魔女の遺影 作:魔女ξ紳士
部屋へ戻っているとき、朝通りかかったときにはなかった何かがあった。
いつもお茶を飲んで休憩している中庭に、白い石のようなものが中庭にぽつんと置いてあった。
それは私の着ているワンピースのような白で、また私の白銀の髪のような白にも見える。
ふと思い浮かんだのは、あの人懐っこい猫。純白の毛を生やした、人懐っこい猫。すらりとした体型に、金色の瞳を持った猫。私と、仲良くしてくれる猫。
しかし、それは一向に動く気配がしない。
嫌な予感がする。
あれは白猫なのかもしれない。
そう思うと、私はいてもたってもいられなくなり、動かない白い物体に急いで近寄る。
通路から抜け出し、中庭に置かれてある机を通り過ぎると、だんだんとそれは白猫の形に近づいていく。
やっぱりというか、それは白猫だった。びくともしない亡骸となり地面に転がっていた。
塀から落ちて死んだようには見えない。体にはどこにも怪我は見当たらず、足が変な方向に曲がっているなどということはない。
周りにはだれも見当たらない。使用人たちはご飯を食べている時間だ。
風が私の身体を撫でつける。すっかりと水分の失われた落ち葉が周囲を舞っている。
どこか、どこかで眠らせてあげないと。
私は腰を下ろし、ひんやりと冷えてしまっていた白猫を優しく抱きかかえる。
庭の草が踏まれ誰かが近づいてくるような音がし、振り向いてみると兄が後ろに立っていた。
視線が何度か交差すると、私の腕の中のモノに向いた。
「兄さ…わたし、わたしじゃ」
身体に湧き上がる言い知れぬ不安を堪え、私は自分が白猫を殺めたのではないということを必死に伝えようと口を動かす。
「その猫が…私も、知らなくて。いま、来たら…」
氷の上で孤立してしまったかのように口をうまく動かすことができない。継ぎ接ぎの言葉で、それでも何かを伝えようとする私に兄は困惑したような、また心配するような目で私を見て黙っている。
「だから、私は。その、来ただけで…違うの…」
氷が軋むような音が頭に響く。
『可哀想な子』
どこかでそんな言葉が聞こえた。それに驚いて不安げに周りを少し見渡すと、白猫を抱えたまま座る私を中心に…大樹の下にできた木陰、屋敷の多くの人間が私を囲んでいた。
怒っているのだろうか、それとも哀しんでいるのだろうか、嗤っているのだろうか。多くの気持ちが私に集まる。
「違うの、私じゃ…私は。私は、本当に…」
『サラ』
私の名を告げられる。
『部屋に戻ろう』
………
『その子にお別れを』
「…はい」
ゆったりとした顔で白猫は眠っている。その身は本当は生きていて今にでも動くのではないかと疑うほど綺麗で…皆から愛を奪う笑顔を静かに閉じている。
ごめんね
哀愁を感じさせる少女の精一杯の言葉。
だがどうしてか、白銀の髪に隠れた金の瞳は妖艶に歪んでいる。
その異常に気づいた者は誰一人いなかった。