかく、おキヌちゃんにはあんまりそーゆーのは無さそうなんだが。
『えっと……少し……』
ふむ。
そりゃあ三百年も幽霊やっていたら、思うところもあるのかもしれんなー。
「……いいの? こんなヤツよ?」
『いえっ、わ、わたしは別に……その……』
なんだ? ガールズトークとゆーやつか?
「ま、いいケド。それでおキヌちゃん、あなた長いこと地脈に縛り付けられていたせいで一個の存在として安定しちゃっているわ。
もう幽霊というよりも半ば精霊とか妖怪とかに近い感じよ。これは誰かに御祓いでもしてもらわないと成仏は無理ねー」
「成仏は無理って、それってヤバくないですか? そーゆー幽霊って悪霊になったりするんじゃ?」
『え!? わ、私悪霊さんになっちゃうんですかーーっ?』
「その辺は大丈夫よ。言ったでしょ、一個の存在として安定してるって。おキヌちゃん自身がそうなろうと思わない限り悪霊にはならないわ。
おキヌちゃんの性格や性質、周囲の環境もあったんでしょうけど。これって奇跡的な状況よ。ある意味では不老不死の一つの答えじゃないの? 今のおキヌちゃんって。
それでどうするの? 御祓い、する?」
『えっと……』
話を聞いてるだけでも確かにスゴイ状態だよなおキヌちゃんって。
ん?
なんか、さっきからおキヌちゃんがちらちらとこっちを見てるけど。俺の後ろになにかあるんだろーか?
……チ○コ口の置物しかないけどな~。
露天風呂にあんなモン置くなんて。変なのは名前のセンスだけじゃないんだな、このホテル。
お客が減ったのってワンダーホーゲル部のせいだけじゃないのかも知れん。後でそれとなく言っておこう。
「……ハァ。あ、そうそう、言い忘れていたわ。ちなみに御祓い一回100万円だから」
『……え?』
「ちょっと美神さーーんっ!?」
あんたいきなりナニ言うとんのや!?
今の今まで幽霊してたおキヌちゃんがそんな大金持ってるはずがないでしょーがっ!!
「うるっさいわねー。私はタダ働きするとお腹が痛くなるのッ! 横島クンが払うんじゃないんだから別にいいでしょーが!」
な、なんで美神さんが切れるの? 俺そんなにおかしなコト言った?
「おキヌちゃんお金持ってる? 持ってないわよね。ならこーしましょう。ウチで料金分働きなさい。日給はフンパツして30円よ!」
『……あ! は、はい! やりますっ。死んじゃってるけどいっしょーけんめー働きますっ!!』
日給30円って……。いいのかそれで?
この話を神父が聞いたらぶっ倒れるかもしれん。
まあ、本人がそれでやりたいと言ってるんだしなー。
『よろしくお願いしますね美神さん、横島さん』
「おう! よろしくな、おキヌちゃん!!」
正直、俺も嬉しいから反対なんてするわけがないけどなっ!
幽霊であろうがなんであろうが、可愛い女の子が来るとゆーてるのだ。
職場の花は多ければ多いほどいいのだっ!
ふははははっ! なんか知らんが燃えて来た、燃えて来たーーっ!!
「……バカに余計な燃料注いじゃったかしら? 思い直すなら今の内よ?」
『あ、あははははっ……』