ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!! ~復刻編~   作:水晶◆

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リポート7 過失を引いたら250円

「こんちわー。横島忠夫只今出勤致しました~」

 

『あ、こんにちは横島さん……って、ズブ濡れじゃないですか! え~っと、何か拭く物拭く物――』

 

 おおう、相変わらずええ娘やな~おキヌちゃんは。

 で、何スか美神さん。テーブルの上で手を組んでその上に顎を乗せて、そんな視線だけで人を呪い殺せそーな目で見るの止めてくれません?

 

「……ああ、ゴメンね横島クン。ほんっとに、長い間この姿勢だったから身体の節々がね……」

 

 そう言って腕を伸ばしながら立ち上がった美神さんの身体からボキボキッと景気の良い音が。

 そんなに身体がこっていたのなら、一声かけて下さればこの横島忠夫全身全霊をもってマッサ――いえ、何でもゴザイマセン。だから霊体ボーガンをこっちに向けるのは止めてくれませんか?

 

『初回の更新(2012年5月)から9年近くこの体勢のままでしたからねー。はい横島さん、タオルです』

 

「サンキューおキヌちゃん。いや~、小降りだったから事務所までは行けるかなって思ったんだけど……」

 

 おう、ふわふわとした心地良い感触にえー匂いがする!

 ……ん? 初回? 9年?

 

『え? 私そんな事言いました? 違いますよ。三十分ですよ? 美神さんってばずーっと難しい顔をしながらあーやって書類と睨めっこを。規制で削除とかなんとか。

よく分らないんですけど、ぎんこーこうざとかの事ですか? 横島さんは何の事か分りま――』

 

「――ッ!? ストップだ、おキヌちゃん! いけない! それ以上はいけない!!」

 

『ち、血の涙!?』

 

 世の中には触れてはならないモノが数多くあるのだよおキヌちゃん!!

 

 

 

 

 

 ゴーストスイーパー横島 極楽大作戦R!!

 

 

 

 

 

『――すみません、少々お待ちください。美神さ~ん、またお仕事のお電話ですよ~』

 

「また~? ん~、パス。おキヌちゃん、さっきの時と同じように断っといてくれる?」

 

『は~い。……はい、美神が今日は霊的に良くない日のため予定を変更したいと――』

 

 

 

 日々のライフワーク(ナンパ)の合間に“名も知らぬあの女”を探し続けて一ヶ月。

 人混みでごった返したこの都会で名前も知らない相手を探し出す。それは、俺にとってはまるでヒヨコの雌雄を判断するよりも難しかったわけで。

 結果は――全くの徒労。探偵でもない一介の高校生に出来る事など高が知れていた、と。

 

「分かっちゃいたんだよな~。まあ、実際一週間目からは意地になって続けていただけなんだけどさ~」

 

『ごめんなさい横島さん。ご近所の浮遊霊さんたちにもいろいろと聞いてみたんですけど……』

 

 しまった!? また声に出てたか。

 

「あ~、ごめんおキヌちゃん。そーゆーんじゃなくってさ。飽きっぽい俺にしては、よくもまあ一ヶ月も持ったもんだなって思っただけ! おキヌちゃんには感謝してるって!!」

 

 ふよふよ浮かびながらもずーんと落ち込んでしまったおキヌちゃんに、俺は慌てて謝罪した。

 デスクに肘をつきながら暇そうにしていた美神さんが“アンタなにおキヌちゃんをいじめてるの。死にたいの?”的な視線で俺を睨んでいるが、冤罪だと主張したい。

 

 俺はともかくとして、この一ヶ月、美神さんすら知らぬ間に浮遊霊同士のコミュニティを築いていたおキヌちゃん。

 霊能力に目覚めた事で分ったのだが、意外とこの辺りには年配の浮遊霊の方々が多かった。

 おキヌちゃん自身の性格もあったのだろうが、彼女が“昔の人”であった事も幸いしたのか。彼女は浮遊霊の方々とあっさり打ち解けており、今では孫娘のような扱いを受けて可愛がられているらしい。

 その反面、幽霊歴三百年の経験を活かしてこの辺の霊達の取り纏め役をして欲しいとの要請も受けているとか。

 おキヌちゃんは辞退したがっているが、きっと押し切られるんではなかろーかと俺は思っている。

 

 GSの側にいて怖くないのか、と。

 一度紳士っぽい初老の浮遊霊に聞いた事があるが、下手な所でたむろするよりも“美神除霊事務所”の側の方が安心できるそうな。

 美神さんは金にならん除霊には関わろうともせんし、悪い意味での評判を恐れている同業者はこの近くに寄ろうともしない、と。

 “知ってました?”と美神さんに聞いたら“私にメイワクかけなきゃいーんじゃない?”と実に予想通りのお返事でした。

 

 ちなみに、あの日俺がバイトに遅れた理由を説明するために“名も知らぬあの女”から逆ナンされたと美神さんに話したら“疲れているのね横島クン。今日はもう帰っていいのよ?”と、これまで見た事がないような優しい笑みを浮かべて心配されてしまう始末。

 おキヌちゃんは救急車を呼ぼうとしてなぜか時報に掛けてるし。

 悔しかったので“美神さんへの愛は不変っスー!”と飛び掛かってやった。

 結果? いつも通りだよチクショウ。

 

 

 

「それにしても、雨が降ったから仕事は休み――って」

 

 大名商売やなー。

 社会人としてこれでいいのだろうか。

 

「この寒い雨の中一晩中墓地にいたい? ギャラも安いのに私はやーよ」

 

 デスクを離れた美神さんは、ソファに寝っ転がって字ばっかりの本を読んでいた。

 “なんなら横島クンが行ってくる?”なんて視線で語られても、俺だってこの天気で外はイヤです。それに“色々と見える”様になったせーか、最近は生身のヤンキー(不良)だけじゃなく、ソッチ系の浮遊霊やらなんやらからも絡まれるよーになっちゃいましたので。

 これで一人で墓地なんかに行ったらどーなる事やら。

 

「横島クンってさー、なんかそーゆー連中を惹き付けるフェロモンか何かでも出しているんじゃないの?」

 

『……あー……』

 

 ちょっと!? おキヌちゃん何その反応? 出てるの? ホントに何か出てるの!?

 

 

 

 夕方から降り始めた雨は、今もその勢いを増しながら降り続いている。

 窓から外を眺めても、ガラスに叩きつけられた雨水のせいでろくに見えやしない。

 あ、雷だ。

 

「それに、ここ最近働き過ぎちゃった感じもあるしねー。たまにはのんびりとしたいじゃない?」

 

 まあ、確かに。

 この一ヶ月は妙に忙しかったとゆーか色々あったもんなー。

 

『成功報酬五千万円のビルの除霊に、私ぐらいの女の子が通う学校に現れた変な霊の除霊、銀行の防犯訓練に――』

 

「美神さんに無理やり幽体離脱させられて無理やり宇宙に行かされて、美神さんが子供の頃になくした人形の起こした事件に巻き込まれ。

 美神さんと一緒に行った海では人魚と半魚人の痴話喧嘩に巻き込まれて、美神さんに潜水艦に取り付いた悪霊ごと殺されそうになって、冥子ちゃんの式神に殺されそうになって、エミさんの呪いで殺されそうになって……」

 

 あれ~、俺って荷物持ちだよな?

 なんで本職の美神さんよりも綱渡り人生なんだよ。

 

『あれ? お客さんかな……』

 

「グレムリンと潜水艦の件はともかく、あとは全部横島クンのせいでしょーが。あ、エミの件であの時の事を思い出したら腹が立ってきた」

 

 いや、冥子ちゃんの件は事故で、エミさんの件は和解が成立したはずでは。え、あっちの方?

 あの美神さん? 拳を鳴らしながら近付いて来て頂きましても、当方と致しましては云々――。

 

 

 

 

 

 ゴーストスイーパーは国家資格である。国も認めている立派なお仕事だ。

 とは言え、メディアからは霊感商法だの胡散臭いなどと紹介される程には、マイナスイメージの付き纏うGSという職業である。いや、だからこそか。

 この業界ではほとんどの事業者が世間体を気にする。とても気にする。気にしないのは美神さんぐらいだ。

 そしてGSの多くは民間業者である。国営ではないので当然自力で仕事を探さなければならない。黙っていても仕事は来ないのだから。

 

 美神さんはその数少ない例外である。黙っていても仕事が舞い込んで来るのだ。

 

 それは、ひとえに美神さんの高い能力と依頼に対する達成率の高さ故である。自分で言っていたのだからそうなんだろう。

 そしてもう一つ。美神さんは客を選ぶが、その基準の8割以上は報酬だ。

 つまり、高額な請求にしっかりと応えられる相手であるならば、例え相手が犯罪歴を持っていようが、現在進行系で問題のある人物であろうが、自分と敵対しない相手であるならば美神さんは断らない。

 世間体を気にする同業者が依頼を引き受けない、そんな相手であっても、だ。

 

 その日、美神さんに依頼を持ち込んだ相手はそーゆー人物であった。

 依頼主は地獄組組長。お仕事はヤの付く自由なお仕事らしい。

 先日死んだはずの極悪会の組長が、夜な夜な枕元に現れて騒ぎ立てるので何とかして欲しいと。

 難度としては中の下、その割に誰も受けたがらない仕事という事で報酬は中の上。美神さんにとっては楽勝な、いわゆる美味しい依頼だった。

 

 

 

 

 

「きゃぁーーーーッ! いやぁあああああああっ!?」

 

 薄暗い寝室に衣を裂いた様な悲鳴が響く。

 

「……」

 

『うわはははははははーーッ! 怖かろう! 恐ろしかろう!!』

 

「や、やめてぇええええっ!?」

 

 声の主は血塗れの悪霊に追いたてられ逃げ続けていたが、狭い室内で逃げ切れるはずもなく。

 救いを求めて伸ばされた手が掴み取ったのは子供ぐらいの大きさのぬいぐるみであったが、それで悪霊相手にどうにか出来るわけもない。

 それでも縋り付く何かが欲しかったのだろう。

 部屋の隅でぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめて座り込んだ。

 

 “ええ年をしたオッサン”が。

 

 子供向けのアニメだろうか。可愛らしいキャラクターの刺繍がはいったパジャマを着て、頭にはボンボンのついたナイトキャップ。

 ベッドの周りにはえらいファンシーなぬいぐるみか大量に飾られており、今オッサン――地獄組組長が抱きしめているのはベッドに沿い寝用として置かれていた熊のぬいぐるみだ。

 想像して貰いたい。眉の無い、いかにもな厳ついオッサンが、キャラクターもののパジャマを着てぬいぐるみを抱きしめながら泣き叫ぶ姿を。

 

『……横島さん?』

 

「いや、そこで俺に振られても。ほら、美神さん。依頼主が苦しんでいるんだから早く助けないと……」

 

『積年の恨みじゃーーっ! 貴様が小便漏らすまで脅し続けてやるからなーーッ!! ああっ楽しいっ! 地獄組のこんな情けない有様を見られるなんて……悪霊になって良かったッ!!』

 

「いーーやーーーーーーっ!!」

 

 俺にもおキヌちゃんにもあまり緊張感が無いのは……まあ、悪霊がこんな相手だったから、とゆーのもあったりする。

 それに、部屋を飛び交う小物、なんて状況は誰が見てもポルターガイストなのだが、その小物が可愛らしいぬいぐるみではいくら俺でも怖いと言うよりもメルヘンチックとしか思えない。

 悪霊は極悪会の組長らしいが、確かに外見はそれっぽいのだが……やっている事がまるで小学生レベルとゆーか。血塗れの形相は確かに怖いが、ぬいぐるみと一緒になってオッサンを追いまわす姿はシュール過ぎてもはやギャグだ。

 違う意味で恐ろしくはある。関わり合いにはなりたくないと言う意味で。

 極悪会の組長さん、アンタは地獄組の組長が小便漏らしたら満足するのか?

 

「……ハッ!? そ、そーね。あんまりにも強烈な絵面のせいで、危うく“両方とも”シバいちゃうところだったわ!」

 

「俺としてはそれでも構いませんよ?」

 

『あの~、お二人とも? さすがにそれは……』

 

 おキヌちゃんの言葉に「冗談よ」と答え、美神さんが神通棍を構えた。

 

「両方ともシバいちゃったら報酬が貰えないもん」

 

 もん、ってあーた。可愛らしく言っているつもりでしょーけど目がヤバいですよ。うん、嘘だ。俺には分る。

 美神さんはドサクサに紛れて二人ともシバくつもりだ。それを悪霊のせいにするつもりなんだ。

 

「さて、アンタ達の事情なんて知ったこっちゃないけど、こっちもお仕事なのよ。大人しく成仏するならそれで良し」

 

『なんじゃ小娘ッ! 今いいところなんじゃから邪魔するでないわっ!!』

 

 美神さんの口上でやっと俺達の存在に気が付いたのか。悪霊となった極悪会の組長がその霊体を巨大化させて美神さんへと襲い掛かる。

 

「まだ悪さを続けようって言うのなら、このゴーストスイーパー美神令子が――」

 

 美神さんはそれに対して怯むどころか逆に間合いを詰めて迎え撃つ。

 

「――極楽へ逝かせてあげるわっ!」

 

『ぎぃやぁあああああああっ!!』

 

 神通棍を振りかぶり、渾身の霊力を込めて悪霊を一閃した。

 ぶつかり合った霊波がスパークを起こし、可視光となって室内を照らす。

 

『きゃあっ!? 眩しい!』

 

「お、おお! やったのか!?」

 

 その光量でおキヌちゃんが目を閉じ、地獄組の組長が期待の声を上げた。

 以前の俺ならここで組長と一緒になって終わったと気を抜いていたのだろうが、幸か不幸か今の俺には見えてしまっていた。

 

「美神さんッ!!」

 

「なっ!? 嘘でしょ?」

 

『ぐ、ぐぐぐぐぐッ!? こ、このクソあばずれ女がぁああああああッ!!』

 

 悪霊が美神さんの一撃を耐えきった姿を。

 

『ぐぅおおおおおおおおっ!!』

 

「くっ、しまっ――!?」

 

『きゃあああっ!?』

 

 自らの霊体を爆発させた――俺にはそうとしか見えなかったが、とにかく、その一撃を受けた美神さんが弾かれた様に吹き飛ばされ、余波を受けたおキヌちゃんも悲鳴を上げてよろめく。

 俺は咄嗟に側にいたおキヌちゃんを左手で抱き止めたが、伸ばした右手は美神さんに届かない。その手を掴む事が出来ない。

 美神さんはカウンターを喰らったせいか意識が飛んでいる様で、このままでは受け身も取れずに壁にぶち当たってしまうだろう。当たり所が悪ければ――

 

「さぁせるかぁあああああああああああああああああああああッ!!」

 

 ――伸ばした右手が届かない?

 

 そんな事はあり得ない。

 

 ――掴む事が出来ない?

 

 そんな事はあり得ない。

 

 なぜなら、俺のこの手には――□□□□□□があるのだから。

 

「伸びろーーーーーーーーッ!!」

 

 右手に集束された霊力が俺の意思に従って美神さんへと伸び、吹き飛ばされたその身体を確かに支え、受け止めた。

 そのままこちらへと引き寄せてその身体を抱き止める。

 

「よしッ! 次はテメエだ!!」

 

 美神さんを抱きしめた右手にまだ霊力の輝きが纏われている。人骨温泉の時よりも遥かに強い力だと、俺は直感的に理解出来ていた。

 これならば倒せると。香港の地下で出会った強化された○○○ですら一撃で倒したこの力なら、と。

 

「往生せいやぁああああっ!! このクサレ悪りょ――」

 

 むにょん、と。

 

 俺が悪霊へと向き直ったこの瞬間、身構えようとした右手にやーらかい感触が。

 

 ふにょん、と。

 

 左手には小振りではあったがこちらにもやーらかい感触が。

 

 むにょむにょ、ふにょふにょ。

 ほんのりと温かくて、やーらかいナニかが俺の手の中にあった。そして、ふわりと鼻孔に甘い香りが漂う。

 右手に集まった霊力の輝きが消え去ったがそんな事はどーでも良かった。

 ああ、俺はこの香りを知っている。

 

「……」

 

『……』

 

 むにょむにょ、ふにょふにょ。

 

「どうやら意識が飛んじゃってたみたいね。……油断したわ。ありがとう横島クン」

 

『…………』

 

 多分、俺は今、人生で最大の至福の時の中にいる。

 頬を赤らめて俯いたおキヌちゃんと、満面の笑みを浮かべた美神さんをこの両手に抱き締めているのだからッ!!

 

 むにょんむにょん、ふにょんふにょん。

 

「うん、その事は令子とーっても感謝しているの。本当よ?」

 

『……あ、あの……横島さん……』

 

「ああっ、これが夢の中なら覚めないでッ!? だって夢から覚めたら――」

 

 そして、人生で最大の危機の時の中にいる。

 

「――確実に忠夫殺されちゃうからッ!!」

 

「それがわかっとるんなら私達の乳を揉むこの手を止めんかぁああああああああああああッ!!」

 

 ああっ!? 美神さんの髪が逆立って!! 神通棍がめっちゃ光ってるーーーーっ!!

 

「わかってても止められないのが男の性(サガ)ーーーーっ!! でも後悔はしないって、え、ちょ、やっぱり後悔――うぎゃぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

『み、美神さんっ!? 穏便に! なるべく穏便にっ!!』

 

『ちょっ、ま、待て小僧!! こ、こっちに来るなッ!! こっちに、巻き込まれ――ギャァワアアアアアッ!?』

 

「な、なんでワシまでーーッ!?」

 

 怒髪天を突く、と言う言葉の通り。

 怒れる気神と化した美神さんの手によって極悪組組長の悪霊は見事除霊される事となった。

 

 

 

「ワシもー辞めるッ!! ゴクドーから足を洗うんだいっ!!」

 

 後には精神面に若干の傷を残した地獄組組長と――

 

『触られた……揉まれちゃった……触られた……』

 

 ブツブツと呟きながら、ふよふよゆらゆらと不安定に周囲を浮遊するおキヌちゃん。

 

「助けてくれた事とその後の過失を差し引いて……横島クン、アンタしばらく時給250円ね」

 

「か、寛大な処置を行って頂き……あ、ありがとうゴザイマスオネーサマ……」

 

 そして、再び時給250円を宣告されボロ雑巾と化した俺が残された。

 

 

 

 

 

 そして、これは後にエミさん本人から聞いた事だが、この時の依頼こそ彼女が俺に目を付けた原因となったそうだ。

 何でも地獄組組長に悪霊をけし掛けていたのは警察関係者から依頼を受けていたエミさんであり、悪霊が美神さんの想定以上に強力だったのもエミさんの呪いによる強化があっての事だった、と。

 

「実際、あの時のおたくの霊力は凄かったワケ。結果としてアレがあったから令子が勝てた。それは間違いないもの。逆に言えば、あの時おたくがいなければあたしは令子に勝ってたってワケ。

 まあ、こっちとしては依頼が失敗になったのはシャクだったけど、面白いモノが見れたから満足してるワケよ。赤面した令子なんて中々見れないワケ」

 

「はぁ、まーそー言ってもらえれば何だが自分が凄い事をしたよーな気がせんでもないんですが……」

 

 赤面した美神さん? 何だソレは!?

 

「ハンッ、依頼を失敗しておいて勝ったも何もないでしょーが……。って!? エミッ!! アンタいつの間に!? どうやって!?」

 

 おお!? いつの間にやら回想を口に出していたのか!?

 褐色の肌をしたエキゾチックな雰囲気の美女――美神さんと同期のGSであり世界でも有数の呪いの専門家、小笠原エミさんがいつの間にやらソファに座ってお茶を飲んでいた。

 眼つきが鋭くて美神さんよりもクールな印象だが、そのボンキュッボンなナイスバディは勝るとも劣らない。

 つーか、美神さんじゃないけど、ホントにいつから居たんですかエミさん。

 

「いつからって、令子が横島をシバき始めたぐらいから? どうやってって、ベルを鳴らしたらおキヌちゃんが入れてくれたワケ。あ、このお茶美味しいわね」

 

『そーですか? ちょっとお茶の葉を変えてみたんですよー。私は味見が出来ないのでちょっと不安だったんですけど』

 

「そう、あたしは好みよ? ねえ令子、この際横島とおキヌちゃんウチに頂戴。四千万なら即金で出すわよ?」

 

「冗談でしょ。一億出されたってイヤよ」

 

 おおっ、あの美神さんがこんな事を言うなんて。つまり、俺には一億の価値があると!?

 いや、一億出されても、とゆー事は一億以上とも考えられる!

 金にド汚い美神さんが俺に対してこれ程の額を提示するとゆーことは……!?

 

「氷の如く冷え切ったその心を俺という炎が遂に溶かしたとゆーこ――ぶべらっ!?」

 

『ああっ!? 横島さーーんっ!!』

 

 あ、相変わらず見事な回し蹴りですね美神さん。今日のショーツは薄いブルー。

 

「横島クンのレンタルなら金額次第で考えなくもないけど……。一日一千万円って、違うでしょーがっ!! アンタ本当に何しに来たのよ!!」

 

「ふーん。ま、今はそれでいいわ。言質は取れたし」

 

 そう言うと、エミさんが美神さんに踏まれたままの俺に向かって手を差し出した。

 はて?

 あ、エミさん? もうちょっとしゃがんで頂けるとその短いスカートから――スミマセン、もう言いませんからヒールで後頭部をグリグリは勘弁して下さい。

 

 

 

「OK、一日一千万円ね。それじゃあ借りていくワケ」

 

「え?」

 

『へ?』

 

 え、マジっすか?

 


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